リリイ・シュシュのすべて (角川文庫 い 42-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (471ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043441051

作品紹介・あらすじ

雄一は、中学一年の夏休み後、仲のよかった同級生から突然イジメの標的にされる。彼は、心の痛みをカリスマ的な存在である歌姫"リリイ・シュシュ"の世界で癒そうとする。そこだけが、自分の居場所であるかのように…。イジメ、万引き、援助交際…閉塞感に押しつぶされそうな日常と、そこから逃避してリリイ・シュシュのファンサイトに没頭する非日常の間で生きる十四歳。青春のダークサイドをリアルに描き出し、話題を呼んだ'01年公開作品のもとになった、ネット連載小説の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 『リリイ・シュシュのすべて』と出会ったとき、私は中学一年生だった。注目の新作映画、みたいな感じでめざましテレビで紹介されていた。少年が裸で田んぼを泳がされているシーンが強烈だったことを覚えている。

    父親の素行の悪さが原因で、母が兄と私を連れて家を出る計画を立てていたのも同じ時期だった。どうしようもなく不安定だった。兄も私もわかりやすく荒れていた。感情が一瞬で爆発するエネルギー、抑えきれない怒り、焦燥感、膨らみ続ける自意識。あの感情はなんだったのか。思春期といってしまえばそれまでだけれど、当時の私はどうしても抜け出せない沼に沈み込んでいるような閉塞感のなかにいた。どうすればいいかわからなかった。

    『リリイ・シュシュのすべて』を初めて観たのは、母と兄と私、三人で暮らすアパートだった。兄と私はまったく会話をしなくなっていた。母は働く時間が長くなり、家にいないことが多かった。私は中学二年生になっていた。四畳くらいの自室で一人、素晴らしい音楽や漫画、小説、映画と出会えた時期だ。ビデオをレンタルしたのか、テレビを録画したのかは覚えていない。カーテンを閉めたままのあの部屋のブラウン管のテレビで『リリイ・シュシュのすべて』を観た。感動ではない種類の興奮が私を襲い、私は飲み込まれた。翌日、学校にいる同級生たちが全員くだらない存在に見えた。こいつらはリリイ・シュシュを知らない、と心のなかでバカにして笑っていた。
    だから、「『リリイ・シュシュのすべて』って知ってる?」と同級生に聞かれたとき、驚いた。部活の遠征に向かうバスのなかだった。あの世界は自分だけのものじゃないのか、という不満もあったが、映画の話を共有できて嬉しかった。とても興奮した。

    その同級生と別の高校に通うことになっても頻繁に連絡を取り合った。音楽の話が多かった。断絶のような仲違いも何度もあった。それでも時間が経つとまたメールをしたり、夜中に公園で何時間も話したりした。『リリイ・シュシュのすべて』のビデオを中古屋で見つけた私はすぐに彼に自慢した。人が沢山いる時、彼は「リリイだ! リリイがいるぞ!」と言ってふざけたりした。”リリイ・シュシュ”は彼と私の合言葉だったのかもしれない。高校三年の卒業間近、私は小説版の『リリイ・シュシュのすべて』を電車のなかで読んだ。電車で本を読むのが好きになり始めていた。

    高校卒業後、彼は就職し、私は大学に進学した。それでも付き合いは途切れず、何時間もくだらないお喋りを続けた。免許を取った彼の車で『リリイ・シュシュのすべて』のロケ地巡りをした。夏だった。中学校やラーメン屋、理髪店を見て回った。当時お互い付き合っていた人を連れてきて、彼の部屋で『リリイ・シュシュのすべて』を鑑賞して何とも言えない雰囲気になった。
    あの頃付き合っていた人は、今では私の知らない人と結婚して子供を育てている。もう『リリイ・シュシュのすべて』のことは忘れてしまっただろうか。

    大学卒業を控えた頃、リリイ・シュシュ復活ライブが中野サンプラザで行われ、もちろん彼と行った。素晴らしいパフォーマンスだったが、ステージで歌っているのはリリイ・シュシュではなく、Salyuだった。もちろんSalyuは大好きだけれど、観たかったのは映画の、暗い沼でおぼれるように歌うリリイ・シュシュだ。あの狭い部屋で、一人で、ブラウン管テレビで何度も何度も繰り返し観たリリイ・シュシュが観たかった。自転車を漕ぎながらMDでリピートし続けたリリイ・シュシュの歌が聴きたかった。まるで自分だけが取り残されてしまったみたいな気分だった。
    (その後、亡くなってしまったフジファブリックの志村さんを送る会「志村會」が中野サンプラザで行われたこともあり、中野サンプラザにはあまりいい思い出がない)

    気づけば中学生の私が感じていた息苦しさは無くなった。永遠に思えた学生時代も終わった。
    本当に自意識の沼から抜け出せたのかはわからない。ただ、音楽、漫画、小説、映画、多くのカルチャーが私をずっと守ってくれたような気がする。中学から付き合いが続く彼とは今も友人で、毎年フジロックの話をしている(一昨年のフジロックでビヨークのステージが始まる直前にリリイ・シュシュの『アラベスク』が流れた時は二人で「リリイだー!」と叫んで笑った)。
    兄と会話しない期間もいつのまにか終わっていた。お互い成長したということなのか。兄は『リリイ・シュシュのすべて』を観たことがあるのだろうか。あれから何度か引っ越しをした。もう四畳くらいの部屋には住めない。
    成長、といえば聞こえはいいが、やはり取り残されたような気持ちは確かにある。

    就職後、昼休みにパソコンで眺めていたまとめサイトで『リリイ・シュシュのすべて』が中二病御用達映画と揶揄されているのを見て、思わず笑ってしまった。
    たしかに中二病にはもってこいの映画だと思う。中学二年だった私は『リリイ・シュシュのすべて』で変わった。色んな意味で拗らせてしまった。そして今でもリリイ・シュシュから離れられずにいる。
    時間が経って成長しても、十四歳の私がいる。
    あの狭い部屋のブラウン管越しに私を見つめている。

    --------------------------------------

    映画と小説で設定が微妙に違うから、時間を置いて読み直すと久野さんが死ぬことに何度も驚く。
    今でも公式ホームページのBBSではリリイ・シュシュの世界を楽しんでいる人たちがいることにも驚く。
    何故十四歳の私はこれほど支持されている作品を、自分しか知らないと思い込んでいたのだろう。井の中の蛙だ。そんな恥ずかしい蛙の私と、中学時代からずっと興奮を共有してくれてきた友人には言葉で言い表せないほど感謝している。面と向かって言うことはないからここに書いておく。私と友達でいてくれてありがとう。

  • 我が家の積読本は、ブックカバーをかけています。
    通勤出発前にパッと手にとった本がこちらでした。
    たぶん10年以上本棚に寝かしていた一冊…。

    あらすじを全く知らずに読み進めていて…
    あれ、これ…なんか不穏…と思い、ネットで検索。
    (結末知って読んでも大丈夫な人なのです)

    検索結果に、「トラウマになる」「鬱展開」とか書かれてしましたので、心して読みました。
    本当は精神状態が、あまりよくなかったので、
    読むのをやめたかったのですが、
    続きが気になって読む手がとまりませんでした。苦笑

    カリスマ的な存在の歌姫、リリイ・シュシュ。
    好意、ファン、推し、癒し、高貴、崇拝…

    リリイ・シュシュという人物を通して、
    ネットの掲示板「リリイホリック」に集う人たち。

    サティ、くま、ネヴィラ71、ねんね、鉄人29号、あみか、トムトム、カエル、ゆみこ、るか…そしてパスカル。

    顔も名前も年齢も性格も職業も何も知らない。
    リリイ・シュシュだけが、唯一。

    実は、過去に同様の掲示板が存在していた。
    更新が止まってしまったサイト「リリイフィリア」。
    なぜ、突然更新が止まってしまったのか。
    あの日、本当は何があったのか。
    リリイのライブ後、何があったのか。

    ファンの自殺、
    スタッフによる暴行傷害事件、
    ライブハウスで起きた殺人事件。

    リリイの周りには、
    強い希望、光が存在するのと同じぐらいの、
    絶望と暗闇が存在する。

    誰かを救うということ。
    道しるべになるということ。
    救いって何だろう。

    蓮見雄一、星野修介、津田詩織、久野陽子

    田舎町の中学校。閉鎖された町、学校、空間。
    いじめ、万引き、レイプ、援助交際…
    学校の先生ですら、生徒の顔色を窺い、媚びへつらう。
    誰も助けてくれない。
    解決できない。
    終わらない。
    逃げられない。

    ある時期を境に、星野からイジメの標的にされた雄一。
    辛い現実、日常を救ってくれたのはリリイの歌だった。
    とにかく語られる日常が過酷すぎました。
    家庭も教師も大人もあてにならない。
    頼りにならない。
    助け合えるのは、虐げられている者同士。
    それだって、本当に救ってやることはできない。
    たった一つだけの居場所。
    それがリリアフィリア。
    あの日、ライブで真実を知るまでは。
    誰も助けてくれない現実に、さらに突きつけられる真実。

    10代のころ読んでたら、どう思ってたかなあ。
    学生時代からかなり遠ざかった30代後半。
    それでも。
    読み切った後は、何とも言えない気持ちになりました。
    「そっかあ、そうなのかあ。」って。
    胸が痛くて苦しくなりました。

    私はトラウマにも鬱展開とか
    気持ち的に落ちたりはしませんでした。
    事前にネタバレしてたかもですが。苦笑

    ネットの世界は見えない分良いこともあれば残酷なこともあるし、学校生活が苦しく感じる瞬間があることは、今も昔も変わらないのかも、と思いました。

    唯一のリリイが実態として姿を現さないことが、
    ある意味の救いなのかもしれない。

    私はエーテルを感じることはできない。

  • 昔映画になったのは知ってて、原作あるのを知らずずっと映画を探してたんだけどなくて、ふいに古本屋で出会った1冊。タイトルから想像していたイメージと全然違って、なんだか痛かった。作者が監督だから、映画は的確に世界観反映されてるんだろうなあと思うと、さらに見てみたくなる。

  • 悲しくなる本。くらくなるほん。
    心にゆとりのあるときによむべき。
    もうちょっと落ちがあるのを期待してた

  • 評価をつけがたい

    読み終わってひたすら、気持ちがしずんだ

    そんなほん

  • 映画好き

  • 切なくて哀しくてとても綺麗な世界。

    まず「リリイ・シュシュのすべて」という
    タイトルに惹かれました。

    岩井俊二監督は映画「花とアリス」で知って
    とても綺麗な表現する監督だなあと思い
    他の作品が気になりました。

    リリイ・シュシュは映画ももちろん見ましたが
    私は映画を見る前に原作を読む派なので
    こちらを購入しました。


    この本の構成はとても新鮮でした。
    ネットのスレ形式で話が進められその構成の面白さに
    すらすらと読むことが出来ました。
    更に章ごとに挟まれてあるリリイ・シュシュの歌詞。
    とても綺麗な小説だなあと認識する点でした。

    小説の内容は中学生とは思えないような
    痛々しく悲しい物語ですがリリイの歌詞があることで
    どことなく癒され綺麗と思ってしまいます。

    小説を読んだ後に映画を見ることをお薦めします。

  • 映画見てから読んだ。映画の脚本と違う部分も少しだけあったけど...どちらにせよ救われる要素が増えるわけではない。それぞれ映画で表現する意味・書籍で表現する意味を追求した結果生まれた違いなのかな...?と思ったり。
    文体について、電車男みたいにネット掲示板の形式をとっている。
    前半部分では、生産性があるとは言い難いネット掲示板の会話が描かれていて、
    時代感・年齢感などを通して、ひとつの音楽を取り巻くファン達の存在がリアルに感じられた。
    後半部分は、主人公の掲示板での独白でストーリーが進んでいく(弁明?解説?のような感じ)。
    蓮見くんは、こんな子だったんだ、いろんなことを考えていたんだ、と、口を聞かない息子の携帯を勝手に見てしまった気持ち?(子供いたことないけど)これは先に映画を見たからだと思う。蓮見くんを演じている市川隼人さん可愛すぎだったから...
    一つ一つは掲示板への書き込みだけど、全体的には日記のようなエッセイのようなその文章から、状況や陰鬱な感情が直に伝わってくる。
    読みながら、映画で見た、鬱屈な空気に満ちた映像達を思い出し、蓮見くんの感情の答え合わせをするんだけど、全部そんな単純なものではないので正解とかはなかった。
    映画版では、画面の向こう側として学生達はそこにいるだけでとっても美しいし、カットや田園風景の良さで雰囲気にやられてたけど、
    書籍版では文字しかないのでそんなこと言ってられず、より残酷な事実だけが伝わってきた感じがした。あとリリィシュシュに対する蓮見くんの気持ちもよくわかった。
    そんな感じの書籍版、リリィシュシュの音楽を聴きながら読むことで、リリィを愛するこの話の登場人物と同じ体験をしていると自覚できて、とても楽しい(奇妙な?)読書体験だった。
    リリィシュシュの音楽は美しいのだけど下手したら自殺したくなるくらいの力があるってなんかとってもわかるな。とても良い曲なんだけど軽率に聴けない。引き摺り込まれすぎちゃうから。

  • むちゃくちゃ重たい、読了後のこのなんとも言えない感情はなんなのだろうか。言葉では言い表せない感情の暴力に襲われている。
    もう一度映画を観返したくなった。

  • 2022/02/08-02/10

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著者プロフィール

映像作家。1963年1月24日仙台市生まれ。横浜国立大学卒業。主な作品に映画『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』『花とアリス殺人事件』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など。ドキュメンタリーに『市川崑物語』『少年たちは花火を横から見たかった』など。「花は咲く」の作詞も手がける。

「2017年 『少年たちは花火を横から見たかった 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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