サマーバケーションEP (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 208
レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043636075

作品紹介・あらすじ

学校には行かなかった。集団生活は難しい。僕には、人の顔がわからないんだ。だから匂いと声で、手を握って、人を見分けてる。20歳を過ぎ自由行動を許されて、井の頭公園にやって来た。冒険するために!公園の湧水は川となって高田馬場を、水道橋を流れ、御茶ノ水を通って隅田川に注ぎ、海に出る。神田川が終わるところを見るために、僕は、公園から海に向かって歩き出す。だってそれが、サマーバケーションだから。

感想・レビュー・書評

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  • まるで音楽のような小説。
    そこに描かれる風景、流れるような物語、軽やかで確信犯的言葉レスな文体、交わされる正常に傾いた会話。
    小説の文体をこんなに魅力的だと感じたのは初めてだった。
    はじめて読んだときのインパクトは忘れられない。

    好きな人にはとことんハマる作品だと思うが、一般受けしないという感じもする。
    自分にとっては魅力的に映る文体も、人によっては、変な文章、荒い文章という風に感じられるかもしれない。

    他にこの作品の特筆すべき点を挙げると、東京小説、というか観光小説として見たときの、その圧倒的な描写力だと思う。
    趣味が旅行なので多数の旅本、ガイド本を読んできたが、この本は別格の存在。
    絵よりも写真よりも、この小説から想起される世界は具体的で鮮烈で、感覚的。
    その真価は読後に実際に東京を歩いてみたときに感じられた。

    数年前の夏、この物語の舞台を出発地点の井の頭公園からゴールまで、丸一日かけて川沿いにずっと散歩したが、作中出てきた駅や看板、ベンチ、児童公園、道路、川、橋、牽車区、高い塔、アイスを買ったコンビニ、そしてゆったり過ぎる夏の空気まで、「全部現実」にあった。
    名もない道ばたの風景が、輝いて見えた。
    文庫本片手に歩いたが、この一日は普段の何倍にも長く感じられ、現実感と非現実感が入り交じった、不思議な体験だった。

    自分にとって、そんな特別な時間をくれた一冊。

  • 散歩が楽しくなるような一冊
    風景の捉え方が主人公の視点なので、知らぬ間に自分もそこにいるような感覚になってとても楽しい
    また、出会いも沢山あり、別れの惜しさよりも出会えてよかったの喜びのほうが大きいと感じさせるような、ポップで明るい小説

    「散歩=冒険」なんて感覚が今までになかったので、これから散歩するのがとても楽しくなるだろうと思います。
    読んでよかった。

  • 人の顔を認識できない少年が、20歳になって初めて1人の外出を許可されます。少年は冒険をしようと心に決めて井の頭公園にやってきました。公園の湧水をたどって、杉並区から中野区へ、高田馬場から水道橋へ。途中何故か仲間が増えていきみんなで海を目指して!

    この作者は本当に不思議な本を書きます。ベルカ吠えないのか?も賛否両論すごい本でしたが僕は擁護派の側でありました。ベルカは犬の血筋そのものが主人公でしたが、この話は東京が主人公です。僕は中野区生まれなんで大分分かりましたが、地方の人はつまらないかもしれません。ひたすら情景描写と、不思議な会話の連続です。でもこういうかわった本もまたよし!

  • わたしの東京の夏がキラキラまばゆくて。小さな源流から大海へと広がるその軌跡が希望への道筋と繋がります。馴染みの雑踏が風景がこんなにも輝いて見えるなんて。無垢な心の主人公の眼差しが切ないほど美しいです。

  • 吉川日出男の作品の中では一等好きな作品です。神田川を河口に向かって歩くと言う、超短距離のロードムービーのような1冊です。

  • 出会いと別れを繰り返しながらひたすら歩く話。上京する前は想像がおいつかなかったけれど、東京に出てきてからなんとなくイメージがわいてくる。

  • 真夏に読みたくて長らく積読状態だったもの。
    久々に読み終わりたくない作品だった。
    他の古川作品のような強烈なものではなく、ひたすらに心地良さを与えてくれる。
    それは、「僕」の普通とは違う受信機を通して描かれる夏の情景が、潜在的に持っている自分の中の夏と絶妙な角度で交錯し喚起されるからだろう。
    そしてこの開かれたラスト。EPレコードをエンドレスで聴く感覚に魅せられた。

  • 「冒険」
    「おれら、それ、するの。ていうか、してるの」

    他人の顔を見分けることの出来ない主人公と、
    出会って行動を共にする人たち。

    そして、僕達は井の頭公園から海へと歩き出す。
    川沿いを歩く1泊2日の冒険。
    本当の夏休みのはじまり。


    目はふたつ、口はひとつ、眉はふたつ、耳はふたつ、鼻はひとつ。

    在るものはみんな一緒。
    だから見分けがつかない。

    好みがあると思いますが、
    詩のような断片的な文章が私は大好きです。

    「視界の、縦。
     空を仰ぎます。」

    顔がわからなくても、
    色や声、匂いや温度、呼吸、言葉、
    たくさんのものが情報をあたえてくれる。

    ただただ、海を目指して歩き
    ときには不思議な世界にも迷い込みますが
    特にドンデン返しもないですが
    なんだか惹き込まれました。

    それにしても、
    川も駅も交差点も
    この方は全部見てきたんでしょうか。
    井の頭公園から海まで、
    描ききるって。

    36度9分、それは青春の温度なんです。

  • この人のこの手法に飽きがでてきたのは、ここらへんからかな。いや、たぶん、書いているあっち側もこの手法に飽きがでてきてないか、とすら思う。正直、惰性じゃないか、これ、と。神田川から東京湾まで。何がしたいんだ、ていう。何もしたいわけじゃないんだ、ていう。そういう物語。(12/1/30)

  • 読んで良かった! 素晴らしい夏のどうだっていい、何もなくわくわくする一大冒険譚。おじさん最高! 評議会は、ちょっと作者の地が出た?

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プロフィール

1966年福島県生まれ。2002年『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞と日本SF大賞、06年『LOVE』で三島賞、15年『女たち三百人の裏切りの書』で野間文芸新人賞と読売文学賞(16年)を受賞。

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