ガリバー旅行記 (角川文庫)

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制作 : 山田 蘭 
  • KADOKAWA/角川書店 (2011年3月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042982180

作品紹介

小人たちの国、巨人たちの国、空飛ぶ島の国、馬たちの国…イギリスに妻子を残し、懲りずに旅を続けたガリバー。彼が出会ったおとぎの国々を、誰もが一度は夢見たことがあるだろう。子供の心と想像力で、スウィフトが描いたこの奇想天外、ユーモアあふれる冒険譚は、けれどとびきり鋭く辛辣に、人間と現実社会をみつめている。読むたび発見を新たにする、冒険旅行小説の歴史的名著。抜群に読みやすい新訳版。

ガリバー旅行記 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  正直<風刺文学>というキャッチフレーズにはいささか苦手意識がある。まあ自分の好きなSFだってそもそも現在の社会や人間といったものを戯画化することが土台にあるようなジャンルなのだから、明らかに自己矛盾しているとは思う。しかしどうも<風刺>という言葉に、現在の社会の様々な問題を浮き彫りにした上で「現在の社会を変えよう」とか「より良い社会にしよう」といったニュアンスを感じてしまって、消極的かつ悲観的なブログ主は「そんな立派なこと言われてもさ・・・。大体変えられるのかよ世の中なんて」みたいな気持ちが生じて、誰もそんな事を言っていないのに勝手にネガティブになりついつい<風刺>というとどこか警戒心があったのである。しかし読んでみると凄く面白い!約300年前だというのにその笑の感覚の違和感のなさ、発想の奇抜さに驚かされる。<風刺>という言葉を一面にしかとらえられていなかったことに気づかされ、反省した。<風刺>というのは別に目下の問題を解決しようという著者の意図から生まれるものを指す言葉とは限らず、もっと大きな視点からこれまでの常識に囚われず別の角度から社会や人間を見直してみようという方法論のことなのだ。
     本書の影響も多大なるものがある。本書を読んだことが無くてもリリパット、ラピュタ、ヤフーといった言葉は誰でも知っている。それらの言葉の息の長さには驚かされる。SFファンとして一読の印象はレムの泰平ヨンシリーズ。いろんな星を巡るユーモラスかつ深遠なところが似ている。その他ラファティのカミロイ人ものとか。あとは下記の様に『家畜人ヤプー』『得たーモローの島』。

     まずガリバーから従兄への本書出版に関する手紙があり、また序文で「ところどころ単調な数字の記録などを端折っている」という入れ子構造になっていてメタフィクション構造になっているのは見逃せない。また司祭職にあり著名人であったスウィフトの名も伏せられガリバーの手記という形式で当初出版されたため、ノンフィクションと思っていた読者も多かったそうだ。
     さて第一話。小人リリパットの国に捕えられてしまう絵は有名で、少なくともブログ主の様な世代で見たことが無い人などいないのじゃないかと思う。実はそのリリパット社会も当時のイギリス社会を反映した部分があるようなのだが、そこはラジオの解説に詳しいので置いておく。唸らされたのは十二分の一というリリパットの大きさを始めとする架空であるにも関わらず、努めて科学的であろうとする描写だ。家、軍艦などの描写にこれでもかと数字が並ぶ。社会についても経済の様な大きい視点や家族関係(子どもは両親から離れて育てられる)の様な個の視点まで実に細かく考察されている。また「リリパットより小さい人間もいるのではないか」というさらに想像が広がる様な一節もある。これらはSFの外挿法を軸とする創作方法に直結するのではないだろうか。まあそんなに硬い事は言わずとも宮殿の火事を小便で消して大問題になるところなんかは爆笑ものである。
     第二話巨人の国。こちらも大きさについての詳細な数字が登場し社会体制についても軍事、教育、法律など幅広い分野についての細かい描写がある。また第四話で顕著なのだが、人間側の社会(特にイギリス)の辛辣な説明があり、そこにスウィフトの本音が伺える。今度は本人が小さいのでいつもいっぱいいっぱいな感じ(笑)だが、これも楽しい冒険譚に仕上がっている。
     第三話は他の三つのパートと違って、いくつかの国の話が並ぶ。実は一番SFっぽい部分でもある。
     まずは空中都市ラピュタ。空中に』浮いているというのがちゃんと疑似科学的に説明されているんだよなあ。磁力ということで素朴なんだが理屈がそれなりに通っているのがSFファン的に嬉しくなってしまう。ちなみに『天空の城ラピュタ』は観たことが無いので言及できません(関連は薄めの様だが)。いざとなったら下界の世界バルニバービを押しつぶすと脅迫して支配しているというヒドイ話だが、それが不成功に終わり妥協しているという辺りのなんとも「よくありそうな感じ」もコワい。バルニバービの巨大研究所のマッドサイエンティスト大集合!といった奇天烈な研究の数々は圧巻。言語実験、人体実験(脳の手術ヤバい)呆気にとられるほどで個人的にはここが面白ツボマックス(何と<暗記パン>みたいなのも出てくる)。科学者のすすめでやったプロジェクトが大失敗に終わる様子もぬかりなく描かれ、これまた現代にも通じるエピソードである。
     グラブダドリブは「魔術師と呪術師の島」。これには過去の人物を甦らせて実際にあったことを聞けるというタイムスリップものみたいな話が登場してまたまた腰が抜けそうになる。300年前に既にこのアイディア書いているとはねえ。しかし何人もの話を聞いた挙句、歴史の記述者がいかにいい加減であるかとか人間がいかに愚かであるか気づき嫌になってしまうというネガティブなオチが何とも。あと呪術により死者を甦らせるというのはゾンビ的でもある。
     ラグナグには不死人がいる。一見夢の様な不死人だが、それは死なないだけで次第に時代に合わなくなり最後には社会の負担となり冷遇されるという悲惨さ。これまたらしい。
     日本は一応出てくるものの大したエピソードは無い。
     そういったわけで奇想炸裂の第三話は正直一番好きなんだが、阿刀田高解説では第三話に関して「(発想が)子どもっぽいとも言える」と。えーっ、そこがイイんじゃなーい!(笑)
     第四話フウイヌム国。これが内容的にもクライマックスで、ガリバーが最終的に心酔した嘘のない高潔な馬たちの国。フウイヌム国では人間はいやしいヤフーという獣として扱われており忌み嫌われている。なのでガリバーは次第にその存在を認められるもののあくまでも主君の可愛がるペットとしての特別扱いでしかない。しかしフウイヌムの文化に深い尊敬の念を抱いたガリバーはむしろ人間社会に帰るのを望まなくなる。結局追い出され、やむなくイギリスへ帰国し家族の元に戻るのだが周囲に醜いヤフーがいるのが嫌でたまらない状態になってしまうのだ。解説にもあるように実に厭世的なラストである。人間社会への鋭い批評も目立ち、スウィフトの最も言いたかったことが出ているのだろう。ちなみに『家畜人ヤプー』は(上しか読んでいないが)これを基にしていたことが今回よく分かった。またガリバーの心理は『ドクターモローの島』の主人公にも通じるものがある。
     

     他に全体を通じて印象的だったのは言語的な考察が実に多いこと。それぞれの国は別々な言語を持っていて、習得の過程も描かれている。言語抜きに文化が成り立つかといった根源的な問いかけすらみられた。その他にも笑いをちりばめつつ社会や人間への深い洞察が感じられる。一方糞尿についてのエピソードも多い。クローネンバーグの『マップ・トゥ・ザ・スターズ』にも放屁が出てきたが、あれは人体を客観的に見ているといった感じで、スウィフトの場合は稚気というか一種の子どもっぽさの現れの様にも思われる。
     スウィフトはかなり偏屈な人物でもあった様で、解説や上記のカルチャーラジオでも触れられていたが、二人の女性と三角関係を続けた上にどちらとも上手くいっていなかった(片方は自殺)という有様。女性描写には明らかに偏見を見てとれる。イギリス国教会の司祭でそれなりに社会的に地位にあったが、政治で失敗、僧職でもトップには立てなかったということで個人としては歪んだ自意識を抱えた付き合いにくい人物であったのは間違いない。しかしそんな人物がオブセッションをバネにして名作をものにする。不思議なものだなあ。

  • 諷刺するならこういう風に、というのを教わりました。すごいね。

    リリパット(小人の国)、ブロブディンナグ(巨人の国)の話はわりと好きで、諷刺も含めて面白く読めたんだけど、
    第3話「ラピュタ、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリブ、そして日本渡航記」で、どうもスウィフトはただただ毒を吐きたいだけじゃないか…と信用できなくなってきて、
    第4話「フウイヌム国渡航記」ではもう読み進めるのもしんどくなってしまった。

    文学史に残る名作だけのことはある。この胸くその悪さは。

    とくに科学者や夢想家がバカにされているのがぼくにはつらくて…
    たとえ側から見てどんなにバカバカしくても、こんな風に笑っちゃいけねえよ、と、思うのです。
    そういう人たちのおかげでいま21世紀だからね。
    18世紀のスウィフトには想像もできなかったろうけどさ。

  • ガリバー旅行記といえば、小人に捕らえられるガリバーしかイメージになかった。小児文学にもなっているで、わくわく楽しい冒険譚を期待すると裏切られる。原典も子供向けとは違った意味で面白いが。内容は偶然たどり着いた奇想天外な国の訪問記に見せかけた、社会・人類への皮肉というか最早悪口。あとがきを読んで納得した、スウィフトの性格がにじみ出ている。
    ヤフーは確かに醜悪だが、自分を棚上げするカリバーは滑稽。
    ラピュタや日本が登場する3章が面白かったが、4章のインパクトには負ける。

  • 2016/11/19読了。

    ガリバー旅行記といえば小人に貼り付けにされてるガリバーの絵本を想像するものだが、原作はなかなかの後味の悪さ。前半だけなら確かに絵本の題材になるのも考えられるが、なぜこれを絵本にしようと出版社は考えたのか。後半を削ればいいじゃんってことだと思うけど、これで子どもが作者に興味を持ったら原作読んじゃうじゃん?ほぼ、高確率でひねくれ者に育つと思う。

    あと日本も出てるけど短い(笑)

  • 面白かった!子供の頃に読んだ絵本の知識とは全然違った。ガリバーは小人の国から始まり、さまざまな国へ行くのだが、そこに住む人々との考え方の違いなどから、人間の愚かさや醜さについて考えさせられた。

  • アイルランドに興味を持たなかったら、きっと手にしていなかった。小人族の住む国へたどり着いた旅行家のお話、ということで自分の中で完結するところだった。
    そんな人がどれだけいるだろう?原書を読まないなんてもったいない!
    人間の良い所悪い所すべてが描かれている。
    理想郷を探し求めて1冊にまとまった、という感じかな。
    最後のフウイヌム国が印象に残る。

  • ☆☆☆間違いなく名著☆☆☆
    ジョナサンスウィフトの想像力やばすぎ。極めて個性的で天才的な想像を文章に変換してこの一冊を創ってくれたことに、感謝の意を表したい。。。
    フウイヌムの存在でヤフーが持つ悪徳が浮き彫りになる。傲慢、怠惰、醜さを再認識させられた。そしてまた、ヤフーの存在でフウイヌムの持つ良徳が明らかになる。「名誉、正義、誠実、節制、公共心、忍耐、貞節、友情、博愛、忠誠」を認識した(武士道に通ずるところがあるなあ)。悪徳と良徳の2つを認識させられたことが特に心に残った。

  •  厭世主義的諧謔と人間への嫌悪に満ちたジョナサン・スウィフトによる空想旅行記。全四話で構成されているが、第一話のリリパット(小人の国)と第二話のブロブディンナグ(巨人の国)以外は広く知られていない。現在では児童文学と見なされることが多いが、原書ーー特に第四話のフウイヌム旅行記ーーではモキュメンタリー形式の辛辣な文体で、人間社会における政治・法律・科学・風習・堕落・欺瞞・男女・権力闘争にまつわる悪徳が告発されている。他国の者達との対話の中で登場の英国社会に蔓延する病を浮き彫りにしながら、次の章では何事もなかったかのようにガリヴァーに愛国心を語らせるのも滑稽だ。第三話に登場する過去の偉人達にまつわるエピソードにも、著者の皮肉な性格と歴史への懐疑が垣間見えて面白い。中でも、性悪説を支持したであろうスウィフトが最も手厳しく非難したのは、人間が生まれながらに兼ね備える傲慢であった。本書が出版されてから約三世紀を経ても尚、世にも愚かで醜いヤフーにすぎぬ我々が唯一地球を支配しているなどと自惚れ、未だにつまらぬ諍いを引き起こしていると知ればスウィフトは冷笑を浮かべることだろう。それにしてもガリヴァーは旅ばかりしているが、本作の登場人物で一番偉いのは十六年もほったらかしにされながら女手一つで子供を育てた彼の妻ではないだろうか? 挙げ句の果てに、ようやく長旅を終えて腰を落ち着けた夫に臭いだの醜いだのフウイヌムを見習えだの意味もわからず罵られ、同じ食卓に着くことすら許されないとは不憫すぎる。

  • Laputa (ラピュータ)なのか
    La Puta (ラ・プータ)なのか

  • みんな知ってるガリバー先生の遭難記。小人の国、巨人の国のあたりは風刺や政治批判も控えめだけど、中盤以降のラピュタやフウイヌムの国になるとその表現は過激になっていく。
    最終的にガリバーは人間社会の醜さに絶望するわけだけど、現代的な感覚からすれば、フウイヌムってそんなにいいか?と思ってしまう。あれはあれで少々窮屈な社会に見える。それよりは、三章のラピュタの人々のがまだ魅力的なんじゃなかろうか。

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