夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫)

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  • KADOKAWA (2010年6月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784043410064

作品紹介・あらすじ

静かで硬質な筆致のなかに、冴え冴えとした官能性やフェティシズム、そして深い喪失感がただよう――。小川洋子の粋がつまった粒ぞろいの佳品を収録する極上のナイン・ストーリーズ!

みんなの感想まとめ

多様なジャンルを横断しながらも、共通して愛すべき人々の物語が描かれています。静かで硬質な筆致の中に、官能性やフェティシズム、深い喪失感が漂い、特に庶民的で親しみやすいキャラクターたちが印象的です。彼ら...

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『不動産屋』さんでこんな物件を勧められたらどうするでしょうか?

     『物件No.1001 瓢簞屋敷
      ・私鉄Y線E駅からバス15分。○○医院前下車、徒歩20分。
      ・通風、日当たり、視界はなはだしく不良
      ・付属品として、瓢箪製品無数』

    こ、これはなんでしょうか?『私鉄Y線E駅』の立地にもよるとは思いますが、そこから『バスで15分』、その先『徒歩20分』というのはかなり不便な場所にあるように思います。そして、『通風、日当たり、視界はなはだしく不良』と言われると、全く興味の対象たり得ない物件に思います。一方で、わざわざ記されている『付属品として、瓢箪製品無数』というのはなんでしょうか?『瓢箪』が大好きで『瓢箪』がないと生きていけないです!という人以外、こんな情報にはなんの興味も湧かないと思います。このような物件が希望にあう人などいるのでしょうか?

    さてここに、上記した、ちょっと考えてしまうような物件ばかりを紹介する『不動産屋』を舞台にした物語など9つの短編が収録された物語があります。さらっと読むとなんということのない日常が描かれるこの作品。しかし、そんな日常にほんの少し違和感を感じるこの作品。そしてそれは、夜中に深く静かに読みたい本を探していらっしゃるあなたにピッタリな”小川洋子ワールド”全開な物語です。
    
    『流し打ちの腕を上げたのは、三塁側ファールグランドで、いつも逆立ちの練習をしていた曲芸師のおかげだった』と語るのは主人公の『僕』。『右バッターボックスに入り、バットを構える…ワンアウト一塁、二塁。一打出れば逆転の場面だ』という中『グリップに力を込める』『僕』。『その大事な瞬間』『左目に、逆立ちをした曲芸師の姿がちらっと映』ります。『もしこのまま思い切りバットを振って、強いライナーが三塁側に飛んだら、そしてもしその打球が曲芸師さんに当たったら…僕のまぶたには、背中に打球の直撃を受け崩れ落ちる曲芸師の有様が映し出され』ます。そして、『一瞬にして僕のバッティングフォームは不格好に崩れてしま』い、『腰は引け、顎は上がり、腕は縮こまって、ボールは大儀そうにボテボテと内野を転が』りました。『セカンドが取ってダブルプレー』、『チャンスはついえ』てしまい、『ため息と罵声と嘲笑を浴びる』『僕』。これは、『小学四年生で、初めて少年野球チームの試合に出させてもらえるようになった頃の話』です。やがて、『こんなことを何度も繰り返しているうち、少しずつ、僕のバッティング技術は独自の進化を遂げてい』きます。『どんなボールでも決してレフト方向へ引っ張らない』、『とにかくバットに当てたボールは、ライト方向へ流し打つ』というその技術。そんな『僕』は、『どうして他の皆が平気で三塁線を破る強襲ヒットや、三塁側ファールグランドに高々と上がるフライを打てるのか、不思議でな』りません。『もしかしたら他の子たちには、あの曲芸師さんが見えていないんじゃないだろうか、と思うこともあった』『僕』。一方の『曲芸師はプレー』の『邪魔』をすることはありません。『向こうから話し掛けてきたり、フェアグランドへ入ってきたりするようなことは一度として』ありません。結果として、『曲芸と野球、この境界線はしっかりと守られてい』ました。そして、『曲芸師が練習の拠点としたのは、三塁ベースの脇数メートルのところにある、水門操作室、と看板の掛かった小屋』、『曲芸の技を磨くには、うってつけの高さを持つ小屋』でした。『身体にぴったり吸い付く、全身真っ黒の練習着を着ている』という『曲芸師』、『甲の広く開いた布の靴、首元のタオル、リストバンド、何もかもが黒い』という『曲芸師』。そんな『曲芸師』が『両手で背もたれをつか』み、『両足が屋根を離れる瞬間、つまり身体が宙に浮き、椅子の塔と一体化する直前が』『一番好き』という『僕』。『力強く両腕で踏ん張り、首を持ち上げ、両足を開く』、『右足は優雅に弓なりにしなり、反対に左足は慎ましく膝が折りたたまれる。と同時に、塔の一部となるため許されたたった一つの角度に、背骨がぴたりと静止』し、『曲芸師は、塔の頂に輝く飾りとな』ります。そんな『彼女がいつ頃から河川敷に現れるようになったのかは、はっきりし』ません。『誰に尋ねても、気づいた時にはもうあそこにいた、と答え』ます。『当然、曲芸師として身を立ててはいたのだろうが、それ以外のこと、例えば名前や生い立ちや家族については謎』であり、『近所の人たちは皆、ごく当たり前の日常の風景として彼女を受け止めてい』ます。一方で『僕が曲芸師に向けて示した興味は、他の人たちとは少し違ってい』ました。『皆と同じように上手に彼女を無視することができなかった』という『僕』。そんな『僕』が『曲芸師』と接してゆく先の物語が描かれていきます…という最初の短編〈曲芸と野球〉。女性の『曲芸師』と『僕』の不思議な関係性に光を当てるこの短編集らしい好編でした。

    “世界の片隅でひっそりと生きる、どこか風変わりな人々、河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、教授宅の留守を預かる賄い婦、エレベーターで生まれたE.B.、放浪の涙売り、能弁で官能的な足裏をもつ老嬢…。彼らの哀しくも愛おしい人生の一コマを手のひらでそっと掬いとり、そこはかとない恐怖と冴え冴えとしたフェティシズムをたたえる、珠玉のナイン・ストーリーズ”と内容紹介にうたわれるこの作品。夜中に深く静かに読まれる本として、NHKラジオ第1「ラジオ深夜便」の「私のおすすめブックス」コーナーでも紹介されたようです。

    そんなこの作品は9つの短編が収録された短編集となっています。短編間に関係性はありませんが、小川洋子さんならではの表現がそこかしこに顔を出します。まずは上記でもダイジェストでご紹介した〈曲芸と野球〉のこんな記述です。

     『ハーモニカを吹く、フラフープを回す、シャボン玉を飛ばす、地上の助手とサッカーをする。こんなのお茶の子さいさい。乳首でサインを書く、わきの下でリンゴをつぶす、足首で鞭を振るう、股にフライパンを乗せて孔雀の目玉焼きを作る…』。

    これは、『曲芸師』が『何だってできるの』と、自らができる『曲芸』の数々を『僕』に説明する場面です。特に『乳首でサインを書く』から先に挙げられているものはキョーレツですね。『曲芸師』も大変です(笑)。次は、〈教授宅の留守番〉の記述を見て見ましょう。

     『テーブルの中央には、大皿に山盛りのスパゲッティー。それを取り囲むように、ミートソース、ボンゴレ、カルボナーラ、茸、梅干、とろろ芋、雲丹、モツ、キャビア…』。

    『D子さんの家にお呼ばれし、お昼ご飯をご馳走になった』という主人公の『私』が見たテーブル上の光景です。これらはすべて『ソース』であり、それぞれが『好みのものをかけて食べる』という趣向です。こちらも後半にいくに従って、そんなものもかけるの?というものが登場していますね。最後は、〈ラ・ヴェール嬢〉からこんな一節です。

     『男は私の身体中の毛を剃った。文字どおり身体中の。髪の毛はもちろん、腋毛、陰毛、脛毛、眉毛、睫毛、鼻毛…』。

    『出張専門の指圧師』という主人公の『私』が『大事なお得意様』としているのが『住んでいたアパートの名前がラ・ヴェール三号棟だったこと』で『勝手に』『ラ・ヴェール嬢』と名付けた女性です。そんな女性の元を訪れ、指圧する場面が描かれます。そこで、指圧中に『ラ・ヴェール嬢』が語る言葉の中にこの表現が登場します。『ある男と結んだ関係の詳細』という内容ですが、こんな剃毛の場面が登場するのはキョーレツです。身体中の毛という毛を並べる小川さん。実に小川さんらしい表現だと思います(笑)。ここでは、3つを取り挙げましたがいずれも主人公が『僕』、『私』と名前が付されていないのも小川さんらしいところです。

    では、9つの短編から3編の内容をご紹介しましょう。

     ・〈教授宅の留守番〉: 『久しぶりにD子さんの家にお呼ばれし、お昼ご飯をご馳走になった』というのは主人公の『私』。『町の西はずれにある国立大学で、食堂の賄い婦をしている』というD子さんには、『十日ほど前』、『とんでもない災難が降りかか』りました。『住んでいたアパートが火事になり、焼け出され』、『二晩入院した』という展開は『放火』が原因でした。しかし、『幸運にも』『在外研究のためパリへ出発する直前の教授が、半年間留守になる教員住宅を無料でD子さんに提供』してくれることになった結果、『彼女は教授の家を自由に使えることにな』りました。『同じ大学の用務係』をしていた『私』は、『お見舞いが目的で』D子さんを訪ねます。『よく来てくれたわ…のんびりしてね』と迎えてくれたD子さんは家中を案内してくれます。そんな先に、まさかの事実が明らかになっていきます…。

     ・〈お探しの物件〉: 『いらっしゃいませ』、『今日は、お家をお探しですか?』と『表通りから遠く離れたこのような寂れた裏道に、ささやかに店を構え』た『不動産屋』の店員がお客さんを迎え入れます。『ウインドウに物件情報を貼り出』すこともせず、『電話帳に広告も載せて』いないという『不動産屋』は自分たちが『こだわっている”事柄”』について説明をはじめます。『お客様のご希望を伺い、それに見合う物件をご紹介するのが、私どもの仕事ではございません。その逆です。物件が求める住人を探すこと、それが我々の役目なのです』と続ける『不動産屋』は、『各々の住まい』に『耳を傾け、思いを共有し、最も相応しい住人の方にたった一つの鍵をお渡しする』ことの大切さを語ります。そんな『不動産屋』は、『物件No.1001 瓢簞屋敷』、『通風、日当たり、視界はなはだしく不良』と具体的な物件の説明を始めます。

     ・〈涙売り〉: 『十八の歳まで、涙を売って暮らしを立てていました』と語り出したのは主人公の『私』。『皆様私の涙をたいそう気に入って下さいました』と話す『私』は、『スタジオ、コンサートホール、街角の広場、楽器店、自宅、別荘、愛人宅…』と『指定された場所へ、真夜中でもすぐに駆け付け』ることを『身上』にしています。『飛んで行って涙を』売ると『ああ、助かった。やっぱりこれがないと、どうにも仕様がなくてね』と感謝する客たち。『いつの頃からか定かではない』ものの『自分の涙が楽器のためにある役割を果たすと気づいていました』。『私の涙をすり込むと、どんな楽器でもとたんに音色がよくなる』と言う『私』。そんな『私にとって必要なのは涙腺と涙囊だけですから、身一つで動けます』。やがて『放浪の涙売りになった』『私』。『楽器が求める限り、生涯涙を流し続けなければならない』と思う『私』。

    3つの短編をご紹介しました。いずれも一見どこにでもありそうな風景の中にちょっとした違和感が隠れていることに気づきます。〈教授宅の留守番〉のD子は『放火』によって住む場所を失ったものの大学の教授に『教員住宅』を借りることができ、主人公の『私』を招待します。上記のダイジェストでは見えてこないかもしれませんが、D子は災難にあったとは思えないような素振りを見せていきます。ここに読者は次第にキョーレツな違和感を感じていきます。〈お探しの物件〉の『不動産屋』は、上記のダイジェストでも違和感にお気づきになったかと思います。客の側ではなく、『物件が求める住人を探すこと』と話す『不動産屋』は聞いたことがありません。その先に提示される奇妙奇天烈な条件の物件が登場します。この展開だけで最後まで読んでいきたいくらい面白い短編です。そして、〈涙売り〉はそもそも短編タイトルからして違和感です。『涙を売って暮らしを立て』るとはどういうことなのか?『放浪の涙売りになった』という説明はさらっと説明される分、余計に違和感が漂います。この作品の書名は「夜明けの縁をさ迷う人々」です。こちらもわかったようでよくわからない書名ですがこのなんとも言えない微妙な塩梅こそがこの作品の内容を絶妙に言い当てていると思います。物語は小川洋子さんらしい極めて物静かな語り口でそれぞれの物語の主人公に光を当てていきます。そこに朧げながら物語の情景が浮かび上がります。9つの短編が取り上げる内容は多種多様です。ビックリするようなグロテスクな世界がいきなり顔を出す場合もあり、まさしく奇妙奇天烈です。このような描写はまさしく小川さんならではの世界です。小川さんの世界では、グロテスクだ!と目クジラ立てることがそもそも誤りであるかのようにすべてのものがすべての人が、そしてすべての物語が一つの世界観の中に存在しているからです。

     『お客様のご希望を伺い、それに見合う物件をご紹介するのが、私どもの仕事ではございません。その逆です。物件が求める住人を探すこと、それが我々の役目なのです』。

    一見どこにでもありそうな日常の中に、ちょっとした違和感が描かれるこの作品。そこには、まさしく小川洋子さんらしい9つの物語が描かれていました。突然出現するグロテスクな展開にギョッとするこの作品。そんな展開をも大らかに包含する”小川洋子ワールド”の魅力に囚われるこの作品。

    「夜明けの縁をさ迷う人々」という書名の絶妙さに納得する不思議な魅力に溢れた作品でした。

  • 磯良一さんのイラストに惹かれて。今まで読んだ小川さんの物語では一番庶民的というか親しみをを感じた。でもそこからの変化が激しい。『曲芸と野球』『イービーのかなわぬ望み』『パラソルチョコレート』『ラ・ヴェール嬢』が印象的。

  • 妄想、ホラー、人間ドラマ、官能、フェティシズム等など、様々なジャンルを持ちながらも、共通しているのは、風変わりながらも、愛すべき人たち。

    たとえ、風変わりすぎて、周りから疎んじられたり、存在すら意識されなくても、たった一人の愛があるだけで、その人の生き様が報われたかのように思われたことには、読んでいて共感を覚えたが、哀愁も感じた。永久という言葉は、一見、素敵に思えるが、あくまで捉え方次第であるし、私だったら、相手の心の中ではなくて、せめて自分の心で報われたという実感が欲しい。まあ、たった一人の愛に出会えただけで、充分だと思えるのもありますがね。そのたった一人が、実はすごく難しい。

  • 着眼点がさすがすぎる、独特な視点から展開する小川洋子ワールドが炸裂していました☺︎
    どの短編集も生きづらそうなひとにスポットが当てられているようで、表題の言葉を借りるなら縁をさ迷っているのかと思わされます。
    初めの短編集は逆立ちする曲芸師。なぜそんなところで逆立ちの練習をしているのかと、疑問に思うくらいに、なんだかやりづらそうなところが、少し切なさも感じます。
    そういう絶妙なポジションにある人たちにスポットを当てた短編集で、すべてがやはり寂しげな感じがします。
    寝る前に一つずつ読みましたが、最高の読書時間になりました☺︎

  • 小川洋子ワールドの短編9編。どの作品も小川洋子ならではのユーモアに満ち溢れながら、突出した嗜好のためにある種疎外された人々を、ある時は哀しみをもって、またある時はホラーテイストにて、そして、短編ならではのスピード感と意外性をもって、珠玉に紡がれた小説群になっています。
    どの短編も短編ならではの趣向が滲み出ていますが、しかし例えば、曲芸師と野球少年の心の交流を描いた『曲芸と野球』であったり、また、老舗中華料理屋のエレベータを生涯の住処とした『イービーのかなわぬ望み』や、楽器に有効な不思議な涙を持つ女性が人体楽器に寄り添う『涙売り』は、小川洋子の他の長編でもみられるそこはかとない哀しみを描いた作品であり、ちょっと短編で終わらせるには惜しい構想を持った作品だったと思います。
    それから、どの作品も次にどんな展開があるのだろうかとわくわくするような緻密な構成になっていますが、特に『教授宅の留守番』や『銀山の狩猟小屋』は小川洋子のユーモアにカモフラージュされながらも、次第に盛り上がっていくサスペンスな展開が面白かったです。
    『ラ・ヴェール嬢』は最もエロティックな内容であり、『再試合』はフェチシズムに溢れながらも底冷えのする内容ですが、どちらも状況の2重構造をクッションとすることにより巧みに終局に向けてまとめあげた作品で技巧的な構成がなかなか面白かったと思います。
    反対に、不動産を題材に様々におかしな人々を描く『お探しの物件』や、チェス好きのシッターの奇妙な過ごし方とその家に住む「何か」と少女との会話を描いた『パラソルチョコレート』は多面的な作品であり、これらはそれぞれの局面が折り重なるように繰り出される面白さがありました。
    全体としてどの作品も読者を飽きさせない様々な趣向を凝らしつつ、小川洋子ならではの可笑しみの奥底に潜む悲哀や恐ろしさが余韻となっていつまでも残る物語群であり、秀作揃いの短編集だったと思います。表題のごとく、暗さと明るさの織りなす境目に蠢く多様な人間たちの妙が面白い一冊でした。

  • サクッと読める幻想小説。テーマを述べるとすれば個人的には「喪失」なのかなと思います。仄暗い世界で生きている人々に耳を傾ける登場人物。
    だけれどもその喪失から得た感情はとてもリアルな内容だと思いました

  •  人と人の思わぬ交流を描いた短編集。
     最初の「曲芸と野球」は無茶な練習を繰り返す曲芸師のお姉さんとヒットの打てない少年が他の人なら気にしないような合図でお互いを励まし合うという話だった。心温まる人生の妙味を味わえるような個人的には好きな短編で、この短編集はこういう方向性の物語が多いのかなって思っていたが、以降「パラソルチョコレート」を除き、全てがファンタジーの作品であったため拍子抜けした(「ラ・ヴェール嬢の秘密」はどちらかと言えばファンタジーではないが)。
     「曲芸と野球」以外では「パラソルチョコレート」が好きだった。シッターに預けられた二人の姉弟が毎週カフェに連れて行かれるのだが、シッターさんはそこで一人でチェスを打っていた。姉がひょんなことから一人でいる時に家で空き巣と遭遇するも、空き巣から自分は裏側の人間だと言われ子ども騙しに踊らされてしまう。けれど、その子ども騙しで世界を理解しようとする様子が微笑ましかった。過程は全くの間違いではあるが、最後には子どもらしい正解に辿り着き、続きが知りたくなる物語だった。3.8。

  • 奇妙で怖さもあるけれど、どこか滑稽さも漂う短編集。野球の話2つとエレベーターに住む「イービー」の話が記憶に残る。文章と描写が美しくて小説なのに映像を見ているような感覚。全面帯を見て選んだ一冊、心に残る素敵な読書体験になりました。

  • 『ミーナの行進』がとても面白かったので小川洋子さんの小説を2冊借りて来ました。

    こちらは9編の短編集でしたが、最初の『曲芸と野球』から圧倒されてしまいました。曲芸師の身体はどうなってるんでしょう?

    次の『教授宅の留守番』はD子さんの正体に最後は怖っ!

    そして極めつけは『イービーのかなわぬ望み』です。不思議〜。本当に不思議な世界観。

    この感覚は前に今村夏子さんを読んだ時と似ているかも。

    ちなみに好きなお話は『パラソルチョコレート』です。懐かしくて私もまた食べたくなりました。

    小川洋子さん、何をヒントにこんな不思議なお話の数々が思い浮かぶのでしょう。もう1冊借りてきた本も読むのが楽しみです。

  • 9話の不思議な世界の短編集だ。
    特に印象深かったのは⋯

    ⚫︎「 曲芸と野球 」
    「私」が少年野球を楽しんでいた小学校4年生の時、常に3塁側のファールゾーンで女性の曲芸師が椅子を4脚積み重ねての稽古をしていた。
    しかしチームメイトには、その曲芸師の姿は視界に入っていないようだった。
    大人になった「私」は、年に数回のペースで草野球を楽しむのだが、今でも三塁側のファールゾーンから曲芸師が「私」を見つめている。

    ⚫︎「 イービーの叶わぬ望み 」
    老舗の中華料理店のエレベーター内で、誰かに産み落とされていたイービー。
    お店に勤めていた心優しいチュン婆さんがイービーの育ての親になる。
    成長とともにイービー少年はエレベーターボーイ(E.B.)として働くようになり、その優秀さもあって皆から愛される存在となった。
    育ての親のチュン婆さんが亡くなると、イービーはエレベーターから一歩も出なくなり、狭いエレベーター空間に合わせるように身体の成長も止まってしまう。

    他の短編に登場してくる人物も、独特の個性を擁した者ばかりで魅力的なのだ。
    小川洋子女史が綴る人物たちは、ただ単に変わった人物像に留まることなく、世を超越した存在感となって綴られている。

  • 9編の話のうち、恋愛感情に触れた話がいくつかあった。小川洋子さんの小説が纏っているほんのりとした愛情が、明確に恋愛感情として描かれている話は特に好きなので、登場人物のそれぞれの愛し方に読み耽った。タイトルの『夜明けの縁を彷徨う人々』という一文になったつもりで、私もページを捲った。『ラ・ヴェール嬢』という題名の話が登場するが、ラ・ヴェールとはフランス語で緑という意味らしい。賃貸物件のサイトの引用を見つけてようやく見つけた意味だったが、この簡単に、明確に辿り着かない答えすらも題名に込められているのかなと思う。

  • 奇妙で微笑ましくも少し怖い9つの短編。

    狭い。小さい。無くなる。
    待ってましたと言わんばかりの小川ワールド。

    野球や甲子園の描写が魅力的。
    生き生きとした人や風景と匂いが伝わる。

    「夜明けの縁」とは何か。
    しばらく思いにふける。

  • 三日月の下
    暗い絵本の森の中
    押し手のないベビーカーに乗る子豚

    見たくないから見ないように生きてきた世界

    どんだけ魅力的なんだ

  • 何とも表し難い読後感であった。収録作はどれも、日常ありそうな風景の中に一抹のファンタジー要素を含んでおり、不穏な気配を漂わせている。
    普段小川洋子さんの作品にはしっとりとして柔らかな静けさを感じるのだが、本書ではそれがあまり感じられず、ストーリーの運びは紛れもなく小川洋子作品であると思えるのだがどこかにずっと違和感があり馴染めずにいた。
    最後の「再試合」を読み終わった今は、私も同様に日常にありそうでなさそうなことが起こり引き伸ばされた世界で小川洋子を読んでいるのではないかという気持ちになっている。

  • ブラック絵本といった感じで、結構短い、短編集であり、"教授宅の留守番"は小川洋子さんにしては珍しい堂々とした発言もあり。
    "涙売り"の終わり方や、"お探しの物件"はそのまま、絵本にしても良さそう。
    今作では、"教授宅の留守番"と、"パラソルチョコレート"が好みだった。チェスの駒をすすめる終わり方も好きだ。

  • 丸い部屋で眠るのって、どんな気分なのかしら。 きっと深い安らぎに包まれて、小さな心配事なんて全部消え去ってゆくんでしょうね。
    だって丸い部屋で眠る時の自分は、円の直径になるのよ。

  • 小川洋子の短編集。純文学と構えるほどでもなく、ちゃんとオチらしいオチがある。

    9作のうち、やはり印象に残るのは、ちょっとホラーやファンタジーがかった「教授宅」「イービー」の話。小川洋子は、後ろからゆっくり迫ってくるような恐怖を描かせたらやはりいい。

    さらに、他の本もだけれども、なんてことはない言葉にスポットを当てて、どんどん際立たせて盛り上げていくところが、小川洋子作品の醍醐味であって、この本においても、そういううまく際立って光る言葉がいくつも出てくる。

    小川洋子というと「博士」から入る人が多そうだが、その次あたりにおすすめできるのは、この本や「海」だろうなあ。

  • 妻に借りて読む
    小川洋子も短編は上手い、特に余韻を残す終わり方が見事

  •  僕がバッティングの腕を上げたのは、三塁ベース脇数メートルのところにある小屋の横で椅子を積み上げながら逆立ちの練習をする曲芸師のおかげだった……。(『曲芸と野球』ほか8編)

     心地よさと気持ち悪さの間(あわい)、恐怖と切なさが絶妙に入り混じった掌編をじっくり味わいました。個人的には、狂気がむしろ気持ちいいとさえ感じる『教授宅の留守番』、ユーモラスでノスタルジックな『パラソルチョコレート』が印象的でした。深まる秋におすすめの短編集。

  • 「曲芸と野球」「イービーのかなわぬ望み」
    「パラソルチョコレート」「ラ・ヴェール嬢」が好き
    小川洋子さんらしく野球に始まり野球で終わる9つの短編集だった
    特別な寂しさの風が通りすぎてゆくような
    心もちになる
    月虹をみるひとたちの物語

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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