- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043555024
作品紹介・あらすじ
「人魚の涙」と呼ばれる真珠の首飾りが、檻の中に入れられデパートで展示されていた。ところがその番をしていた男が殺されてしまう。横溝正史が遺した文庫未収録作品を集めた短編集。
感想・レビュー・書評
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横溝先生が遺した文庫未収録短編集。金田一たちが登場しない物語や、作家活動初期の作品もあるのでファンとしてはうれしい。さすがにツッコみたくなる粗い部分もあるけれど、文章力、描写の味わいは初期の頃から変わらないのはすごい。『心』が一番好き。
『汁粉屋の娘』
敬太郎は汁粉屋の裏庭で二人の女が争う姿を目撃した。友人・近藤と訪れたお店でその二人、お加代、お美代と出会う。その後、二人とも続けて殺されてしまう事件に発展して──。
「殺してやっても飽足りないよ、畜生!」
殺伐としたコウメ太夫みたいなセリフを聞いてしまった敬太郎。中学時代の同窓生・近藤と出会って休もうと入った汁粉屋が、なんとこのセリフを吐いた女が働く店だった!いやあ、剣呑剣呑。しかもそれから殺人事件まで起きてしまう!そんなことある?!とツッコみたくなるトリックながら、そこから巻き起こった人間ドラマのドミノと、近藤が残した言葉が余韻深い。
『三年(みとせ)の命』
医師・篠山博士は道端に倒れている青年を発見した。彼を自宅で看病しようとすると、なんとその足は生まれたばかりの赤ん坊のままで──。添えられた手紙には、生まれてからずっと暗室に寝かされ生かされ続けてきたという。その青年・軽部芳次郎の秘密とは?!
暗室から出た世界で知性を獲得していく芳次郎の姿と、彼の美貌に惑わされていく女たちのドラマ。芳次郎のモデルは、16歳まで地下牢に閉じ込められていたドイツの孤児カスパー・ハウザーかも?知識を得ることが幸せなのかという投げかけも感じる物語になっている。終盤は人間関係が入り乱れていて理解が追いつかなかった。例の病とは梅毒なのかな?あと、鳥渡(ちょっと)の漢字表記を初めて知って、それが最も印象に残ったという…。
『空家の怪死体』
空き家から発見されたのは女性の死体だった?!その家を借りる契約をした男は、お金を前払いして行方不明に。警視庁の吉岡警部は男の足取りを追うも、事件はどんどん深みにハマっていって──。
30ページの短編ながら、人間関係を解こうとするほど絡まっていくのが面白い。死体発見時のハラハラ感がピークで、それ以降は淡々と捜査が進んでいくのが惜しい。締めくくり方も出来過ぎかなと感じてしまう。
『怪犯人』
北伊豆地震が発生した日。「三河屋」の女中・お君は母の形見を取りに旅館へ戻った。しかし、そこで見たのはピストルを持った宿泊客だった!翌日、焼け跡からは男の射殺体が見つかり、なぜかその手の中には母の形見が握られていて──。
宿泊客の男・矢倉はなぜ射殺されたのか?お君の母の形見を握り締めていた理由は?ピストルを持った男の正体は?という謎と、現実に起こった地震が重ね合わせて語られるストーリー。職業「請負師」は怪しすぎる。人類最強の請負人的なものってコト!?ってなった。短編の中にもしっかり仕込みが効いてるのがいい。ただ、あれってイイハナシナノカナー?と思わなくもない(笑)
『蟹』
野村五郎は友人・二宮駿吉が仕事で遠出する間、部屋を借りることになっていた。仲間と飲み、酔っ払った足取りで部屋へ向かうと、そこには女泥棒が!彼女の肩には蟹の刺青が入っていた。それは五郎にも縁があるもので──。
蟹とは何を指すのかな?と思いきや、刺青とは!五郎が子どものころ、ある事情で預けられた街でのできごとが現在と重なり合うノスタルジックな一面が魅力的。美しい思い出の裏側にあった物語の重さが余韻深い。
『心』
元刑事・浅原が私に語ってくれた過去の事件。警察署へ飛び込んできた五十男・西沢大伍は従兄を殺したと告げた。しかし、年齢を訊けば二十六歳と答え、犯行日時は昨日と言いながらも、なんと今から二十二年前のことを口にしていて──。
浅原たちはちぐはぐの証言を確かめるため、遥か昔の事件をたどることになった。大伍は頭を打ったことで逃避生活をしてきた二十二年間の記憶を失くし、罪悪感から自首してきたらしいが真実は果たして?という導入が面白い。その足跡が明かされるほどに、心というもの危うさと純粋さを感じざるを得ない。終盤の署長の取り成し(ゴリ押し)っぷりが好き。
『双生児は囁く』
真鍮で作られた檻の中に飾られた真珠の首飾り「人魚の涙」。デパートの展示場という衆人環視の中、首飾りが盗み出されてしまった!しかもその番人をしていた男が大理石の像の影で殺されていて──。
あれ?この話はどこかで読んだような?と思ったら、金田一耕助シリーズの『スペードの女王』の原型作品だった!事件の発端や鍵になる刺青、彫亀という彫り物師の存在は共通しているが、その後の展開は大きく異なっている。金田一も登場せず、代わりに探偵役を務めるのは双生児のタップダンサー、星野夏彦・冬彦!二人は囁き合いながら、複雑怪奇な事件の謎に挑む。謎やキャラも仕込みがたくさんあって面白い。冒頭のこの文章で笑ってしまう。
「この菊月というのは、名前をきくと小綺麗だが、見るときくとは大違いで、とてもお話にならないほど、きたならしいおでん屋である。」
逆に行ってみたくなるフレーズ(笑) しかもそこに来た洋装の女が、顔にヴェールをかけたままおでんを注文するというシーンもシュールで好き。彫亀こと亀三郎がピンチの時に「助けてえ! 誰か来てえ!」と叫ぶのも憎めない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
横溝先生マニア向けの文庫未収録短編集。
表題作のタイトルはホラーチックな響きだが、意外にも陽気で好奇心旺盛な双子が登場。まだ磨かれていないが、魅力的なキャラになりそうな二人だった。
後に金田一ものに書き換えられてしまった作品だが、もっと育てていって欲しかったような気もする。
「三年の命」は後の『真珠郎』に繋がりそうな作品。あちらほど禍々しくはないが、当時の表現法なのか、何とももどかしい内容だった。
身内、近い者同士の確執という、横溝先生お得意のテーマも多く、当時からこういうのがお好きなんだなと思えた。 -
3-
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金田一耕助が登場しない7つの短編が所収。7編とも異母姉妹、双子が登場する横溝正史特有の戦前・戦中・戦後直後の血縁・愛憎がキーになる短編集。いずれも短編ゆえに、長編作品ほど、ドロドロとした人間模様は描かれていないけれど、それでもやはり横溝正史らしい作品集。
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さほどおもしろくない
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金田一が出てこない短編小説。良い。
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金田一が出てこない横溝作品集。書かれた年代もバラバラのようで、作品としても佳作もあれば何だこりゃなものもあり。表題作の『双生児は囁く』以外は、推理小説としては長さとしてもトリックとしても物足りない印象です。
全体的に、横溝作品の絶対的なテーマである「大正から昭和にかけての仄暗い空気感」と、「金持ちは必ず外に妾を作り、本妻が生んだのと同じ年の隠し子を作っておかなければいけないというある種の義務感」(笑)に包まれてるので、その辺が抑えられれば話の展開も読みやすくなります。
全体的には、まぁよほどの横溝ファンでもなければ手を出さなくてもよいでしょう、という印象です。 -
短編集なのでテンポよく読めた。
「三年の命」と「蟹」が印象深い。
他者とのコミュニケーションがなかったら、赤ん坊は死んでしまうと聞いたことがある。
最低限のコミュニケーションで育った人間は、どんなふうに成長してどんな人生を歩むのだろうか。
また、結合性双生児はとても興味があるので、モチーフにした作品があったら横溝以外でも読んでみたい。
いや読んだような気もするけど忘れたな… -
横溝正史の短編を読んでみたい方は是非