ためらいの倫理学 戦争・性・物語 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.69
  • (80)
  • (105)
  • (157)
  • (16)
  • (1)
本棚登録 : 1346
感想 : 97
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043707010

作品紹介・あらすじ

アメリカという病、戦後責任、愛国心、有事法制をどう考えるか。性の問題、フェミニズムや「男らしさ」という呪縛をどのように克服するか。激動の時代、私たちは何に賭け金をおくことができるのだろうか-。ためらい、逡巡するという叡智-原理主義や二元論と決別する「正しい」日本のおじさんの道を提案する。内田樹の原点が大幅加筆でついに文庫化。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今までの内田さんの著作の中で1番時間をかけて読んだ。「戦争論」についてに共感というか、ああだから私はこういうことに言及するのが嫌いだし言及してる人間をテレビやTwitterやらで見るのが大嫌いだったのかとすっきりした。まぁデビュー作から首尾一貫してるから最早感想書くのが難しいんだけど、嫌いな人の好みが合う人の著作は楽しいなあってのと、カミュについての考察に紙幅をかなり割いてくれていたのが嬉しかった。

  • 平岡諦氏のプロフェッショナル・オートノミーについての議論を読む。なんだかなあ、と思う。

    http://medg.jp/mt/2010/08/vol-266-15.html

    僕には日本医師会の真意は分からない(会員なのに、変ですよね)。そこに陰謀史観(患者の人権をないがしろにしておけ)があったかどうかも不明である。でも、平岡氏が主張するような

    日本医師会の国内向け情報操作
      ↓
    日本語という壁による「世界の常識」からの鎖国状態
      ↓
    日本の医療界の「ガラパゴス化」
      ↓
    日本の医療界の閉塞状況(医療不信、医療崩壊)

    は、明らかに「言いすぎ」である。ほとんどの医師は医師会が訳した倫理マニュアルなんて読んでないし(僕も読んでなかった)、医師会が百歩譲ってそのような陰謀史観をもっていたとしても、日本の医療界が「それがゆえ」に閉塞状況になったりはしないからである。それに、平岡氏は指摘していないが、WMAは各国の事情に合わせた価値の多様性を尊重している。世界の医療倫理がみな画一的に同じであるべきとは主張していない。スローガンはあくまでスローガンである。平岡氏の主張によれば、日本の医療がことさらに他国の医療に比べて非倫理的ということになるが、そうである根拠を僕は知らない(倫理的な問題が皆無とは言わない。他国に比べてとりわけ、、という意味である)。

    WMAはautonomyを以下のように説明している(マニュアルより)。そこでは医師の自律が尊重されているが、「患者の人権を擁護する」ために、とは書かれていない。また、患者のautonomyも大切にすることがうたわれているが、それは医師のautonomyの「目的」ではない。

    Autonomy, or self-determination, is the core value of medicine that
    has changed the most over the years. Individual physicians have
    traditionally enjoyed a high degree of clinical autonomy in deciding
    how to treat their patients. Physicians collectively (the medical
    profession) have been free to determine the standards of medical
    education and medical practice. As will be evident throughout this
    Manual, both of these ways of exercising physician autonomy
    have been moderated in many countries by governments and
    other authorities imposing controls on physicians. Despite these
    challenges, physicians still value their clinical and professional
    autonomy and try to preserve it as much as possible. At the same
    time, there has been a widespread acceptance by physicians
    worldwide of patient autonomy, which means that patients should
    be the ultimate decision-makers in matters that affect themselves.
    This Manual will deal with examples of potential conflicts between
    physician autonomy and respect for patient autonomy.

     平岡氏は患者の人権擁護が全てに優先する医療倫理の重要事項であるとする。そしてそのために医師のプロフェッショナル・オートノミーが存在するのだと。平岡氏がそのような倫理観を持つことに僕は反対する気はない。しかし、そのような見解が世界の基準なのだから、それを追随しない(と平岡氏には見える)医師会はけしからん、というのはおかしい。

    倫理は、どこどこにこう書いてあるから正しい、とか間違っているというものではない。他者に規定される倫理は、それこそ平岡氏の引用されるカントによれば、正しい倫理(あるいは道徳)とは呼べないのではないか。ジュネーブ宣言、ヘルシンキ宣言もそのような文脈で参照されるべきで、一意的に「ジュネーブにこう書いてある」と丸のみすることが世界標準というのではない。倫理もクリティカルに吟味しなければならないのだ。平岡氏の強硬な人権擁護絶対主義、医師会陰謀史観には「ためらい」がない。断言口調である。僕は倫理に関して、断言口調はそぐわないと思っている。倫理については首をかしげて、どうしよう、、、と悩み続けるのが現場のリアルな医療倫理である。

    というわけでやっと本に入る。

    「ためらいの倫理学」は内田さんの事実上のデビュー作である。久しぶりに読み直してみたが、ものすごく新しい。文体は今よりシャープでより攻撃的だが、本質的には当時も今も言わんとするところは変わっていない。

    それは、自分の「正しさ」に対する健全な不安である。それが「ためらい」である。

    したがって、自分は正しいに決まっており、相手は間違っているに決まっていると断言する上野千鶴子や宮台真司に内田さんは容赦がない。さらに興味深いのは、正しいに決まっている、と主張するような奴らは間違っているに決まっている、、、、あれ?俺も同じ話法使ってんじゃん、と自分に突っ込みを入れることも忘れない。

    予防接種は「効く」のか?、と「患者様」が医療を壊す、で僕はこれらの本の多くは内田樹さんのパクリである、、と書いている。でも、ためらいの倫理学を読み直して、その見解が誤りであることが分かった。ほとんど全部パクリでした。今書いている2冊の本も、たぶん延々とパクリを繰り返すと思います。

  • カミュについて語ったタイトルになってる論考を読みたくて買う。

    反抗、を、ためらい、と読み替えるとこにやっと納得。
    カミュとかそのことを読んでていつも違和感のある、反抗とかの厳しい言葉と内容のあいまいさ。

    ためらい、だ。

    感情を失った理念を批判するペストはまさにこれだろう。人間らしいためらいを忘れた人間の恐ろしさ。

    SNSには、ためらいを感じるための「顔」がない。
    ムルソーの状態だ。
    そうではなく、顔と顔を向き合わせて発言すること。
    そのときにためらいがうまれるだろう。
    それは弱さではない、抗いだ。
    自分の中にある正義への抗いだ。

    スピノザは、道徳的な絶対的な善悪を否定し、倫理的なよいわるいを関係性のなかで解いた。

    まさにこれではないか。道徳的な善をなそうとしたときに、それをためらわせる倫理観。
    場面ごとの関係がうむ倫理によって、「ためらうことをためらうな」とでも言えばいいのか。

    自分のなかの勝手な道徳観による自動的な、論理的な結論を自動的に遂行することに抗え、ためらわずにためらえ!
    そういうことかと思う。

  • 著者のデビュー作です。「なぜ私は戦争について語らないか」「なぜ私は性について語らないか」「なぜ私は審問の語法で語らないか」「それではいかに物語るのか―ためらいの倫理学」という4つのテーマのもとに、著者が雑誌などに発表した論考が収録されています。

    「あとがき」で述べられている、「自分自身の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」ということばに、本書の中心的な思想は集約されているように思います。著者はこのようなスタンスに立って、愛国心、戦争責任、女性の解放、そして「他者」といった主題について審問の文法で語ることのパフォーマティヴな水準における問題を、鋭くえぐり出しています。

    著者の基本的な思考の構えが、すでにこの本で明瞭に示されていますが、あえていえば近年の著者の文章に見られる、武術など「身体の知」への傾倒はまだはっきりとは語られていません。そのぶんクリアカットな批評になっているような印象を受けました。

  • 「アメリカという病、戦後責任、愛国心、有事法制をどう考えるか。性の問題、フェミニズムや「男らしさ」という呪縛をどのように克服するか。激動の時代、私たちは何に賭け金をおくことができるのだろうか-。ためらい、逡巡するという叡智-原理主義や二元論と決別する「正しい」日本のおじさんの道を提案する。」

    目次
    なぜ私は戦争について語らないか
    ・古だぬきは戦争について語らない
    ・アメリカという病 ほか
    なぜ私は性について語らないか
    ・アンチ・フェミニズム宣言
    ・「男らしさ」の呪符 ほか
    なぜ私は審問の語法で語らないか
    ・正義と慈愛
    ・当為と権能の語法 ほか
    それではいかに物語るのか―ためらいの倫理学
    ・「矛盾」と書けない大学生
    ・邪悪さについて ほか

    著者等紹介
    内田樹[ウチダタツル]
    1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒。東京都立大学大学院博士課程中退。現在神戸女学院大学文学部教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。フランス現代思想と古武道に精通した独自の視点が注目を集める

  • かなり難解。

  • ・複雑な問題に接するときの基本マナーは「できるだけ複雑さを温存し、単純化を自制する」ということである。
    ( 「性差別はどのように廃絶されるのか」)

    ・「ペスト」とは、「私」が「私」として存在することを自明であるとする人間の本性的なエゴイズムの別名である。
    (「ためらいの倫理学」 )

    ・…「自分の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」
    ( 「あとがき」 )

    私にはかなり難解だったが、内田樹のガイドによって深く思考してみることは、ある意味楽しくもある。
    カミュ『ペスト』『異邦人』は読み直し必至。
    村上春樹『アンダーグラウンド』を読んでみたい。

  •  初期の随筆。Amazonに投稿されたkogonilによるレビューが決定版なので、それ以上の感想は私からは言えない。
     ウィキペディアには何故か本書の記事がある。情報量は極小で、特筆性は無いと思う。実際記事の冒頭に「この記事の主題はウィキペディアにおける書籍の特筆性の基準を満たしていないおそれがあります。」と但し書きが貼り付けられている。ファンが暴走して作ったのだと思う。
     途中でカバーデザインと担当者が変わったようだ。Amazonには旧い書影しかない。
    https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%82%81%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%AE%E5%80%AB%E7%90%86%E5%AD%A6

    【書誌情報】
    著者 内田樹
    デザイン 角川書店装丁室
    定価: 792円(本体720円+税)
    発売日:2003年08月23日
    判型:文庫判
    ページ数:384
    ISBN:9784043707010

     ためらい逡巡することに意味がある。戦後責任、愛国心、有事法制をどう考えるか。フェミニズムや男らしさの呪縛をどう克服するか。原理主義や二元論と決別する「正しい」おじさん道を提案する知的エッセイ。
    https://www.kadokawa.co.jp/product/200211000122/

  • よし、、カミュを読もう。となりました。
    内田さんの文章を読むと、次に何を読もうか(何について自分は知らず、何について知っている人になりたいのか)という視点が得られるという効能があるように思います。
    早速書店でカミュの「異邦人」「ペスト」を手に取りました。楽しみです。

  • 多様な問題に白か黒か断定的な立場を取るのは一見知的だけど
    本来知的な人とは、知らないことを知る「無知の知」を知り、無知を隠さない人だ

    という視点で様々な問題を論じた本
    ただ中身は難しい笑

    この考えを持っとくと本当に信頼できるのは誰かがわかる気がする

全97件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
パオロ・マッツァ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×