ウォーレスの人魚 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 713
レビュー : 114
  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043441037

作品紹介・あらすじ

ダーウィンと同じく"進化論"を唱えたイギリスの博物学者・ウォーレスは、『香港人魚録』という奇書を残して1913年この世を去る。2012年、セントマリア島を訪ねた雑誌記者のビリーは、海難事故で人魚に遭遇する。マリア一号と名付けられたその人魚は、ジェシーという娘に発情してしまう。2015年、沖縄の海で遭難した大学生が、海底にいたにも拘わらず、三ヵ月後無事生還する。人はかつて海に住んでいたとする壮大な説を追って、様々な人間達の欲求が渦巻く。進化論を駆使し、今まで読んだことのない人魚伝説を圧倒的なストーリーテリングで描く渾身作。

感想・レビュー・書評

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  • 十数年ぶりに再読したけど、ここまで面白かったのかと驚かされた。
    題名に「人魚」と付いてるけど、話はファンタジーではなく人魚を進化の途中で人間と枝分かれした近縁種と捉えたSF。

    この作品で描かれるのは、壮絶な生態を持つ「生物」としての人魚。
    グロテスクで、儚くて、人の倫理観に照らせれば残酷ですらあるのに、それでも人の心を惹き付けてしまう危険な存在です。
    その辺りの二面性は高橋留美子の「人魚シリーズ」に通じるものがあるな、と思った。

    内容に辻褄が合わない部分(なぜウォーレスが人魚の生殖のメカニズムに気付かなかったのか)やご都合主義なところもあるけれど、
    ライアンとそのチームの面々といった登場人物たちが魅力的で話にどんどん引き込まれて、先が気になって一気に読破してしまいました。
    たとえ禁断の愛であっても密とジェシーには幸せになってほしいな。


    年をとらない少女に肉体を吸収され、文字通り一心同体となり、何十年も共に生きて最後は一緒に死ぬ、っていうのはある意味究極だよな、と読んでて羨ましくなった。

  • 人魚と人間の物語であり、人魚の進化(人間の進化も含まれている。)といったことが主眼として書かれた物語。
    はじめは少し難しい話が続いてて飽きそうになったけど、読み進むにつれて、物語の核心部分に触れていく辺りは面白く読めた。最初の難しい話も、後になって、なるほど!と、思うような感じ。
    人と人魚の愛しかた、人魚の生きるための本能や進化は理解が難しいとも思うけども、わからないこともないなとか、どことなく温かさを感じる作品でもあったと思う。
    個人的には、岩井さんの作品の中でも少し違った印象を受けるので、割りと好きな作品。

  • グロテスクだけど幻想的な人魚の小説。

    なかなか読みごたえのある作品でした。
    が、本書を読んだことで童話の人魚のイメージが…

    ウォーレスの遺した文書「香港人魚録」が最後までカギとなっていてリアリティーがありました。

  • 面白い。一気に読んでしまった。
    進化論含めてベースもしっかりしてて良い。

  • 読み始めてすぐに
    「人魚は存在するか否か」の問題より
    「この場合、人魚はどう行動するか」の問題になり、最後には
    「人魚として海に帰るか、それとも人間として地上に残るか」
    を論点にしている自分に気づく。
    つまり、人魚は存在するのだ。

    …というのをうっかり信じ込まされてしまう危ない小説。
    秀逸です。

  • ◆◆思いっきりネタバレがありますので未読の方はご注意ください

    進化論をベースにした人魚のストーリーは自分でもかつて考えていたことがあるのでどうだろうと思って読み始めたが、ウォーレスの実話というか伝説というかと近未来の科学的視点からの人魚の描写の緻密さに驚いた。進化論的な味付けもおもしろくグイグイと引き込まれた。やはり自分はこういう「科学=現実領域」と「人魚=幻想領域」が接するようなところで展開する物語が好きな
    のだなと改めて実感。密とジェシーが出会ってすぐにお互いを求めあってしまう廃屋のシーンもふたりの感情の描写がうまく、なぜかすんなりと納得させられてしまった。

    圧倒的だったのはやはり海洲化と海鱗女の「癒合」という衝撃的な愛の形である。人魚という幻の存在を生物学的にここまで描いた作品はおそらくこれまでなかったであろう。このシーンを含む洲化と鱗女の記憶が密とジェシーに伝わるパートは香港というエキゾチックな舞台もあいまって非常に美しく且またエロティックであり、作者の映像的美意識が発揮されている。

    [ジェシーの涙がいくつも床に降った。ジェシーは震える声でこういった。「先生…あたし…彼が好きなんです」]という彼女の告白も感動的である。普段は恋愛感情描写にはあまり心を動かされないのだが、作者はこういう切なさのようなものを映像的に描写するのがさすがにうまい。

    そして拉致された密を探すために人魚として覚醒することを決心するジェシー…。



    ……と、ここまではストーリーテリングも緊張感があり非常によかったのだが、なぜかここから先がよくあるファンタジーっぽさとアクションになってしまうのだ。

    高周波を使ってテレパシーのように言葉を交し合う密とジェシーは、まあイルカなどの海洋生物を考えればまだそうでもないが、その高周波を使って氷を割ろうとするところなどはちょっと…。

    斎門教授一味との甲板での場面やそこで斎門が語る人魚をクローニングしての臓器売買などはちょっとステレオタイプ。ただアレキサンダーの「みんな海の上で起きたことだよ」というのはちょっとかっこいい。

    溺れたビリーの太古の記憶を呼び戻して冬眠させるというところは人間がかつては人魚だったということを意味し、この作品の一番のテーマを象徴する部分であるが、それまでの様々なシーン描写の迫力に比べるとどうにも弱い。

    そして最後の


    ジェシーは密の手を握った。
    「……海に帰る?」
    ダークブルーの世界に包まれながら、二人は抱擁した。


    も、なんだかこれだけの物語のラストシーンとしてはちょっと平凡。密とジェシーが愛し合っていくのならそこには「癒合」という非常に重い十字架が待っているのかもしれないし、人魚とはなんなのか? 人魚として生きていくということはふたりに何をもたらし何を失わせるのか? といったこの作品のテーマからするとちょっと軽すぎる。

    また人間がかつて両棲動物であり、人魚世界に別れを告げて陸に上がってきたのであれば、そうした進化の過程での別離と再びの遭遇、そこで起きた悲しい事件を通してかつては同じであったのに今ではお互いが理解できないところまできてしまった種としての運命的な哀しみのようなものをもっと強く描いてほしかった。まあ、これはかなり個人的な好みが入ってしまっているが。


    他にも以下の点が気になった。

    ◎「癒合」に関連するのかどうかわからないのが、密と志津香が漂流中に立ち泳ぎのままセックスをするということ。このシーンの意味は? これによって密の人魚としての覚醒のスイッチと捉えるべきか、それとも密とジェシーの間に「癒合」という特質は現れないということの暗示なのか?

    ◎双子として生まれた密とジェシーはなぜ別々に引き取られなければならなかったんだろう? (まあストーリー設定上ということはわかるんだけど…)

    ◎リック・ケレンズの説明によれば人魚は人間から枝分かれした種に間違いなく、それは400万年前ぐらいらしい。しかし興味深いのは人間の祖先といわれているアウストラロピテクスと比べ、人間とホモ・アクアリウスがまるで同じ種であるかのようによく似ているということ。400万年水中で進化してくれば人間よりはイルカのような形態になっていくのではないか。リック自身、これはどうしたことだろう? と言っているがその後その答えは描かれなかった。


    いかんせん途中までがかなり個人的な好みにぴったりだったので、なおさら最後が残念。

    余談だがウォーレスと人魚のくだりは山田章博の人魚の話を思い起こさせられ、またジェシーのイメージがなぜかエヴァンゲリオンのアスカとずっと重なったままだった。

  • 関連映画を先に見ているので、知りすぎないくらいの知識があった状態で読みました。取っておきすぎて気づけばいまごろ。
    人魚の話だと簡単には言えないことと、ヒトと枝分かれし進化したものだとした作品。
    出生の秘密を知り、自分はどっちだと思い悩む密の心情は映画でも見ましたが、切ないですよね。
    密かさとジェシーのことも、しんどい。雑滅危機の種がとる行動が融合や近親交配で、良いことではなかったりするのに、生き残るための様々が辛い。
    人間はどう生きるのか。問われる。

  • 常識をくつがえす。フィクションであっても真に迫るリアリティでそれでいて頭に浮かぶ映像は美しくて、岩井俊二さんの小説作品は初めてだったけどリリィシュシュのすべて、だとか映画作品に通じるするどい透明感を感じた。胸のどこか奥がキュルキュル軋むような痛むようなガラスの綿で締め付けられるような。現実と非現実のはざまの自分がどこにいるのかわからなくなるかんじ、印象的。

  • 人魚の存在を進化論的な側面から描写し、本当に人魚いるのかも?っと思わせる。人魚の繁殖行動も壮絶な描写でありながら、自然界に実際にある繁殖なので科学的説得力もあり。後半は完全にSFものになっちゃうけど、全体的にとても面白い内容だった。

  • 岩井監督やはり天才!!
    壮大なファンタジーでありサイエンスミステリーでありオカルトでもあるラブロマンス!!

    架空のストーリーなのにリアリティを感じさせるのは常にその映像が脳内にありありと浮かんでくるからだろう。
    あまりに大きすぎるテーマのためにたぶん映画化は無理だけどこのまま小説だけであって欲しいとも思う。大切な一冊になった。

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著者プロフィール

映像作家。1963年1月24日仙台市生まれ。横浜国立大学卒業。主な作品に映画『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』『花とアリス殺人事件』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など。ドキュメンタリーに『市川崑物語』『少年たちは花火を横から見たかった』など。「花は咲く」の作詞も手がける。

「2017年 『少年たちは花火を横から見たかった 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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