フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)

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感想 : 45
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042823070

感想・レビュー・書評

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  • <上下巻併せての評です>

    「自分流に生きるのは骨が折れる」これが書き出し。実にその通り。できるなら、人に合わせ、時流に合わせて生きていくのが楽に決まっている。でも、それができない人間がいる。フランク・マシアーノがそうだった。コーヒーの淹れ方一つとっても、自分流でなければ飲む気がしない。こういう男は厄介だ。特に組織の中で生きていくのは。そういうわけでフランクは自分一人で仕事をすることを好む。

    サンディエゴのオーシャン・ビーチ・ピアで釣り餌店を開くほか、レストランへの魚介販売、リネン・レンタル業、不動産業と毎日忙しく働いていた。唯一の楽しみは若者たちが仕事に出かけた後の「紳士の時間」に昔ながらのロング・ボードで波に乗ることだ。同年輩の友人とサーフィンの傍ら、昔話に興じたり、シャワーの後のコーヒーを楽しんだりする。娘の学費を稼ぐため、仕事に精を出す必要はあるが「生活の質」は落とせない。フランクは手順通りに事をこなすのを好む。

    そんな冬のある日、フランクが襲われる。何者かが伝説の凄腕の殺し屋、フランキー・マシーンをこの世から消し去ろうとしている。からくも難を逃れたフランクは誰にも知られていない隠れ家に身を潜め、自分を殺そうとする相手とその理由の謎解きに取りかかる。足を洗ったとはいえ元マフィアの殺し屋。相棒のマイクと組んで何人も人を殺めてきた。恨みを買っていたとしても不思議はない。フランクはそもそもの始まりから記憶をたどり始める。

    二つの物語が、一篇の小説の中に同居する。ひとつは、足を洗って久しい元殺し屋と彼を狙う相手との死闘を描くミステリ。もう一つはサンディエゴを舞台にあくの強いマフィアたちの勃興と権力争い、栄光の日々と失墜を描くクライム・ノヴェル。漁師の子倅がボスの一人に目をかけられ、その運転手となり、様々な試練を経て伝説の殺し屋になっていく、ある種ビルドゥングスロマン風の話が滅法面白い。

    原題は<The Winter of Frankie Machine>。流石は東江一紀。そのまま邦題にしている。老境に入りつつある男の苦境を「冬の時代」と見て、彼の半生を振り返る部分に「夏(春)の時代」を見たのだ。作中、フランクや彼の友人は何度も「いい時代だった」と過去を懐かしむ、ノスタルジックでセンチメンタルな感情を隠しもしない。確かにアメリカは変わった。今の状況は特別だが、ベトナム戦争が終わった当時、戦争から帰ってきた若者は深く傷つき、祖国の凋落を感じただろう。

    フランク自身は衰えとは無縁だ。今でも現役バリバリで愛人のドナと愛しあい、別れた妻が暮らすもとの自分の家の修理もやるし、生活費も出している。大きな波に乗ることもできれば、射撃の腕も当時のままだ。フランクは歳はとったが衰えてはいない。落ち目になったのは、彼の昔の仲間たちだ。落ち目になった者の目には過去は美しく輝いて見えるのだろう。彼らは何も考えてこなかった。その時その時の衝動に合わせて生きてきたつけがたまっていたのだ。

    フランクはマフィアの馬鹿話に適当に付き合いながら、店の台所に立って料理をすることを楽しみにしていた。派手に遊ぶことはあっても自分を見失いはしない。マフィアの実態は十分理解していた。何度も足を洗い、その世界から距離を置いてきた。時にはそのために海兵隊に入ることまでした。皮肉なことに軍が彼を育てたのだ。ベトナム戦争のさなか、狙撃兵になった彼は、抜群の射撃の腕でテト攻勢を切り抜ける。フランクの強みは、どんな相手からも自分に必要な知識、技術を吸収できることだ。

    それは軍に限らない。ラスヴェガスの高利貸し、ハービーからは玉葱入りベーグルの味とクロスワードの愉しみを、警官上がりのクラブ経営者、通称ビッグ・マックからはクンフーとオーディオを。サンディエゴの副長で伝説の殺し屋バップからは標的を確実に追い詰める技術を学んだ。彼はそれらを忘れることなく、忠実に教えを守り、自分のものにしてきた。だからこそ、多くの者が殺される中、フランクは伝説のまま生き抜いてこれたのだ。

    「餌屋のフランク」から伝説の殺し屋「フランキー・マシーン」に返り咲いた男は、自分を殺そうとした相手に近づくが、相手は新たな殺し屋を差し向けてくる。しかも、フランクの居所はどういうわけか筒抜けだ。相手はどうやらマフィアに限らない。FBIまで絡んでいる。この謎を解くには姿を隠したマイクに聞くしかない。フランクは友人の連邦捜査官デイヴにマイクの居所を問い詰める。マイクが仄めかした言葉を手掛かりにフランクは相手の正体を突き止め、最後の戦いに挑む。

    家族を愛し、地域の子どもたちを大事にする男が、マフィアの組織や政府の組織相手にひとり敢然と立ち向かう。これには肩入れしたくなる。要所にリチャード・ニクソンやボビー・ケネディといった実在の人物を配し、ビーチ・ボーイズのサーフィン・サウンドが鳴り響き、CCRのヒット曲にちなんだ愛称を持つ人物が重要な小道具となる。ニューヨークのマフィアを描いた映画『ゴッドファーザー』の台詞を真似て笑いをとるところなど、遊び心も満載だ。初のドン・ウィンズロウだったが、充分堪能した。同時代を生きた読者にお勧め。

  • カッコいいとはこういうことさ。

    某大人アニメのキャッチ・コピーがこんなだった気がしますがw、まさにその通りな大人の物語。かつての凄腕の殺し屋、フランキー・マシーンに突如襲いかかった陰謀。裏切りの世界の中で彼が信じられるものは一体!?過去と現在とのリンクが、そしてテンポが素晴らしい。

  • 構成がとてもよかった。
    まずは静かで規律ある現在の生活に始まり、ことが起き、その原因を探る過程でフラッシュバックを交え、結末へ辿りつく。この構成は読ませる。
    この点自分は前作『犬の力』の直線的でだらだら続く構成よりも今作の方が好きだ。

    フラッシュバックの中ではただ事実が回想されるだけではなく、主人公フランキー・マシーンの魅力的な人柄、男気、人情、知性が光り、物語に深みを増している。

    ウィンズロウと言えば『ストリート・キッズ』を思い浮かべる自分にとってはあまり軽口がないのが残念といえば残念だが、これはこれでありだと思う。

    ■このミス2011海外4位

  • これは面白かった!

  • ドン・ウィンズロウの小説は結構好きなんだけど、これはイマイチかな。

    何しろ、アメリカのマフィアとか裏社会の横と縦の繋がりがよく理解できていない、という自分自身の問題がある。

    多分、その辺をもうちょっと多少なりとも理解できていれば、もっと楽しめたんだろうと思う。

    ラストは、ちょっと味わいがあったけど、それでもいいの? って感じ。

  • ラストは読めたけど、そうなって欲しかった想いがあったかも。

  • 畢生の大作「犬の力」の後に上梓された本作は、イタリアン・マフィアの熾烈な血の抗争を主題に、またしても分厚い物語を構築している。凄まじい緊張感を強いる「…力」に比べ、ウィンズロウの本質により近いファルスのムードが前面に出ており、多少の粗はあるもののエンターテイメント小説として充分楽しめる作品だ。「ゴッドファーザー」の如き〝血の掟〟に縛られるような厳格な世界ではなく、社会の片隅に生息し、全盛期を過ぎてもなお強欲なマフィア幹部らの醜態をドライに描き、アイロニカルな展開で読ませる。

    導入部では、裏稼業を引退して多様な事業に勤しむ主人公フランク・マシアーノの私生活に関するこだわりが延々と続き、ウィンズロウ・ファンには馴染みのサーフィンへの偏愛も滔々と語られていく。さらに、引退したマフィアの殺し屋とFBI現役捜査官がサーファー仲間であることを示した後、ようやく本筋が動き出す。目先の金に釣られて罠に掛かったマシアーノは、図らずもマフィアの裏社会へと再び引きずり込まれる。殺人犯として逃亡する中、マシアーノは事の真相を探るために、決して消すことの出来ない過去を振り返る。それは、昔も今も変わらない世界、過剰な暴力を用いて覇権争いを繰り広げるギャングらの狂宴に他ならず、そこには伝説のマフィア〝フランキー・マシーン〟の名がしっかりと刻み込まれていた。

    本作は、弱小マフィアに属する無法者らが成り上がり/衰退していくさまを、膨大なエピソードを積み重ねて構成しており、登場人物も非常に多いため、読んでいる間はかなりのエネルギーを消耗する。意外にも〝フランキー・マシーン〟の敏腕ぶりは、あまり伝わらない。機知よりも瞬発力に優れ、反骨よりも日和見に傾く主人公よりも、混沌とした挿話の数々に面白さを感じた。終章では、冒頭の伏線をきっちり生かし、ウィンズロウならではの爽やかな余韻を残してくれる。

  • 978-4-04-282307-0 328p 2010・9・25 初版

  • 上に続けて一気に読まないと登場人物が多すぎて(馴染みのない名前ばかり・・・)時間も前後するためストーリーについてゆけない~私の力不足。下巻の方は上の反省もありゆっくり丁寧に読み進めた。
    とにかく、主人公のカッコよさったら!
    平凡な感想しか描けないのが悔しい。

  • フランキー・マシーンの活躍の続き。
    考えてみれば、「フランク・マシアーノ」で「フランキー・マシーン」というのもなかなか洒落ている。
    これで主人公が若いチンピラならまだしも、含蓄のある年寄りだから深みがある。
    内容は、自分を殺そうとしている相手を過去の事件にさかのぼって突き止めていくといった感じ。
    しっかりとした筋があって、深い闇があり、一筋縄ではいかない感じがする中、フランキー・マシーンはへこたれない。
    タフな小説だ。
    最後はありがちだけど、でもそれにカタルシスを感じる。

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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