偶然の祝福 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043410057

感想・レビュー・書評

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  • どこにいるのかわからなくなってしまったものたちの物語を「私」は紡ぐ。

    糸を紡ぐ、言葉を紡ぐ、命を紡ぐ……
    紡ぐこと、それはまるで祈りのようだ。

    私が失ったリコーダー、万年筆、弟、伯母、恋人。それら「失踪者」たちと過ごした特別な時間は、あまりにも突然に消え失せ、私に深い喪失を与えてしまう。

    深い喪失は私のなかで沈黙し、言葉として生まれ変わるときを静かに待つ。やがて私の一部となった喪失は物語という形になって蘇生されるのだ。

    誰かの物語は私の物語となる。

    愛と祈りをこめて。
    失ったものたちの物語を私が紡ぐ。

    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは。

      ノーベル文学賞、たしかに!
      小川洋子さんと梨木香歩さんがとられたら嬉しいです。
      大好きな作家さん...
      nejidonさん、こんばんは。

      ノーベル文学賞、たしかに!
      小川洋子さんと梨木香歩さんがとられたら嬉しいです。
      大好きな作家さんたちですからo(>∀<*)o

      愛と自己再生、なるほどです。
      とくに自己再生という言葉に、はっとしました。

      「平安貴族嫉妬と寵愛の作法」面白そうだと思ってました!
      なんとマリモさんとわたしに向けてくださってたなんて、嬉しいかぎりです(〃▽〃)
      読んでみます、ありがとうございます!

      今、ウェーリー版「源氏物語」を読んでいて平安時代へ毎夜トリップしているところでーす。

      2020/10/09
    • 地球っこさん
      いるかさん、ホテルアイリスは毒気が強かったですよね(>_<)


      ホテルアイリスと比べれば、まだ大丈夫だと思いますよ。

      わたしは...
      いるかさん、ホテルアイリスは毒気が強かったですよね(>_<)


      ホテルアイリスと比べれば、まだ大丈夫だと思いますよ。

      わたしは小川作品は「余白の愛」かロマンティックでいちばん大好きです(*^^*)



      2020/10/09
    • いるかさん
      ありがとうございます。
      是非それも読んでみたいと思います。
      ありがとうございます。
      ありがとうございます。
      是非それも読んでみたいと思います。
      ありがとうございます。
      2020/10/09
  • 小川洋子の世界。
    短編連作。

    裏表紙から。
    失った物への愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。

    なるほど、なのでタイトルが「偶然の祝福」なのか。

    読み終わって、詳細をしっかり覚えているかというと、すごくあやふやな記憶しか残っていなかった。
    だけど哀しみの中に、息子と犬のアポロが寄り添っている。
    じんわりと幸せを感じる一冊。
    とくに「キリコさんの失敗」と「涙腺水晶結石症」が良かった。

    それにしても解説の川上弘美さんが一番好きな小川作品が「ホテルアイリス」というのがびっくり。
    英訳されている洋書もつい買ってしまったけれど、ちょっとついて行けない世界。
    もっと読み込んで小川洋子の世界に入り込まないといけないのか?
    徐々に小川作品も読んでいこうと思います。

  • 再読。
    夢と現の境界線が曖昧な寓話の様な7つの短編。
    "私"は少し特殊な生い立ちのせいか幼い頃から胸の内に孤独を抱えた女の子で、その"私"を現に繋ぎとめていたのが彼女の弟やキリコさんの存在だった。
    母親に顧みられない幼い"私"を魔法のように救け慈しんでくれたキリコさんはわずか1年ほどである出来事の責任を問われやめされられ、バラバラの家族の鎹であった弟の死で"私"と両親を繋ぐものはなくなってしまう。
    弟の死を機に"私"は彼方と此方を行ったり来たりするようになってしまう。
    ともすると彼方の世界に沈み込んでしまいそうになる"私"を現である此方側に引き戻してくれるのは、バスで乗り合わせる女性であったり、偽物の弟であったり、アナスタシアと名乗る老女であったり… どう考えても彼方側の住人と思われる人物たち。
    そして、まだ幼く言葉を発することも出来ない息子と、飼い犬のアポロ。
    息子とアポロの描写には穏やかで温かな陽だまりのような幸福を感じる。

    作品の全体を通して、かなりヘビーな人生を送っている"私"の物語は常に穏やかに静かに進行していてドラマチックさはないけれど、美しい文章に心を掴んで離さない魅力がある。

  • 大分前に読んだので、粗筋をまとめる為にパラパラ読み直しました。相変わらずの、美しく優しい小川ワールド。もうこの方の作品は外れることないんじゃないかな。やっぱり大好きだなってことを改めて再確認。私、毎回ブクログで小川先生に告白してるわ(笑)。

    連作小説って、視点を変えたりドンデン返しの要素が入ったり、なドラマ性を楽しめる類の性格だと思うんですが、やっぱり小川作品は一味違います。静謐です。単調です。それが良いのです。
    章毎に主人公の過去のエピソードが語られるのですが、その内容がすごくファンタジックなのに、主人公の人生がリアルに肉付けされていく感覚がとても心地良い。生々しい人間の人生を見せられているのではなくて、飽くまでも“ファンタジーな世界のキャラクタ”が、章を読み進むに連れてリアルさをまとっていく描写が、最後までそのファンタジー性を失わずに描かれています。


    何でこんなに心地良いんだろう?
    何作読んでも、これほど惹かれる要因が、世界観なのか言葉の綴り方なのかそれ以外の物なのか分からないなー。好きなら好きでいいじゃん、で済ませばいいんですが、何でこんなにドンピシャな所を毎回突かれるのか、気になるんですよね…。いくら好きな作家
    って言っても、お気に入りとそうでない作品って出てくるものなのに、小川作品に限ってはそれがないからなあ。不思議だ。


    ◎失踪者たちの王国…私の隣には、いつも失踪者の影があった。何の前触れもなく、彼らは静かに行方をくらます。そして私は、彼らの記憶の依り代である乳歯や傷跡や嘔吐袋に、思い出を蘇らせるのだ。

    ◎盗作…弟が死んでから、私達家族の日常は崩壊した。アパートを追い出され、恋人は横領容疑で逮捕され、交通事故の後遺症で病院通い。そんな惨めな日々を送る私の前に、ある日一人の女性が現れた。彼女はやがて、自身の弟に起こった不思議な体験を話し始めたが…。

    ◎キリコさんの失敗…お手伝いさんのキリコさんは、なくし物を取り戻す名人だった。私が困っているとたちまち解決してしまう魔法使いのような彼女が最後に見せてくれたのは、大きな代償を払った素敵な贈り物だった。

    ◎エーデルワイス…コートやズボンの内側に私の著作を縫い付けた男は、自分が死んだ弟だと奇妙な主張を繰り返す。私の本をこよなく愛し、生活圏に気づけば不意に佇む奇妙な男との交流。

    ◎涙腺水晶結石症…愛犬、アポロが病気になった。

    ◎時計工場…小説を書いている時、私の心は時計工場にいる。物語を構築する作業は、時計を作る作業に似ている。

    ◎蘇生…ある朝起きると、声が出なくなっていた。治療に訪れた病院での、アナスタシアを名乗る老女との奇妙な交流。

  • なんでこの人の書く物語は
    こんなにかなしくて絶望的でくらくて
    なのになぜか優しくてどこかにひっそり希望が隠れてるんだろう

    そして、夢と現の狭間のような世界

  • 基本的に人間は信じていない私ではあるが、それでも人生のどこかで誰かに助けられた場面があったことは認めざるを得ない。いかに人間嫌いな私でも、たった一人で生きてきたわけではない。普通の人は助けてくれる人というのは家族であったり恋人や友達であったりするのかもしれない。だが極端に知り合いの少ない私は、いざというとき力になってくれたのは、赤の他人であることが多かった。通りすがりの優しいおばちゃんや、名前も告げずに去っていったサラリーマン。よくぞあの時あのタイミングで、と奇跡を信じたくなるほどありがたい助けもあった。
     たぶん、世の中はそいういうふうにできているのだ。不幸と幸福のバランスがとれるように、なんらかの物理的作用が働くに違いない。
     だから、用事が終わった後煙のように消えてしまってもちっとも不思議ではない。たとえそれが恋人であっても。役目を終えて舞台から降りただけなのだから。

  • 7つの短篇は独立したお話だが、小説家である主人公の語り手「私」は全部に共通している。
    短篇の並び方は時間順ではなく、読んでいくうちに主人公が最初の短篇の「今」の暮らし方になった経緯がわかるようになっている。
    後半の短篇では、主人公の恋愛が主に描かれる。
    私は「エーデルワイス」が心に残った。主人公の前に現れた熱狂的な男性の読者。
    この短篇を最後まで読むと、この男性が何者か、なぜ主人公の前に現れたのかがわかる気がした。
    それから、主人公の息子(赤ちゃん)の友達であるカタツムリの縫いぐるみがでてくる部分がいいです。この縫いぐるみを見てみたい。

  • 短編集で、所々に小川洋子の別の作品のアイコンが散りばめられていて、彼女の作品を読んでいる人にはたまらん一冊。

    物語自体も、小川洋子特有のオマージュや隠喩が散りばめられていて、人の内面を鋭くえぐるというより、やんわりと押し入ってくるような風合いの作品ばかり。
    ちょっと難解な所も私は好きです。☆4つ

  • 「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」「蘇生」がよかった。

    あたしとは違う温度感を持つひとから見たお話なのに彼女の周りに起こった事、見た事があたしの頭の中で精彩に浮かび上がる。

    キリコさんのような生き方はステキだ。
    自分に想いがあり、もしかしたら伝わる人には伝わるかもなくらい。
    多くを語らない。

    「盗作」のあの頃のわたしに必要だったとのくだりになんだかとっても共感した。私も一時とても必要としていたものがあってそれを得てたかどうかもあやふやなんだけど、そんなときに道義的かどうかはさして問題じゃないのだ。

    アナスタシアもステキなご婦人だった。

  • 連作短編集。全編文学の面白さを感じる。けっこう怖いのもあった。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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