- Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043410057
感想・レビュー・書評
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再読。
夢と現の境界線が曖昧な寓話の様な7つの短編。
"私"は少し特殊な生い立ちのせいか幼い頃から胸の内に孤独を抱えた女の子で、その"私"を現に繋ぎとめていたのが彼女の弟やキリコさんの存在だった。
母親に顧みられない幼い"私"を魔法のように救け慈しんでくれたキリコさんはわずか1年ほどである出来事の責任を問われやめされられ、バラバラの家族の鎹であった弟の死で"私"と両親を繋ぐものはなくなってしまう。
弟の死を機に"私"は彼方と此方を行ったり来たりするようになってしまう。
ともすると彼方の世界に沈み込んでしまいそうになる"私"を現である此方側に引き戻してくれるのは、バスで乗り合わせる女性であったり、偽物の弟であったり、アナスタシアと名乗る老女であったり… どう考えても彼方側の住人と思われる人物たち。
そして、まだ幼く言葉を発することも出来ない息子と、飼い犬のアポロ。
息子とアポロの描写には穏やかで温かな陽だまりのような幸福を感じる。
作品の全体を通して、かなりヘビーな人生を送っている"私"の物語は常に穏やかに静かに進行していてドラマチックさはないけれど、美しい文章に心を掴んで離さない魅力がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なんでこの人の書く物語は
こんなにかなしくて絶望的でくらくて
なのになぜか優しくてどこかにひっそり希望が隠れてるんだろう
そして、夢と現の狭間のような世界 -
7つの短篇は独立したお話だが、小説家である主人公の語り手「私」は全部に共通している。
短篇の並び方は時間順ではなく、読んでいくうちに主人公が最初の短篇の「今」の暮らし方になった経緯がわかるようになっている。
後半の短篇では、主人公の恋愛が主に描かれる。
私は「エーデルワイス」が心に残った。主人公の前に現れた熱狂的な男性の読者。
この短篇を最後まで読むと、この男性が何者か、なぜ主人公の前に現れたのかがわかる気がした。
それから、主人公の息子(赤ちゃん)の友達であるカタツムリの縫いぐるみがでてくる部分がいいです。この縫いぐるみを見てみたい。 -
短編集で、所々に小川洋子の別の作品のアイコンが散りばめられていて、彼女の作品を読んでいる人にはたまらん一冊。
物語自体も、小川洋子特有のオマージュや隠喩が散りばめられていて、人の内面を鋭くえぐるというより、やんわりと押し入ってくるような風合いの作品ばかり。
ちょっと難解な所も私は好きです。☆4つ -
「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」「蘇生」がよかった。
あたしとは違う温度感を持つひとから見たお話なのに彼女の周りに起こった事、見た事があたしの頭の中で精彩に浮かび上がる。
キリコさんのような生き方はステキだ。
自分に想いがあり、もしかしたら伝わる人には伝わるかもなくらい。
多くを語らない。
「盗作」のあの頃のわたしに必要だったとのくだりになんだかとっても共感した。私も一時とても必要としていたものがあってそれを得てたかどうかもあやふやなんだけど、そんなときに道義的かどうかはさして問題じゃないのだ。
アナスタシアもステキなご婦人だった。 -
2008年11月12日~12日。
またまた1日で完読。
やはり「キリコさんの失敗」が一番面白いか。 -
孤独な女性小説家の過去、日常を描く連作小説。
間違いなく日常が描かれているが、そこにあるのは、ミステリアス、生々しい神秘性、非現実感、虚構。
最初はエッセイ?と勘違いしそうになりました。ご自身の経験も多かれ少なかれ盛り込まれてるとは思いますが。
小川洋子さんは静謐な文章を書かれる方、と紹介されることが多いが、その通り喧騒とは正反対のところにいる。
流れている時間がすべらかで秒針の音ひとつしないのだ。
主人公の人生は穏やかなものではなく、しかし落ち着き払っている。
終わり方はストンときたし好みだが、その後主人公にとってやさしい時間はやってくるのだろうか、という読後感が残った。
暗い話が好きな私にとっては良い余韻だった。 -
よかった。
小説家の私と息子と犬のアポロの、静かで、ときに残酷で、優しくもある不思議な空気を纏った連作短編集。
各短編の時系列は違うけれど、読了後にもう一度最初に戻って読み直したくなる。
いちばん好きなのは「失踪者たちの王国」。
さよならも告げず、未練も残さず、秘密の抜け道をくぐってこちらの世界から消えていった、失踪者たちが住むという王国。
客観的なフリをしながらもどことなく失踪者たちの王国に惹かれているような“私”の不安定さと、空気感が、絶妙。 -
小川洋子の小説は、博士が愛した数式しか読んだことがなかったけど、この人のほん。面白い。
ほんの少しの非日常をこんなうふうに淡々とミステリアスに、そして、ささやかな幸福に、ほんの少しのラブストーリーに、不思議なホラーに、少しづつ姿を変えて読ませてくれる、身近によくある話のようで、なかなかないんだけど、なんか自分でも経験したような気になるような日常風景の中に取り込まれる世界。
ふとした瞬間に、今の自分と本の中の主人公が簡単に入れ替われるほど普通の日常の出来事が、どんどん読ませてくれます。
ゾクっとしたり、え!?そうくる!?って思ったりオチも完璧なのに、なぜかとても日常的。
そんな不思議なもう一人の自分の人生のような一冊です。
ハマるかも。小川洋子!
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