ハッピーエンドにさよならを (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043595075

作品紹介・あらすじ

望みどおりの結末なんて、現実ではめったにないと思いませんか? もちろん物語だって……偉才のミステリ作家が仕掛けるブラックユーモアと企みに満ちた奇想天外のアンチ・ハッピーエンドストーリー!

感想・レビュー・書評

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  • かなりおもしろかった!「サクラチル」が1番好きだと思った。

    以下、ざっくりとしたあらすじ。


    【おねえちゃん】
    理奈は叔母である美保子に「相談がある」と連絡し、家に呼ぶ。
    自分は母親から愛されていない、出来の悪い姉は甘やかされているのに、自分は些細なことで怒られると話をする。
    家出をしようか迷っていたとき、偶然、両親の話を断片的に聞いてしまったようだ。
    「おねえちゃん・白血病・仕方ない・移植・あの子は・理奈・おねえちゃんのために産んだ・骨髄・仕方ない・ドナー・あの子は・おねえちゃんのために・仕方ない・骨髄移植のために・里奈は」という単語を聞き、自分は姉のために作られたドナーで、用済みになったからいらなくなったのだと推理したと言う。
    そしてここからが相談だった。理奈は両親と姉を殺してしまったらしい。どうしたらいいか、と。

    実は、「おねえちゃん」で病気だったのは理奈だった。理奈には鳴美という名前の妹がいた。生後2ヶ月で白血病を発症した理奈のために、骨髄移植を目的として鳴美を出産した。しかし、鳴美は骨髄移植をしたあとに事故により1歳で死んでしまった。
    両親は、理奈に鳴美のぶんまで充実した人生を送ってほしい、と厳しい躾をしていた。
    真実を知れば、理奈は負い目を感じてしまうと思い、両親は黙っていた。理奈は自分が幼い頃の写真はないと嘆いていたが、病気のことを気付かれないように隠していただけだった。

    美保子は、警察を呼ぶしかないと考えた。警察が裏を取れば、すぐに理奈に真実を伝えられるだろう。しかし、他人から無遠慮に知らされれば、理奈の精神は崩壊する。叔母である自分がどのように真実を伝えればいいのか、と悩むシーンで終了。


    →理奈のお姉ちゃんはなにかしてくれなかったのかな?って思った。私にも妹がいるので、姉目線に立ってしまった。妹が過度に怒られたりしたら、例え相手が両親でも黙っていないけどな。理奈のお姉ちゃんは理奈のこと何とも思ってなかったのかな?


    【サクラチル】
    常磐一家の話。語り手が次々と変わっていく。

    ・常磐の向かいの家
    向かいの家の芙美子さんは仕事を掛け持ちしていたし、畑仕事もしていた。旦那はせいぜい50歳くらいなのに、まるで働かず、煙草や酒を嗜んでいる。毎晩、芙美子さんに怒鳴り散らかしていた。
    芙美子さんが不便だ。芙美子さんのほうが年上のため、旦那を甘やかしたんだろう。旦那が暴れた次の日、ふたりは手を繋いで歩いていたから夫婦は分からない。

    ・常磐泰三
    泰三の実家は小さな作り酒屋だった。泰三は幼い頃から酒の香りが好きだったが、酒を飲む人間を嫌悪していた。
    品川の機械部品工場に就職し、一生懸命働いた。工場で芙美子と出会い、男の子を授かった。幹久と名付け、今まで以上に仕事に励んでいたが、病を患ったことで会社から解雇されてしまった。
    泰三は酒を覚え、朝から酒をかっくらい、芙美子に当たり散らした。そのうち幹久にも暴力を振るうようになった。

    ・常磐家の向かいの家
    常磐家は、2人暮らしだと思っていたが、常磐家の旦那がうちに来たことで、子どもがいると知った。うちの子が大音量で音楽を聴いていたところ、常磐家の旦那が、息子が大学受験の勉強をしているから邪魔をするなと怒鳴り込んできたのだ。
    2月のある日、常磐家に回覧板を持って行った際、ポストに東京大学の入学願書が入っていたことに気づいた。そのとき、息子の名前は幹久だと知った。結果が気になり、合格者名簿を確認したが、常磐幹久という名前はなかった。

    ・常磐幹久
    父に構ってもらった記憶がなかった。父が病を患い、療養のために家にいる間は構ってもらえた。しかし、幹久も大きくなると、父の事情を察するようになった。そのうち父は酒を飲み、暴力を振るうようになった。中学を出たら働こうと思ったが、学歴のない父のようになるのでは?と思いとどまった。学歴がない父は必要以上に働かなければならず、体を壊した。学歴がなかったから誰にでも出来る仕事しか就くことができず、誰かに取って代わられないようにがむしゃらに働くしかなかった。結局、体を壊し、誰かに取って代わられた。そもそも、学歴があれば、不当な解雇に対応する術を知っていただろうし、そもそも不当な解雇もされなかったかもしれない。
    「大学を出たら、今までの苦労を全部帳消しにしてあげる」と言い、大学進学に反対する母親を丸め込んだ。

    ・常磐家の向かいの家
    息子さんが落ちたことは、芙美子さんの表情からも察せられた。旦那もひどく落胆しているようだ。夜が更けても、常磐家の家の明かりがついていないことを心配し、お裾分けを装って伺うことにした。中に入ると、布団の中で旦那が死んでおり、芙美子さんは布団に覆い被さるように倒れていた。芙美子さんは「天命なのです」と呟いていた。

    ・常磐芙美子
    息子がいたから、夫の暴力にも耐えられたが、息子が社会に出たら、夫と2人きり。耐えられないと思った芙美子は、旦那を殺すことにした。肝臓を患い、入院した旦那に酒を差し入れた。結果、病気が悪化して死んだ。
    幹久は、大学に落ちる度、「今までの苦労を全部帳消しにしてあげる」と言った。
    高校の学習内容が何度も変更され、受験制度が2度改革され、ずっと家で勉強していた幹久はずるずると浪人を重ねた。
    いつしか、2人は年の離れた熟年夫婦と間違われるようになった。芙美子も否定はしなかったし、幹久も受験生であることを隠し、芙美子の亭主を装った。
    今年、幹久はまた落ちた。毎度の言葉に酒の臭いが含まれていた。芙美子は潮時だと思った。
    幹久は不惑を通り越し、今年、知命を迎える。知命を迎えたとき、天から与えられた命の長さを知るのだという。芙美子は包丁を握った。で終わり。


    →おもしろかった!昼間から酒を飲んで暴力を振るうような旦那は捨てちまえと思っていたけど、息子だったんだね。それは捨てられないね。学歴が全てとは思わないけど、学歴があるから優遇されることも多いだろうし、難しいな。


    【天国の兄に一筆啓上】
    たった3ページ。弟から死んだ兄への手紙。
    兄が死んでから15年が経ち、時効が成立したので、自分は安心して眠れるよ。兄の保険金でみんなハッピーだよという内容。


    →どうせ弟が殺したんだろと推察。予想通りだった。


    【消された15番】
    沼田紀美恵は美女と評判が高かったが、同性からいじめられ、高校生の頃に自殺を決意する。しかし、ふとしたきっかけから大学生と恋仲になり、身篭る。紀美恵の両親はふたりを認めなかったので、駆け落ちをするが、子どもが3歳になった年、彼が事故で亡くなる。子どもは恵太と名付けられ、野球強豪校へ入学。当初は1年生エースと持てはやされたが、野球の成績が振るわず、ベンチ入りからも外されてしまう。高校最後の夏、チームの選手が怪我をしたことで、恵太にベンチ入りの声がかかる。

    紀美恵は甲子園を見に行く予定だったが、近所の人から裁縫の依頼が入ったことで、仕上げてから応援に行くことにした。甲子園をテレビでみていると、臨時ニュースが入る。近所で顔なじみの大学生が、就学前の男の子を誘拐・殺害していたというものだった。
    息子の晴れ舞台である甲子園のテレビ中継で度々臨時ニュースが流れる。いらいらする紀美恵。息子が今まさに活躍するというときに中継が中断され、またもやニュース画面に切り替わる。恵太の学校は試合に負けた。

    怒り狂った紀美恵は、取り調べを受け終わった大学生の左胸に包丁を突き刺す。

    それから時間が経った。大学生の家族は心中。大学生本人も刑が執行された。

    紀美恵は殺人未遂で逮捕されたが、執行猶予付きの軽微な刑が科せられただけだった。仕事もこれまで通りで、世間からは、むしろ賞賛の手紙が届く。しかし、恵太は行方不明となってしまった。


    →楽しみにしていたテレビ番組が、臨時ニュースで中止になった経験があるから気持ちは分かる。愛する息子が出るなら尚更辛いよね。にしても就学前の男の子が被害者になる事件なんて胸糞悪すぎ!!!


    【死面】
    登志雄は夏休みのたびに母の実家へ行った。かつては庄屋をやっていたらしく、土地も建物も広い様子。母の4人のきょうだいたちもそれぞれ家族を連れて帰ってきた。

    登志雄が小学5年生のとき、いとこたちと駄菓子屋にいった帰り道、持っていた竹とんぼを壊してしまった。イライラした登志雄は、入ってはいけないと注意されていた部屋へ入ってしまう。なんの変哲もない部屋だった。しかし、文机の横にあった桐箱を開けるとまるで人間の首を縦半分に割ったような精巧な人面が入っていた。若くて美しい女性の顔だったが、苦悶の形相をしていた。お面といっしょに中に入っていた美しい布を取ろうとしたところで祖母に見つかった。

    帰京後、母から、「お母さんは5人きょうだいではなく、本当は6人きょうだいだった。幸子という末っ子がいて、みんなより年が離れていたため、きょうだいみんなでかわいがっていた。幸子は病弱でひとりで留守番をすることも多かった。ある日、泥棒が入った。金目のものは盗まれ、泥棒と鉢合わせたと思われる幸子も殺された。残念に思った祖父が、幸子のデスマスク(亡くなった人の顔から型を取って作る)を作り、幸子が好きだった着物といっしょに保管していた。」と聞かされる。

    登志雄が中学2年生のとき、例年通り母の実家でいとこたちと遊んでいた。子どもたちだけで肝試しをすることになった。登志雄は、あの幸子のお面と着物を身につけて怖がらせようとした。大学生のいとこも悲鳴をあげ、気を良くした登志雄は、もう一度驚かせようと躍り出たところで脳天に激痛が走った。

    登志雄は叔父に殴られたのだった。登志雄は頭部が変形するほど何度も殴打されていた。

    昔、家は裕福なのに小遣いが少なかったため、叔父は自分の家に泥棒に入った。幸子に見つかったため、叔父が殺した。罪の意識が薄れかけたころ、目の前に殺したはずの幸子が恨みを晴らすために現れたと勘違いし、幸子のお面をつけていた登志雄を殴り殺した。

    登志雄は幸子の横に眠っている、で終了。


    →なんか自業自得だね!遺品をイタズラに使うって不謹慎極まりない!中学生だったら分かるでしょ〜って感じ!


    【防疫】
    真智子は娘の由佳里に行き過ぎた教育を受けさせる。学習教室、ピアノの個人レッスン、お絵描き教室、受験の面接対策。痣ができるほど体罰も与えた。
    しかし、幼稚園も小学校の受験も由佳里は失敗してしまう。
    真智子は由香里にランドセルをプレゼントしてくれた両親に電話をかけると、長々と喋り続けた。由香里にはもう何も期待しない、もう1人男の子を作って生まれる前から教育するのだ、と。
    優秀な長男を妄想してはニタニタする真智子に衝撃が走り、その後死亡した。

    由佳里は裕太からプロポーズを受け、母親を殺した話をする。裕太との子どもを妊娠したからプロポーズされたらしいが、由香里は子どもを堕ろしたと告げる。血相を変えた裕太に由佳里が
    「私は自分の子どもを自分と同じように育てると思う。小さい頃から勉強させて有名私立を受験させて。体罰は最低だと思うけど、子どもがクズだったら叩かないでいられる自信がない。子どもの辛くて暗いところにある風船が膨らんで膨らんで膨らみきったら、今度は私が殺される。だから殺される前に殺した。それでも私と結婚してくれる?」と問いかけて終了。


    →まだ生まれてきてもないのに、殺される前に殺したのか。子どもは元気に育ってくれるだけで十分だけどな。


    【玉川上死】
    玉川上水を死体が流れていると110番通報があり、警察官が向かうと、「R高校 秋山」と書かれたジャージを来た人間が流れていた。思わず「止まれ」と声をかけると、死体だと思われていた物体が起き上がり「僕のことですか?」と声を出した。

    高校2年生の秋山は高校時代の思い出作りをしていたのだと言う。4kmの川をゴーグルとシュノーケルを付けて流れる。シュノーケルは短く切られたうえに黒く塗られていた。死体と間違われ、警察がやってきたら負けというゲームを仲間内でしていたらしい。クラスのほとんどが参加しており、インターネットを使ってスタートとゴールを生中継、それ以外は掲示板に秋山の様子を書き込む。
    秋山は、警察官に携帯電話を貸してもらい、中継を担当していた茂野と沢井という友達に電話をかけるが、繋がらない。
    警察官と共に中継地点に向かった秋山。ビデオカメラが三脚ごと横倒しになっており、ノートパソコンも放置されていた。スプレー塗料による落書きもあった。橋の下には、茂野が倒れていた。背中を数箇所刺されていた。
    違う場所で中継していたはずの沢井も同様の有様だった。

    茂野と沢井が撮影したカメラには、秋山が流れていく様子が映っていた。音声から、2人はそれぞれ実況している途中、襲われたものと見られる。

    茂野の母親である信子は、毎日、息子のお線香をあげにくる秋山を健気に思っていた。事件から1ヶ月経っていた。いつものように秋山は茂野の部屋に入り、ラジカセで1曲流す。
    この日は、雨が降ったため、洗濯物を取り込もうと息子の部屋を開けた。秋山がベッドの上で大の字になり、ベッドカバーに顔をうずめていた。「茂野君、茂野君」と甘ったるい声で繰り返し、枕を引き寄せる。

    信子は、旦那である久幸に報告した。息子はそういう趣味だったのか?秋山の片思いなのか?と。
    久幸は、頭を抱えた。秋山は死んだ2人に虐められていたのだろう、と信子に話す。
    今回の秋山、茂野、沢井の3人によるビデオ撮影は過去にも3回行われていたが、損な役回りは全て秋山がやっていた。ベッドで甘い声をあげていたのもおかしい。信子が来たことを分かっていたはずなのにその行為をやめなかった。おそらく、息子に奪われたものを取り返すため、部屋を少しづつ物色し、ベッドの上でより分けていたのだろう。秋山は息子を殺す動機がある。カメラには、秋山が川を流れていく様子が映っていたが、顔は映っておらず、おそらく身代わりを流し、秋山は息子を殺したのだと言う。

    信子は、犯人を捕まえるために、殺人事件の被害者であるわが子をいじめの加害者として差し出さなければならない。もうこれ以上考えたくない、と信子は横になって終了。


    →いじめをしていたなら自業自得だなって思った。むしろ、秋山すごいな。完全犯罪を企てたんだね。


    【殺人休暇】
    塚越理恵は合コンで出会った戸部修司と付き合う。修司は身長も高く垢抜けた顔立ちをしていたが、外見の魅力を打ち消すほどの暗いオーラを放っていた。2人きりの食事の際にも、むすっとした態度で会話もない。しかし、電話では明るく、1人で喋り続け、自分は人と面と向かってしゃべるのが苦手だと言った。薄気味悪かったが、修司は会うたびに高価なプレゼントをくれたので関係が続いた。しばらく付き合ううちに、プレゼントを1つでも身につけていないと不快を表すようになった。「美しくありたくないのか?」と。
    修司が理恵の部屋に初めて来た際、理恵はプレゼントのお礼に一夜を共にしようと考えていたが、修司は部屋に入るなりプレゼントした香水が減っていないと憤慨。理恵はとうとう我慢できず、「二度と誘わないで、もう会わない」と言い放つ。「僕はあなたに恋しているのではなく、心の底から愛しています」「ぼくはあなたのために生きています」と修司は言い残し、部屋を出ていく。
    修司は確かに誘ってこなかったが、電話をよこしてきた。
    電話の最後には、ファッションについて一言言い残す。11度目の電話の際、もう電話をかけてこないでと伝える。
    すると、次は手紙をよこしてきた。手紙の内容から、理恵が出したごみを漁っているようだ。
    理恵は手紙を送ってこないでと手紙を書いた。もう手紙は来なかったが、今度は宅急便が届いた。中身は栄養補助食品の詰め合わせだった。モノを送るなと命じれば、その通りにするだろう。しかし、今度は自分の観察に専念するとは考えられないか?
    悩んでいた理恵は職場の後輩である敏江に修司のことを打ち明ける。敏江は「彼を殺せばいい、殺せないなら理恵が死ねばいい」と言った。

    理恵は修司宛の遺書をのこす。

    それに対し、修司も手紙を書いた。

    内容→理恵の遺書を読んで理恵の部屋にいったが、部屋は片付けられているところだった。近所の人が「首吊り」と話していた。理恵の両親と思われる老夫婦に声をかけられた。自分は小学生のときに父親を交通事故で亡くし、同乗していた母親も寝たきりになり、姉に育てられた。姉は準ミス・キャンパスにも選ばれるほど美しい人だったが、母の看護と自分の世話だけでなく、いくつものパートを掛け持ちし、日に日にやつれていった。早く姉を楽をさせてやりたいと勉強に励んでいたが、寝たきりの母が死んだあと、姉は後追い自殺をしてしまった。理恵は姉に生き写しだった。顔、背格好、声、名前も。理恵の前でうまくしゃべれなかったのは会話が苦手だからじゃない。営業の仕事だからそんなことではやっていけない。理恵の前だと姉を感じてしまい、胸が苦しくてたまらかった。姉に恩返しをしているつもりだったので、悪いことをしているという意識はなかった。自分を目覚めさせたのは憔悴しきった理恵の両親の様子だった。自分も理恵の後を追います。自分は地獄行きなので理恵と再会することはないでしょう。

    修司の遺書を理恵はホテルで読んだ。実は理恵は死んでおらず、敏江の彼氏の力を借りて死を偽ったのだ。

    理恵は修司を殺したいと思ったことはないが、事故にあって死んでくれればと何度も思っていた。事故死を願う気持ちと殺意を抱くことに違いはあるのか?手を汚すか汚さないかの違いか?彼は自殺したが、事故死と自殺では何が違う?私の願いは成就したはずだが、どうして私の心は重いのか。理恵は自分が分からなくなっていた。
    敏江に「彼、本当に死んだんですかね?」というセリフで終了。


    →修司は「あなたは姉に似ているのでよければ尽くさせてください」って言うべきだったね!下心がないのに尽くされたから、修司が不可解で嫌になったのかな。きちんと気持ちは言葉にするべき。


    【永遠の契り】
    大学生のミツルは2年間片思いをしていたハヤサカがノートを借りに部屋までやってくることになり浮かれていた。ハヤサカはお礼にケーキの箱を持ってきた。ケーキを食べていかないかと誘うと、乗ってきた。お茶を入れようとミツルはヤカンを火にかけ、考える。ハヤサカは自分に気があるのでは?と。ケーキを乗せるお皿を渡そうと手を伸ばすと、2人の手が触れた。ミツルはたまらずハヤサカをベッドへ押し倒す。事後、ミツルはハヤサカに謝りながら告白すると、ハヤサカも「私もずっとこうなることを望んでいた」「ずっとこうしていたい」と。ハヤサカから唇を押し付けられ、ミツルはハヤサカをきつく抱きしめる。夢でもかまないからいつまでも覚めないでほしいとミツルは願った。

    フラッシュニュース。
    ハイツから出火し、建物が全焼。出火元は205号室吉田溢さん方の台所。ガスの止め忘れによるヤカンの空焚きが原因とみられる。焼け跡からは男女2人の焼死体がー
    で終了。


    →2人の「いつまでもこのままで」という気持ちが最悪な形で叶ってしまったね。ある意味ハッピーエンドかも?


    【in the lap of the mothet】
    パチンコに出かけるために幼い子どもを放置して死なせた母親をニュースで見かけては強い憤りを感じていた主人公。幼子からは片時も目を離してはいけないと考えている主人公は、膝の上に娘の亜里亜を乗せてパチンコを打っていた。
    パチンコの騒音が子どもにいいわけない。主人公は亜里亜にノイズキャンセリングヘッドホンをかぶせ、携帯ゲーム機でディズニーアニメを見せていた。
    幼子はいつもそばに置いておかなければならない。家や車の中に放置して遊び回るなどもってのほか。しかし、子どもにふさわしくない環境に連れていくのも好ましくない。不愉快な音を遮断し心地よい夢の世界に浸らせる、主人公が知恵を働かせた策だった。

    亜里亜は「はん、はん」(ご飯、ご飯)と何度か空腹を訴えていたが、主人公はパチンコを打ち続けた。

    6時間もパチンコを打ち続けた主人公は流石に疲労を感じ、ご飯を食べに行こうとした。亜里亜の顔を覗くと、目を閉じ、口をだらしなく開けている。抱き上げると、首がかくんと後ろに折れ、両腕もだらりと垂れた。

    ニュース。
    母親に連れられてパチンコ店に来ていた2歳の女の子がパチンコ玉を喉に詰まらせて窒息死。女の子は朝から食事を取っておらず、空腹に耐えかねてパチンコ玉を口にしたとみられ、母親を保護責任者遺棄の疑いでー
    で終わり。


    →2歳の甥っ子がいるからつらい話だった。2歳の子どもって本当に本当にかわいいのに。幼子は本当に目を離しちゃいけないよね。甥っ子も何でも口に入れようとするもの。
    パチンコに熱中して子どもを放置するニュースって昔に聞いたことあるけど、そんなにパチンコっておもしろいのかな。
    母親は、他の母親を批判してたけど、結局自分も同じだったね。人の振り見て我が振り直せだ。


    【尊厳、死】
    ホームレスのムラノは、都心のターミナル地下通路で寝起きしていたが、人間関係が煩わしくなったので鵜野森公園にひとりやってきた。
    駅の地下通路には50人ほどホームレスが居着いていたが、鵜野森公園には誰もおらず、ひとり気ままに過ごしていた。ひと月ほど平穏に暮らしていたが、8月の夜、ムラノの住まいが襲撃されていた。
    駅の地下通路には仲間がいたが、鵜野森公園には仲間がいない。住まいだけじゃなく、自分が襲われるかもしれないと考えたが、ムラノは駅の地下通路には戻らなかった。ムラノは死に恐れを抱いていたが、あえて生に執着する理由もなかった。
    ムラノは自動販売機の返却口を巡って小銭を集めたり、拾ってきた雑誌を読んだりして毎日を過ごしていた。
    ある日、フジエダと名乗る女性が声をかけてきた。仕事や家族のことを聞いてきた。ムラノは何も答えなかったが、それからも週に1、2回やって来るようになった。

    9月になり、ムラノは再び襲撃を受けた。男子中学生3人組のようだった。投げられた石が右目に直撃した。
    翌日、フジエダは、商会に約束を取り付けたからそこで働けと言ってきた。右目の異変に気づき、タオルと弁当を置いていったが、ムラノは手をつけることなく捨てた。商会にも行かなかった。
    5日後、フジエダはまたやってきた。心配しなくても大丈夫だから明日行ってらっしゃいと言い残していった。

    3度目の襲撃を受けた。住まいの小屋の中に大量の爆竹が投げ込まれたようだった。翌々日、フジエダがまたきた。商会に行くことを強要してくるフジエダにムラノはうっとうしいと一言いってやった。

    夜、また襲撃があった。3人組から肩を小突かれたり回し蹴りを受けたりおもちゃのキーボードを左腕に何度も振り下ろしたりした。
    ムラノの左腕は赤く腫れ上がり出血もしていた。無抵抗であるほど、強者の勢いに油を注ぐことになることはムラノにも分かっていた。

    ムラノは左腕の怪我のせいで熱っぽい感じがあり、意識も朦朧としていた。やってきたフジエダはムラノの不調に気付くと救急車を呼んだ。

    病院で過ごし、体調もよくなったムラノ。フジエダは仕事だけじゃなく、家も用意したと言った。商会の寮に入れるようかけあったらしい。
    その晩、ムラノは鵜野森公園に戻った。

    鵜野森公園を離れる決意をしたムラノは荷物を探していた。救急車に運ばれる前にベンチの下につっこんでいた着替えだ。ゴミ箱を調べている最中、3人組の男子中学生がやってきた。
    スプレー塗料を顔面に吹きかけられ、臀部を蹴り付けられた。羽交い締めにされ、ナイフを突きつけられた。ナイフはポロシャツの襟に押し付けられ、そのままゆっくり下降し、ボタンを弾き飛ばしていった。ナイフはなお下降し続け、布地を切り裂きにかかる。ムラノはたまらず、中学生の腕に噛みつき、股間を蹴り上げた。
    怒り狂った中学生はムラノに膝蹴りを食らわせ、馬乗りになり、首を絞めあげてきた。ムラノの意識が遠のき、いよいよ死神が迎えに来たと覚悟したところで、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。通過しただけだったが中学生は退散していった。

    しばらくしてフジエダがやってきた。病院を抜け出したムラノに目を吊りあげていた。
    今日こそは商会に行かせる、引っ張ってでも連れていくと息巻くフジエダ。そんな汚い服じゃうちの車に乗せられないから着替えろと服を渡してきた。
    それでも動かないムラノにフジエダは手を伸ばしてきた。ムラノは激しく身をよじった。ベンチの下に光るものが見えた。中学生が落としたナイフだった。
    抵抗するムラノにフジエダは無理やり着替えさせようとしてくる。ムラノはナイフを振り回した。フジエダの首筋から血が水鉄砲のように噴き出していた。

    取り調べでムラノは生い立ち、家族、仕事などを滔々と語った。ただ静かに死を待っていたいのに、フジエダはそれを許してくれず、人でなしと罵られ、ついに耐えきれず切りつけたのだと説明した。
    しかし、フジエダに刃を向けた本当の理由は語らなかった。善意の押し売りは火薬であり、発火するには火が必要だ。
    フジエダがムラノを着替えさせるために脱がせようとしたこと、これが火だった。

    前夜ムラノが中学生に抵抗したのはナイフを恐れたからではなく、服を切られ、裸にされることを予感したからだった。
    どうして公衆の面前で裸になれるのか。ムラノにも女としての尊厳は残っている、で終了。


    →ムラノのこと、男性だと思っていた!フジエダみたいなお節介な人って本当に鬱陶しいんだよね。
    3人組の中学生は許せない。弱者をいじめるなんて最低。ホームレスって実際に見たことないけど、そんなに目障りなものかな?

  • 文章一つ一つに意味があり、丁寧に読みたい本。短編集ながら、人間の本質的な部分に迫った内容になっており、考えながら読むので中身がありすぎる。時代が少し古いので「保母」と言う言葉やジェンダーに関する感覚が今では違和感を感じるが、虐待など今も繰り返される問題と向き合い、知らない間に読者の心理が弄ばれ引きずり込まれる。読書というより、自分が当事者として実際に経験したような読後感。各短編の不気味な終わりかたがゾクリとして、それがまた良い。好き。

  • タイトルの通りの作品で、救いが無く読み終わった後もスッキリはしませんでしたが楽しく読めました。最後の話の叙述トリックは、この作家の別な作品を思い出しました。

  • 悲しいラストを迎える11の短編集

    おねえちゃん
    真相を知ったときを考えると‥
    残酷すぎるな

    消された15番
    愛情の深さゆえとはいえ逆恨みだよな
    真相を知ったから近寄らなかったなかな

    死面
    最後に分かる真相
    出来心の代償は大きかったな

    防疫
    影響されすぎちゃったんだな

    玉川上死
    父親の想像はあってるんだろうな
    単なる被害者とは見られなくなるよな

    In the lap of the mother
    一瞬にいただんだから余計酷い

    尊厳、死
    一緒にいられなかった理由でもあったんだな

  • いや、そうはならんやろ。
    ミステリと言うにはオチが強引すぎる…

  • サクサク読めて非常に面白かった。

  • 残念ながら推理という点においては期待ない方が良い。大体が先の読めるものだから。
    とはいえ、ただのアンハッピーエンド集ではなく、物語のあちこちに世の社会問題を取り入れているところは良かった。
    それでも、星3つ。うーん、イマイチ。


  • いい意味で最悪な話しかないまさにタイトル通りの本ですね。読み終わった後にモヤモヤしたい人におすすめ!

  • 尊厳、死 最後の一行よかった。

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著者プロフィール

1988年『長い家の殺人』でデビュー。2004年『葉桜の季節に君を想うということ』で第57回推理作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞をダブル受賞。2010年『密室殺人ゲーム2.0』で第10回本格ミステリ大賞をふたたび受賞。

「2022年 『首切り島の一夜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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