作品紹介・あらすじ
中絶の専門医である古河は、柔らかい物腰と甘いマスクで周りから多くの人望を集めていた。しかし彼の価値観は、母親から幼いころに受けた虐待によって、大きく歪んでいた。食べ物を大切にしなかった女、鯉の泳ぐ池に洗剤を撒いた男。彼は、自分が死に値すると判断した人間を地下室の檻に閉じ込め、残忍な手段で次々と殺していく。猟奇の陰に潜む心の闇をリアルに描き出した気鋭の衝撃作。
感想・レビュー・書評
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いままで読んできた小説の中で1、2を争う読後感の悪さだった。拷問による殺人の描写も胸糞悪かったしただ殺人を楽しんでるだけだって言ってるけど明らかに自分の正義に照らし合わせた私刑だよね。ほとんどの犠牲者の人たちはそんなことで殺されなきゃいけないのって感じだったし、結局は生まれ育った環境のせいみたいになっちゃってるけど世の中恵まれた環境で育ってきた人ばかりじゃないし、可哀想だとは思うけど結局それで犯罪に走るってのは甘えてるんじゃないのって思う。
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実は読むの2回目。たしか高一の初めの頃読んだ。
相変わらず良かったが、昔よりも楽しく読めたな。
主人公が良い。イケメンだし。敬語で「僕」なのが崩れなくて良い。30歳という年齢も絶妙。
暮らしぶりが優雅すぎてちょっと笑っちゃうけどそこはまあフィクションということで。
そんなクラシックばっか聴いてられるかい。
主人公、やさしいと評するのは変だが、かしこい純粋な子供がバグった感じだな。
彼は無意識のうちに、堕ろされた弟や幼少期の自分に憐れみのようなものを抱いていた。
その憐れみと、母親からの愛情への切望と憎しみが複雑に絡み合い、殺人を犯すようになってしまったのかな。
けどそれらを「生まれながらの殺人者だから」と理由づけた。ナチュラルボーン・キラーなんて言葉まで使って。
最後、自分の双子の存在を知って一旦納得するんだよな。だから自分は人を殺しても平気なんだって。
でも彼の理知的な性格からして「胎内で双子を殺したからって殺人者ではない」なんて言いそうなものだが?
多分彼は「自分が命をなんとも思わない殺人犯である」というストーリーを求めていて、だからこそ双子の話に飛びついたんじゃないか?
許しを乞うことはしない。殺された側はそんなことは知ったことじゃないから、いっそ罵られた方が彼らにとってはまだいい。
彼のこの考えがここにきて効いてくるんですよね。
彼は自分の殺人癖を複雑な出自のせいだと主張して、許しを乞うことはしないとわかる。
ただひたすら自分が生まれながらの殺人者なのだと自分自身に言い聞かせるだけ。
けど、生まれながらの殺人鬼なんていないんじゃないか。
「僕は生まれながらの殺人者なのだ」
そう言い聞かせないとやっていられないんじゃないか。
彼のこの仕事も、彼の人生も。
そんな理屈を並べて、結局、お母さんに愛されたかっただけだったんじゃないか?
彼の義理の弟みたいに普通に育っていたら彼はこんなふうにはならなかったんじゃないか?
でもそんな「もしも」に意味はない。彼もそんなことは望んでないと思う。
彼は生まれながらの殺人者なんだ。そういうことにしておこう。
人間になる前の弟や妹への憐れみ=人間じゃない犬や鯉への憐れみか?
ヤンが来てから花火を見るのも弟に重ねてたのかな。
ヤンのそばにいてやりたいけど叶わないだろうって。お前……ヤンだけは僕を必要としてくれるみたいなこと言ってたのバカ切なかったな。
お母さんを招待して一緒に食事しようとしてるのも悲しいな。
なんか、殺人という行動に反して態度が幼すぎてつらい。
義理の弟があんなに幸せになってて、
自分がお母さんに愛されない理由づけがもう成立しなくなってしまったもんな……。
お母さんは平気な人だったのになんでそんなに泣くんですか?って言いながら主人公も泣いちゃったところ、マジで見ていられない。
結末も良かったなあ。いつかくるこの暮らしの終わりを予感しながらも、穏やかな毎日をとりあえず続けていく。
グロに偏りすぎず、奇妙に切ない良い小説だった。
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淡々とし過ぎでいるような、あまり怖さ、異常性を感じませんでした。
ホラーが苦手な方に向いている作品かもしれません。
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10年以上前に読んだ本を再読。
主人公の古河先生がダークヒーローのような扱いにならないよう、配慮して作られているように感じた。
一歩間違えば『DEATH NOTE』のキラのような存在になってしまいかねないが、そうではなく、あくまで私利私欲のために殺人を犯す存在として、ギリギリのラインで描かれていると思う。
また、(物語としての要素が強くなってはしまうが)反出生主義を語る上での一資料としても有効なくらい、産まれること/産まれないこと、生きること/死ぬことについて考えた上で書かれているように感じる。
特に、「あとがき」の「生まれたことと、生まれなかったこととのあいだに大差はない。生まれて来られた者もすぐに死に、生まれて来られなかった者と同じになる。だから──生まれられなかった者たちも、そんなに悲しまなくていい。戦争と飢餓しか知らずに死んでいく子供たちも、そんなに嘆かなくていい⋯⋯」という部分は、おそらく作者の思想そのものであり、他作品にも通ずるだろう。
ただし、この思想について、私はそうは思わない。宇宙規模のマクロ視点で考えれば「大差はない」が、では「生まれて来られなかった者」に「どうせみんな数十年で死ぬから同じだ」と言って、納得させられるだろうか。「生まれて来られなかった者」は、その数十年のために生まれようとしていたのだから、「大差はない」で済む話ではない。主人公に惨殺された数人に「どうせ犯人もすぐに死ぬから、そんなに悲しまなくていい」と言ったところで、なんの意味があるのか。出生や生死の話の大半はミクロな視点だ。
根本的な部分で、作者は思想の方向を誤っているようだ。
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大石さんの作品を読むきっかけになった本だったと思う。
ホラーではあるが、怖くはない。
タイトル通り、殺人をライフワークとする医者の話。被害者は(殺されるほどではもちろん無いが)ある程度の胸糞行為をした人間なので、懲らしめ系が好きな人はスカッとするかも?
グロ度も低めなので、読みやすい。
他の方も書いていましたが、作者のあとがきこそサイコパスじみてて最もホラーに感じます。笑
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うーん、ギリギリ★3だけど、あまり気持ちのいい怖さじゃなかった気がする…
グロいの好きだけど、中絶系が痛そうで痛そうで、お腹のあたりがムズムズしてた。
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大石圭先生の作品は以前に
人を殺すという仕事を読んでおり
他の作品も気になりこの本を手にしました
人工中絶についての歴史は
なるほどと思いながら読んでいました
私的にはグロが好きなのですが
そこまでグロさはありませんでした。
過去の虐待
生きている事に値しない人間
医師という立場で合法で殺人
人それぞれ考え方がありますが
そう言われればそうなってしまう
否定できない部分も(中絶について)
ありました。
大石圭先生は私は好きなので
他の作品も読んでみたいです
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怖い。
ゆっくりゆっくり絞められるような怖さがあった。怖いのに、文章が読みやすいという罪深さ。
病気の犬、幼い子ども、カラス、ヒヨドリを心配する心、ソメイヨシノの美しさを感じる感受性、その反対もまた激しい。
恐ろしいことが繰り広げられているのに、たんたんと話が進んでいき、たんたんとコトが終わってゆく。たんたんと終わることを主人公は知っている。
主人公の感情の起伏が少なすぎるから、怖さが増幅するのか。
(過去に関すること・たぶん愛していると思っている人に対する衝動以外冷静すぎる)
学生の頃、中絶・妊娠のドキュメンタリーを授業で見せられたときに、お腹のなかで(羊水の中で)逃げ惑う子どもの映像が衝撃的すぎて怖かった記憶がある。
中絶に関すること、拷問のシーンなど結構書かれているので、読むときは考えてからどうぞ。
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28年2月29日読了
面白かった!
死者の体温を10年ぶりくらいで読み直した時は、こんな感じたっけ?と少々がっかりしてしまったが、これは、求めてた大石圭の本って感じた。
グロ切ない。
たんたんとしてて、詩的な乾いた辛さ。
著者プロフィール
1961年、東京都出身。法政大学文学部卒業。93年、『履き忘れたもう片方の靴』で第30回文芸賞佳作を受賞し、デビュー。『アンダー・ユア・ベッド』『殺人勤務医』『絶望ブランコ』『愛されすぎた女』『裏アカ』など、著書多数。2019年には『殺人鬼を飼う女』『アンダー・ユア・ベッド』が立て続けに映画化され、話題に。
「2023年 『破滅へと続く道 右か、左か』 で使われていた紹介文から引用しています。」
大石圭の作品
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