症例A (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 273
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043690015

作品紹介・あらすじ

精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる…。正常と異常の境界とは、「治す」ということとはどういうことなのか?七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。

感想・レビュー・書評

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  • 約7年の構想を経て書き上げたという作品なだけあり 現場を知る者にとっては臨場感がある
    精神とは何か 正常とは何か
    後半の回顧録の部分は少し理解に苦労したが 綿密に組み込まれた展開だった
    後日譚も読みたかった
    著者が行方不明になって随分経つ 記憶がなくなっていたとしても どこかで無事に生きていることを願うばかり

  • 亜佐美も、広瀬由起も、これからどうなる…!?っていうところで物語が終わってしまった。
    でも治療の行く末を見守るには先が長すぎるし、そもそも何を治療のゴールとみなすのかが難しい。この先は読者に委ねるしかないのかな。
    "症例A"とはいいつつも、〈Aさんの場合〉のような実際の治療例を読みたい知りたいわけでもないし。

    それと、博物館の謎のくだりは本筋に必要だったかが疑問。

  • 昔読んだ、五番目のサリーを思い出す。
    ディティールが似ている。
    症例Aを治療すると見せかけて、最後に治そうとするのは…。
    心理描写が細やかで引き込まれる話だった。

  • 読み終えて、「えっ!これで終わり?」という感想です。
    あまりに最後があっけないというか、はっきりしないまま終わったというか・・・。

    タイトルのように、精神病の症例や治療法について詳しく書かれた本です。
    特に最初の方は専門的な事をつらつら丁寧に書いてあり、小説とノンフィクションのあいのこのような印象を受けました。
    それだけちゃんと専門的知識を詰め込んでいるのと比較してストーリー部分はおざなりというか・・・物足りないと思いました。

    ストーリーは主に2つの方向から進んでいき、主なストーリーは精神科医の男性の話。
    榊は事故で亡くなった医師の担当していた患者を引き継ぐ事となる。
    その患者とは17歳の女子高生、亜左美。
    彼女と面談を繰り返す内、榊は彼女に虚言癖があると感じる。
    やがて、同僚で心理士の女性から榊は彼女の病気について意外な見解を聞く。

    その主体となるストーリーにさしはさまれるように書かれているのが博物館に勤める女性の話。
    彼女は自分の勤めている博物館で所蔵している狛犬が偽物でないかという疑惑を抱き、その真相を知っていると思われる人物に会いに行く。
    その人物とは榊が勤める精神病院にいる患者の一人だった。

    精神病を扱った小説というとその部分をセンセーショナルにとりあげてインパクトをもたせるものが多いですが、これはあくまでも理知的に淡々に描かれていると感じました。
    だから余計にリアルに感じられ、まるでノンフィクションを読んでいるような気になります。

    ただ、肝心の本筋と思われる話が途中でちょっとおざなりになってないか?という気がしました。
    最後ははっきりしないまま終わったのでモヤモヤ感が募ります。
    もっとそこを知りたかったのに・・・という感じ。

    それに、ちょっと疑問に思ったのは多重人格という稀で複雑な症例の人が精神病の患者をみる側になれるものなのか?ということ。
    自分がみられる側と同じような経験をしているので共感できる部分があるとは思うけど、それってあまりに危ういという気がしました。
    ここにも書かれているけど、そういった病気を抱えていない人でも精神病の人と常に接している内に感化され、取り込まれる事もある訳だから・・・。

    理想をもった医師が現場にいる内にそういったものを失くしていくというのは似たような事を知っているだけにやるせなく感じられ、何となく分かる気もしました。

  • 読んでいてノンフィクションではないか?と思うぐらいリアルに感じる小説でした。
    多少精神の知識を持っている自分からしたらほんとにリアルで、コミュニケーションをとる時にも何処か別の世界にいてさらに電話越しに話しているそんな感じをとても詳細に書いていてどんどんのめり込んでいきました。
    この小説を読んで改めて精神を型にはめるのはどうなのかとも思いました。確かに治療という行為を行う上で伝えるときや定義等はしっかりするメリットはあると思うが、それを決める事で先入観や思い込みというデメリットも生じてしまう。
    この小説を通じさらに自分の精神の特徴を知りたいと思えるようになりました。

  • 博物館の話と精神病院の話がどのように繋がるのか訝しながら読み進めたが、次第に一つ一つのパーツがパズルのようにはまっていき、どんどん引き込まれていった。
    自分の知らない世界を垣間見たり、世界を広げたりするのが読書の醍醐味だが、まさにそれを体現してくれる一冊であった。
    本の最後にある多数の「参考文献」のリストを見て、作者がいかに深く多くを学んで思いを込めて本書を書いたかを想像した。

  • 精神診療におけるお話。
    興味深いテーマとして読み始める。
    精神疾患は難しい。データや数値には表す事が出来ない中で診察が進められる。

  • 多重人格。いろんな伏線が回収しきれてない印象

  • ある精神科病院に新任してきた若手医師が主人公。前任の医師が事故死したため、彼の患者を引き継いだのだが、その中に統合失調症とうたがわれる厄介な10代の美少女の患者がいた。主人公はほかの病気の可能性も疑いつつ治療を進めていくが、彼女の自由奔放で天真爛漫な態度に振り回されそうになる。そんな中、彼女の担当臨床心理士から多重人格の可能性を指摘されるが主人公は受け入れられない。しかしある事がきっかけで多重人格に対する認識を改め、例の患者に対しても多重人格の可能性を疑い始めた時に見えていなかったものが明らかになっていく。

    ひとことで言えば、多重人格ってあるんだよという話。
    1人の患者のせいで医師や看護師が振り回されて病院内がぐちゃぐちゃになるみたいな話かと思っていたが、多重人格ってのはこんな病気でそれに向き合うにはこういう心構えでないとダメです、ということが主旨。
    患者の話と並行して、ある博物館の美術品が偽物であるという話も語られているが、このストーリー必要なんだっけ?という感じ。

  • 多重人格を扱った小説なので、てっきりどんでん返しやサイコな感じの内容なのかと思ったけれど、かなり真面目な話でした。
    先の見えない精神病治療に、何だか読んでいる私も鬱々としてきてしまう。

    一見関係のなさそうな精神病院の話と博物館の話がどう繋がるのか、と思い最後まで読み切りましたが
    これは病院の話1本でも良さそう。

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著者プロフィール

1948年大阪生まれ。広告代理店に勤務。1982年、小説現代新人賞を受賞し作家デビュー。主な作品に、『海賊モア船長の遍歴』『クリスマス黙示録』『仏蘭西シネマ』『不思議島』『症例A』などがある。

「2021年 『多島斗志之裏ベスト1  クリスマス黙示録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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