壺中の天国 (角川文庫 く 19-1)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 298
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (631ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043709014

感想・レビュー・書評

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  • 架空の田舎の町で連続殺人が起こる。その度、宇宙の意思や電波に関する妄想に取り憑かれた怪文書が犯人より配布される。盆栽好きで近所のクリーニング屋のパートである主婦、その家族、主婦の学生時代の友人が推理してゆく。
    殺人事件なのだけれど、暴力的な内容はほぼなく、主婦の日常、盆栽やら、登場人物の趣味であるフィギュアの製作等、のんびりムード。ただ、電波怪文書のところは怪しさがうまく出てましたが。こうした内容で最後まで読ませるのは、倉知淳さんらしさなのかな。そして、血液型占いと電波命令の共通点とか違いとか、タイトル通りの「壺中の天国」、人それぞれの自分の世界、信じているものについて、そして何よりも登場人物、人柄がうまく描かれていたと思います。ミステリー小説だと思わないのがいいのかな。

  • 次々に被害社が増えていく連続通り魔殺人。
    怪事件であり、本来なら殺伐とした雰囲気になるはずなのだが、一貫して本書の雰囲気は"日常の謎"。
    知子たちのほのぼのとした日常に分け入る怪事件、怪文書。
    こんなことが実際に起こってもおかしくないと思えてしまう。

    本格ミステリかどうかと言われると首をひねってしまうが、正太郎の推理や、終盤の伏線回収などはミステリとしてもとても面白い。

    ミステリとしても素晴らしいのだが、それをほのぼのとした日常に紛れこませ、ミステリ以外の部分にも重点を置く。
    まさに「家庭諧謔探偵小説。」
    これは倉知淳にしかできない職人芸だ。

  • 【2023年124冊目】
    電波云々の話からてっきり近未来のことを描いた作品かと思いきやそういったことはなく日常に並行するように事件が次々と起こりどこか違う世界で起こっていることかと思っていたらそうではなく壺中の天の中でそれぞれが見ている景色が同じとは限らないよなというのが本作を読んだ感想としては一番適切なのではないかと思って不本意ながらもこのような形でしたためる訳です。

    はい。

    結構な頻度で事件が起き、舞台となる町ではどんどんと緊張感が高まっていくんですが、主人公の周りはずっとどこかのんびりとした雰囲気が流れていて、それがなんだか逆にリアルな感じがしました。

    視点は結構変わって何人も登場人物が出てくるんですけど、特に混乱することはなく読み切ることができました。犯行動機は途中で若干気がついたので、やっぱりそうかといった感じでした。

    ところで、怪文書を最初から最後まで全部読みましたでしょうか。私はもちろん……。

    句読点の大切さがよくわかりました。

  • タイトル・表紙からはこんな電波系・オタクな話とは想像できなかった。壺中の天という概念は覚えておこう。
    しかし…犯人はこの中の誰だろうと考え考え、あるときには知子が分裂症なのではなどとも考えたのに、(なんか、祖父のことを善臣って表現したり、父と表現したり怪しかった)そういうサプライズはなかったのが残念。知子の日常生活の描写多すぎだったよ。

  • 登場人物
    江口貴文 陽子 電波の加害者
    宮尾静恵    電波の被害者
    牧村知子 主婦
    牧村実歩 知子の子
    牧村嘉臣 知子の父
    三樹本英子 知子の姉
    葉場照次 クリーニング店主
    葉場晴美 照次の妻
    水島則夫 県議秘書
    野末由香 占い好き 女子高生
    良子   由香の友達
    額田アストローンャ 占い師
    棚橋八重 元教師
    棚橋正太郎 絵画教室先生
    隅田繁 知子の同級生 電気店
    真鍋美智子 知子の後輩
    甲斐靖世 過食症

  • 4

  • ネタはどうしても性質上、快刀乱麻という感じにはいかないものの、風刺の効いた趣向、捻ったセンスは好きだ。

  • 『現実はこうやって、居間でお茶をすすりながら議論を積み重ねるだけ。

    誰だかが云った格言にもあるけれど「日常の中に入り込める物語はない」ということなのだ。どんなに猟奇的な事件が身近で勃発しようとも、当事者以外の人間は日常から逃れられない。』

    こんなの解りっこない!って伏線が贅沢に盛り込まれていて素晴らしい。めっちゃ面白いけど、解りっこない!

  • 無駄に長い。
    けど、主要登場人物の話す癖がそうだから、そうせざるを得ないのかな。
    無関係に思えるエピソードも、最後にはちゃんと本筋に繋がっているところはなかなか。
    主人公と同様、娘を持つ身としては、あと5年足らずであんな風に大人顔負けの会話をし始めるのかと思うと少々頭が痛い。
    本を読むのが好きな人の多くは、きっと意味不明の言葉の羅列を真面目に読んだりせず、適当に読み飛ばすだろうと思って書いてるならすごい。
    真剣に犯人像を推測しようという気も起きないほどの、句読点のない文章で、犯人の思考を表現する。
    ただ、正太郎……結構好きな感じなのに、あのフィギュア作ってる時のオタクっぷりはいただけないなぁ。

  • 倉知淳はなんというか、
    いい意味でとってもスケールが小さいのがすき。
    「ぼくらのまちの大冒険」感というか、
    生活や日常に強く根付いた作品が多い。
    この作品もなんだかんだその系統が強い。
    「おたく」性っていうのは結局だれしもが持つものなんだよね、それがちょっと方向が変わるとああなってしまうんだよね、というしみじみとした説得性のためにあのページ数。
    ただ、「日曜日の夜は出たくない」にも通じる、積み重なる日常にしのびよる非日常感とか、すぐ後ろをふりむけば殺人犯がいるかもしれない、みたいなぞくぞくする感じ、あれはこの枚数が重ねられたからこそという感じもする。

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著者プロフィール

一九六二年静岡県生まれ。日本大学藝術学部卒。九三年「競作 五十円玉二十枚の謎」に応募し、若竹賞を受賞、九四年『日曜の夜は出たくない』で本格的に作家デビュー。二〇〇一年『壺中の天国』で第一回本格ミステリ大賞を受賞。著書に『星降り山荘の殺人』『片桐大三郎とXYZの悲劇』『皇帝と拳銃と』『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件』『月下美人を待つ庭で猫丸先輩の妄言』などがある。

「2021年 『作家の人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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