脳のなかの幽霊 (角川文庫)

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レビュー : 85
  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042982111

作品紹介・あらすじ

切断された手足がまだあると感じるスポーツ選手、自分の体の一部を他人のものだと主張する患者、両親を本人と認めず偽者だと主張する青年など、著者が出会った様々な患者の奇妙な症状を手掛かりに、脳の不思議な仕組みや働きについて考える。分かりやすい語り口で次々に面白い実例を挙げ、人類最大の問題に迫り、現在の脳ブームのさきがけとなった名著。現代科学の最先端を切り開いた話題作ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 神経科医のラマチャンドランが、失った手足が存在するように感じる「幻肢」とそれに痛みを感じる「幻肢痛」をはじめ、過去に直接携わった患者を中心に神経学に関する不思議な症例を順に紹介する。著者自身の発案による鏡を使った幻肢痛の治療といった具体的な実例や、本文に挿入されている錯視をおこす絵図による「脳に騙される」体験によって、痛覚を代表に人間の知覚というものが絶対的なものではなく、いかに脳による総合的な判断のもとで相対的に導かれているかを示す。終盤に向かうにつれて考察の対象は広がりを見せ、観察の対象は著者の実体験から過去の特異な記録に移り、「サヴァン症候群」「笑い死に」「想像妊娠」といった例から、そこで果たされる脳の役割を推測する。そして終章では「人間の意識とは何か」という壮大なテーマを掲げたうえで、これに対して著者なりの回答を提示する。

    脳の影響を直接的に観察できる特殊な症例の数々に着目することで、私たちが自明とする「知覚」がどれほど不確かなものであるかを証明し、引いてはその射程を「意識」にまで拡大しています。フロイトの心理学をはじめとして、一部の哲学や、著者の出自でもあるヒンドゥー教の宗教観にも言及する本書は、それらの学問や思想にも見られる、「自分が自分の管理者であるという認識は幻想にすぎない」という説を科学の側から見通す試みでもあります。『脳のなかの幽霊』(Phantoms in the Brain)は、『脳のなかの幻』とも言い換えられます。その「幻=幽霊」が意味するものは、狭義には冒頭にある「幻肢」のような症例であり、広義としては現にいまこうしている私たち自身とも言えます。

  • 世界観を変える本に出会う体験が人生に何回あるだろうか。この本は間違いなくそういう稀有な本の一つで、自分が普段ながめている世界の在りかたに疑問を投げかけた。

    登場するのは、あるときは脳に損傷を受けた患者たちであり、またあるときは異常なまでに研ぎ澄まされた才能を備えた者たちであった。一つエピソードを挙げる。卒中を経験した患者の中には左手(なんと左手の場合だけである)に後遺症として残った麻痺を頑として認めない者がいる。彼らは「それは自分の手でなく死体の手だ」とか「本当は動くけれど、あなたを傷つけないために動かさないのだ。」といった支離滅裂なことを真顔で言う。笑い話ではなく、彼らは大まじめなのである。これは左脳による情報の組み込みと既存の記憶との整合化が、損傷を受けた(違和感に気付く働きをもつ)右脳頭頂葉の働きを圧倒するために起こる現象なのだと、筆者は主張している。

    読んでいくうちに脳という馴染みのある器官の、これでもかという複雑さを感じる。我々が見ている世界は(未知の働きをする)脳が処理した世界であり、脳へのちょっとした損傷で容易に捻じ曲がる世界である。見ようによってはこれは救いかもしれない。分かり合えない相手に悪意はないとえるかもしれないからだ(そもそも見ている世界が違う)。しかし自分の世界と,相手の世界が全くの別物であるという絶望感も,また感じてしまう。(人は永遠に分かり合えないのでは?) まあこれは本の内容から踏み出したごく個人的な感想だが。

    最後であるが、この本は文章もすばらしい(訳も)。書き手が研究を心から楽しんでいる様子に,こちらまで鼓舞される。人生は短い。自分が本当に興味を掻き立てられることをやってやろう、と思わせるような力強い文章である。

  • ここ最近読んだ科学の本でダントツの面白さでした。

    脳の損傷などの症例から、脳がどうやって世界を認識しているかを、患者の体験から辿って解き明かしていくのが面白い。

    挙げられてる障害はどれも現実離れしたもので唖然とさせられました。たとえば自分の左側にあるものを無視してしまう、片腕が自分を殺そうとする、視野の一部に幻覚が紛れ込んで現実と判別できない…etc


  • 「人は不思議の国で何が起こっているのか、住人から教えてもらわないかぎり、想像もすることができないのです」
    第六章 鏡のむこうに より

    脳の仕組みや働きを踏まえて、様々な症状を紐解き、検証している。ユニークな実験法や切り口で、試行錯誤を重ねる様は、医師というより科学者のようでした。
    何より完全な解決、解明に至らないものもあるので、医者も全てを知っているわけではないのだな、と。探り探りで、なおかつ脳に関してわかっていることの少なさ、また時代を経るにあたっての進歩や苦労なども垣間見えます。


    全12章の構成。それぞれ冒頭に患者の実例、症状、診断内容を入口に不思議な、けれども説明可能な世界へと導いてくれます。学術書というよりかは、普段、そういったものに遠い読者にも向けられている内容だと思いました。後半は若干、哲学がはいったり、神への信仰、果ては宇宙の神秘にまで飛躍しますが、それだけ魅力ある分野なのかもしれません。個人的には多重人格者の考察が興味深かったです。

    章の初めにいくつか引用されるのですが、ホームズ、ワトソン、ルイス・キャロルのアリス、シェイクスピアにアインシュタイン、ダーウィンとバラエティ豊か。ラマチャンドラン博士の趣味がちらりと見えます。

    脳に限らず、未知の領域はすぐそこにあって、先入観や古い価値観、前例によって、理解や解決を遠ざけることもしばしばあるように思えます。20年前に刊行された単行本の文庫です。未知よりも既知が好まれがちな現代でも十分得るものの多い読書体験でした。

  • とにかく面白い。
    章ごとに様々な奇妙な症例が提示され、それを脳科学・心理学的に解明していくさまは、まさに一級の本格物のよう。
    しかも単に推理(推測や憶測)ではなく、様々な心理学上の治験や実験で謎を解き明かせしていくさまは、まるで一級のエンターテイメントの様。
    学校でこんな本がテキストになれば楽しいのに。

  • 前々から気になっていたのだが、こんなに面白い本だったとは!幻痛―切断されたはずの手足に痛みを感じる症状の分析から始まる本書は脳神経科学の観点からフェティシズムや視覚の機能、半身失調や宗教認識に至る人間の機能が脳の特定部位(またはその失調)によっていかに形成されるかを明らかにしていく。出てくる具体例の数々が衝撃的なだけでなく、それが哲学的見地から解釈されユーモア交じりの語り口で次々と紹介されていくのだからたまらない。自我や自意識、自らの身体感覚すら幻想かもしれないと思える瞬間、そこに知の閃きが待っている。

  •  シャルル・ボネシンドロームに関する記述 と「それを使ってマンガを描く男」の話あり。
     「自分の盲点を「見る」ための図」多数。

  • なるほど、これは「名著」の看板に偽りなし。あれこれ脳科学の本をつまみ読みしてきたけれど、やっぱりこれを真っ先に読んでおくべきだったと後悔しきり。

    まずは具体的な数々の症例が(不謹慎な言い方をあえてするが)面白すぎる。脳の一部などが損傷することで、こんなに奇妙きてれつなことが起きるとは! 筆者がそこから脳の機能について推論を進めたり、実験によってそれを確かめていく様が、非常に興味深くユーモラスに書かれている。

    その考察は、意識とは、心とはいったい何なのかということに及んでいくのだが、そこで「クオリア」という概念が出てくる。他の本で読んでも(茂木さんですね)よくわからなかったこのクオリア、今回初めて「そういうことか!」とわかった気がした。話の運び方、例のあげ方、特に、たとえ話の仕方がとってもうまくてわかりやすいと思う。

  • 幻肢(失われた四肢が痛む現象)から入って、いろいろな脳の障害の症例を交えて、最終的には「自己」の問題にまとめられています。が、専門書のように難解ではなく、一般の人向けに書かれていて(時にジョークを交えてたりして)とても楽しく読めました。(盲点の章は実際、盲点を見る(!?)ことが出来て吃驚した。。。!)
    作者はインドの方で、とてもヒンズー教的(東洋的?)です。キリスト教的なものが薄い分、なじみ易いかな? 養老タケシ氏の唯脳論とかお好きな方は是非。

  • 人間の精神と意識、身体についていろいろなことを教えてくれる。示唆に富んだ本。
    これを読むと自分の感覚、記憶についてどこまでが真実なのか、真実とはなにかを考えさせられる。最高に知的刺激を与えてくれる。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学サンディエゴ校の脳認知センター教授及び所長。ソーク研究所兼任教授。2011年タイム誌が選ぶ世界に最も影響を与えた100人に選ばれた神経科学者。

「2011年 『脳のなかの幽霊、ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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