戦う哲学者のウィーン愛憎 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043496013

感想・レビュー・書評

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  •  作中の或る部分を引用しよう。
     曰く、「ヨーロッパ人と文字通り対等に振舞おうとすれば、かならずや彼らとぶつかるのであり、この対等原則をあっさりと捨て去り一応の礼儀にかなった行動をしていれば、まず彼らとの関係がまずくなることはない。たとえば家主との関係に限って言えば、家主の言い分が一方的で明らかに契約に反しているとしても、そのまま引き下がって要求をのみ、一方こちらの当然の要求を聞き入れてくれなくとも我慢し、その結果金銭面で思わぬ出費を強制されても『よい勉強であった』と悟り、東京や日本の悪口をそれとなく言われても一切逆らわず、逆にヨーロッパをウィーンを賞賛し続けるかぎり家主との関係はうまくいく、ということである。毎日このような状態で生活するのはなんとも窮屈に思われるのだが、じつのところたいていの裕福な日本人はこれに近い信条のもとに優雅なウィーン生活を送っているようである。」(pp.85-86)
     この部分は、そっくりそのまま日本のサラリーマンの生活を言い表すことに援用できよう。
     即ち、「雇用者(或いは上司)と文字通り対等に振舞おうとすれば、かならずや彼らとぶつかるのであり、この対等原則をあっさりと捨て去り一応の礼儀にかなった行動をしていれば、まず彼らとの関係がまずくなることはない。たとえば上司との関係に限って言えば、上司の言い分が一方的で明らかに雇用契約に反しているとしても、そのまま引き下がって要求をのみ、一方こちらの当然の要求を聞き入れてくれなくとも我慢し、その結果手当・労働時間の面で思わぬ損失を強制されても『よい勉強であった』と悟り、人格や家族の悪口をそれとなく言われても一切逆らわず、逆に上司を会社を賞賛し続けるかぎり上司との関係はうまくいく、ということである。毎日このような状態で生活するのはなんとも窮屈に思われるのだが、じつのところたいていの安定したサラリーマンはこれに近い信条のもとに優雅な会社生活を送っているようである。」
     ふと、そんなことを考えた。

  • 哲学者、中島義道のヴィーン留学記。著者の個性を端的に最も良く表した著作かもしれない。私費留学生としてはかなり恵まれた環境のように思えるし、トラブルの数々は自ら招いた部分も多い。全てを疑い、問題を掘り起こし、徹底的に思索するのが哲学者なのだが、それが社会生活にも徹底している。面白いが、疲れる生き方だ。

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著者プロフィール

1946年生まれ。
東京大学法学部卒業。同大学院哲学専攻修士課程修了。ウィーン大学で哲学博士号取得。電気通信大学教授を経て、現在は「哲学塾カント」を主宰。専攻は時間論、自我論。
著書に『哲学の教科書』『「時間」を哲学する』『ウィーン愛憎』『「私」の秘密』『「純粋理性批判」を噛み砕く』『哲学塾授業』『差別感情の哲学』『不在の哲学』ほか多数。

「2018年 『カントの「悪」論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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