脳のなかの幽霊 (角川文庫)

  • 角川書店 (2011年3月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (496ページ) / ISBN・EAN: 9784042982111

作品紹介・あらすじ

●切断された手足がまだあると感じるスポーツ選手
●自分の体の一部を他人のものだと主張する患者
●両親を本人と認めず、偽物だと主張する青年
――など、著者が出会った様々な患者の奇妙な症状を手がかりに「脳の不思議な仕組みや働き」について考える。

 「わくわくするほどおもしろい」脳の世界を、当代きっての神経科学者であり、幻肢の専門家である著者が、独自の切り口でわかりやすく読み解いてみせた、歴史に残る名著!

 本書では、“脳の働きについていろいろな仮説を立て、それを立証するための実験をしているのだが、それはこうした症例が、「正常な心と脳の働きの原理を説明する事例であり、身体イメージや言語、笑い、夢などの解明に役立ち、自己の本質にかかわる問題に取り組む手がかりとなる」と考えているからだ。著者が提唱する仮説はどれも興味深いが、その一つに、左脳が一貫性のある信念体系(モデル)をつって現状維持をはかるのに対し、右脳は異常や矛盾を検出し、それがある閾値(いきち)に達するとモデル全体の改変を強行するという説がある。”……“いま脳の分野でいちばんホットなテーマといえば、いわゆる「脳のハードプロブレム」、意識をめぐる問題だろう。なかでもおもしろいのが、脳のニューロンの活動から、どのようにして「赤い」とか「冷たい」といった主観的世界の感覚が生まれるのかというクオリア問題だ(と私は思う)。著者は最終章の十二章で、それまでの章で紹介した症例や、実験結果や考察をまとめ、意識、クオリア、自己などについて言及している。”(本書・訳者あとがきより)

 わかりやすい語り口で、次々に面白い実例を挙げ、人類最大の問題に迫り、その後の脳ブームの先駆けとなった現代科学の最先端を切り開いた話題作が、ついに文庫化!

解説:養老孟司

●V・S・ラマチャンドラン:カリフォルニア大学サンディエゴ校の脳認知センター教授および所長。また、ソーク研究所の兼任教授でもある。10代の頃に書いた論文が科学誌「ネイチャー」に掲載された気鋭の神経科学者。視覚や幻肢の研究で知られ、その研究内容が新聞やテレビで報道され大きな反響を呼んだ。

感想・レビュー・書評

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  • 切断された手足に痛みを感じたり、想像妊娠で陣痛まで感じたり、頭の怪我により、両親のことを親だと名乗る別人だと信じたり、精神的なことを含め、そうした様々な症状を引き起こすのは脳の仕業らしい。
    ラマチャンドラン博士が、患者の症例と自身の推察を紹介した興味深い内容。
    AIの開発は進めど、脳の機能や働きには未解明ないことも多い。脳や人体にはまだまだフシギがいっぱい。

  • 幻肢や半側空間失認の症例を通し、脳の各部位の役割を推測するとともに、簡便な実験を考え実行し更なる確信に導いていく著者の方法にとても感動しました。非常に専門的で知的で興味深い内容を約千円で読めてしまって良いのかと驚いています。

  • 神経科医のラマチャンドランが、失った手足が存在するように感じる「幻肢」とそれに痛みを感じる「幻肢痛」をはじめ、過去に直接携わった患者を中心に神経学に関する不思議な症例を順に紹介する。著者自身の発案による鏡を使った幻肢痛の治療といった具体的な実例や、本文に挿入されている錯視をおこす絵図による「脳に騙される」体験によって、痛覚を代表に人間の知覚というものが絶対的なものではなく、いかに脳による総合的な判断のもとで相対的に導かれているかを示す。終盤に向かうにつれて考察の対象は広がりを見せ、観察の対象は著者の実体験から過去の特異な記録に移り、「サヴァン症候群」「笑い死に」「想像妊娠」といった例から、そこで果たされる脳の役割を推測する。そして終章では「人間の意識とは何か」という壮大なテーマを掲げたうえで、これに対して著者なりの回答を提示する。

    脳の影響を直接的に観察できる特殊な症例の数々に着目することで、私たちが自明とする「知覚」がどれほど不確かなものであるかを証明し、引いてはその射程を「意識」にまで拡大しています。フロイトの心理学をはじめとして、一部の哲学や、著者の出自でもあるヒンドゥー教の宗教観にも言及する本書は、それらの学問や思想にも見られる、「自分が自分の管理者であるという認識は幻想にすぎない」という説を科学の側から見通す試みでもあります。『脳のなかの幽霊』(Phantoms in the Brain)は、『脳のなかの幻』とも言い換えられます。その「幻=幽霊」が意味するものは、狭義には冒頭にある「幻肢」のような症例であり、広義としては現にいまこうしている私たち自身とも言えます。

  • 世界観を変える本に出会う体験が人生に何回あるだろうか。この本は間違いなくそういう稀有な本の一つで、自分が普段ながめている世界の在りかたに疑問を投げかけた。

    登場するのは、あるときは脳に損傷を受けた患者たちであり、またあるときは異常なまでに研ぎ澄まされた才能を備えた者たちであった。一つエピソードを挙げる。卒中を経験した患者の中には左手(なんと左手の場合だけである)に後遺症として残った麻痺を頑として認めない者がいる。彼らは「それは自分の手でなく死体の手だ」とか「本当は動くけれど、あなたを傷つけないために動かさないのだ。」といった支離滅裂なことを真顔で言う。笑い話ではなく、彼らは大まじめなのである。これは左脳による情報の組み込みと既存の記憶との整合化が、損傷を受けた(違和感に気付く働きをもつ)右脳頭頂葉の働きを圧倒するために起こる現象なのだと、筆者は主張している。

    読んでいくうちに脳という馴染みのある器官の、これでもかという複雑さを感じる。我々が見ている世界は(未知の働きをする)脳が処理した世界であり、脳へのちょっとした損傷で容易に捻じ曲がる世界である。見ようによってはこれは救いかもしれない。分かり合えない相手に悪意はないとえるかもしれないからだ(そもそも見ている世界が違う)。しかし自分の世界と,相手の世界が全くの別物であるという絶望感も,また感じてしまう。(人は永遠に分かり合えないのでは?) まあこれは本の内容から踏み出したごく個人的な感想だが。

    最後であるが、この本は文章もすばらしい(訳も)。書き手が研究を心から楽しんでいる様子に,こちらまで鼓舞される。人生は短い。自分が本当に興味を掻き立てられることをやってやろう、と思わせるような力強い文章である。

  • ここ最近読んだ科学の本でダントツの面白さでした。

    脳の損傷などの症例から、脳がどうやって世界を認識しているかを、患者の体験から辿って解き明かしていくのが面白い。

    挙げられてる障害はどれも現実離れしたもので唖然とさせられました。たとえば自分の左側にあるものを無視してしまう、片腕が自分を殺そうとする、視野の一部に幻覚が紛れ込んで現実と判別できない…etc

  • 脳の精緻な部分と、合理化せんが為にちょっと強引な部分と、いろいろな要素がみえて面白い。
    生半可な想像力を超えたぶっ飛んだ症例もあったりして、今でこそ少しずつその謎を解き明かしつつあるけれども、昔は狐憑きとかにまとめて理由付けして隔離するしかやりようがなかっただろうなぁとか脱線して考えた。
    最適化の為なら自分自身にすら嘘をついてくる脳の仕組みを解くために、筋道立てて推論と実験装置を考え、答えに迫っていくところが本当にすごいと思う。それも原始的な装置でこれほど。

  • 脳神経学者であるラマチャンドランさんの本。

    脳。わかっているようで、なんだかよくわからない器官。科学系の話題は好きだけれど、脳の話となると、「わからない〜」と拒否反応をしめしてしまいがちな自分の殻を破るためにも頑張って読んでみました。おまけに、最終的には、私の苦手分野の「哲学」的な話題、「意識とは何か」まで踏み込まれていて、そうか、脳の科学は哲学までを含むのか〜と、ちょっとくらくらしながら読みました。

    それにしても興味深い話題がたくさん書かれていました。
    情報量が多くて、なかなか読み進まなかったんですが(1ヶ月ぐらいダラダラ読んでたかも…)、内容は非常に面白いものでした。

    情報量といえば、本の1割ぐらいが「参考文献」と「原註」で占められていました。流石に、そこまで全部読めなかったけど、そこまで確認したらすごい情報量。著者の「伝えたい」という姿勢を感じました。

    1999年に書かれた本とのこと。
    ここからすでに20年経って、脳の研究はどこまで進んでいるのか、もう少し勉強してみたいと思えました。





    少し前に読んだデビット・イーグルマンさんの「あなたの脳のはなし」などが、脳科学のその後の進展なのかな。脳に電極やLEDを埋め込むような研究も進んでいるとのこと。でも、まだまだわからないことが多いんだろうか。

    次はどの本を読んだらいいんだろう。探してみよう。

  • 全体を通して脳科学に非常に興味を持ったし、様々な可能性や考えを与えてくれて面白かった。特に、幻肢などの謎の多い症状に対して脳がどのようになってその症状が引き起こされているのかを実験を通して論考していくことが非常に面白い。不思議な症状も理解することで、不思議さが無くなっていくのが気持ちいいほど面白かった。脳については凄く興味を持っていたので、今後も学んでいきたい。
    後半は、実験は無く論考がメインのチャプターが増え、前半と比べると面白さよりも難しさが先行していて読み進めるのに時間がかかった。

  • 臨床も行なっている医師ならではの切り口で、脳の面白さ・不思議さを感じられました

    少し古い本ですが、かなり評判も良い本なので読んでみました。著者は臨床を行う医師でありながら、神経科学の研究もされているようです。そのため、生物や計算論出身の方の本には見られない、1人の患者の症例をとことん掘り下げることで、新たな事実を見つけるという考え方はとても勉強になりました。具体的には、幻肢や笑い死に、想像妊娠などの不思議な現象を、単に異常者や例外として片付けるのではなく、その背後に潜むメカニズムを解明をしていました。このあたりの内容は、単に現象やそのメカニズムが面白いというだけに留まらず、研究者としての常識にとらわれない良い問いの立て方についても考えさせられるものでした。一方で、翻訳者の方の技術もあってか、全体として平易な表現やユーモアを交えた表現を心がけていることが読み取れ、分厚い本にも関わらず挫折せずに読めました。

  • 幻肢、半側無視、盲視などの、いわゆる脳の不思議が書かれた本。
    例えば、半身麻痺で歩行すらできない状態の人が、自分ではどこにも異常のない健康体と認識する場合があるとか。
    事実とのギャップをどう解釈するかの実験模様も面白い。

  • 読み終えてからは、自分の脳が気になってしょうがない。私の知らないところで「ゾンビ」行動をしているのかと思うと、自分の中に誰か別の人格がいるようにも感じる。以前に読んだことがあるのだが、帯状疱疹を長く患っていると症状として出る神経痛を脳が記憶してしまって、帯状疱疹が治ってからも長年その痛みに苦しむ患者さんがいるとか…。今朝帯状疱疹のあの痛みを足に感じたので、「脳に騙されるな、自分!」と自分を鼓舞してみた。今のところ痛みが治まってるのはそのおかげなのか??「ゾンビ」に勝ったのか??
    さて、非常に難解な原作を訳していただけたのでこうして手に取ることができたわけで、訳者には感謝していますが、うーん、あのアメリカンジョークはどうにか本の中で笑わせてくれる糸口をつけておいてもらいたかった…。ネットで検索してやっと笑えたけど…。

  • 自分というものの中にコントロールできない部分がたくさんある、というか脳の活動の中にはたくさんの部分があって自分と思っている部分はごく一部に過ぎなくてそのほかの多くの部分が知らないうちに自分をコントロールしているということなのか。

  • 再読なので、初めて読んだ時程のドキドキ感はなかったものの、ラマチャンドラン博士の研究熱心さに改めて感心する。失った体の部位から起こる幻肢痛例はリアルで、患者本人には現実の激痛なのがわかる。脳の配線が変わり脳内地図が書き換えられてしまうと、肉体の存在有無は関係なく、リアルな触感や痛みが起こる。脳を騙して幻肢痛の治療を行うところなどは興味深く、自分が今見ている世界でさえ疑ってしまいそうになる。

  • ラマチャンドラン氏の接してきた様々な症例の患者や簡単にできる錯覚の実験などを通して、人間の自己や身体の認識はとてもあやふやで脆いことがわかった。

    私も病気で自分の身体を認識できなくなったことがあったのでとても納得できた。


  • 「人は不思議の国で何が起こっているのか、住人から教えてもらわないかぎり、想像もすることができないのです」
    第六章 鏡のむこうに より

    脳の仕組みや働きを踏まえて、様々な症状を紐解き、検証している。ユニークな実験法や切り口で、試行錯誤を重ねる様は、医師というより科学者のようでした。
    何より完全な解決、解明に至らないものもあるので、医者も全てを知っているわけではないのだな、と。探り探りで、なおかつ脳に関してわかっていることの少なさ、また時代を経るにあたっての進歩や苦労なども垣間見えます。


    全12章の構成。それぞれ冒頭に患者の実例、症状、診断内容を入口に不思議な、けれども説明可能な世界へと導いてくれます。学術書というよりかは、普段、そういったものに遠い読者にも向けられている内容だと思いました。後半は若干、哲学がはいったり、神への信仰、果ては宇宙の神秘にまで飛躍しますが、それだけ魅力ある分野なのかもしれません。個人的には多重人格者の考察が興味深かったです。

    章の初めにいくつか引用されるのですが、ホームズ、ワトソン、ルイス・キャロルのアリス、シェイクスピアにアインシュタイン、ダーウィンとバラエティ豊か。ラマチャンドラン博士の趣味がちらりと見えます。

    脳に限らず、未知の領域はすぐそこにあって、先入観や古い価値観、前例によって、理解や解決を遠ざけることもしばしばあるように思えます。20年前に刊行された単行本の文庫です。未知よりも既知が好まれがちな現代でも十分得るものの多い読書体験でした。

  • とにかく面白い。
    章ごとに様々な奇妙な症例が提示され、それを脳科学・心理学的に解明していくさまは、まさに一級の本格物のよう。
    しかも単に推理(推測や憶測)ではなく、様々な心理学上の治験や実験で謎を解き明かせしていくさまは、まるで一級のエンターテイメントの様。
    学校でこんな本がテキストになれば楽しいのに。

  • 原著は1998年に出版のため、今読むと目新しさは全くない。ただ、当時としては画期的だったろうと思う、幻肢を通しての脳の働きに関しての考察である。最も印象的だったのは、本編の最後、宇宙論学者のポール・デイヴィスの「宇宙は意識のある生物を通して自己認識を生み出した。これがささいなことであるはずがない。考えのない無目的な力のとるにたりない副産物であるはずがない。私たちはそうあるべくして、ここに存在しているのだ。」だった。
    観察者がいなければ、その対象は存在しているとは言えない。宇宙は自己の存在証明のため、自らを観察し、本質を理解し得る知的生命体を意思を持って進化させている、と主張している。 ポール・デイヴィスの著作を読んでみたくなった。

  • 前々から気になっていたのだが、こんなに面白い本だったとは!幻痛―切断されたはずの手足に痛みを感じる症状の分析から始まる本書は脳神経科学の観点からフェティシズムや視覚の機能、半身失調や宗教認識に至る人間の機能が脳の特定部位(またはその失調)によっていかに形成されるかを明らかにしていく。出てくる具体例の数々が衝撃的なだけでなく、それが哲学的見地から解釈されユーモア交じりの語り口で次々と紹介されていくのだからたまらない。自我や自意識、自らの身体感覚すら幻想かもしれないと思える瞬間、そこに知の閃きが待っている。

  •  シャルル・ボネシンドロームに関する記述 と「それを使ってマンガを描く男」の話あり。
     「自分の盲点を「見る」ための図」多数。

  • なるほど、これは「名著」の看板に偽りなし。あれこれ脳科学の本をつまみ読みしてきたけれど、やっぱりこれを真っ先に読んでおくべきだったと後悔しきり。

    まずは具体的な数々の症例が(不謹慎な言い方をあえてするが)面白すぎる。脳の一部などが損傷することで、こんなに奇妙きてれつなことが起きるとは! 筆者がそこから脳の機能について推論を進めたり、実験によってそれを確かめていく様が、非常に興味深くユーモラスに書かれている。

    その考察は、意識とは、心とはいったい何なのかということに及んでいくのだが、そこで「クオリア」という概念が出てくる。他の本で読んでも(茂木さんですね)よくわからなかったこのクオリア、今回初めて「そういうことか!」とわかった気がした。話の運び方、例のあげ方、特に、たとえ話の仕方がとってもうまくてわかりやすいと思う。

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著者プロフィール

山下 篤子(やました・あつこ):北海道大学歯学部卒業。翻訳家。ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊』『脳のなかの天使』など訳書多数。

「2025年 『人間の本性を考える 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山下篤子の作品

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