わくらば日記 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 168
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043735020

感想・レビュー・書評

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  • 昭和30年代の前半はこんなだったのかな

    映画、「三丁目の夕日」(西岸良平さん原作マンガの映画)を見たときは、隣の知らないおばちゃんに負けないほど懐かしさや感動に号泣してしまったけれど•••

    こちらはもう少ししんみりしている。

    30年ほど前に亡くなった姉を慕う私(妹)の懐古連作、5作。

    「姉さま」はフシギな能力を持っていて•••その能力に焦点を当てた①と②。その能力を前提にした③と④。そこまで行くか、という⑤。

    僕が好きなのは③と④。いい!!

    やっぱり、このラインからは逃れられないな、僕は。

    【あらすじ(冒頭部)】
    ①追憶の虹
    幼い私は、交番の秦野巡査の気を惹くために、姉の秘密『透視能力』を話してしまう。15歳の優しい姉は、私の頼みをきき、友だち『杉べえ』の弟が車に接触した場面を透視し、秦野巡査に手柄を立てさせてくれたのだが•••。

    ②夏空への梯子
    昭和33年、『なべ底不況』と言われていた、とても暑かった夏、ある新聞社に、「自分は人を殺した」と告白する電話がかかってきた。

    ③いつか夕陽の中で
    昭和33(1958)年9月26日、台風22号から避難していた一晩で、村田のおばちゃんに連れられて避難していた茜ちゃんと姉と私は親友のように仲良くなった。台風一過、20歳の茜ちゃんは、洋裁を私の母に習うため、家に通ってくるようになり、私(12歳)は嬉しくて仕事中の茜ちゃんに毎回じゃれついた。

    ④流星のまたたき
    茜ちゃんが手品の賭けに負けて100円取られた、と駆け込んで来た。相手は同じアパートの笹森という学生で、シャッフルした3つの空のはずのマッチ箱の中に、どれがマッチ棒が入っている箱かを当てるものだった。その賭けに姉は1回目の勝負で勝ったのだが•••。

    ⑤春の悪魔
    母と同じように裁縫で生計を立てているクラさんの家へのお使いを姉も私も茜ちゃんも嫌がる。礼儀に厳しく、口うるさいからだ。そのクラさんの家に、姉の代わりに私は出かけたが、クラさんは留守で、しばらくすると割烹着を着た、挙動不審なクラさんが帰ってきて、私を追い出して、鍵をかけた。

  • 人や物がもつ記憶を読み取る能力がある“姉さま”とその妹“ワッコちゃん”。昭和30年代の東京を舞台に、人と人とのつながりや温かさ、少しの哀しみが沁みる連作短編小説。

    時を経て、40年ほど前の子ども時代を、ワッコちゃんが柔らかな語り口で回想するかたちでストーリーは展開していきます。盗難事件や殺人事件、悲しい出来事が続きますが、姉さまやワッコちゃんを始めとした人間味溢れる登場人物のおかげで悲しいだけは終わりません。
    この作品には「善か悪か」を読み手に問うシーンが多く登場し、ひとつの大きなテーマになっています。犯罪自体は悪です。しかしなぜ犯罪に手を染めなければならなかったのか、その背景には本人が苦しんだ過去や嘘や事実が隠されている場合もあり、悲しさと切なさが綯い交ぜになりました。
    事件ものが多いなか、『流星のまたたき』は切なくも淡い恋模様が描かれとても優しい気持ちになります。

    夕日が照らす土手や煙突、部屋に響くミシンの音、三つ指揃える礼儀など、古き良き昭和の情景が鮮やかに広がりノスタルジックな気分に。
    『わくらば』の意味は追々分かってくるのでしょうか。続編も楽しみ。

  • 不思議な力を持つ姉と、それを見守る妹のお話。

    妹が過去を振りかえる形で物語が進んでいくけれど、
    これがすごく面白い。

    上品で、繊細な文章と素直な表現。
    まるで流れるようにすっと入ってくる。
    浅野いにおさんの挿絵通りの登場人物が頭の中で動き回って、
    まるで一つの映画を観てるような気持ちになれた。

    「全ての物事は二面性をもつ」
    この言葉の重さを改めて考えさせられます。

    きっと温かくて、優しい気持ちになれます。

  • 最近僕の中で重要になりつつある朱川湊人さん。昭和レトロを愛する者としては捨てては置けない作家です。今回もやはり昭和、30年代なので僕は生まれていませんが、この空気感はとても落ち着きます。

    人の記憶が映像として見える美貌で病弱な優しい姉。活発で姉を慕う愛嬌のある妹。10代の多感な時期を共に過ごし、姉は27歳で他界してしまいます。優しい姉を思い出しながら妹は姉がその能力で関わった事件を語り始めるのでした。
    続編も有るようなので入手します。

  • 朱川作品は「かたみ歌」以来、2作目。
    昭和初期のなんともノスタルジックで不思議なお話に
    心がザワザワしたのですが、今回も背景は昭和初期。
    いわゆる戦後の貧しくとも活力に溢れていた時代。
    特殊なところといえば、語り手である和歌子の
    病弱で美しい姉が、人や物の記憶を読み取る事が出来るという
    不思議な能力を持っていること。
    しかし、その力を使う事は激しく体に負担をかけることになる。
    優しくて大好きな姉の為、マネージャー的に姉を支える妹?
    楽しくて悲しくてやるせない色々な思い出をまとめた回想録。

  • ノスタルジーには希望だけでなく悲劇前の哀しげな追憶も含むことがあって、最近の昭和ものにはその暗い側がないがしろにされてるよなぁ。

    って思ってたんだと、改めて思い出さされた本でした。
    主人公と幸薄そうな美人の姉、厳しくとも優しい毅然とした母の家族に、娼婦あがりの茜さんという女性たちが、まだまだ戦争の傷跡が残る昭和の日本で生きていく姿は読んでいて心に沁みる、ミステリー要素や姉の能力がまた絶妙に効いた小道具で飽きさせない

    父親の謎、予想される悲劇(なんだろうなぁ)と続編にも期待できる。

    ただ、やっぱり、それでも楽しい話が好きなんだよなぁ俺は…

  • 胸がぎゅうっと掴まれる切ない感じ。でも温かい。こう言うの好きです。

  • 昭和×レトロという設定に迷いなく買ってしまった。特にあの物語の優しさが胸を締め付ける。それは…

    感想は別のところに書いているので、暇つぶしを探している方や気になった方はご自由にお読みください。

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    https://twitter.com/futonneko_/status/1354312935011717125?s=20

  • 「わくらば」にはよく知られている、病気におかされた葉を意味する「病葉」と草木の若葉を意味する「嫩葉」という正反対の意味がある、とは本書の解説で知った。
    であれば本書の主人公、活気溢れる妹の和歌子と病身の姉、鈴音の対照的な姉妹の姿が浮かんでくる。
    本編ではわからずに解説でなんとか著者の深い意図がやっとわかる。ちょっと恥ずかしい。

  • 昭和30年代。まだ日本が貧しかった頃の物語。
    古き良き時代・・・と言っていいのかわからないけれど、今よりも不自由な(当時の人たちにはそんな認識はなかったと思うけれど)中に、人の優しさが息づいていた時代。
    現実は厳しく、ときに残酷だ。
    けれど反面愛しくて優しくて、ときに泣きたくなるほどに切ない。
    ほんわりとした語り口で、穏やかさとあたたかさが描かれている。
    不思議な力を持つ姉と、姉を慕う妹。
    柔らかな印象なの凛とした美しさも感じさせる姉・鈴音は、病弱なところも含めて憧れ的な存在なのかもしれない。
    二人をしっかりと見守る女丈夫な母親の果たす役割も大きい。
    そして全編を通して感じるのは、甘く切ない何か。
    たぶん鈴音の持つ能力はサイコメトリーと呼ばれるものだろう。
    「サイコメトラーEIJI」のEIJIと同じ能力だと思われる。
    鈴音はその能力によって事件解決の手伝いをしたり、身近な人の悩みを解消したりすることもできる。
    けれど、同時にその能力によってもたらされるマイナスの部分も鈴音が引き受けなければならない。
    特異な能力を持ってしまった人間は、普通よりも過酷な運命を辿りやすい。
    少なくとも物語の中ではそういう設定のことが多い。
    どんなに哀しい運命でも、「人生は無意味なんかじゃない」と思いたい。
    たとえこの世のすべてが寂しく虚しいものに見えてしまうときがきたとしても・・・。
    朱川さんらしい味わいのある物語だった。

著者プロフィール

朱川湊人
昭和38年1月7日生まれ。出版社勤務をへて著述業。平成14年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞。15年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞。17年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。大阪出身。慶大卒。作品はほかに「都市伝説セピア」「さよならの空」「いっぺんさん」など多数。

「2021年 『時間色のリリィ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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