伊勢物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

制作 : 坂口由美子 
  • 角川学芸出版
3.72
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本棚登録 : 430
レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043574230

作品紹介・あらすじ

雅な和歌とともに語られる「昔男」(在原業平)の一代記。垣間見から始まった初恋、天皇の女御となる女性との恋、白髪の老女との契り――。全一二五段から代表的な短編を選び、注釈やコラムも楽しめる。

感想・レビュー・書評

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  • ごめんなさい……、久々に出会った、ときめかなかい殿方でした、昔男さん。
    だって、わたくし一途な愛が好きなんですもの!あの一条天皇と定子の悲恋のような。

    伊勢物語の主役である「昔男」は、二条の后・藤原高子と恋愛関係にあった「在原業平らしい男」といわれてきたのはご存知の方も多いことでしょう。わたしは当然、昔男は業平本人を指しているものだと勘違いしてました。
    でね、この「らしい男」というのが、伊勢物語のポイントでもあるんじゃないかな。
    解説には、〈昔男は、在原業平であって業平ではない。だから、「昔男」は史実に縛られず、どんな相手ともどんな場所ででも恋ができるのである〉と説明されている。
    「業平らしい男」という出所不確かな噂話のような響きによって、世間がイメージする昔男の魅力が、さらに思う存分引き出されたのでは……と思ったからなのね。
    さらに、〈『伊勢物語』の本文は「寡黙」なことである。「寡黙」とは、語りの味わいを失わないぎりぎりのところまでしか、語らないということである。……本文が寡黙であるにもかかわらず、ではなく、だからこそ、行間は「おしゃべり」なのである。〉とも。
    確かに『伊勢物語』は語っていそうで、実のところ語っていないと読んでいて思う。え、だから、その恋はどうなったの?なんて、想像を掻き立てられる物語なのよ。

    「昔男」のモデルとなった在原業平は、美男の貴公子!お勉強はちょっと苦手っぽいけど、和歌は素晴らしく情熱的な歌を詠む。物事に囚われず奔放な彼は、数多くの恋も経験してきた。
    さて、この「業平らしい男」の昔男さん。
    〈月と春去年も今年も変わらぬが〉の段では、高子(25歳)が、清和天皇(17歳)の女御となり、彼女ともう二度と会うことはできない喪失感を歌に詠む。

      月やあらぬ春や昔の春ならぬ
        わが身一つはもとの身にして
     
    月は去年の月と同じではないのか、春は、去年の春と同じではないのか、私の身一つは元のままなのに。
    あなたをなくして、色も香りもない世界になってしまった……みたいな感じでしょうか。失恋をしたことがある方は、この心情がよくわかるのでは。うんうん、わたしはよくわかりますとも。

    また、〈芥河はかなき女は露と消え〉の段では、高子が従姉の女御のお側にお仕えしていたところを、昔男は彼女を盗み出し暗闇を逃げるのだ。
    途中、彼女は草の上の露を見て「あれは、なあに」と男に尋ねる。このあどけない姫。男はその無垢な子どもっぽさがたまらなかったらしい。
    ……ないわぁ。お姫さま、それないわ。あざといわ。小悪魔的なあざとさは、わたしは好きよ。でもこれは……浅はかすぎっ。それを可愛いと思う男。くーっ、男ってやつはっ。
    結局、姫は追いかけてきた兄君が取り返すのだけど、それは「鬼」が姫を食べてしまったとなるのだ。

    もう会えないと言っては泣き、鬼に食われたと言っては泣き……
    高子との恋愛に破れた可哀想な昔男。もう二度と恋なんてするものか、なんて決意するのかと思いきや、実男(まめをとこ)の本領を発揮して、次の恋愛へと向かうのだ。まあそれはそれは、次から次へと。そのどれもが本気の恋っていうのだから、あーた呆れて物も言えないじゃございませんこと?
    いや決して、昔男がキライってわけじゃないの。恋愛だけじゃなくて困ってる人がいたら、手を差し伸べてあげる思いやりもある昔男。
    「いい人」なのよ。

    わたしにとってプレイボーイって、女性に本気にならない、遊びの恋の達人ってイメージがあるのよね。
    たとえば、二条の后への想い忘れるために恋愛を重ねるとか、本気の恋をすることに臆病になって遊びの恋しかできなくなったとか。そういう辛い過去を背負ってる、影のあるプレイボーイだったら、わたしはときめく(きっぱり)。
    だけど昔男には、わたし基準のプレイボーイの定義があてはまはないのよね。だって彼は、どの恋にも本気になるし、泣くし、浮気を疑うし、その他諸々。そういうところが、なんともほっとけなくて、可愛らしく思っちゃって、ときめかないポイントでもある(複雑なのよ、乙女心は)。

    ついには、昔男は伊勢の斎宮恬子とも恋仲に。まあ、この恬子が、露も知らない無垢なお姫さまとは違い、男の寝所にしのびこむ積極的な女性。そして男との縁は浅いものとして、深い契りを交わすことはできないと、自分の想いを断ち切ることのできる強い女性。
    それにしても、二条の后高子も伊勢の斎宮恬子も、禁断の恋の相手。あーた、恋に奔放すぎじゃありませんこと。え、またそこいく?みたいな。
    でも、彼女たち側にしたら、どうしてもクラクラといっちゃう魅力が昔男にはあるのよね。

    なんだか、昔男についてばかり語ってしまった。いつの間にか、わたしも「業平らしい男」の魅力にハマっちゃったのかしら。あらら?

    本物の在原業平がどのような人物だったのか、本当のところをよく知らない。業平のことをちゃんと知っていけば、彼のことは大好きになる可能性は高い。だって美男の貴公子だから(きっぱり)。

    最後にその業平のイケメンぶりを見せつけてくれた、口絵の英一蝶「見立業平涅槃図」を紹介。
    〈釈迦の涅槃に見立てた業平の終焉図。娘風の、良家の人妻風の、世話女房風の、十二単の、尼装束の、白髪頭の、女、女、女……。女たちが身も世もなく嘆く中、伊勢斎宮の面影を宿す天女のお迎えで、極楽往生。〉
    すごいわ、すごすぎるわ、業平。
    本当に惚れた女性には情熱的で優しくて、マメな人だったことが窺い知ることができる。なんて愛されキャラだったんだろう。さらに彼は『源氏物語』の主役、光源氏のモデルとなった1人であるらしいとも。
    王朝の男にとっての理想像だった在原業平。眩しすぎる男だ。

    • nejidonさん
      いざ言問わんnejidonよ 業平さんを好きか嫌いか・・と聞かれたら、私は好きですよ。
      いやぁ、地球っこさん、おおいに笑わせていただきまし...
      いざ言問わんnejidonよ 業平さんを好きか嫌いか・・と聞かれたら、私は好きですよ。
      いやぁ、地球っこさん、おおいに笑わせていただきました。
      楽しいわぁ、このレビュー(*^-^*)
      きっと稀代のロマンチストだったのですよ、業平さんは。
      どの歌も情緒たっぷりですし。
      でも相手にはしたくないかな・笑 少し離れて観てたら面白そう。
      一途な愛は割と鬱陶しいので苦手な方です。
      つかず離れずが好き。なんて言ってるから、文学に縁が薄いんでしょうねぇ。ああ。。
      楽しかったです!!
      2020/07/31
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      笑っていただいて光栄でーす(〃▽〃)

      業平さんがロマンチストなの...
      nejidonさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      笑っていただいて光栄でーす(〃▽〃)

      業平さんがロマンチストなのは、和歌にとても表れていますよね!

      わたし、業平さんがどうも従兄弟のお兄ちゃんとか、イケメンなのに「いい人」どまりな男友だちに思えて仕方ないのです。
      (はい、どちらもわたしにはいないので、想像上のですが 笑)
      わたし、業平さんが恋バナをぶっちゃけられる相手でいたいのです。
      「え、また!?次は誰よ」みたいな。
      (ほらほら、また妄想が暴走しはじめました。お許しくださいませ。)

      でも、本当は業平さんのことが好きなの。でも恋の相手には見てもらえなくて。
      だからせめて業平さんのそばで、業平さんの笑顔や泣き顔を見ていたい……
      そんな片想いの女子になっているような気がします。あはは、なんちゃって。(結局好きみたいです 笑)

      とにかく女性に囲まれた、「見立業平涅槃図」は圧巻でした。

      一途な愛は、逃げたくなるときもありますよね。
      わたしは一度くらいは、経験してもいいかな……というか、させてくださーい 笑
      ああ、また、なんのこっちゃのコメントになってしまいました。
      失礼いたしました。
      2020/07/31
  • 学校の教員が卒論で伊勢物語をテーマにしていたため、作品に興味をもった。
    作者が巻末に述べた、『おしゃべりな行間』は読み手の想像力を掻き立てるものであったように感じた。最初は順序に沿って現代語訳→原文(同時に現代語訳も見る)と読んでいたけれど、途中から原文→現代語訳(同時に原文読む)のようにして自身の感じ方を明確にできるように意識した。
    人物が歌で想いを伝える描写は読み取りが正確にできるように考えていました。
    古典や文化に興味を持ち始め、関係がある本を読むようになったけれど、まだ現代語訳は全く出来ない…できるようになるぐらい、色んな作品や文を読みたい。

  • 武蔵野の野焼きの煙に耐えかねての場面での和歌

    武蔵野はけふはな焼きそ 若草のつまもこもれり我もこもれり

    という和歌は

    春日野はけふはな焼きそ という和歌をが元となっているのだが、元が野焼きというは早春に火を焼き放つことの和歌であるのに対し、これは全く違う状況を作り出しているのがとても興味深く感じた。


    そして、なんと言っても最後のコラム「寡黙な本文とお喋りな行間」がとても魅力的だあった。

    狩りの使いという場面では斎宮と昔男が結局どのような結末言ったのかは分からず、それ故に想像力を掻き立てられるのだという。
    プラトニックな愛という説もあれば、一夜限りのものであるなど。
    斎宮という身でありながらもなぜ男の寝床に行ったかと最初に読んだ際にはただ情動に駆られただけかと思いきや、それだけではなく斎宮の政権に敗れた親王の妹という点と在原業平は薬子の変によって政権から遠けられた平城天皇の孫という不遇の立場同士だったからこそこのようなことに及んでいると思う捉えられるという。
    寡黙であるが故にその行間を言葉にしてみたいという思いが溢れてくる。
    これを読んだとき源氏物語にも共通しているなと思った。
    光源氏のその後や、浮舟、薫の最後が書かれていないからこそ、多くの人が想像をかき立てられ、現代においても色あせない作品になっているのだと思う。

  •  中三の息子に伊勢物語くらい読んどけよ、一緒に勉強する為にと買ってみたのですが、先ずは親が読んでなきゃ強いこと言えねえな、と音読もしつつ読んでみました。

     100篇以上の小話からなる伊勢物語ですが、メインのお話は、当代きっての遊び人の在原業平の恋愛話です。多くの女性と関係を交わしていく様子が和歌と共に綴られています。業平が成人式を迎えたところから老境に入り死に至るまでが描かれており、さしずめ、やさ男の一生涯といったところかと思います。

     さて具体的な恋愛(と言っていいのかな)の内容ですが、結構やばいです。
     平安時代は、通い婚姻だし、ってか重婚ということだし、夜這いはあるし、作中で業平は好きでもない人ともエッチしちゃうとか、かわいそうだからって白髪の老女とあれのこれのしちゃうとか、気持ちが受け入れられず呪ってやるとか。。。まあ冷静に見れば現代社会でも似たようなことはあるのかもしれませんが、なかなか激しい。。。
     もともと中三の息子に音読でもさせっかと思いましたが、ちょっと保留にしておくことにしました。わざわざアブノーマルな恋愛を教えなくてもいいかと。

     なおこうした内容の面白さが実現されているのはひとえに編者の坂口氏の解説によるところが大きいと思います。現代語訳が分かりやすいのはもとより、時代背景の説明が秀逸です。ある業平の恋愛が阻まれる理由に、摂関政治を推し進める藤原氏の影響がある(相手が藤原氏の娘であったため、天皇の外戚になるべく娘を利用するため、業平との恋愛を許さない)とか、教えてもらわないと分かりません。また惟喬親王と業平が親しい理由に、天皇の世継ぎとなれなかった親王と天皇家の血筋ながら政治の中心で活躍できなかった業平の共通点を見出すなど、こうした解説が話を立体的に把握させてくれます。

     かつては古典なんて、『めんどくせえ』とかしか思わなかったけど、年を取って読んでみると古典は存外に面白い。特に音読してみると不思議にリズムがしっくりきます。おすすめ。あくまで物語ではあるもの1000年前の平安の日常や恋愛事情の一部が垣間見え、非常に面白かったです。

  • 在原業平 昔男プレイボーイ の歌物語
    色男 金と力は無かりけり それにしても めそめそよう哭く泣く

  • 昔男は在原業平がモデルではないかと言われるように、前半部分は女性との恋愛など雅やかでそう感じました。
    後半を読んでいくにつれ、老いていく昔男が哀れに感じだいぶ違う印象を持ちました。

  • 大した長さではないのだから全文欲しかったな。
    ああ知ってる!ってなる話ばかりで、これが原典だったのか、と感慨深い。
    訳や解説が丁寧で、原文だけではあっさり過ぎて読み過ごしてしまう機敏をよく理解できた。
    業平さんすごい笑

    恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに
    が歌では気に入りました。世の中に絶えて桜のなかりせば、も好き

  • 王朝の理想像「昔男(むかしおとこ)」の人生を追った
    連作歌集物語です。
    美男で心優しく情熱的な色男。
    そんな彼に高貴な人も市井の人も惹かれていくさまが
    歌と共につづられています。
    王朝の人間模様もわかるとてもわかりやすい一冊です。

  • 何かあると取り敢えず死んでオチをつけてくるので、段々笑ってしまうようになった。
    それはそうとして、一体何人女がいるんだ

  • 昔の日本の風流に触れ、いまの自分にはまったく無い趣ある詩に感服した。
    あえて多くを語らないことで余韻を持たせ読者の想像力を掻き立てる。
    逆に全てを語りすぎてしまうと、それは「無粋」というものになってしまい、味わいがなくなる。
    粋な心を持った登場人物達による贈答歌には大変興味を惹かれ楽しく読むことができた。

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