遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043083206

作品紹介・あらすじ

雪女・天狗・河童の話、正月行事や狼たちの生態――。遠野郷(岩手県)には、怪異や伝説、古くからの習俗が、なぜかたくさん眠っていた。日本の原風景を描く日本民俗学の金字塔。年譜・索引・地図付き。

感想・レビュー・書評

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  • この「遠野物語」は日本民俗学、開眼の書である。
    岩手県遠野出身の小説家・民話蒐集家の佐々木鏡石が語った民話を、柳田國男が筆記、編纂した。

    題目を見ると、山男・山女・河童・天狗・神女・姥神・仙人。家の神だと(オクナイサマ・オシラサマ・ザシキワラシ)等々。
    妖怪や怪談、伝説、村の行事と多岐である。
    佐々木鏡石が代々、土地で伝えられている話を直接聞いたり、中には近親者や友人の話、自身の体験とリアリティー溢れている。

    書店で購入した時には気付かなかったが、"遠野郷本書関係略図"なる地図が付いていた。

    地図で場所をチェックしてみると、実際この目で確かめてみたくなる。
    私は土淵村辺りを散策したい。

    しばらく東北地方は御無沙汰しているので、弾丸ツアーでもいいから遠野郷を体感してみたい!

    できたら、白水温泉に入る余裕もあったらいいけど...。

  • 青空文庫8月8日公開分。
    高校の読書感想文で読んで以来の再読。
    ほぼ初読か。
    末尾の歌謡が全く記憶にないのは新版の追加分だからか単に記憶の衰え故か。
    高校当時とても読みたかったのは確かだが、読書感想文には不向きな内容で執筆に難儀したのを憶えている。
    オシラサマにオクナイサマ、ザシキワラシにマヨヒガに河童に猿の経立(ふったち)……名の羅列だけでテンション上がるのが凄い!
    民俗学の古典的名著たる本書に関しては、読みにくさを解消する新仮名でなく歴史的仮名遣いが正解。
    読感にはオススメできませんが。
    コレデドンドハレ。

  • 日本民俗学の父と呼ばれる柳田國男先生。
    岩手県遠野の民間伝承を採集して
    まとめられた「遠野物語」。

    日本の原風景を牧歌的に語るのではなく、
    昔話のように教訓を含んだもの、
    風習や伝説とともに、とりとめのない
    世間話のようなものも含まれているのも
    口承たるリアルさで面白い。

    目に見えない世界が信じられ
    怪異が不思議としてではなく、
    人々の生活と地続きだった古き時代。

    自然への畏敬の念、人々の暮らし。
    時に閉塞感があり、時に温かみをもって
    周囲と繋がり、年中行事で四季を感じ、
    目に見えないものを想う心の豊かさ。

    現代に語り継がれた物語などの原点も
    たくさん含まれていて感慨深く面白かった。

  •  河童、座敷わらし、マヨイガ、隠れ里といった他の作品でもよく使われるモチーフを始め、遠野における妖怪や狐、熊や犬、文化や風習に関する話を集めた説話集。言わずと知れた日本の民俗学の萌芽になった本だが、柳田国男の素朴な文章と相まって説話の一つ一つが短編の話を読んでいるように思えた。
     同じ文庫内に収録されている遠野物語拾遺の中にあったオシラサマに関しての比較や由来などの考察がとても興味深かった。私は正直なところ、そこまで響くものは多くなかったが、今でも音楽や物語で使われるモチーフが多く登場する後世への影響力や話の一つ一つに誰が話したかがきちんと記録されていたといった研究として緻密に行われたことなど、読んでいて感心することが多かった。解説にも三人の文豪の異なった批評が載せられていたりと、人により感じ方が違うのも、とても面白かった。
     田山花袋は「其の物語についてに就いては、更に心を動かさないが、其物語の背景を塗るのに、飽まで実際を以てした処を面白いとも意味深いとも思つた。」と評し、島崎藤村は「不思議な、しかも活きた眼の前の物語に対すると、ルウラウ・ライフの中に混じて見出される驚異と恐怖とを幽かに知ることが出来るやうな気がする。民族発達の研究的興味から著わされるものであるとしても、猶私は斯の冊子の中に遠い遠い野の声といふやうなものを聞くやうな思ひがする。」と評し、泉鏡花は「此の書は陸中国上閉伊郡に遠野郷とて山深き幽僻地の伝説異聞怪談を土地の人の談話したるを氏が筆にて活かし描けるなり。(中略)又此の物語を読みつゝ感ずる処は其の奇と、ものの妖なるのみにあらず、其の土地の光景、風俗、草木の色などを不言の間に得る事なり」と評した。私の抱いた感想は田山花袋に近いと思う。

  • 適当に開いてみたり、巻末の索引から気になる言葉をたどってみたり。
    そんな読み方も楽しいです。

    でも、山の神や河童、言葉を話すお大師様の像が現実に存在していたら
    「楽しい」なんて言っていられなかっただろうなぁ…

    理不尽な話や理由の語られない怪異も多くて、置いてけぼりにされること数知れず。
    現代人はオチのある話に慣れすぎているのかもしれません。

  • 20年近くに前に友人からもらった本。
    (私があげた、ルナールの博物誌のお礼に、と言っていた気がする)
    少し読んで、へえ、と思い、そのまま時間が経ってしまった。
    今回、ふと思い立って再チャレンジ。
    年末から少しずつ読んでいたので、3ヶ月くらい掛かったかもしれない。
    一編ごとに、ごく短い文で簡潔に纏められている。

    昭和初期のものだから、内容はおもに、明治大正、まれに江戸の話もある。
    伝わる風習、動物の不思議なエピソード、寺社仏閣、霊体験、身分制度、山にあるもの、人間など、あらゆる物語が記録されている。

    本書には、遠野物語および、遠野物語拾遺が収録されている。
    内容にも驚くべきことが多いが、何より、その分量に圧倒された。
    その昔、みんなが口々に伝え合ってきたことを、佐々木氏を通して、「書き留める」ことは非常に重要だったんだなあとわかる。
    すごい仕事量だ。

    作者の経歴をみると、80代になってもなお、精力的に講演や執筆、後進の育成、と活動を続けているので恐れ入る。
    この時代の80代なんて、今の100歳くらいの感覚では?

    読んでいて気に入ったのは、天狗と仲良くなる話、子供や祭りが好きで賑やかな場面には乱入したがる仏像の話など。
    あとは拾遺の最後のほうのエピソードで、兵役や旅行で遠くにいった家族の動向を占う術があったことも、電話もテレビもない時代の情を思って身に沁みた。

  • 日本の原風景ともいわれる岩手の「遠野」に行きました。タイトルこそ知ってはいたけれど読んだことがなかった「遠野物語」の故郷に行ってみよう、そしてそれを機に本も読んでみよう、と思ったのです。

     古い文体ですが、一つ一つのお話はとてもコンパクトですし、遠野に住む人びとの口述を整理していることもあって、文体には意外とすぐに慣れました。遠野物語と言えば河童や天狗などが有名ですが、読んでみると伝承されているお話は様々で、しかもいずれも生々しくリアルなものばかり。長らくの間、自然豊かな山里で生きていた人たちにとって、摩訶不思議なことがいろいろあったんだろうなぁ、それを尤もらしいストーリーを作って納得していったんだろうなぁと感じました。
    印象的だったのは、見た目や服装などが異なる人たち(外国人?、山の隠れ里のようなところに住んでいる文化の違う人たち?、ひょっとすると河童や天狗もそうなのかも)、人と違う能力を持った人、障がいがある人…などを、どう受け止めていたのかが少し伺えること。時に、現代の私たちから見れば差別があったんだなと感じられるエピソードもあるし、一方で、ひょっとすると今の私たちよりも自然に(どうしようもないことという、理屈ではない納得をしていたのかも)受け入れていた面もあるようで、興味深かったです。
    また、分からないものだらけで厳しい自然に囲まれていたはずの世界を、なんと豊かな想像力で折り合いをつけ生きていたんだろうとも。遠野物語の世界を、読みながら自然に受け入れられる自分に、あぁ日本で育ったってこういうことなんだなぁ・・・と、アイデンティティを意識する、そんな読後感もありました。

  • 日本独特の昔からある怪談話にそそられて読んだ。
    地理的な背景も詳しく説明されているため情景を想像し易い。
    民俗性を重視しすぎているからか、ラフカディオハーンの怪談のより淡々としている気がした。
    個人的には上田秋成の雨月物語やラフカディオハーンの怪談の方が好き。

  • 民俗学者が著した書物で、これほど名が知れているものは、他にはないのではないでしょうか。
    そのようなこともあり、柳田国男の数ある作品のうち「遠野物語」だけは読んでおこうと思っていました。
    「遠野物語」は文語調で書かれていますが、それほど難しくありません。「遠野物語拾遺」は完全に現代口語調なので大変読みやすいです。
    内容的には遠野地方に伝わる言い伝え等を、遠野地方出身である佐々木鏡石氏に語ってもらい、それを柳田国男が文章化したもののようです。
    とても読みやすい上に飽きることなく読めます。
    自分が幼かったころにも、「そういえば昔からの言い伝えのようなものを親や祖父母に聞かされたな」と懐かしく思い出しました。

  • ・遠野の人々は、動物も人間のような感情を持つ畏敬すべき存在、だと考えていました。

    雌狼が子供を殺され復習にやってきた時、素手で応じる猟師の話があります。
    子供への愛情から襲ってくる狼に対し、武器を持って戦うのは卑怯だと考えて、猟師は自分のワッポロを脱いで腕に巻き狼と対峙しました。その後、狼も猟師も深い傷を負ってまもなく死んでしまいます。
    文明の利器である鉄砲で野生動物と向き合うのは、ある意味では卑怯で、
    狼も人間も野生動物で、只の動物だとなった時には、素手と素手で戦うのが、最も敬虔な勝負というふうになるのだろうと思いました。
    一方で、猟師であるならばより効率よく狩ればよく、鉄砲を使わず命まで落としてしまうのはナンセンスだと考える人もいると思います。

    けれどもこれは現代人にとっては最も見えにくい(理解しがたい)、「狩猟民の精神」が垣間見えます。文明の利器によって人間はある程度、自然に勝ち、その効率の良さに甘んじてしまいがちですが、たとえば自然の猛威に触れ自然にはまるで敵わないことを思い知った時、人々のこれまでの生き方、在り方さえを問われると思うのです。
    その時、「遠野物語」は非常に大きい意味のあるものだといえて、人間が人間だけしかいないというそういう世界ではなくて、動物とも自然界ともバランスを取りながら慎ましく生きていく、現代の中では無意味に思われがちな事でも全体として大きく見据えたとき、遠野の人々の考えから学ぶことは一杯あるのだということを知りました。

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著者プロフィール

1875年生。民俗学者。『遠野物語』『海上の道』などの著作により民俗学の確立に尽力した。1962年没。

「2022年 『沖縄文化論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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