嗤う伊右衛門 (角川文庫 き 26-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043620012

作品紹介・あらすじ

鶴屋南北「東海道四谷怪談」と実録小説「四谷雑談集」を下敷きに、伊右衛門とお岩夫婦の物語を怪しく美しく、新たによみがえらせる。愛憎、美と醜、正気と狂気……全ての境界をゆるがせる著者渾身の傑作怪談。

感想・レビュー・書評

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  • まァまァでした。京極夏彦は百鬼夜行シリーズの「絡新婦の理」までがあまりにも・あまりにも傑作揃いなので、どうしてもその水準を期待して読んでしまうとこがある。そしてその限りなく高い期待値に照らした場合、この作品に5つ星はつけられない。

    とはいえ一般的な意味ではじゅうぶん魅力的な作品ではありました。江戸時代(といっても長いけど)を舞台に、一連の事件を、何人もの登場人物の視点に切り替えつつ描いていく。主観が変われば同じ出来事の位置づけも変わる。そんな多面性にあふれた京極夏彦節は、この作品でも効いてます。

    だから余裕で及第点。悪くない。
    しかし、「絡新婦の理」までの百鬼夜行シリーズほどの、圧巻の心理描写、人物造形、謎の深さ、といったものはここにはない。
    ホラー寄りの作品だからこれでいいのだ、って意見もあるかとは思う。しかし京極夏彦の独創的なスタイルは、やっぱりミステリー仕立てがあってこそひときわ立つのだろうと思わされた。

    いつかまた、ホラーテイストのミステリー小説という自らの独壇場で、怪筆を振るった作品を読ませてほしい。頼むよー京極夏彦さん。

  • 非常に興味深い作品でした。
    面白かったと言ってしまえばそれまでですが、しんみりと心に響きました。
    四谷怪談としては知っていた作品ですが、お岩と伊右衛門のその気持ちにフォーカスしてのとても沁み入るお話でした。

  • 【本の内容】
    疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。

    娘・岩を不憫に思うと共に、お家断絶を憂う父・民谷又左衛門。

    そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったことなぞない生真面目な浪人・伊右衛門―。

    渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを飲み込むほどの情念とは―!?

    愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。

    四世鶴屋南北『東海道四谷怪談』に並ぶ、著者渾身の傑作怪談。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    腹の中にどろどろとしたものを溜め込んでいる伊藤喜兵衛。

    この男が妖怪に思えてならない。

    彼には悪事を働いているという意識さえないように見えるからだ。

    喜兵衛の悪意がお岩と伊右衛門のお互いの気持ちを踏みにじる。

    憎い奴だが、彼がいることで主人公たちの純粋な想いがぐっと浮かび上がる。た

    だの悪党には違いないのだが、私はこういうキャラクターが気になって仕方がない。

    すべての出来事がこの男を中心に起きているように見える。

    それにしても、四谷怪談をこれほどまでに切なく悲しい物語に仕上げるとは、京極夏彦はすごい。

    はじめは京極版・四谷怪談と聞いてさぞかしおどろおどろしい話になるのかと思いきや見事に裏切られた。

    感情表現が下手なお岩と伊右衛門は似たもの同士。

    そんなふたりの不器用な姿が余計に胸を締め付ける。

    本書を読むのはこれで何回目だろうか。

    自分でも呆れるくらいこの物語が好きだ。

    物静かでいちども笑ったことのない伊右衛門が、一気に感情をあらわにさせて嗤うところは何回読んでも泣けてくる。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「哀しい」ってこういうことなんだ、って
    この小説を読んで初めて解った。
    物語は静かに淡々と進んでいくのに、
    何か胸が詰まるような空気が
    本からひしひしと伝わってきて、
    でもそれが何なのか分からないまま読んでいたら、あの言葉。

    切ない程に岩が愛おしくなった

    その瞬間涙が込み上げてきて必死で堪えた。
    これが哀しいっていうことなんだ。
    物語の中では岩と伊右衛門が一緒に過ごす場面は
    そんなに多く描かれていないけど、
    ここにこの物語の「哀しさ」がぎゅっと凝縮されてる。

    上滑りする言葉。
    伝わらない気持ち。
    感じたままに伝えられない想い。

    どうして思ってることをそのまま言葉にできないの!
    ってもどかしくもなるし、
    でもそのままを行動に移せない気持ちもよく分かるし。
    こんなに哀しい話読んだことない。

    誰でもない自分が思ってることさえ
    有りのまま言葉にできないんじゃ、
    誰かに気持ちを伝えようなんて
    無理な話なのかなって思った。
    言葉ですべてを伝えようとするのは
    無理があるのかな…。


    でも。
    この話、哀しいだけで終わらない。

    又左衛門が娘を想う気持ちと
    伊右衛門が妻を想い続ける気持ち。

    実はどっちも同じくらい怖い。
    一途を貫くことは強く執着すること。
    伊右衛門の最後の言葉は哀しくて、
    ゾッとするほど怖い。
    程度の差こそあれ、人は何かに掴まってないと
    居られないのかも。
    それがある程度までは「好み」とか「こだわり」とか
    「一途」とされるけど、
    どこかを超えると「執着」になる。

    それでも、どんな気持ちであの桐の箱に入ったのかを考えると
    やっぱり苦しくなる。

    “泣ける”小説じゃなくて“涙が出る”小説。

  • 有名なお岩さんのお話。
    京極さんのアレンジでは、お岩さんも伊右衛門さんも、とても良い人たちでした。

    そして、お岩さんも伊右衛門さんも良い人だったからこそ生きにくい人生を送り、周囲は人間の愚かさや汚さをしっかり行動に起こす輩ばかりで、大変だったね…って感じでした。

    この2人が、素直に自分の弱さを好きな人には打ち明けられるタイプだったら良かったのにな。
    片方だけでも好きな人には素直に甘えられるタイプだったら、こんな悲劇にはならなかっただろうと思いました。

    人間って難しいね。
    弱い人ほど「弱いんだから仕方ないじゃんっ!」って開き直るしさ。

    ぴったりとこの分量で、誰もが知っているこの物語を京極風に紡いだ作者の力量を感じました。
    下手な映画を観るより良い時間を過ごせました。

  • おばけ、妖怪は怖いだけではいけない。。

    語り、歌舞伎等でおもしろくするためには、岩を哀しく、恨みを深くしなければならず、伊右衛門を悪く、より悲惨にしなければならなかった。。でもこの作品は違う。

    気丈な岩と、優しい伊右衛門。。
    しかし、すれ違いによる悲劇。。仇討。
    恋愛小説である。

    実在したという伊右衛門、岩も、こんな人たちだったらいいなぁと想う。

    顔が爛れていることが、二人の間で大きな障害になっていないところが、すごく好きだ。


    恨めしや

  • 四谷怪談をオリジナルに解釈しなおした、とか何とか(そもそもの四谷怪談をちゃんと知らないけど)。久し振りの京極節、難しいというか、古い日本語に最初戸惑って入り込むのに時間がかかったが、後半岩がブチ切れた辺りからは一気に読了。超久しぶりの京極夏彦、相当に面白かった。岩はめっちゃ強気の真っ直ぐ理論派女性として描かれており、そこに敵役伊東の超絶悪人ぶりと家族間の歪んだ愛情が絡み合い、最後は静かに嗤う伊右衛門による謎解きと凄惨な結末、と怪談というよりドロッとした江戸ミステリーだった。ラスト、蛇や鼠まみれな2人一緒の遺骸シーンはなかなかにぞくっとする悲恋の結末。

    ということで、京極宮部辺りの時代物がいまいちテンション上がらないタイプだったのだが、この京極江戸怪談シリーズは残りも読んでみたい。ついでに巷説百物語だっけ、とキャラが被ってたりもするらしいのでそっちも…とか、思ったり。果たして今更ながら自分的第2次京極ブーム、来るか!?

  • 男女とは斯くも分かり合えない、という良書その二。
    しかしこっちは純愛でした。お互い思い合っているところがもえでした。

    10年ぶり位で、本当に内容忘れていたので、どうなるのや、と面白かったです。

  •  近代的解釈でリライトした「四谷怪談」。ホラーよりもミステリ成分が濃い。「心中もの」の変種とも読める。

  • 数年前に映画を見て、面白かった記憶があったけれどストーリーが思い出せず、読んでみる。
    登場人物それぞれの視点から描かれたストーリーが、それぞれの思いの行き違いをはっきりと浮かび上がらせており、読むほどに「そうゆうことだったのか」と引き込まれた。一つ一つの行き違いが悲劇につながる。伊右衛門と岩の互いを思い合う気持ちが痛ましいほど強く、ハッピーエンドを願わずにはいられない。人の心って恐ろしい〜と思った。

  • 通常のお岩さんが出てくる怪談ではありません。古典である四谷怪談を、京極夏彦が消化し現代風に再表現した小説です。
    ……何が一番怖いかって、この本をブックオフで買い自宅で読み始めたところ、2ページ目によくわからない写真が挟まっていたことです。誰がしこんだのだろうか。

  • 伊右衛門と岩の愛し方は私には真似できないししたいとも思わないけど、悲しくて綺麗だなと思った。

    喜兵衛には感情移入できなくてただただ嫌悪感しか感じなかったり、重いお話だったけど、こういうのも結構すきです。

  • 元ネタは「岩」の名前と、ぼんやりとしたあらすじしか知らないのだけど、多分この作品はそれらを超える驚きの作品に仕上がっているんだろうと思う。
    登場人物は、なんだかみんな悲しい。

  • 20220806再読

  • 四谷怪談の知識ほぼ0で読んだので、登場人物の他との違いはわからないけど、楽しめた。
    岩と伊右衛門は報われてないけど、ハッピーエンドではあるな。

  • なんとなく知っているつもりだった四谷怪談だが、本書を読んで、案外と知らないことに気付いた。鶴屋南北の『東海道四谷怪談』など読んでないから、それも当然なのだが、案外と登場人物も多い、込み入った話なのだね。だから、どの辺りが南北から受け継いだ部分でと言った考察はできかねるのだが、伊右衛門と岩のキャラクターが、南北版とは大きく変わっていることぐらいは分かる。もっとも巻末の解説によると、岩のキャラクターは、南北が下敷きにした事件に取材した実録小説に多くを負っていると言うからおもしろい。
    お互いに愛し合っているのに相手に伝わらないという、不器用過ぎる二人の悲劇を、同じようにわずかな齟齬が積み重なって生まれた悲喜劇が取り囲む。

  • 凄い!最初は読みづらかったけれど、ラスト一気に掴まれました。話の作り方すごい。他も読んでみよう。

  • 読みながらずっと暗いものが自分の中でぐるぐるしてた切ないだけで言い表せれないやり切れない
    愛とか執念とか慈しみとか憎しみとか、京極夏彦は人の感情の書き方が繊細だと思う

  • 歌舞伎で観る東海道四谷怪談とはまったく異なり、伊右衛門も岩も、不器用ではあるが愛に溢れている。現代の夫婦像にも通ずるところがありそう。
    ただ周囲はひたすらにグロテスク。
    どす黒い血に塗れた屍たちの中、桐箱だけが尊く描かれたように感じたが、それは天国なのか地獄なのか。

  • 3.81/2420
    内容(「BOOK」データベースより)
    『疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。娘・岩を不憫に思うと共に、お家断絶を憂う父・民谷又左衛門。そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったことなぞない生真面目な浪人・伊右衛門―。渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを飲み込むほどの情念とは―!?愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。四世鶴屋南北『東海道四谷怪談』に並ぶ、著者渾身の傑作怪談。』

    冒頭
    『伊右衛門は蚊帳越しの景色を好まない。
    蚊帳越しの世間は如何にも霞んでいて、眸に薄膜の張ったが如き不快を覚える。』

    『嗤う伊右衛門』
    著者:京極夏彦
    出版社 ‏: ‎角川書店
    文庫 ‏: ‎374ページ
    受賞:泉鏡花賞
    映画化:(2003年)

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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