ウォーレスの人魚 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 121
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043441037

作品紹介・あらすじ

ダーウィンと同じく"進化論"を唱えたイギリスの博物学者・ウォーレスは、『香港人魚録』という奇書を残して1913年この世を去る。2012年、セントマリア島を訪ねた雑誌記者のビリーは、海難事故で人魚に遭遇する。マリア一号と名付けられたその人魚は、ジェシーという娘に発情してしまう。2015年、沖縄の海で遭難した大学生が、海底にいたにも拘わらず、三ヵ月後無事生還する。人はかつて海に住んでいたとする壮大な説を追って、様々な人間達の欲求が渦巻く。進化論を駆使し、今まで読んだことのない人魚伝説を圧倒的なストーリーテリングで描く渾身作。

感想・レビュー・書評

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  • 十数年ぶりに再読したけど、ここまで面白かったのかと驚かされた。
    題名に「人魚」と付いてるけど、話はファンタジーではなく人魚を進化の途中で人間と枝分かれした近縁種と捉えたSF。

    この作品で描かれるのは、壮絶な生態を持つ「生物」としての人魚。
    グロテスクで、儚くて、人の倫理観に照らせれば残酷ですらあるのに、それでも人の心を惹き付けてしまう危険な存在です。
    その辺りの二面性は高橋留美子の「人魚シリーズ」に通じるものがあるな、と思った。

    内容に辻褄が合わない部分(なぜウォーレスが人魚の生殖のメカニズムに気付かなかったのか)やご都合主義なところもあるけれど、
    ライアンとそのチームの面々といった登場人物たちが魅力的で話にどんどん引き込まれて、先が気になって一気に読破してしまいました。
    たとえ禁断の愛であっても密とジェシーには幸せになってほしいな。


    年をとらない少女に肉体を吸収され、文字通り一心同体となり、何十年も共に生きて最後は一緒に死ぬ、っていうのはある意味究極だよな、と読んでて羨ましくなった。

  • 高校生あたりから、進化論の話が大好きだったし、急にシャチが気になって、取り憑かれたようにシャチの図鑑、書籍、動画で勉強中の私にどんっぴしゃの作品でした。アクア説、エコー、クイック、高周波、クジラの声は低周波などなど、この部分的な説明だけで大好きな分野がどんな文献よりもわかりやすい。作品見終わったあとに人魚がいるかいないかなんて愚問すぎ!いるやろ!ってなっちゃった(入り込みすぎ

  • 人魚と人間の物語であり、人魚の進化(人間の進化も含まれている。)といったことが主眼として書かれた物語。
    はじめは少し難しい話が続いてて飽きそうになったけど、読み進むにつれて、物語の核心部分に触れていく辺りは面白く読めた。最初の難しい話も、後になって、なるほど!と、思うような感じ。
    人と人魚の愛しかた、人魚の生きるための本能や進化は理解が難しいとも思うけども、わからないこともないなとか、どことなく温かさを感じる作品でもあったと思う。
    個人的には、岩井さんの作品の中でも少し違った印象を受けるので、割りと好きな作品。

  • グロテスクだけど幻想的な人魚の小説。

    なかなか読みごたえのある作品でした。
    が、本書を読んだことで童話の人魚のイメージが…

    ウォーレスの遺した文書「香港人魚録」が最後までカギとなっていてリアリティーがありました。

  • 面白くて一気読みした作品の1つ。読んでる最中独特の雰囲気似まとわりつかれた不思議な気持ちになった作品。

  • 最高… 感謝… 愛… ラブ… 湧……

  • 学生時代に読んで衝撃を受けた作品。こんな世界観を作れる人間がいるのだ、と。

  • 岩井俊二監督は私の青春に大きく根ざした存在なので、過大評価になってしまうかも知れないけれど化学的な静けさや単調さを見せつつも、非科学的な熱い人間身、生々しい感情の描写
    ”情愛”と”尊厳”、慈しみをありありと描いている、全ての隔たりを払拭してくれる良作

  • 1996年8月31日に劇場公開された映画「ACRI」(監督・原案・ACRIデザイン:石井竜也)の原作として執筆が開始されたものの、間に合わず映画完成の後に刊行された一冊。(この原因に付いては、本書の後書きで著者が記しているので参照して下さい。)
    映画は美しい南の海の映像と、浅野忠信の演技が印象的でした。
    小説は最新の進化論と生物学をふんだんに盛り込んだサイエンス・フィクションの要素に岩井俊二独擅場の恋の物語が堪能できる、四百頁を超える大作。舞台も南太平洋、沖縄、香港、アラスカと、太平洋を囲む広範囲に渡っています。スケールの大きさは、映画を凌駕しており、映画の原作としての制約を解き放たれた著者の作家としての才気が豊かに味わえます。
    サイエンス・フィクションとしては、生物が利用する「音」=超音波領域を含む声帯が作り出す「音」と、人魚の可能性として「人類海洋生物説」を取り上げています。
    いずれも、僕が好んで読む進化論、生物学ノンフィクションで目にしたものです。例えば「音」に関してはリチャード・ドーキンス著「ブラインド・ウォッチメイカー」1993/10早川書房[上]p166~が、エコロケーション(自ら発する音波による、視覚)に触れています。さらに突っ込んでp168では
     ”イルカについては、おもしろい示唆がなされてきた。もしエコーをその気で使うなら、イルカは、相手に自分の「心像(メンタル・ピクチャー)」を苦もなく伝えられる手だてを潜在的にはもっているというのである。彼らは、そのきわめて多彩な声を使って、特定の物体からのエコーによって生じるであろう音のパターンを擬態しさえすればよい。このようにして、彼らはそうした物体についての心像を互いにつたえることもできるというわけだ。”
    とあります。
    つまり、僕ら人間が見る「光」は、太陽や電球などの反射でしかないけれども、エコロケーションを利用するイルカが見る「音」は、自らが声帯で発したものの反射。自分で作り出せるわけです。もし、人間が光を発することが出来るなら、横に座る恋人に、音声によるメッセージに加え、テレビのような映像によるメッセージが送れるのと同じ事です。
    なるほど、この小説で空想的に語られる「心像」の伝達は「あるかもしれない。」と思えます。
    また、人魚の可能性としての「人類海洋生物説」は、竹内久美子著「男と女の進化論」1994/02新潮文庫p21「背の高い男は何故モテる?」で、「水生人間説」として紹介されています。ここでは、「化石などの直接的証拠はというと、これが何一つとして出てこない。」のが残念ですが、もし、そうであったなら、そのまま海洋生活を続けた人間(?)が伝説の人魚として別の進化を遂げていることも「ありそうな」事です。
    ちなみに、~もう、探すのが面倒だから、出典を明記しませんが~リチャード・ドーキンスの著で、「雪男」の可能性を取り上げ、現在まで生き残った「旧人」または「原人」の子孫ではないか。としています。この推測は、まさしく本書「ウォーレスの人魚」での人魚に対する推測と事を同じくするもので、岩井俊二のSF的思考が、現代の進化論第一人者である「リチャード・ドーキンス」に匹敵するものであることが伺えます。
    二十世紀半ばのSF(サイエンス・フィクション)が、まさに日進月歩であった宇宙物理学に根を下ろしたものであったのに対し、現代の(例えば本書の)SFが、現在日進月歩の生物学に由来しているのが楽しいですね。
    「サイエンス・フィクション」としての本書について長々と書いてしまったので、切り上げますが、その他に
    「未知の生物を理解する」とはどういう事か?
    また、
    「愛」とは?
    について、感じることが多かった本です。
    前半を過ぎたあたりから、読書を中断することが出来なくなり、次の日は仕事だと言うのに徹夜して、読みつづけ、今日に至りました。
    未知の生物を理解し、愛を育むと言うことは、身近な未知の生物=異性を理解し、愛を育むことに応用できるということです。この本を読むと、恋人の不可解への理解への一助となる可能性がありますよ。と、誰に言って良いのか解からないメッセージにて、この感想を終わりにします。

  • 面白い。一気に読んでしまった。
    進化論含めてベースもしっかりしてて良い。

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著者プロフィール

映像作家。1963年1月24日仙台市生まれ。横浜国立大学卒業。主な作品に映画『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』『花とアリス殺人事件』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など。ドキュメンタリーに『市川崑物語』『少年たちは花火を横から見たかった』など。「花は咲く」の作詞も手がける。

「2017年 『少年たちは花火を横から見たかった 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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