- Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043596041
作品紹介・あらすじ
古い村の因習、戦争、家族の歪な内実、人間の業、性の深淵……昭和13年、岡山県北部で起こった伝説の「三十三人殺傷事件」。狂気か、憤怒か、怨恨か。異形の鬼は満月の夜に凶行へと走り出す。
感想・レビュー・書評
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津山三十人殺しの都井睦雄については、横溝正史「八つ墓村」に影響を受けて取材した島田荘司「龍臥亭事件」で親しんだ。(wikiで山岸凉子「負の暗示」も思い出した))
猟奇、狂気、因習、といったおどろおどろしさを前者が協調しているのに対し、
後者は、夜這いの風習から阻害された個人の内面に踏み込んで描いていた。
本書はその折衷。
さらには周囲の人物の群像劇を通じて、彼が犯行に至る殺意の高まりが描かれる。
一歩先に出ているのは、個人の内面というよりは、村のトポス、森の持つ磁場、から集団の殺気が醸成され、それをひとりの男が実現したという構図になっているところ。
特筆すべきは辰男に共感していると言ってもいい人間が複数いる、ということだ。
敷衍すれば全員が辰男になってもおかしくない、そんな場所がある、ということ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「三十三人殺傷事件」津山事件をモチーフに描かれた作品
貧しく息苦しく閉鎖的な田舎の集落
結核、徴兵検査、夜這い
現代にはもうあまり馴染みのないワード
都井睦雄の背景もそうだけど
今作の糸井辰夫も切ない部分があって
何とも言えない悲しい心の叫びが聞こえてくる。
ねっとりとした岡山弁がまた湿り気を感じさせ、
これまた「きょうてえ…」と思わせてくる。 -
津山三十人殺しモチーフの長編。惨劇そのものより、そこに至る過程が重点的。貧しい村の古い因習、歪んだ人間関係、肉欲、愛憎、果てに鬼となって疾走する様はカタルシスを感じる。実話モチーフなので、下手に内面描いてないのも良い。人間はゆっくりと狂っていく。
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森の匂いが好きだ。樹の幹や落ち葉が蒸れるような甘い香りが何ともいえない。山歩きをしていると、森の中に入っていることに、えもいわれぬ安らぎを感じることがある。しかし、昼間と違って夜の森は不気味な世界である。闇の中に息づく何モノかを感じることがあるからだ。それが、けももの気配なのか、霊気なのか分からないが、背筋がぞくぞくする感触を味わうことがある。
「夜なきの森」は、昭和12年岡山県北部の貧しい寒村で起った惨劇を描いている。森の霊気に操られた男が、破滅的な大量殺人を起こすというプロセスは、真綿で首を絞めるようにジワリ、ジワリとクライマックスに近づいていく。突然目の前が真っ暗になったようで、これまでの作品とは違った怖さといえる。
著者は、「ぼっけえ、きょうてえ」「岡山女」と岡山を舞台にしたホラーを描きつづけているが、シリーズ3作目ともなると、そろそろ岡山弁は飽きてきた。第1作の「ぼっけえ、きょうてえ」という言葉の響きが新鮮だっただけに、作中に何度も出てくる「きょうてえ」という言葉のすごみがなくなっている。このまま岡山シリーズを続けることに、読者の受け入れはあるだろうかと思ってしまった。 -
昭和の初め、第二次大戦の少し前。岡山の山奥に閉じ込められた集落。深い森は呪われており、入るとろくでもないことが起きると信じられ、村民は村の中で近親婚を繰り返す。そんな中、両親に先立たれ、自らも肺病に侵された辰男は、村人から病人と疎まれていた…。
夏の角川ホラー祭。もう手持ちが殆どないけど、ワンシーズンはいけるかな。ハインラインも読むよ。
短編集かなと思ったら、章ごとに切れているだけで、村の異常さや村民の異常さを視点を変えてネチネチと描かれる。ホラーではないのだが、それほど最初の章のインパクトは大きい。
その後も同様ではあるものの、この人の一部の作風に感じる、読んでも読んでも霧の中といったような、世界の広がらなさ、透明度の低い文字を追うことでやっとという世界が広がっていく。とにかく、会話や会話が終わった途端に誰やったっけ?という固有名詞が乱発されるため、それなりに把握するまでに、半分くらいを要する。
半分くらいまで来たところで、それなりに霧が晴れ始めるとともに、なぜホラー文庫なのか、例の話かと気がつくわけである(買う前にあらすじ読みませんねん)。
岡山弁は知っているので抵抗はないものの、「だめだ、おえん」など、わざわざ標準語を混ぜるサービス精神が文章の勢いを殺しているように感じる。
ホラー的な部分はほんのちょっとなのか、それとも全体なのか、なかなか判断に苦しむ作品であるが、変にホラー文庫と構えたレーベルではなく、一般のレーベルから出していい作品である。
とにかく、切れが悪いな。言葉を多少改善したリマスター版が出たら☆4はいけると思う。 -
津山三十人殺しを読んだ直後だったのでオチというか話の筋は分かっていたのでそれのオムニバスとして読みました。銃を辰雄に買ってやった人が辰雄に協力していたという解釈は面白い。
ぼっけえ、きょうてえ未読なのが残念。読みたいです。 -
悲しいような、なんとも言えない気持ちになる。
志麻子の文章はなんと自然に私のなかに流れ込んでくるんだろう。 -
閉鎖的な村ならではの不気味さ、怖さがベースになっている。
何かしでかしそうな辰男を怖れる村人たち。
のけ者にするくせに気になっている女たち。
そういった複雑な心理が上手く描けているため、最後の殺戮シーンがややあっさりな印象。
あえてそうしたのでしょうか。
鬱々した人ばかり。
虔吉だけは好感が持てる。