兎の眼 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043520015

作品紹介・あらすじ

大学を出たばかりの新任教師・小谷芙美先生が受け持ったのは、学校では一言も口をきこうとしない一年生・鉄三。決して心を開かない鉄三に打ちのめされる小谷先生だったが、鉄三の祖父・バクじいさんや同僚の「教員ヤクザ」足立先生、そして学校の子どもたちとのふれ合いの中で、苦しみながらも鉄三と向き合おうと決意する。そして小谷先生は次第に、鉄三の中に隠された可能性の豊かさに気付いていくのだった…。学校と家庭の荒廃が叫ばれる現在、真の教育の意味を改めて問いかける。すべての人の魂に、生涯消えない圧倒的な感動を刻みつける、灰谷健次郎の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • あれ? バーコードで登録したのに全く違う表紙が出てきたぞ。
    ま、こっちの方がいいや。
     
    小学校の新任教師、小谷芙美が生徒たち、その親、同僚と接する中で、互いに成長してゆく物語。
     
    昭和初期~中期かな、貧しくとも逞しい子供たちに接するうちに、お嬢様だった主人公が逞しくなり、子供たちにも良い影響を与えるようになってゆく。
     
    楽しかった。
    これもブグログでどなたかのレビューを読んで購入した作品。
    ありがとう。

  • H29.10.17 読了。
    ・『大学を出たばかりの新任教師が受け持ったのは、学校では一言も口をきこうとしない一年生の男の子。周りの人たちとのふれ合いの中で、苦しみながらも男の子と向き合おうと決意する。
    学校と家庭の荒廃が叫ばれる現在、真の教育の意味を改めて問いかける。』と裏表紙に書かれてある。いわゆる名作で、ずっと積読しっぱなしでした。
    今回、先に読んだ友人の勧めで読んでみました。灰谷さんの文章表現が良くて、とても読みやすくかった。また、生徒と先生の交流場面は、子供のちょっとした気持ちの変化に気づいて喜んでいる先生の気持ちが、温かい気持ちにさせてくれました。もっと早く読めばよかったなあと思いました。

  • 大阪の工業地帯の町を舞台に、泣き虫の女教師と子供たちの魂の交流を描く。
    先日読んだ『二度読んだ本を三度読む』で「アナーキーな小説」と紹介されていて、久しぶりに読みたくなった。

    大学を卒業して間もない新婚の小谷先生。担当した1年生のクラスで、子供が蛙を踏み潰したうえ、クラスメイトにけがをさせるという事件が起こる。事件を起こしたのは塵芥処理所に住む鉄三で、クラスメイトが鉄三の飼っていたハエを勝手に持ち出し、蛙のえさにしてしまったのが原因だった。

    本書は、小谷先生と鉄三を中心に、鉄三の祖父であるバクじいさんや塵芥処理所の子どもたち、「ヤクザ先生」の異名を持つ同僚の足立先生など、さまざまな人たちの魂のぶつかり合いが描かれる。
    普段からほとんど言葉を発することのない鉄三と心を通わせたい、と小谷先生は奮闘するが、鉄三はなかなか心を開いてくれない。泣き虫な小谷先生は、悔しい、と泣き、哀しくなって泣き、怖くて泣く。泣きながらも決してあきらめず、さまざまな問題に一生懸命立ち向かっていく。
    そんな小谷先生を見守る足立先生は、戦後の食糧難で盗みをしながら自分を食べさせてくれた「おにいちゃんの命をたべて」大きくなり、バクじいさんは、戦争に翻弄されて結果的に朝鮮人の学友を裏切ってしまった過去を持つ。
    バクじいさんの想い、足立先生の想いが、若い小谷先生を支え、エネルギーとなっていく。

    本書が最初に発表されたのは今から50年近く前である。現在の教育事情を知っている人からすると、理想論にすぎると思われるかもしれない。
    けれど、私が久しぶりに読んで思ったのは、案外昔も今も変わらないものなんだな、ということだった。子供たちの間では残酷な遊びがはやり、貧しい者が蔑まれるし、学校に文句を言いに来る親がいれば、型通りの対応しかしない管理職や行政職員もいる。
    私は現在の学校の様子を良く知らないが、今でもきっと小谷先生のような一生懸命な先生も、足立先生のようにちょっと型破りだけど子供たちに大人気の先生もいるはずだ。
    本書の時代と現代とで異なるところがあるとすれば、バクじいさんや足立先生のお兄さんから足立先生、小谷先生へとつづく想いのつながりが、どこかで途切れてしまったことに起因するのではないだろうか。

    本書には、シンボルとして西大寺にある善財童子の像が登場する。静かな抵抗の精神をたたえた兎の眼をもつこの像は、ひたむきに生きる子どもたちの中に、むき出しの心で子供と向き合う小谷先生や足立先生の中に息づいている。

  • 国語の教科書を思わせるような本でした。良いことと悪いことは綺麗に線を引くことができなくて、自分と相手両方の視点から、問題を把握していくことが大切だと感じました。小谷先生の生き方はかっこいいと思います。

  • 初めて読んだのは小学生の時。
    それから折に触れて読み直している本。
    今回も泣いた。
    たぶん今までで一番泣いた。
    あらためてこの本に出会えたことに感謝。

    そういえば勧めてくれたのは当時の校長先生だったなあ。
    それだけで僕はその先生をいい先生だったと思う。
    それだけこの一冊は多くの大切なことを教えてくれる。

    でもその校長先生に教わったのはそれだけじゃなかったよなあ。
    いま思い返して見ると。

  • 児童文学の金字塔。初めて全部読んだが、いろんな要素が詰まった素晴らしい物語だった。新米教師の成長、貧困・差別問題、子供の成長や権力との闘いだったり。人間は抵抗する姿にこそ美しさがある、みたいな言葉にはハッとさせられた。何かに立ち向かう姿は確かに美しい。その美しさがこれでもかと物語に注入されていて、一つ一つの言葉に心を揺さぶられた。物語の登場人物は様々で、いろいろな立場といろいろな心を持つ。この中で自分は誰なんだろうとふと考えたが、小谷先生や足立先生でありたいと願うが立場によっては、差別する側の無視する側の人間でもあるかもしれない。でもそうありたい、と思わせることこそがこの本のすごいところではないだろうか。教育とはなにか、生きるとは何か、をきっちりと描いた小説だった。

  • 子供の頃この本を読んで読書感想文を書いたことを覚えていますが、内容の記憶は「ハエが好きな男の子と若い女の先生のお話」ということぐらい。角川文庫の企画でかわいい手ぬぐい柄のカバーがかけられていて、なんとなくもう一回読んでみたくなりました。
    読み返してみると、ハエを飼っている鉄三以外にもかわいらしい子供たちがたくさん出てきて、新卒で医者の娘である小谷先生が泣きながら傷つきながらも先生として精一杯この子たちと関わっていく気持ちがよくわかります。鉄三と小谷先生が少しずつ心を通わせていく様子はしみじみとうれしくほほえましいです。
    子供たちだけでなく、その保護者や小学校の先生たちもいきいきとキャラクターが描き分けられていて、その背中に負っているストーリーにもぐっときます。特に鉄三の祖父、バクじいさんの過去には胸が詰まりました。
    登場人物全員のストーリーが語られるわけではないけれど、誰にとってもその人の人生は一分の一のものだと改めて思いました。
    物語の後半で、鉄三やその他の子供たちが暮らすごみ処理所の移転問題が持ち上がります。そこに暮らす大人たちはごみ処理所で働いていて、処理所が移転すると転居せねばならず、子供たちは慣れ親しんだ小学校を離れ、転校を余儀なくされる。しかも新しい処理所は道路が整備されておらず子供たちの安全が確保されない。移転説明会でこの安全面での懸念について大人が役所の職員を問いただしたときに職員が言い返した言葉
    「きょうび、犬でも車をよける」
    を読んだとき、子供時代この言葉を読んだときの衝撃がよみがえりました。ああ、そうだ、あの時もこの言葉にはすごく頭にきた…

    自分の子供時代に刊行されて読んだ物語が、もはや古典のように感じられることにも驚きましたが、子供時代に読んだ本を大人になってもう一度読むとこんなに面白いのか!ということにも驚きました。

  • 友だちが送ってくれた一冊。
    初心に戻って考えさせられた作品。

    昔の作品?子どもにも読みやすいようにか、所々平仮名で登場する文章に違和感を感じ、なかなかスムーズに読めませんでした。
    現代の学校現場とのギャップとの違いにも違和感を感じて、ようやく読み切れました。

    子どもたちを第一に考えることは昔も今も変わらないということです。

  • 人を見つめる、見通す、見守る眼

    "正解"を強制せず、対話・行動を通して共に考える。ひとりひとりと向き合う理想の教育を、小説といえど、ここまで描いた作品を他に知らない。

    ■概要
    問題児、ちえおくれ(表現は原文ママ)であっても、一人の人間。多様性、個性尊重…そんなきれいごとを言いつつ、他者にレッテルを貼って敬遠してしまうのが現実。
    主人公の小谷先生も同様に、当初は問題児の鉄三に戸惑い、"常識"を教え込もうとして、反発を喰らう。(鉄三は無口なので顔面を引っ掻くという暴力をふるわれる)しかし、鉄三の真意に向き合うことと、"常識"ではなく真実を知ることを通して、問題児の鉄三が街を救うまでになる。

    ■所感
    足立先生の授業、生徒ととの向き合い方こそ教育。生徒に答えを教えるのではなく、いかに考えさせられるか、自ら考えること、行動することを放棄した者には厳しく(冷たく)する一方で、自力でもがくものには懸命に付き添う。
    小谷先生はじめ、処理所の子たちを親の職業や見た目で判断せず、虚心坦懐に向き合い、丁寧に聞き語りかけることをあきらめない。教育者、親、すべての大人の心に叩き込んでおきたい姿勢であった。

    処理所の人たち、子どもたちのピュアな心も忘れてはならない。卑屈になり、姫松小学校の先生に無下に反発していたら、なかなか心通わせるのもしんどかっただろう。

    後半は若干プロレタリアのイデオロギー臭がするものの、私たちの生活が誰に支えられているか、自分たちの取得するもの、排出するものを自分達で始末する責任を忘れてしまっていることに気づかされる。

    小学生の頃の師に20代最後の歳に勧められた本、育成に少しでも関わるものとして、また自分が親になる前に読んでおいて良かったと、心から思う。

    • tr26さん
      タカラモノを持って生まれた子たちを大人の事情、思い込みで潰してはならない。中にある原石が光るまで、自分で磨けるまで導いてあげるのが教育なんや...
      タカラモノを持って生まれた子たちを大人の事情、思い込みで潰してはならない。中にある原石が光るまで、自分で磨けるまで導いてあげるのが教育なんやね。
      口で言うのは簡単なんやけど、ほんまに難しいと思うよ。でもこれをできる大人、やってくれる大人に出逢えた子ども、それぞれ幸せやね。
      2020/10/29
  • 学校とは。
    地域で子どもを育てる。
    モンスターペアレントという言葉は、いつからできたのだろうか。

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著者プロフィール

1974年に発表した『兎の眼』が大ベストセラーに。1979年、同作品で第一回路傍の石文学賞を受賞。生涯を通じて、子どもの可能性を信じた作品を生み出し続けた。代表作に『太陽の子』『天の瞳』シリーズなど。2006年没。

「2009年 『天の瞳 最終話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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