白いへび眠る島

著者 :
  • 角川書店
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感想 : 304
  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043736034

作品紹介・あらすじ

高校生の悟史が夏休みに帰省した拝島は、今も古い因習が残る。十三年ぶりの大祭でにぎわう島である噂が起こる。【あれ】が出たと……悟史は幼なじみの光市と噂の真相を探るが、やがて意外な展開に!

感想・レビュー・書評

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  • 『あれは海と山を行き来していると伝えられる化け物で、その名前を口にするのも忌まれてきた。悟史も「あれ」を正確になんというのか、知らなかった。なにしろ、口に出しても文字で書いても禍があると言われているのだ』

    日本各地には今も親から子へと伝わる様々な妖怪、怪物、そして幽霊などの伝承があります。有名なものとしては”座敷童子”がそうでしょうか。”座敷童子”の場合は人に危害は加えないとされていますが、一方で、人間に取り憑いたり、人間を捕まえて食べたりと聞いただけで身の毛のよだつ恐ろしいものたちが闊歩するような話もたくさんあります。特に子どもの頃はそんなものたちの話を聞いて頭の中がそれらに囚われて夜のトイレに影響する…私もそんな思い出があります。そして、そういった話がエスカレートし出すと、そのものの名前を言うだけで呪われる、と名前を出すことさえ躊躇してしまう、そんな経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。人は目にするものすべてに名前があること、そしてその名前を知っていることで安心感を得る生き物です。であるなら、そのものの名前を口にしない、文字に書かないということは、そのものを存在として敢えて認識しないことで、そのものが実体化することを自然と避けようとする、そのような感情から来ているのかもしれません。

    『船体に重くぶつかる波が、ゴオンゴオンと背中に振動を伝えてきた。陸が近い』と『人の出入りを喜ばない』拝島(おがみじま)を目指すのは主人公の前田悟史。『船が接岸する前から、悟史は幼なじみの姿を港に認めていた』という幼なじみの中川光市に接岸後再開する悟史。『免許、取ったんだ』と自慢する光市の『赤い錆の浮いた古い軽トラック』に乗り込みます。『じいさん元気か?』と聞く悟史に『もう、うるさいのなんの。今朝だって、起こされたの三時だぜ』と返す光市は『俺だって悟史が帰ってくるのは嬉しいけど、三時は早すぎるだろ』と続けます。『なんの衒いもなく、光市は「嬉しい」と言った』ことに安堵する悟史。『本土の港湾都市、高垣の高校に入学してから三年』という悟史は『一晩船に揺られれば島には帰れるというのに、部活動を理由に、足は故郷から遠のきがち』で『盆暮れの数日しか拝島には戻らない』という高校生活を送ります。それは島の外の人たちも同じです。『海と山に恵まれ、本土の高垣からも船で一晩』にもかかわらず『拝島に静養や休暇を楽しみに訪れる人間はほとんどいなかった』というその島。『柔らかに澄んでいるように思われるこの島の空気の中に、冷たく固い粒の存在を感じる』という悟史は島への帰郷を喜ぶどころか『あと数日、この島で過ごさなければならない』と到着直後から感じています。そんな中、家へと向かう途上で『十三年ぶりの大祭だろ?のぼりの数が違う』と『光市の指すほうに視線を移す』と『道の右手、川の向こう岸の山々の稜線に沿って、赤いのぼりがはためいていた』という光景を目にする悟史。そこは『荒垣神社の神域の森』とされ『島の人々はそのご神体を、白蛇様と呼んだり荒神様と呼んだりして、丁重に祀ってい』ます。『前の大祭のとき、悟史も光市も五歳だった』にもかかわらず、『なにも思い出せなかった』という十三年前の記憶。そして、家に到着した早々、『挨拶まわり』に出ようとする悟史に『あんまり遅くなるんじゃないよ。ちゃっちゃと切りあげて早めに帰りなさい』という母。『普段は近所づきあいについてうるさいほどに説いてみせる母が、こんなことを言うのは初めて』という不思議。そんな母は『最近ちょっと物騒なのよ』と声を潜めて『…あれが出たの』と語ります。『あれはあれよ』と『ひそめたままの声音で早口に言』う母。『「そんな馬鹿な」と笑い飛ばそうとして、しかしそうはできずに背筋を這い上がる寒気を感じた』という悟史。そんな悟史が久しぶりの島で幼なじみの光市たちと過ごす中、まさかの『あれ』と遭遇する夏休みの数日間の物語が描かれていきます。

    「白蛇島」という単行本を改題して「白いへび眠る島」としたこの作品。個人的に”へび”はこの世で一番嫌いな生き物なので、正直なところ口にするのも、文字で打ち込むのも避けたいというのが正直なところです。ということもあって、この作品は私の大好きな三浦しをんさんの作品と言っても、手にするのを長らく躊躇し続けてきた作品でもありました。一方で、”へび”と言っても”白いへび”はご神体として崇める神社も多数あることから単純に同列に考えるのは失礼にあたるともいえます。そんなこの作品の舞台は『拝島』という架空の島。『海と山に恵まれ、本土の高垣からも船で一晩』という島ですが、『拝島は人の出入りを喜ばない』という通り外部の人間を寄せ付けない孤高の島という設定がなされています。三浦さんが島の人々の暮らしを描いた作品というと「光」が有名ですが、同作品はこの作品から七年後に刊行されたもの。同じ島の描写でもこの作品の方がより素朴で外の世界から隔離された印象が強い書き方がされているのが特徴です。そんな島で生まれ、島で育ったものの高校入学を機に島を出た悟史。外の世界から見て余計に『島の暮らしは外とは違う』と感じている悟史は、拝島が『別のリズムに支配されている』と考えます。そんな島を三浦さんは『月』を用いてこんな風に表現します。『島は実は、外とはまったく別の、もう一つの「月」に支配されている』という感覚。『その「月」は、高垣などから見える月とは、大きさも周期も違うのだ…』というその感覚。『島には、「掟」とも言うべき独特の生活習慣が数多くある』と島に存在する数々の『掟』を挙げます。そして『たまに島に戻ってくると、忘れていたもう一つの「月」の引力にとらわれたかのように、めまいにも似た違和感を覚える』という悟史。それは『潮の満ち引きの秩序が乱れるような、体内時計が狂ったような、生物としての混乱だ』とまで言い切るその感覚。『生まれ育った場所』にもかかわらず『どうしても拝島の重力にはなじめな』い悟史。悟史を悩ませ続ける拝島に内在するそんな独特な閉塞感が結末への一つの大きな伏線となっていきます。

    そして、この作品で外せないのはなんと言っても『あれ』という指示語で示され続ける謎の存在です。『悟史も「あれ」を正確にはなんというのか、知らなかった』というその存在。『「あれ」は海と山を行き来していると伝えられる化け物』という漠然とした説明が読者に恐怖心をまず植え付けます。そして、『月のない夜に海から上がってきたあれは、狙い定めた人間の目から体内に入る』とされ『あれは確実に内部から人を食う』、そして『あれは悠々と海へと去っていき、残されるのは餌食になった人が着ていた衣服のみだ』という身の毛のよだつような説明が淡々となされていきます。一方で『持念兄弟』という『「奥」集落の長男同士が結ぶ絆』で結ばれた幼なじみの悟史と光市。『島で助けあうための風習』というその世界観が『あれ』と絡み合って描かれていくこの作品では、後半になって、まさかのファンタジー世界が登場します。一種の冒険活劇ともいえるその世界が盛り上げていく作品の後半。そこで私が感じたのは、まさかの恩田陸ワールドでした。恩田さんのホラー、もしくはミステリーの世界に近い感覚。「失われた世界」あたりが近いかもしれませんが、そんな恩田ワールドに近い雰囲気をとても感じました。しかし、三浦さんのこの作品では恩田さんに比して不気味感が少し不足する印象を受けました。せっかく『あれ』とはなんなのか?とミステリーっぽい雰囲気が出ているので不気味感をもう少し畳み掛けて欲しかったという印象は残りました。それもあって冒険活劇っぽくなる後半のドタバタが少しあっけなく結末してしまう印象も受けました。ただ、三浦さんはとしては2001年という最初期の作品なのでこのあたりはやむを得ないのかなあと思う一方で、今の三浦さんなら同じ素材でももっと面白く調理してくれただろうな、そういう印象は残りました。

    『馬鹿な、あれは伝説の中の化け物だ』という『あれ』と遭遇する物語。それは、閉鎖的な島の暮らしの中に根強く残る島の風習と切っても切れない島の伝承を伝える物語でした。そんな島から離れて暮らす悟史、そして島を愛し、島で生き続ける幼なじみの光市。二人のひと夏の再会は、離れていても確かに息づく友情の強さを確かめ合う機会でもありますが、このあたりに三浦さんならではのBLの世界を垣間見たような、そんな印象も受けました。そして最後に、“へび”が大嫌いな方も全く心配なく読めるという点はしっかり補足しておきたいと思います。ご安心ください(笑)

    ホラーやミステリーの雰囲気感の中に、ファンタジー要素や冒険活劇的な内容、そしてBLっぽい雰囲気まで織り込むなどとても盛り沢山なこの作品。最初期の三浦さんを知ることのできる、とても意欲的な作品でした。

  • そのうち全部の作品を読もうと思っている三浦しをんさんの、初期の作品。

    今も古い因習・しきたりが残る拝島。
    今は親元を離れて高校に通う悟史は、久しぶりに島に帰省してきた。
    100人ほどの村人で成る拝島の「裏」では、13年ぶりの大祭を控えて親族らが集まり、高揚した雰囲気にあった。
    しかし、幼いころから「不思議」を経験してきた悟史には、島のいつもと違う様子に戸惑う。そんな中、口に出すのもはばかられる怪物「あれ」が出たと聞く。

    古い因習の残る閉鎖的な島。小野不由美さんの「黒祠の島」を思い出した。
    どこか実在の島をモチーフにしているのかな?
    村人総出のお祭りの様子、次々と起こる「不思議」は本当にありそう。

    でもホラーじゃないし、ミステリーじゃないし、一番盛り上がってもいいところでも淡々としていて起伏がないのは残念。怖いの嫌いな私なんだけど、もっと怖がらせてくれていいのよ!と思っちゃったり(笑)
    主人公の、親との葛藤や自由を求める鬱屈した気持ち、「持念兄弟」である光市との関係も、なんだか中途半端な印象。
    私はBL好きではないのだけど、もういっそのこと、光市との関係にズームインしてほしかったかも(笑)

    そんなこんなで全体として、しをんさんのはっちゃけた雰囲気はあまりなくて、持ち味が出てない気がした。初期の作品だからかな。

    “「逃げ出したい場所があって、でもそこにはいつまでも待っててくれる人がいる。その二つの条件があって初めて、人はそこから逃れることに自由を感じられるんだ。」”

    光市の言葉が心に残った。

  • 神様と人と習わしの不思議な話。
    その地域で当たり前に備わっている考えに馴染めなかったら居づらい。
    でも確かに自分のアイデンティティの一つで、出て行きたい、繋がっていたい、みたいな故郷に対するいくつもの感情はわかる気がした。

  • 今私の中で島ブームなので、ずっと前に買ってた本だったけど、今読んだことにすごく意味があるような気がする。

    島って独特の文化や因習やお祭りが残ってるから面白いなと思う。
    そして人間関係が密接すぎる。

    最近も三重県の答志島という島で今でも残ってる寝屋子制度というのに衝撃を受けた。

    だからこのお話の中の「持念兄弟」もリアルに感じる。


    このお話はファンタジックだけど、小さい島だったら起こっても不思議じゃない気がする。

  • うーん。
    三浦しをんさん、好きな作家さんなんだけど自分には合わない感じの物語だったかなぁ。
    登場人物の魅力も伝わりにくくてその世界観にも馴染めず物語の中に入り込むことが出来なかった。
    全体の雰囲気も他の作品とはちょっと違ったような?

  • 青春だし冒険だし土俗的だしファンタジーだしてんこ盛り

  • 拝島に残る宗教。
    『持念兄弟』と呼ばれる長男同士だけが結べる絆。
    13年ごとに繰り返される儀式。
     
    神職を務める神宮家に隠されたある秘密……
     
    宮崎駿の千と千尋のような世界観。
    それでいて三浦しおん独特のふんわり優しい雰囲気も併せ持つ。
     
    おそらく実在しない宗教世界を描いているのだと思うのですが、リアルでいてファンタジー。
    三浦しおんという作家のすごさを思い知らされる作品です。
     
    すべての人に読んでほしい一冊です。

  • 昔からのしきたりを守る、閉鎖的な島。人と人のつながりは濃く、淀みすらそのうちに抱く。同じころに生まれた長男同士にはじねんきょうだい(漢字忘れた…)という関係を結ぶ。主人公は高圧的な父親と島の世界に息苦しさを覚え、高校を島外に進んだ少年。彼は一年に一度、お盆の時期に行われる村のお祭りのために帰省していた。船に弱く、島の中では“不思議”を見てしまう少年。親友でじねんきょうだいであるもう一人の少年にだけはその質を話していて、助けてくれるが、そのことにも彼は心の中で少しばかりの卑屈を育てていた。
    長男だけが残ることを許された島。その中で確かに力を持つ神社の次男が居座っている。それがもたらす島の中の保守派と穏健派の亀裂。少年に降りかかる様々な不思議。白蛇をあがめ、そのための祭り。その中で動き出すものは…。

    しをんさんの美しい文章を楽しめる、のはいいのだけれど、この手の話は少し密度不足な気がする。恩田さんのようなおどろおどろしい雰囲気には今一歩。それでも夏の夜のお供にはなかなか面白く読んだ。

  • 久々に電車を乗り過ごしそうになる本との出会い。
    日本の地域に伝わる神話に関するお話で、同じような話で恩田さんのは何だっけ??と思い続けながら読んでしまったけども、三浦さんの方が最後まで安定。
    恩田さんのはだんだん変になってしまったんだよね。

    光市と悟史の「もう言葉にできることもなくなった」あとの無言の車内の様子が好き。
    持念兄弟だろうとなかろうと、人とそういう関係を結べた人はとっても幸せ。

  • 因習とか掟とか怪物とかそういう類が大好きだから面白く読んだ。読後感が爽やか。カバーのあらすじを読んだときはホラーかと思ってたけど、どちらかというとファンタジーという感じ。でもクライマックスのあたりはホラーっぽい。村人に恐れられている怪物は海難法師的なものを想像した。

    三浦しをんさんの作品はこれが初めてなんだけど、噂に違わず男同士の関係性だとかが秀逸だなって思った。悟志と光市の「持念兄弟」という関係がすごくいい。二人の何気ない描写が妖しげというか耽美的で、誰も間に入れないようなそういう特別さが素晴らしかった。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。以後、『月魚』『ロマンス小説の七日間』『秘密の花園』などの小説を発表。『悶絶スパイラル』『あやつられ文楽鑑賞』『本屋さんで待ちあわせ』など、エッセイ集も注目を集める。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、12年『舟を編む』で本屋大賞を、15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかの小説として『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』などがある。

「2021年 『ののはな通信』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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