疾走 下 (角川文庫)

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  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043646036

感想・レビュー・書評

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  • 表紙のインパクトも凄いが、内容もかなり重い。
    やりきれない気持ちで読み進めた。
    重松さんの作品は、いつもあたたかい気持ちになるものが多い中、こんな作品も書く作家さんなんだと驚いた。
    おすすめ。

  • 読み終わったあと、何を感じるだろう?

    たった15歳のシュウジを絶え間なく襲う悲劇。加えてアカネやエリ、みゆきの話まで加わって、上巻以上の破壊力。クライマックスも決してハッピーエンドではない。だが私には希望が感じられた。

    「ぼこぼこ、あなぼこ」を求めたシュウジ。でもそれは絶望ゆえのことであり、本当はそうではなかった。「おまえ」と語りかけていた者の正体がわかったとき、そして「ひとり」が「ひとつ」になったとき、あれほど不平等だったシュウジの人生が報われた気がした。ラストは不覚にも涙してしまった。文句なしの大傑作だ。

    追記:作品の趣旨を壊してしまうことは承知で、いつの日か重松氏に「最後にもしシュウジが転ばなかったら」というアナザーストーリーを書いていただくことを切望したい。

  • つらい。
    きつい。
    苦しい。
    死にたい。
    重い言葉ばかりが浮かんでくる物語ではあるが──
    やはり私は、この小説を多くの人々に読んでもらいたい。
    何故なら。
    どんなに苦しくても、最後には希望の光があなたを包んでくれるはずだから。

    「いつか……走れるから」
    「いつか……走ろう、二人で」

    重松清。数多の涙する名作あれど。
    この作品は作者自身がわが身を削るような思いで、書ききった名作だと思う。

    珍しい二人称の語りでの文章。
    でもこの物語は、一人称でも、三人称でもここまで心に届くような作品にはならなかったはずだ。
    二人称の「シュウジ、おまえは──」というような語り口だからこそ、心に響く物語。

    すさまじいまでの迫力で、悲惨な現実が少年シュウジをどこまでも追い詰める。
    弱者が、これでもか、というほど虐げられる。
    途中までは、ある意味、映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の悲惨さと遜色ないかもしれない。
    つらすぎて、読むのをやめたくなる人もいるだろう。
    それでも──
    最後まで読んでほしい。
    シュウジの命を懸けた懸命の走りを、最後まで追いかけてほしい。
    最終ページでの神父の言葉の意味を深くかみ締めてほしい。
    それが分かれば、誰もが涙を浮かべるだろう。
    それは哀しみの涙ではなく、感動で体が打ち震えるときにあふれ出る涙だ。
    その言葉がそれまでの悲惨さを全て吹き飛ばし、未来に希望の持てる物語に一変させる。

    個人的には、あまりに読むのがつらすぎて好きな傾向の作品ではないはずなのに、読み終えた後、感動の涙がとめどなくあふれ出た。
    しおれ、枯れ果てぬばかりになっていた花に、
    その涙の雫がこぼれ落ちたことで、再び花が生気を取り戻した。

    本物の小説家、重松清の真髄を見せつけた不朽の名作だと思う。
    こどもを主人公とした多くの名作を出し続けている重松氏だが、
    小説家としての素晴らしさは、やはり
    「その日の前に」「君去りしのち」や「カシオペアの丘で」などの、生と死に真っ向から向き合う作品でこそ、彼の真髄を発揮するように思える。
    彼が小説家になるために師事した、早稲田の(あれ? 名前忘れちゃった。平岡先生でしたっけ? たぶん)平岡篤頼教授が
    「重松君。物書きは、やはり長編を書けなければだめだ」
    と諭されたという話をどこかで聞いた記憶があるが、師匠からの叱咤は、彼の心の中にしっかりと刻み込まれているはずだ。

    この作品を「最後まで救いのない物語」と感じた方のレビューを読んで、
    最終ページの文章の意図するところをどう理解したのだろうかと気になった。
    それが分かっていても「救いのない物語」と読んだのであれば、返す言葉はないけれど。
    もちろん、小説の読み方は人それぞれ、正解などないことも分かっているけれど。
    それでも、最終ページの神父の語りをもう一度だけ読んでほしい。

    そして、シュウジ。
    最後の最後だ。
    聞こえないか? シュウジ。
    我が家の玄関前の、なだらかな坂道をのぼってくる足音が。
    かけっこが得意な望に付き合って家の近所を一回りして、望よりずいぶん遅れて、いまゴールイン間近のひとの足音が、シュウジ、おまえにも聞こえないか?

    ここから最後の一行までの語りこそが、悲惨な話としてそのまま終わらせないために、重松氏が渾身の力を振り絞った文章のはずだから。
    (不覚にも私は、この数ページ前から涙が止まらなくなった。そして、ラストまで読み終えて「そうか。シュウジ、良かったな」と、目の前になどいないはずの彼の肩を優しく叩きたい気持ちになった)

    ブクログ様、すみません。
    「グレイメン」読まずに、こっちのレビューを書いてしまいました。申し訳ない。
    でも、まだ二週間あるから、ご勘弁ください。

    • ウエッチさん
      すごく共感しました。
      当時、重松さんを追っかけのように買っては読み、していましたが、この作品は買ってから読み出すまで半年以上かかった。そして...
      すごく共感しました。
      当時、重松さんを追っかけのように買っては読み、していましたが、この作品は買ってから読み出すまで半年以上かかった。そして苦しみながら読んでいくと……、まぁあんな泣くかっていうぐらい泣きましたね。
      本当に一人でも多くの方に読んでほしい作品です。
      2012/06/30
    • Nさん
      だいぶ前にこの本の私のレビューにコメントを頂きました。ありがとうございました。この作品には辛い描写がたくさんあり、絶望の中をまさに疾走する作...
      だいぶ前にこの本の私のレビューにコメントを頂きました。ありがとうございました。この作品には辛い描写がたくさんあり、絶望の中をまさに疾走する作品のようで、そして希望の本であると思います。疾走にて共感する所が多々あったので、koshoujiさんに是非、天童荒太さんの「悼む人」を読んでいただきたいです。あれも、悲しみの末の、希望の話です。
      2013/08/11
  • 怖いではなく、恐ろしいとも言えない、気持ち悪いとも表現できないような本だった。
    人間の本質がありありと書かれている。


    両親はシュウイチもシュウジのことも愛していなかったし、何も見ていなかった。

    上巻は何にも救われないまま、ただただ堕ちていくだけだった。
    まだ中学生のシュウジが環境がすさんでいくにつれて、物事を深く考えるのをやめ、すぐにあきらめるようになっていくのが読んでいて辛かった。

    穴ぼこの目になろうとしているのも、すぐに「死ぬぞ」というようになったのも、耳をぼやけさせるようになったのも、15歳の子供がやることとは思えなかった。


    重松さんの本を初めて読んだため、このような感じの本が多いのかどうかわからないが、すごく恐ろしくなった。

    この本は世の中の厳しさを表している本でもあると思う。
    読者には決して夢など見せず、ただただ現実を突きつける。
    特にシュウジが新聞配達を始めた際の、オーナーとトクさんがそうだと思う。オーナーのずる賢さというか、自分より立場の弱い人間に理不尽なことを言い、お金を分捕る。
    トクさんは、味方だと思わせて安心しきったところを狙う。
    15歳という若すぎる年齢で働くということはこういう目に合うのもおかしくない。
    これが社会の現実なんだ。
    だんだんと壊れ、シュウイチのようになっていくシュウジは見ていて本当につらかった。環境というものはすべてを左右する。

  • 重松清さんの著作は本棚に23冊ありました。好きな作家さんです。重松清さんの作品は読後感が良く、なんか勇気づけられたり、涙が出るような作品が多いように思います。たった23冊で早計な意見かもしれませんが。そんな認識を持っている私にとっては、この作品は異質なものでした。登場人物の全員が、幸せとは言えない、胸が苦しくなります。過激な性描写に目を逸らせたくなります。ただ、新しい命が生まれることに救いを感じました。改めて著者の守備範囲の広さ、懐の深さを認識させてくれる作品でした。

  • この町にいても嫌な未来しかない。主人公シュウジは町を出た。大阪で性と暴力に溺れ、ヤクザを殺す。東京でずっと会いたかったエリに会い、その叔父を刺す。エリと共に元の町に帰ったものの警官に射殺される。

     誰か一緒に生きてください。強い「ひとり」に憧れ、それを目指したからこその言葉だろう。強く胸に響いた。結局何一つ報われることは無く、まさに煉獄の道のりを走り続けたシュウジ。
     シュウジがこの世に作り出した命。シュウジの子「望」。最後の場面でこの子とエリが元気に走り回る姿が描写されており、初めて心温まった。しかし、「伝道の書」に書かれた一文「この世に生れ落ちるよりも流産して闇に消え去った方が幸せだった」を頭に思い浮かべてしまった。心が暗くなった。

  • 15歳になった少年・シュウジの人生は、相変わらず悪いほうへとしか進まない。
    兄の放火事件をきっかけに一家離散に追い込まれ、故郷を捨て、ひとり東京へ向かう。

    「感動のクライマックス」という触れ込みの下巻だが、感動というには違和感がある。
    後味は決して良くはないし、読み返したいとも思わない……けれども、やはり重松清の文章力(さり気ないのに、グイグイ惹き込まれる)は圧巻。

  • 駆け抜けて、最後苦くてあったかい余韻を残してった。重松さん、やっぱ好き。

    シュウジはずっと「ひとり」だと自分を思ってたと思うけど、私はシュウジの人生を外野からのぞいていて、色んな人を救ってたし救われてたと思うよ。
    アカネに子どもっていう生きがいを与えて、エリも救って...逆にアカネに救われて、エリを生き甲斐にして、神父に見守られ、みゆきに助けられ...「ひとり」同志支え合って生きていたと思う。本当に「ひとり」なんてこと、ありえないんだと思う。

    ずっと語り手が誰か気になってた。そっかーー、まぁそうしかないかぁ、最後に少しでも救われてよかった。

  • 上巻のあまりの救いの無さに心を「からっぽ」にされた状態で下巻を読み始めた。
    下巻は話の展開が速くなり、奈落の底に向かって「疾走」していく感じ。安易な希望は無いだろうと思える展開なので、より一層「からっぽ」になった心で読んだ。
    少年と少女はよくがんばったよ。
    こういう過酷な運命に翻弄されながらも懸命に生きている子供たちが世界のあちこちにいるんだろうなと思った。
    もう一度手にとれそうにない重い一冊でした。

  • 重松作品こんな最後は初めてかもしれない
    これで良いのか
    と、思ってしまった
    家庭崩壊、もっと酷い現実もあるかもしれない
    最後まで不幸だった主人公
    主人公自身はそうは思っていなかったかもしれないが
    そういう人生を歩んでいる人は、世の中に数多くいるかもしれない
    作者はそのことをあらためて読者だけではなく、多くの人に知らしめたいと思ったのだろうか

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

重松清の作品

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