- Amazon.co.jp ・本 (631ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043709014
感想・レビュー・書評
-
架空の田舎の町で連続殺人が起こる。その度、宇宙の意思や電波に関する妄想に取り憑かれた怪文書が犯人より配布される。盆栽好きで近所のクリーニング屋のパートである主婦、その家族、主婦の学生時代の友人が推理してゆく。
殺人事件なのだけれど、暴力的な内容はほぼなく、主婦の日常、盆栽やら、登場人物の趣味であるフィギュアの製作等、のんびりムード。ただ、電波怪文書のところは怪しさがうまく出てましたが。こうした内容で最後まで読ませるのは、倉知淳さんらしさなのかな。そして、血液型占いと電波命令の共通点とか違いとか、タイトル通りの「壺中の天国」、人それぞれの自分の世界、信じているものについて、そして何よりも登場人物、人柄がうまく描かれていたと思います。ミステリー小説だと思わないのがいいのかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
次々に被害社が増えていく連続通り魔殺人。
怪事件であり、本来なら殺伐とした雰囲気になるはずなのだが、一貫して本書の雰囲気は"日常の謎"。
知子たちのほのぼのとした日常に分け入る怪事件、怪文書。
こんなことが実際に起こってもおかしくないと思えてしまう。
本格ミステリかどうかと言われると首をひねってしまうが、正太郎の推理や、終盤の伏線回収などはミステリとしてもとても面白い。
ミステリとしても素晴らしいのだが、それをほのぼのとした日常に紛れこませ、ミステリ以外の部分にも重点を置く。
まさに「家庭諧謔探偵小説。」
これは倉知淳にしかできない職人芸だ。
-
【2023年124冊目】
電波云々の話からてっきり近未来のことを描いた作品かと思いきやそういったことはなく日常に並行するように事件が次々と起こりどこか違う世界で起こっていることかと思っていたらそうではなく壺中の天の中でそれぞれが見ている景色が同じとは限らないよなというのが本作を読んだ感想としては一番適切なのではないかと思って不本意ながらもこのような形でしたためる訳です。
はい。
結構な頻度で事件が起き、舞台となる町ではどんどんと緊張感が高まっていくんですが、主人公の周りはずっとどこかのんびりとした雰囲気が流れていて、それがなんだか逆にリアルな感じがしました。
視点は結構変わって何人も登場人物が出てくるんですけど、特に混乱することはなく読み切ることができました。犯行動機は途中で若干気がついたので、やっぱりそうかといった感じでした。
ところで、怪文書を最初から最後まで全部読みましたでしょうか。私はもちろん……。
句読点の大切さがよくわかりました。 -
登場人物
江口貴文 陽子 電波の加害者
宮尾静恵 電波の被害者
牧村知子 主婦
牧村実歩 知子の子
牧村嘉臣 知子の父
三樹本英子 知子の姉
葉場照次 クリーニング店主
葉場晴美 照次の妻
水島則夫 県議秘書
野末由香 占い好き 女子高生
良子 由香の友達
額田アストローンャ 占い師
棚橋八重 元教師
棚橋正太郎 絵画教室先生
隅田繁 知子の同級生 電気店
真鍋美智子 知子の後輩
甲斐靖世 過食症 -
4
-
ネタはどうしても性質上、快刀乱麻という感じにはいかないものの、風刺の効いた趣向、捻ったセンスは好きだ。
-
『現実はこうやって、居間でお茶をすすりながら議論を積み重ねるだけ。
誰だかが云った格言にもあるけれど「日常の中に入り込める物語はない」ということなのだ。どんなに猟奇的な事件が身近で勃発しようとも、当事者以外の人間は日常から逃れられない。』
こんなの解りっこない!って伏線が贅沢に盛り込まれていて素晴らしい。めっちゃ面白いけど、解りっこない! -
倉知淳はなんというか、
いい意味でとってもスケールが小さいのがすき。
「ぼくらのまちの大冒険」感というか、
生活や日常に強く根付いた作品が多い。
この作品もなんだかんだその系統が強い。
「おたく」性っていうのは結局だれしもが持つものなんだよね、それがちょっと方向が変わるとああなってしまうんだよね、というしみじみとした説得性のためにあのページ数。
ただ、「日曜日の夜は出たくない」にも通じる、積み重なる日常にしのびよる非日常感とか、すぐ後ろをふりむけば殺人犯がいるかもしれない、みたいなぞくぞくする感じ、あれはこの枚数が重ねられたからこそという感じもする。