今昔物語集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

制作 : 角川書店 
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感想 : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043574094

作品紹介・あらすじ

インド、中国、日本では北海道から沖縄まで、広大な舞台に繰り広げられる、平安朝の生んだ日本最大の説話大百科。登場人物も僧・武士・庶民などさまざまな階層に及び、ヴァラエティに富む説話を収録。現代語訳と、古文の生き生きとしたリズムによって、豊饒な話の宝庫をヴィジュアルに楽しめる。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の古典の旅に凝っているこのごろ。これも芥川龍之介くんのおかげです。となればその元ネタをこっそりのぞいてみたくなるのが人情で、本を開いたとたんに900歳も老けた! なんてこともなく、わくわく舌を巻くようなおもしろさです。

    『今昔物語集』は、1100年初め、平安時代末期の作品で、作者も編者も不明です。1000話以上の説話が、天竺(インド)部、震旦(中国)部、本朝(日本)部の三部構成で美しく分類され、900年前にして視野もキャパも破格!

    ***
    「長大な鼻を茹でては脂(あぶら)抜きをする高僧の食事風景」(28巻20話)は、芥川の名高い『鼻』のオリジナル作品です。読むはしから大笑い、なんだか自分の鼻までむずむずする。

    「色香とムチで若い男を調教する盗賊団の美人首領」(29巻3話)は、芥川の『偸盗(ちゅうとう)』のオリジナル。おぼこい青年が男装した美女にムチで打擲されて恍惚とする?――これゃSM?!

    さらに「名刀と交換した弓矢でおどされ妻を犯された夫」(29巻23話)は、芥川の『藪の中』のオリジナル。彼の小説作法に感心した私のお気に入り作品の一つです。芥川はこの話をネタにして、官憲の取り調べ記録風に当事者、目撃者、証人などの鮮烈な証言をパズルのように組みあわせていきます。

    きわめ付きは「天下の色事師を焦がれ死にさせた氷のような美女」(30巻1話)。プレーボーイ歌人、平定文(たいらのさだふみ)は、恋い焦がれた女の便器を密かに入手して猛烈うっとり、しまいには……なに~これ!?(食事中の方ごめんなさい、でもこれも芥川『好色』のモデル)

    古文でさらりとかかれた破天荒な物語に唖然として、わたしは笑いがとまりません。こうなってくると、世俗の生々しい輝ける野蛮話(100話)を連ねた中世ルネサンスのボッカッチョ『デカメロン』以上の直球・庶民譚が、1000話以上も存在していたということですよね? これはまったく知らなかった……すごい、めまいがします。

    ということで、めくるめく世界から、本書は天竺・震旦部は6話、本朝部は23話。一話ごとに現代語訳・古文・解説・図版などもあって、大人向けとして至れり尽くせりの入門本です。古文の独特の流れ、生き生きとしたおもしろさ、なんといっても自由と多様さに圧倒されます。まったく人間とはなんぞや??

    ところで、同じ平安時代に書かれた『源氏物語』は、歴史上も燦然と輝くスター文学です。その一方で、本作はなぜか江戸時代も半ばになるまで明らかにされない日陰の文学だったようです。

    ――なぜかしら?

    登場人物は多種多様で、神仏、天皇、貴族、僧侶、武士、浮浪者、盗賊、老若男女、動植物、霊魂、妖怪……。話は悲喜こもごも、滑稽、卑猥、ユーモア、妄執、嫉妬、倒錯……広大無辺。
    そのあまりの自由と奔放さに、ときの政権や宗教は、憂いや危惧を抱いたかもしれません。まるで教会権威や社会の固定観念を打ち壊した中世ルネサンスのように、人間という「素」から溢れ出すパワーや、個(人)としてそれを表現したいという渇望は、つねに快活さと野性の力を孕んでいて、それを抑圧したい為政者や表現の自由を弾圧してきた歴史との相克でもあります。洋の東西とわず、今も昔も、表現はきまって不自由なのね……
    ……と、まったくもって勝手な妄想をしながら、なにはともあれ、『今昔物語集』が時の荒波をくぐって(一部は喪失)生き残ってくれたことがただただうれしくて、それを地道に写しながら護ってきた名も知らない先達に感謝したい。

    今(も)昔(も)、悲喜こもごも、人間のありようを鮮やかに描いた物語は、これからも時空を超えて不滅です♪

    • nejidonさん
      アテナイエさん、どのレビューにコメントしようかと悩んでこの本に決めました♪
      ワタクシも今昔物語はとても好きなもので。
      皆さん古典と言うと...
      アテナイエさん、どのレビューにコメントしようかと悩んでこの本に決めました♪
      ワタクシも今昔物語はとても好きなもので。
      皆さん古典と言うとなぜか源氏(それとも枕草子とか)の方に行きたがるんですよね。
      もちろん何の異論もありませんが、今昔物語だってじゅうぶん面白いと思うのです。
      矛盾に満ちて、生き生きとして、雅とは縁遠いのにたまらなく惹かれる。
      龍ちゃん、やるじゃん!と言いたい(*'▽')
      大人こそ今昔物語を、というのがワタクシの年の瀬の主張です。誰も聴いてくれないでしょうけど。
      一年間、楽しくレビューを読ませていただきありがとうございました。
      どうぞ良いお年を。
      来年もよろしくお願いします♡
      2020/12/31
    • アテナイエさん
      nejidonさん、こんにちは。いつも楽しいコメントありがとうございます(^^♪

      言われるように『源氏物語』とちがって、直球『今昔物語...
      nejidonさん、こんにちは。いつも楽しいコメントありがとうございます(^^♪

      言われるように『源氏物語』とちがって、直球『今昔物語』は、シレ~と可笑しなことを書いてますので、よけい笑いがとまりませんね。ときどき悩みます。いったいこれは、はたしてウケ狙いなのか? いやいやいたってマジメに書いてます、丁寧に、古文で(あたりまえか)スゴみもあるし。名もわからない作者が描くことを楽しんでいるのが伝わってきて幸せな気分になります。

      学生の頃は触れるだけで、なんだかピンときませんでしたが、久しぶりに芥川くんの本をまとめて再読したおかげで、こちらへ繋がり、おそまきながらその良さがわかったのです。でも本は出合って読んだときが吉日なので、いつ読んでも遅いということもないし、書棚で猫のようにのんびり寝てまっていてくれますから、つくづく本はいいものです。

      今年はnejidonさんの情熱的なレビューを楽しく拝読しました。ほんとうにありがとうございました。読むのも書くのも遅い私ですが、また来年も宜しくお願いします。
      よいお年になりますように(^o^)
      2020/12/31
  • 芥川の王朝物や菊池寛の小説がおもしろかったので、元ネタの方に興味がわいた。
    インド(天竺)、中国(震旦)部というものがあるのは初めて知った。日本の話ばかりじゃなかったんだ!
    この本には6話しか紹介されていないけれど、もっと読んでみたい。

    一番面白かったというか、驚いたのは「弘法大師、修円僧都に挑みたる語」。
    ライバルの修円僧都を弘法大師が策略を用いて祈り殺す(!)
    …これ本当に弘法大師なのか?
    これにはちゃんと理由というか、オチがあるのだが、こじつけっぽさがむんむんする。
    浮気男を変装した妻がひっかけてボコボコにする話も笑える。
    平安時代の女性って奥ゆかしいイメージがあるけど、こんな強い人もいたのかと思うと妙に親近感を覚えてしまう。

  • 平安末期、世は乱れ
    権力者の風流な文化人貴族は恋愛や金儲けに
    うつつを抜かし、質実剛健野蛮な武家の世への
    移り変わりがわかる。
    厄病などは医療的処置はなくただ祈祷する
    ばかりで現代に感謝、感謝。

  • 田辺聖子の「鬼の女房」の題材に今昔物語の話が多く使われていたので気になって読んでみた。
    安定の角川ソフィア文庫。現代語訳と原文と寸評のバランスが良いですね。話が長いものについてはあらすじが入ってるのでよりわかりやすい。
    初心者が読むにはもってこいです。

    インド、中国、日本の説話集。
    好きな話は、「炎に飛び込み、身を焼いて食事に差し出したウサギ」。
    ウサギの馬鹿真面目さが面白いしかわいそうになってくる。
    普段芥川作品を読まないので、ところどころで芥川龍之介がこの話に取材して〜とあったのが新たな発見でした。
    芥川作品に興味が湧いたので読んでみたいなぁと思います。
    特に藪の中がどんなお話になるのか気になりすぎる、、

    平定文の、恋い焦がれて死んでしまった話は崇徳院の和歌「瀬をはやみ〜」の落語にオチが似てるなあと思うと同時に、片思いで死ぬのは昔からよくある話なのかと思いました。ありがちなのかね。

    そして欠巻があるということで、もしかしたら今後見つかるかもしれないですね…!

  • 「 今昔物語集 」 古典を読むときは 角川ソフィア文庫から。読みやすくて 1冊で終わるので、入門書として最適。

    1冊の中に 笑いあり、驚きあり、下品あり、愛あり、人生訓ありの飽きないチョイス。説話のタイトルづけも上手い。芥川龍之介がモチーフに使った説話や インドや中国の説話も押さえている

  • 俗っぽい、ああ俗っぽい。こういうお話は男子が好きなんだろうねぇ。

  • 日本古典文学大系や、日本古典文学全集で読めば、全部読める、わけだが、あの漢字片仮名表記の本文に気持ちが萎えること早幾度。
    ダイジェストでのおつきあいばかりとなっている。

    田辺聖子さんのものは、本朝部を扱っていたと思う。
    本書では、やはり本朝部が大半を占めるけれど、天竺部、震旦部からも採録されているのがいい。
    きっと注釈をつけるのは大変なんだろうと思う。

    臨終のお釈迦さまが、息子ラゴラに愛着を示したという話、法力で争った相手を呪い殺した弘法大師の話、相手の連れてきた識神を封じ込めた安倍清明の話などが印象深い。

    後半は有名な話が多かったかな。

  • 今まで読んだ今昔物語の中で1番読みやすい!

    インドや中国の話もあるとは知らなかった。知識不足でした。

  • 聞いたことがある話から、ちょっと治安の悪い話まで幅広いです。今読んでも、笑うポイントは同じなので、十分楽しめます。

  • 入門編として最適。現代語訳の後なので、原文も何となく理解出来るし、ピックアップされてる話も面白かった。

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