サマーバケーションEP (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.63
  • (16)
  • (22)
  • (15)
  • (11)
  • (1)
本棚登録 : 249
レビュー : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043636075

作品紹介・あらすじ

学校には行かなかった。集団生活は難しい。僕には、人の顔がわからないんだ。だから匂いと声で、手を握って、人を見分けてる。20歳を過ぎ自由行動を許されて、井の頭公園にやって来た。冒険するために!公園の湧水は川となって高田馬場を、水道橋を流れ、御茶ノ水を通って隅田川に注ぎ、海に出る。神田川が終わるところを見るために、僕は、公園から海に向かって歩き出す。だってそれが、サマーバケーションだから。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まるで音楽のような小説。
    そこに描かれる風景、流れるような物語、軽やかで確信犯的言葉レスな文体、交わされる正常に傾いた会話。
    小説の文体をこんなに魅力的だと感じたのは初めてだった。
    はじめて読んだときのインパクトは忘れられない。

    好きな人にはとことんハマる作品だと思うが、一般受けしないという感じもする。
    自分にとっては魅力的に映る文体も、人によっては、変な文章、荒い文章という風に感じられるかもしれない。

    他にこの作品の特筆すべき点を挙げると、東京小説、というか観光小説として見たときの、その圧倒的な描写力だと思う。
    趣味が旅行なので多数の旅本、ガイド本を読んできたが、この本は別格の存在。
    絵よりも写真よりも、この小説から想起される世界は具体的で鮮烈で、感覚的。
    その真価は読後に実際に東京を歩いてみたときに感じられた。

    数年前の夏、この物語の舞台を出発地点の井の頭公園からゴールまで、丸一日かけて川沿いにずっと散歩したが、作中出てきた駅や看板、ベンチ、児童公園、道路、川、橋、牽車区、高い塔、アイスを買ったコンビニ、そしてゆったり過ぎる夏の空気まで、「全部現実」にあった。
    名もない道ばたの風景が、輝いて見えた。
    文庫本片手に歩いたが、この一日は普段の何倍にも長く感じられ、現実感と非現実感が入り交じった、不思議な体験だった。

    自分にとって、そんな特別な時間をくれた一冊。

  • 人の顔を認識できない少年が、20歳になって初めて1人の外出を許可されます。少年は冒険をしようと心に決めて井の頭公園にやってきました。公園の湧水をたどって、杉並区から中野区へ、高田馬場から水道橋へ。途中何故か仲間が増えていきみんなで海を目指して!

    この作者は本当に不思議な本を書きます。ベルカ吠えないのか?も賛否両論すごい本でしたが僕は擁護派の側でありました。ベルカは犬の血筋そのものが主人公でしたが、この話は東京が主人公です。僕は中野区生まれなんで大分分かりましたが、地方の人はつまらないかもしれません。ひたすら情景描写と、不思議な会話の連続です。でもこういうかわった本もまたよし!

  • 独特な世界観で読みにくいかも、みたいにすすめられて、どんなものだろうと読み始めたら全然そんなことはなかった。
    真似をして同じ道を歩きたいと何度読み返しても思ってしまう、夏を歩く一冊。夏になったら毎年読みたくなって好きなシーンだけでも読み返したり、夏じゃなくても夏にトリップしたくなったらこの本を読んだりする。
    小学生たちが自販機の前で繰り広げたドクペのくだりが好き。

  • 歩きたくなる。読み終わったあとに「歩きてぇー」って思う。夏っていいな、とか。歩いた先の海見てぇー、とか。帽子っていいな、とか。

    導入の設定、世界観がこの著者の作品が初めての人にはとっつきにくいかもしれないが、そこを乗り越えれば、夏の冒険に没入できる。

    へその女、子供、クルクルのおじさんに外人。
    出会いと別れが絶妙で主人公の心模様が素敵な物語。

    こういうスタンドバイミーもいい。

  • ぼくは学校には行かなかった。
    集団行動が難しい。
    僕は人の顔がわからない。だから声と匂いと、手を握ることでコミュニケーションをとる。
    20歳になり自由行動が許され井の頭公園へ。

    井の頭公園で、そこが神田川の起点だと知る。
    そこで出会った、ウナさん、カネコさんを中心としたメンバーと、神田川氏沿って海まで歩くことになります。

    途中、いろいろな人たちとの交流があり、それが中学生の集団だったり、中国人との国際交流だったり
    おじさん、でも実はすごい人で・・・

    川を沿いを歩くことで夏休みを謳歌する面々

    どこかに忘れてきた何かを考えさせられるすがすがしい1冊

    夏に読んでほしい

  • 2010-7-4

  • わたしの東京の夏がキラキラまばゆくて。小さな源流から大海へと広がるその軌跡が希望への道筋と繋がります。馴染みの雑踏が風景がこんなにも輝いて見えるなんて。無垢な心の主人公の眼差しが切ないほど美しいです。

  • 吉川日出男の作品の中では一等好きな作品です。神田川を河口に向かって歩くと言う、超短距離のロードムービーのような1冊です。

  • 出会いと別れを繰り返しながらひたすら歩く話。上京する前は想像がおいつかなかったけれど、東京に出てきてからなんとなくイメージがわいてくる。

  • 真夏に読みたくて長らく積読状態だったもの。
    久々に読み終わりたくない作品だった。
    他の古川作品のような強烈なものではなく、ひたすらに心地良さを与えてくれる。
    それは、「僕」の普通とは違う受信機を通して描かれる夏の情景が、潜在的に持っている自分の中の夏と絶妙な角度で交錯し喚起されるからだろう。
    そしてこの開かれたラスト。EPレコードをエンドレスで聴く感覚に魅せられた。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1966年生まれ。98年『13』で作家デビュー。『アラビアの夜の種族』で推協賞、日本SF大賞、『LOVE』で三島賞、『女たち三百人の裏切りの書』で野間文芸新人賞、読売文学賞。最新作は『ミライミライ』。

「2018年 『作家と楽しむ古典 平家物語/能・狂言/説経節/義経千本桜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古川日出男の作品

サマーバケーションEP (角川文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×