犬の力 下 (角川文庫 ウ 16-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042823056

作品紹介・あらすじ

熾烈を極める麻薬戦争。もはや正義は存在せず、怨念と年月だけが積み重なる。叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬カルテルの頂点へと危険な階段を上がり、カランもその一役を担う。アート・ケラーはアダン・バレーラの愛人となったノーラと接触。バレーラ兄弟との因縁に終止符を打つチャンスをうかがう。血塗られた抗争の果てに微笑むのは誰か-。稀代の物語作家ウィンズロウ、面目躍如の傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 目まぐるしい協力体制と裏切り、緊迫する取引、血みどろの惨劇。後書きにあるように、「人間の思考や感情の根源的な部分を揺さぶる大きく鋭く温かく骨っぽく色っぽい」小説だった。

    相当無慈悲なマフィアたちが、愛した女のために身を持ち崩していくのが、ラテンの男の人間味を感じる。
    登場人物たちの、感情に揺さぶられて判断を誤る瞬間が描かれていることで、単なるクライムノベルだけでない名作になっているのだと思う。
    セクシーなシーンは随所にあるけど、ラストのあの2人の幸福な情事にはしびれた。

    でも後書きを読んで、この物語が約三十年間の、ラテンアメリカを中心とした麻薬犯罪の構図を精確になぞっていると知って衝撃を受けた。
    政治権力との癒着もあるのが恐ろしすぎる。
    麻薬の根絶の難しさを思い知らされるけど、とにかく人道に反する行為への拒絶を表し続けるしかないのかな。

  • ノワールの壮大な群像劇。
    その根底にあるものは……。
    「犬の力」とは……。

    アメリカ映画のように「勧善懲悪」ではない。
    完璧なヒーローはいない。
    完璧な悪役もいない。
    悪意や憎悪が集まり、やがて渦を巻いて深く広く覆い尽くす。

    「血みどろの悲惨な笑劇」

    ウインズロウは「悪人」を描く。
    作品によってはコミカルにも、また、悲しくも。
    さらに、その影に隠れた本当の悪を。

    殺し屋カランの腕の中で瀕死の司祭パラーダが言う
    「わしは赦す」
    ……絶望的に悲しい。
    そして、行き着く先は……。

    「わが魂を剣から解き放ちたまえ。
    わが愛を犬の力から解き放ちたまえ」

  • アートとアダムの熾烈な諍いを本筋としたアメリカメキシコ間の麻薬撲滅作戦モノ。ノーラの高潔さが好きです。

  • 果たして「犬の力」ってどういうこっちゃ?と思っていたら訳者の東江一紀さんがあとがきに詳しい解説を載せてくれていました
    ただもともとは旧約聖書に出てくる言葉のようなのでその意味というよりは東江さんなりの解釈といったほうが近いようです
    もちろんなるほどと思わせる内容なんですが読書新自由主義を標榜する私としてはあえてちょっとひねくれた独自の解釈をしてみました
    模範解答なんかクソ喰らえなんだよ!
    ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン!(なんかメキシコっぽいこと言ってみたかっただけ!)

    まずは作中にも名前が登場するケルベロス、言わずとしれた「地獄の番犬」です
    東江さんの解釈では特別関係がないとしていますがやはり『犬の力』と題したこの長編に名前が登場する以上なんの意図もなく登場させたとは考えにくく何かしらの意味があるはずです

    ケルベロスといえば冥界の王ハーデスに仕え冥界から逃げ出そうとする者を捕えるのがその役目です
    そしてそれはまさに正義の実践者です
    もちろんここでの正義は冥界の正義です

    正義とは見る者使う者によって簡単に姿を変えます
    またある者の正義は別のある者にとっては全く正反対の意味を持つこともあるでしょう
    麻薬捜査官の正義、麻薬王の正義、殺し屋の正義、売春婦の正義
    「犬の力」とはころころと形を変える残酷で愚劣な「正義の力」だっのでは?
    そんな風に思うのです

  • 名前を覚えられなくて、経緯を把握するのが難しい小説。すべてが現在形で表現されながら、時系列は数年たっていたりしているために余計に難しかった。評価はすごく高いが自分にはあまり合わなかったかな。

  • 前編に引き続いて、麻薬組織との攻防戦が続く中、メキシコでは、麻薬密売がビジネスとして成立していくる。密売を単なる集団ではなく、システムとして集荷・マネーロンダリングなどをコントロールするカルテルに。なるほど、こちらの方が合理的です。21世紀型。
    そうなったら、ボスは1人でよい。とういう訳でカルテル内で抗争が始まり…。
    目まぐるしく展開する襲撃、銃撃。復讐と裏切り・密告。そして、惨殺。そして、最後は、、、
    どこまでが事実をベースとしているかは不明ですが、麻薬組織云々は、ほぼ現実と思われます。昭和の終わりから前世紀末にかけての抗争は、想像するだけで恐ろしいものです。ここまでして、彼らは、麻薬捜査官や麻薬カルテルは、何を得ることができたのでしょうか? 「兵どもの夢のあと」的な感じがぬぐえない。
    ただ、麻薬戦争はまだ終わっていない。らしい。(終章)

    気になったフレーズは以下:
    ★「おれの魂に誓います」「きみの魂は地獄より濃い闇に包まれておる」
    ★「わしは赦す」「神は汝を赦したもう」
    ★プロなら、うそを真実と思わせることではなく、真実をうそだと思わせることに神経を使うべきだと心得ている
    ★絶えず肌寒さを感じているのだ。老いた人間と死にかけた人間にしか味わえない感覚で。
    ★「遠い昔ね」「遠い昔だ」「あれからたくさんのことがあったわ」「ああ」
    ★この列車には聖人と罪人が乗っている  この列車には勝者と敗者が乗っている  この列車には娼婦と博徒が乗っている  この列車には地獄に堕ちた魂が……

  • 再読だが、やっぱりこの小説は凄い。
    ドン・ウィンズロウ渾身の大河小説。

    南米麻薬地帯からアメリカに流入する大量の麻薬。それを阻止戦と麻薬組織や密輸組織を叩くDEA。その史実を忠実になぞりつつ、組織の事よりも登場人物個人個人の感情、行動を丁寧に描く。

    ページ数も十分、主要な登場人物だけで10人はいようかという、おおぶりな小説だが、中だるみはほとんどなく、怒涛の勢いを続ける筆力はさすが。

    正義の側にいるはずの主人公、麻薬取締官アート・ケラーの正義の側にいるが故に、人を不幸にしていかねばならない苦悩。高級娼婦ノーラの愛情を求める姿、司教パラーダの赦しと愛を込めた行動としての教理の追求…、

    どれも読みごたえのあるところなのだが、殺し屋カランtとオバップの一番興味を覚えたところ。最下層のチンピラがその体一つで運を強引に味方につけて地獄街道をのし上がっていく姿は、強くて悲しくて、まさに「犬の力」を具現しているように思えた。

    今年はこの「犬の力」を筆頭にした、3部作を読もうと思う。かなりのエネルギーを消耗しそうだが、その値打ちは十分にありそう。

  • 2021年2月12日読了。

    DEA捜査官アート・ケラーとメキシコの麻薬王アダン・バレーラの話。
    アダンの恋人ノーラは、愛する人をアダン一味に殺され、ニューヨークのギャングもどきだったカランは軍人サル・スカーチの元、立派な殺し屋になっている。

    1985年から始まった物語が、2004年で終わる。

  • 長い。
    あまりドキドキもハラハラもなかった。
    自分にはどこをおもしろがればいいのか理解できなかった作品。

  • 上下巻の分厚い本でありながらかなりのスピード感で展開していく。下巻中盤あたりで香港まで場面が展開していくところからのシークエンスがそのまま映画を見ているようで緊張感が張り詰め、読んでいる方も登場人物のように状況に振り回されていく。その快感が心地いい。登場するキャラクターの数が多く場所もアメリカメキシコから中南米、香港まで広がるし、それぞれの人物に裏表も色々あるので展開に振り落とされないようにするのが大変。だけど面白いし、これがある程度正しくメキシコの麻薬産業周りのことを描いているのだとしたら割と絶望的ではある。

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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