- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043555048
作品紹介・あらすじ
あの晩、私は変な男を見た。黒い帽子を被り、黒眼鏡をかけ、黒い外套を着たその男は、義足で、歩くたびにコトコトと不気味な音を立てていた。そして男は何故かある夫婦をつけ狙っていた。彼の不審な挙動が気になった私は、その夫婦の家を見張る。だが、数日後、その夫のほうが何者かに惨殺されてしまい-。表題作「殺人鬼」をはじめ、「百日紅の下にて」も収録した短篇集。名探偵・金田一耕助が四つの事件に迫る。
感想・レビュー・書評
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ある晩に探偵小説家・八代が見かけた黒づくめの男。コトコトと不気味な音を立てて歩く男はある夫婦をつけ狙っていた。そして、殺人事件が巻き起こる表題作『殺人鬼』を含め、四つの事件を金田一耕助が追う!
短編集ということで読みやすく、それでいて横溝正史の世界観も楽しめる。人物描写の濃厚さ、事件の語り口の巧妙さはさすが。戦後という世相、人の本性、それが鬼となっていく過程の苦さ。横溝作品はなんでこんなに濃いのにすらすら読めるのか、いつも不思議でならない。
『殺人鬼』は一筋縄ではいかない人の情念が絡み合った蜘蛛の巣のような作品。それぞれの人物が持つ秘密と本性がもつれ合っていく複雑さ。人の奇妙さなんて、見た目からではわからないのかもしれないね。解釈の余地が残るラストもいい。
百貨店でいつも万引きをしていく厚いヴェールを被った女がいた。彼女が店員を刺殺する事件が起こる。しかし、彼女の万引きは見逃す謎のルールがあった。ヴェールを被った女の正体を探る『黒蘭姫』。謎を追うと新しい謎が飛び出す展開が面白い。ヴェールをはぎ取った下にある素顔。これまたミステリの中に人の感情を織り込むのが上手い。
香水で財を成した『トキワ商会』社長の孫が人妻と起こした心中。しかし、それは殺人だと言う社長の依頼を受け、金田一と等々力警部が捜査をする『香水心中』。二人の会話が軽快で好き。香水の香りの中で死んだ二人の謎。そこから始まる人間関係の連鎖。タイトルの意味を知った時のやるせなさ。どの登場人物もエゴ剥き出しで、鬼ははたして誰だったのかと思うばかり。
亡くした戦友からの依頼で佐伯という男を訪ねた金田一。佐伯が愛した女性の一周忌に起きた事件の推理を語る『百日紅の下にて』。戦後、無くした家の跡で、亡くした女性のことを語るという哀愁たっぷりなエピソード。これまた人の情と恨みの深さを思い知る物語になっている。一番短いけど、それを感じさせない内容で好き。
それにしても「9歳の時から自分の妻か愛人にするつもりで、手塩にかけて女の子を育てました。そうじゃないとシャイなので結婚もできないと思ったので~」みたいなことをほのぼのと語るんじゃない!事件よりもそっちが気になるわ(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
4つの短編からなるミステリー作品ですが、どの話も面白かったですね!特に最初の殺人鬼と最後の百日紅の下にては、両方義足の復員兵が出てきて、繋がりがある話なのか?と思いきや全く関係ありませんでした・・・
それにしても短編ながら、しっかりとしたミステリー作品にどれも仕上がっており、さすがは金田一耕助シリーズだと感心するのでした! -
久しぶりに金田一ものを読んだこともありおもしろかったです。「百日紅の下にて」は内容が印象的で、なかなか秀逸であり、短編ならではの良さがありました。
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短編集
長編の方が個性と面白さがあって好きだが、
なかなか良くまとまった短編4つが収録されている。
「殺人鬼」
犯人は予想通り、と思いきや、
本当にそうかはわからない、と謎をはっきりさせない結末で気になる終わり方。
「百日紅の下にて」
対談で明かす過去の事件。
紫の上設定は特に事件に関係ないので、
性癖か?書きたかっただけか?
殺人するほど愛の深さを示すため?(笑)
警察に突き出すためではなく、
戦友の思いと謎解きのために対談した
金田一耕助の去り方がかっこいい -
金田一耕助の短編集。「殺人鬼」「黒蘭姫」「香水心中」「百日紅の下にて」の4作品が収録。章末で、金田一耕助が戦前、復員後、事務所をどこに開設したり、移動しながら、どんな事件を解決してきたか、時系列に少し解説されていたのは、金田一耕助の功績を振り返るうえで、大いに興味深い。
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おもしろかった
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「殺人鬼」「黒蘭姫」「香水心中」「百日紅の下にて」の金田一耕助シリーズ短編集。戦後まもなくという時代背景など、古い作品であることはわかるのですが、とても読みやすく小説としての古臭さを感じることはありません。どの作品の女性も色々な意味でとても強く、美しく、そして悲しいです。「黒蘭姫」は謎より探偵事務所に依頼主を迎えたときの金田一氏の様子が微笑ましく印象的でした。好みは対話だけでストーリーが進む「百日紅の下にて」。謎解きもとても鮮やかですが、ラストシーンも情景がまざまざと目に浮かぶようでとても好きでした。
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短編集故にさくさく読めるかと思いきや、やっぱり背景や血縁関係の入り組んだ設定が出てきて頭を使わないと読めないものがあった。
間違いなく同じ人の文章だと分かるのに、手を替え品を替え、語り口や設定の妙が飽きさせないで最後まで読ませてくれる。