八月の博物館 (角川文庫 せ 4-5)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (589ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043405060

感想・レビュー・書評

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  • この本を読んで、国立科学博物館に入り浸った大学時代。

    未だに、フーコーの振り子の前でぼーっとするのが大好きです。
    久々に読み返し中。

  • 再読。どうしようもなく好きだ。
    理屈の通らないところもあるし、そんなのあり?ってところもあるし、ストーリーも描写も、決して完成度の高い作品とは言えないとは思う。
    思うのだけれど、やはりどうしようもなく好きなのです。
    夢見がちな少年期のわくわくするような冒険譚であると同時に、大人な自分が忘れがちな、あの頃空想した自分が主人公の物語。瀬名さんが今も追い続けている「物語」についての原型が、この作品にはすべて詰まっていると思うのです。普段は行かない通学路のさらに先で巡り合った謎の博物館と謎の少女美宇。友人啓太と異性鷹巣との人間関係。時間を超えて出会う遺跡発掘家のマリエットさんに、古代エジプトの聖牛までもがからみ、亨の小学校最後の夏休みは彩られ、忘れられない記憶を残す。そしてその記憶は、読者の僕にもまた、自分が少年期だった頃の風景を思い起こさせるのです。

  • 小説家志望の小学生トオルがミュージアムのミュージアムという全てのミュージアムに通じている場に踏み込んだことより始まる物語。そこに小説の意味を問う作家と、19世紀のエジプトで活躍する考古学者の物語が絡み合う。

    ミュージアムはありとあらゆるものが集まっている。しかしただ単に集めて並べているだけでなく、そこに見せ方の工夫が為されている。その見せ方によって物語が生まれる。物が語るから物語。そのことを思い知らされます。
    エジプト考古学者の話は亨の冒険に関わるものなので、それが多重的に描かれるのは判ったのですが、作家のパートでメタ・フィクション的構図を示された時、これは物語が創られることの意味合いを説明するにしてもちょっと興醒めだなと思っていました。わざわざ説明しなくても冒険を通じてそれが見えてくるだろうと。
    しかし終盤の展開に至り、なるほどこれは必要な要素だったのだと膝を打ちました。これは物語を紡ぐ人たちへの応援歌にもなる物語だし、物語を読む楽しみを再確認させてくれる物語でもあります。

    いやでもね、そんなこと全部無視して「小学生最後の夏休みの冒険」というだけでも充分面白いんですけどね。

  • ファンタジーSFの大長編。小学生の亨、エジプト考古学者のオーギュスト・マリエット、そして私。この3人の主人公が綿密に絡み合う物語は絶品である。特に亨視点での物語は純粋にファンタジーとして面白い。エジプト考古学に関する描写もかなり詳しく、相当な手間がかかっているように思える。ラストシーンはメタフィクションの応酬で内容が難しく、人によってはかなり困惑すると思う。しかし多くの読者が亨少年の大冒険を読み、彼の「小学生最後の夏休み」に共感・懐古できるのではなかろうか。

  • 不思議な博物館に迷いこんだ少年・亨、創作に行き詰まった作家、19世紀の考古学者の三人の視点で物語が進んでいきます。
    不思議な博物館は、今までの世界中のミュージアムとつながっていて、そこから亨と、博物館で出会った不思議な美少女の冒険が始まるのです。
    そこに、作家の物語、エジプト考古学者の物語が絡んできて、現在と過去、虚構と現実が入り乱れて、壮大なストーリーに、夢中になってしまいました。

    エジプトの遺跡の事等全く知識がないので、読んでもほとんど意味が分からず、またミュージアムのカラクリも、ご都合主義というか、行き当たりばったりで設定変わっていってるような…いまいち、まとまりがないように感じる部分もあったのですが、博物館やところどころに挟まれるエジプトの描写が魅力的で、引き込まれました。

  • この『八月の博物館』にはある重大な秘密が隠されています。その秘密が、私達がこの本を開かなければいけない、そしてラストまで読み終わらなければいけない理由です。

    その秘密をこの物語の中に見つけた時、私もこの冒険の中にいること、登場人物であること、この物語に組み込まれた存在であることを知り、ぞくぞくしました。その秘密は読者になることでしかわかりえないものでした。
    この『物語』は「書かれること」「読まれること」そして「読むこと」ではじめて「物語」になります。そしてそのために、この『八月の博物館』は書かれました。

    夏の恐竜展に出かけた小説家は展示されたフーコーの振り子に強烈な既視感に襲われ、少年時代のふしぎな夏を思い出します。

    小学校6年生の夏休みを過ごす小説家を夢見る亨はある日ふしぎな博物館と出会います。ふしぎな少女美宇と今にも動き出しそうな恐竜の骨、目の前を通り過ぎる魚群、何もかもがリアルに迫る展示物を、扉から扉、博物館から博物館、美術館から美術館、そして古代の神の化身アピス像をめぐり古代エジプトを駆け巡ります。

    そんな少年時代を題材に小説を書き進める小説家は自らの書く小説に重大な秘密を発見します。物語の作為性に疑問を感じ、押し付けの感動を嫌い、現実と物語のはざまで物語を書くことに悩む小説家は物語を書くことによりこの物語の秘密に気付き、自らの役割を果たそうと筆を走らせます。

    少年の亨がなぜ博物館にくる運命に至ったのか、そしてなぜ小説家はあの夏を題材に小説を書いたのか、そして『八月の博物館』はなぜ書かれたのか、なぜ読者である私たちは今、本のページをめくり物語を読んでいるのか。『物語』とはなんなのか。

    作中小説家はアラジンの名曲になぞらえ、作者と読者は「作者→読者」へ一方通行の感動をあたえるのではなく両者は同じ地平に立ち、同じ世界を見、感じ、感動をわかちあう存在だと語りかけます。飛行機の窓からのぞむ、雲の切れ間から射す太陽。読み手である私達もまた「登場人物」であると思うと、一気に物語が私達に多くのことを語りかけてきます。

    ミュージアムは展示品を展示する場です、しかしそれだけではミュージアムは機能しません。ミュージアムは展示場であると同時に、展示品の物語の語り手であり私達はその物語を読んでいます。

    とにかく猫!何はなくても猫!ジャック!ジャックかわいいやつめ。ぬこぬこ。

  • 少年と作家と考古学者という奇妙な組み合わせが物語を通してひとつになっていくのが素晴らしい。小説を書くということの難しさを知った。
    今までのSF小説とは違い、書くということ、言葉の力と言うものに目を向けた瀬名さんにしては珍しいとも言える作品。

  • 久々に小説を読んで挫折。

    三つの場面を統合できませんっ!なおかつ作家の苦悩の部分が筆者ご本人の苦悩とシンクロしてしまい読んでて痛い…

    せっかく夏がくるからそれらしいものと手にとったのに残念…夏・美術館という組み合わせは最高にワクワクするのになぁ…

  •  こんな博物館があるなら行ってみたい。

  •  私としては「パラサイト・イブ」「ブレイン・ヴァレー」に続く3作目。

     予備知識ゼロで読み始めたが、とてもおもしろい。オカルト色がなく、ファンタジー色が強い本作は、主人公とは別にそれを描く作家と作者本人が入れ子になり、さらに合間合間に自らの主張やエッセイらしきものが入りとてもユニーク。

     ディック(最新映画や名作や書籍)+13F+ネバーエンディングストーリーってな筋で、きっと賛否両論あるだろうけれど、捨てずに自宅の書棚を飾る名作だと思う。
    (作中にあの古本屋が出てくるから瀬名氏も好きな映画なんだろう)

     瀬名氏の作品はいずれも完璧なCGで作られた映画のようだった。論理性に妥協がないハードな作品。でも、そこが完璧すぎるから、小説として必須である仮説がオカルトっぽく見えたり飛躍しすぎてその落差について行けなくなる。これはたぶん私自身が理科系だからだと思う。


     対して本作はきれいな宮崎アニメのような感じ。だから蘇りとかタイムパラドクスとかヴァーチャル・リアリティだとか言った大きなしかも一歩間違うとまったく興ざめな仮説(背景)もすんなり受け入れられる。

     そもそも瀬名氏と私は好みが似ている。だからこそ、前2作で感じた落差を自身も感じていたに違いない。本作でそれが克服されたとは決して思わないが、ここを突き抜ければ間違いなく傑作が生まれる気がする。

     作中にもあるが、自然界をシュレディンガーの波動方程式で表すことを知ったとき、私は「さすがに複雑なものだから複雑な式なんだ」と感動した。しかし、アインシュタインを学んだときの感動とは比較にならない。

    「イー・イコール・エムシー・ジジョー」

     これだけですべてを表すことに猛烈な感動を覚えた。アインシュタインは統一場理論を完成できなかったが、その魂は脈々とわれわれの中に息づいていると思う。

     語り尽くせないが、こういった美しさや感動は眼で感じるものではない。自然界の風景で感動するのとは別の感動だ。瀬名氏はその感動を共有したかったのだと思う。がんばってほしい。もっと感動を共有したいから。

    追伸)
     瀬名氏のblogを見つけた。同じSeesaaだった。時間を見つけて読んでみよう。

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著者プロフィール

1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科(博士課程)在学中の95年『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビュー。
小説の著作に、第19回日本SF大賞受賞作『BRAIN VALLEY』、『八月の博物館』『デカルトの密室』などがある。
他の著書に『大空の夢と大地の旅』、『パンデミックとたたかう』(押谷仁との共著)、『インフルエンザ21世紀』(鈴木康夫監修)など多数ある。

「2010年 『未来への周遊券』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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