宮沢賢治の青春: ただ一人の友保阪嘉内をめぐって (角川文庫 す 8-1)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043433018

作品紹介・あらすじ

「私が友保阪嘉内、私が友保阪嘉内、我を棄てるな」と賢治に言わしめた盛岡高等農林学校時代のただ一人の友、保阪嘉内。才気煥発、明朗闊達な彼に強く魅かれ、大きな影響を受ける賢治。が、二人の交流は賢治の国柱会への傾倒をめぐって変化し、やがて訣別してしまう。『銀河鉄道の夜』をはじめとする厖大な作品群の成り立ちと実生活の謎の数々を、二人の友愛を裏づける多くの資料をもとに解き明かす、画期的かつ衝撃的な賢治研究の新成果。

感想・レビュー・書評

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  • 2023.6.2 市立図書館
    テレビで宮沢賢治についてのドキュメンタリー番組をたまたまやっていて、そういえば賢治の友人の保阪嘉内については少し前に梨木香歩さんが「本の旅人」に連載していたけれど(「きみにならびて野にたてば」)、あれはどうなったんだっけ、と思い出し、その連載はPR誌の休刊もあり、どうなったのかよくわからないのだけれど、梨木さんの参考資料ともなっていた(はずの)本を思い出したので予約を入れて借りてみた。

    前半は賢治が保阪嘉内に送った手紙と保阪嘉内の手紙や日記や作品などからふたりの関係や気持ちの変化を読み解いていく作品で、高等学校時代のエピソードは梨木香歩さんの連載でも読んだ覚えがありどんどん読める。賢治と嘉内の両人やこの時代に限らず、跡取り息子と父親との相克はなかなか厳しいものがあるのだなと伝わってくるし、若い二人が理想に燃えて何者かになろうとしもがく姿は今ちょうど再放送している「あまちゃん」のアキとユイにもどこか重なるように思えた。

    晩年のあたりを読んだときは、農民たちのよかれを思いつつ非力にして理想の実現にほど遠い現実に苦しむ賢治の姿が、地方の酒販店主として小売業のありかたを模索しつつさまざまなものを諦め絶望しつつ店も人生も畳んだ父の姿がオーバーラップしてやるせない気持ちになった。

    これが著者の卒論(宮城学院女子大学)を増補したものだというからおどろく。妹トシ(の死)をあまりに軽く扱っている、作品と作者の人生を恣意的に寄せすぎているという異論もあるらしいが、妹との関係にせよ、親友との関係にせよ、完全な真実(宮沢賢治自身が認める正解)を知るのは不可能なのであるし、私にとってはひじょうに興味深く説得力もある解釈で、著者の解釈には感服した。賢治をめぐるキーパーソンとしては嘉内やトシ以外に実際には想い人がいた説などもあり、あの説この説に接した上で、もう一度自分なりに「銀河鉄道の夜」を読み直してみたいと思えた。

    みずからの青春も重ねつつ宮沢賢治研究にうちこんだ著者自身、病を得て2010年に亡くなっている。梨木香歩は「きみにならびて野にたてば」で、(病を発症し命を落とした)菅原千恵子の一生を書き留めねばという個人的な思いが本作品の執筆動機の一つだと明記していたらしい(←個人的な記憶でなくネット上でみつけた情報)だけにそのへんの経緯もちょっと気になる。

  • 本書は「宮沢賢治をもっとよく知りたい」と思っていた 自分には最適な本で、読んでとても良かったです。 難解な宮沢賢治作品を読み解くには必ず読んでおくべき本ではないでしょうか。 正直、自分は宮沢賢治作品は神聖化されすぎ ているきらいがあるし、 そういった気持ちでその作品を読んでいるので、 いまいち楽しめていませんでしたが、 この本をきっかけにフラットな気持ちで宮沢賢治作品を読み返してみたいと思います。

  • ゴッホが弟テオにおくった手紙を読めばゴッホの精神世界がより理解できる。智恵子抄の高村光太郎の妻、ちえこは実際にどうだったのか・・それも手紙をみればよくわかる。手紙には作者の精神世界が色こく残る。その視点から宮沢賢治が唯一の友保坂嘉内におくった膨大な手紙から彼の作品世界を探る本。

  • カムパネルラ=妹とし説を退け、賢治のかつての親友保坂説を押す力著。
    私の大変に個人的な印象であるが、ジョバンニとカムパネルラの関係性は、同じ高さの目線を持ちながらも、視線の先がずれているがためのもどかしさと理解の相違の悲しみのようなものを感じていたので、妹としの無条件で賢治を肯定するグレードマザー的なイメージにはそぐわないように感じていた、その違和感に対してとても説得力のある回答を与えてくれたのがこちらだった。
    ともすれば同性愛的な受け取り方の向きもあり、また従来の賢治研究にみられる妹としの影響力の大きさもあり、主流として受け入れられている説ではないというのが非常に残念。
    学生時代から、決別後の晩年までを丹念に追っており、決して著者の独善的な思いつきではないと感じられる。
    思うに、人が人をひたむきに求め、与えられずに抱く悲しみというのは、漠然とした世間に受け入れられないことよりも、誰よりも近くにいてほしいと思った相手に受け入れてもらえないときの方が切実で深く、重たいものだと思う。
    読了後は、「銀河鉄道の夜」という未完の傑作は、そういう類の悲しみを核に結晶したものだと思える。

  • とても興味深く素晴らしかった。銀河鉄道の夜は本当に好きな作品で、数えきれないくらい読み返しているけれど、カンパネルラは賢治の妹だ、という説を聞くたびに違和感を感じていた。なぜなら、ジョバンニのカンパネルラの思いは、他の作品で見る妹への思いとは余りに違いすぎる気がしたから。
    だから、この本の説には感覚的に賛成だし、すとんと納得できた感じがします。

    この説が、本書に書かれているようにそんなに重要視されていないなら非常に残念なことだと思う。
    本の中で「今後も研究を続けたい」と書いてあったので、他の作品を読みたくて調べてみたら、見つからず、亡くなったような情報も見つけて、非常に
    ショックを受けました。

  • コレ、いい。
    だれか、コレを原作にして、小説かマンガをかいて欲しいです。
    そのとき、その作品が、やおいよりになってもいいや…とか、極道なことをちょっと思ったりもしました。
    やおいの表現ていうのは、行為そのものが大事なんでなくて、それぐらい強い思いなんだということをわかりやすく表現するためのものなんだと思います。

    この解釈が正しいかどうかは、僕らみたいな人間にとっては、実は、どうでもいいんです。

    ただ、ここで書かれる宮沢 賢治は、今まで見たどの宮沢 賢治よりも、素敵で魅力的です。
    等身大であり、悩む人でありながら、純粋で神聖なところも、ちっとも失われていない。
    すばらしいです。その迷いが、いつまでも人を引きつけるという解釈も、とても好きです。

    この手の評論の本って、情感にうったえるものよりも、知識が増えたという感じのものが多いのですが、これは、心にグッときました。
    馬場 あきこの「鬼の研究」に匹敵する名著です。

  • 『銀河鉄道の夜』が法華経の思想を元にした「愛する人を失う悲しみを乗り越える物語」であるとする「カンパネルラ=妹トシ説」。それももちろん素敵だとは思う。しかし、カムパネルラとジョバンニの関係性は、本書で紹介される現存の書簡からも親友・保阪嘉内と賢治のそれに何らかの繋がりがあると思わざるを得ない。それはきっと極めて個人的な、独白のような切実な他者受容の苦悩なんだろう。僕はそう思う。

    銀漢ヲ行ク彗星ハ
    夜行列車ノ様ニシテ
    遥カ虚空ニ消エニケリ

    1910年、ハレー彗星の接近に際して少年保阪は一枚の彗星のスケッチを書いたそうだ。その中に添えられたメモ書きがこれ。本書では取り上げられていないが、うーむ、保阪説。

  • 「銀河鉄道の夜」を解く鍵は賢治と嘉内の友情にある。 
    保阪嘉内とは、盛岡高等農林学校の1年後輩で、
    同人誌「アザリア」の同人であった人物だ。
    その明朗闊達な彼に強く魅かれ、
    大きな影響を受ける賢治だった。

  • 斬新な解釈。そして花巻へ行ったワタシ。

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