偶然の祝福 (角川文庫)

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レビュー : 278
  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043410057

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    夢と現の境界線が曖昧な寓話の様な7つの短編。
    "私"は少し特殊な生い立ちのせいか幼い頃から胸の内に孤独を抱えた女の子で、その"私"を現に繋ぎとめていたのが彼女の弟やキリコさんの存在だった。
    母親に顧みられない幼い"私"を魔法のように救け慈しんでくれたキリコさんはわずか1年ほどである出来事の責任を問われやめされられ、バラバラの家族の鎹であった弟の死で"私"と両親を繋ぐものはなくなってしまう。
    弟の死を機に"私"は彼方と此方を行ったり来たりするようになってしまう。
    ともすると彼方の世界に沈み込んでしまいそうになる"私"を現である此方側に引き戻してくれるのは、バスで乗り合わせる女性であったり、偽物の弟であったり、アナスタシアと名乗る老女であったり… どう考えても彼方側の住人と思われる人物たち。
    そして、まだ幼く言葉を発することも出来ない息子と、飼い犬のアポロ。
    息子とアポロの描写には穏やかで温かな陽だまりのような幸福を感じる。

    作品の全体を通して、かなりヘビーな人生を送っている"私"の物語は常に穏やかに静かに進行していてドラマチックさはないけれど、美しい文章に心を掴んで離さない魅力がある。

  • 大分前に読んだので、粗筋をまとめる為にパラパラ読み直しました。相変わらずの、美しく優しい小川ワールド。もうこの方の作品は外れることないんじゃないかな。やっぱり大好きだなってことを改めて再確認。私、毎回ブクログで小川先生に告白してるわ(笑)。

    連作小説って、視点を変えたりドンデン返しの要素が入ったり、なドラマ性を楽しめる類の性格だと思うんですが、やっぱり小川作品は一味違います。静謐です。単調です。それが良いのです。
    章毎に主人公の過去のエピソードが語られるのですが、その内容がすごくファンタジックなのに、主人公の人生がリアルに肉付けされていく感覚がとても心地良い。生々しい人間の人生を見せられているのではなくて、飽くまでも“ファンタジーな世界のキャラクタ”が、章を読み進むに連れてリアルさをまとっていく描写が、最後までそのファンタジー性を失わずに描かれています。


    何でこんなに心地良いんだろう?
    何作読んでも、これほど惹かれる要因が、世界観なのか言葉の綴り方なのかそれ以外の物なのか分からないなー。好きなら好きでいいじゃん、で済ませばいいんですが、何でこんなにドンピシャな所を毎回突かれるのか、気になるんですよね…。いくら好きな作家
    って言っても、お気に入りとそうでない作品って出てくるものなのに、小川作品に限ってはそれがないからなあ。不思議だ。


    ◎失踪者たちの王国…私の隣には、いつも失踪者の影があった。何の前触れもなく、彼らは静かに行方をくらます。そして私は、彼らの記憶の依り代である乳歯や傷跡や嘔吐袋に、思い出を蘇らせるのだ。

    ◎盗作…弟が死んでから、私達家族の日常は崩壊した。アパートを追い出され、恋人は横領容疑で逮捕され、交通事故の後遺症で病院通い。そんな惨めな日々を送る私の前に、ある日一人の女性が現れた。彼女はやがて、自身の弟に起こった不思議な体験を話し始めたが…。

    ◎キリコさんの失敗…お手伝いさんのキリコさんは、なくし物を取り戻す名人だった。私が困っているとたちまち解決してしまう魔法使いのような彼女が最後に見せてくれたのは、大きな代償を払った素敵な贈り物だった。

    ◎エーデルワイス…コートやズボンの内側に私の著作を縫い付けた男は、自分が死んだ弟だと奇妙な主張を繰り返す。私の本をこよなく愛し、生活圏に気づけば不意に佇む奇妙な男との交流。

    ◎涙腺水晶結石症…愛犬、アポロが病気になった。

    ◎時計工場…小説を書いている時、私の心は時計工場にいる。物語を構築する作業は、時計を作る作業に似ている。

    ◎蘇生…ある朝起きると、声が出なくなっていた。治療に訪れた病院での、アナスタシアを名乗る老女との奇妙な交流。

  • なんでこの人の書く物語は
    こんなにかなしくて絶望的でくらくて
    なのになぜか優しくてどこかにひっそり希望が隠れてるんだろう

    そして、夢と現の狭間のような世界

  • 7つの短篇は独立したお話だが、小説家である主人公の語り手「私」は全部に共通している。
    短篇の並び方は時間順ではなく、読んでいくうちに主人公が最初の短篇の「今」の暮らし方になった経緯がわかるようになっている。
    後半の短篇では、主人公の恋愛が主に描かれる。
    私は「エーデルワイス」が心に残った。主人公の前に現れた熱狂的な男性の読者。
    この短篇を最後まで読むと、この男性が何者か、なぜ主人公の前に現れたのかがわかる気がした。
    それから、主人公の息子(赤ちゃん)の友達であるカタツムリの縫いぐるみがでてくる部分がいいです。この縫いぐるみを見てみたい。

  • 短編集で、所々に小川洋子の別の作品のアイコンが散りばめられていて、彼女の作品を読んでいる人にはたまらん一冊。

    物語自体も、小川洋子特有のオマージュや隠喩が散りばめられていて、人の内面を鋭くえぐるというより、やんわりと押し入ってくるような風合いの作品ばかり。
    ちょっと難解な所も私は好きです。☆4つ

  • 「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」「蘇生」がよかった。

    あたしとは違う温度感を持つひとから見たお話なのに彼女の周りに起こった事、見た事があたしの頭の中で精彩に浮かび上がる。

    キリコさんのような生き方はステキだ。
    自分に想いがあり、もしかしたら伝わる人には伝わるかもなくらい。
    多くを語らない。

    「盗作」のあの頃のわたしに必要だったとのくだりになんだかとっても共感した。私も一時とても必要としていたものがあってそれを得てたかどうかもあやふやなんだけど、そんなときに道義的かどうかはさして問題じゃないのだ。

    アナスタシアもステキなご婦人だった。

  • 2008年11月12日~12日。
     またまた1日で完読。
    やはり「キリコさんの失敗」が一番面白いか。

  • 孤独な女性小説家の過去、日常を描く連作小説。
    間違いなく日常が描かれているが、そこにあるのは、ミステリアス、生々しい神秘性、非現実感、虚構。
    最初はエッセイ?と勘違いしそうになりました。ご自身の経験も多かれ少なかれ盛り込まれてるとは思いますが。

    小川洋子さんは静謐な文章を書かれる方、と紹介されることが多いが、その通り喧騒とは正反対のところにいる。
    流れている時間がすべらかで秒針の音ひとつしないのだ。
    主人公の人生は穏やかなものではなく、しかし落ち着き払っている。
    終わり方はストンときたし好みだが、その後主人公にとってやさしい時間はやってくるのだろうか、という読後感が残った。
    暗い話が好きな私にとっては良い余韻だった。

  • よかった。
    小説家の私と息子と犬のアポロの、静かで、ときに残酷で、優しくもある不思議な空気を纏った連作短編集。
    各短編の時系列は違うけれど、読了後にもう一度最初に戻って読み直したくなる。
    いちばん好きなのは「失踪者たちの王国」。
    さよならも告げず、未練も残さず、秘密の抜け道をくぐってこちらの世界から消えていった、失踪者たちが住むという王国。
    客観的なフリをしながらもどことなく失踪者たちの王国に惹かれているような“私”の不安定さと、空気感が、絶妙。

  • 小川洋子の小説は、博士が愛した数式しか読んだことがなかったけど、この人のほん。面白い。

    ほんの少しの非日常をこんなうふうに淡々とミステリアスに、そして、ささやかな幸福に、ほんの少しのラブストーリーに、不思議なホラーに、少しづつ姿を変えて読ませてくれる、身近によくある話のようで、なかなかないんだけど、なんか自分でも経験したような気になるような日常風景の中に取り込まれる世界。

    ふとした瞬間に、今の自分と本の中の主人公が簡単に入れ替われるほど普通の日常の出来事が、どんどん読ませてくれます。

    ゾクっとしたり、え!?そうくる!?って思ったりオチも完璧なのに、なぜかとても日常的。

    そんな不思議なもう一人の自分の人生のような一冊です。

    ハマるかも。小川洋子!

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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