アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
3.60
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感想 : 748
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043791019

作品紹介・あらすじ

ピアノ教室に突然現れた奇妙なフランス人のおじさんをめぐる表題作の他、少年たちだけで過ごす海辺の別荘でのひと夏を封じ込めた「子供は眠る」、行事を抜け出して潜り込んだ旧校舎で偶然出会った不眠症の少年と虚言癖のある少女との淡い恋を綴った「彼女のアリア」。シューマン、バッハ、そしてサティ。誰もが胸の奥に隠しもつ、やさしい心をきゅんとさせる三つの物語を、ピアノの調べに乗せておくるとっておきの短編集。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『あのころ』、何を思い、何を考え、そして何を目指して生きていたでしょうか?

    人によって人生のどの時代が深く心に刻まれているかは異なります。それは、その人その人がどの時代に何と遭遇したかによっても異なるでしょう。思いもよらない天災に遭い苦難の日々を送られた方、病気を患い闘病の日々を送られた方、そして何らかの環境の変化により生活が大きく揺らいだ方、全く予想も出来なかった事ごとにより人生が大きく揺らぐことになった場合、そのインパクトはその人の中に深く刻まれるのは当然だと思います。

    一方で、万人にとって共通に刻まれる時代というものもあるように思います。それが、青春時代です。中でも子どもから大人への階段の中に大きな変化が伴う時代、身体的にも精神的にも確実に変化していくのが分かる中学時代は変化が大きいが故に人生の中でも特別な時代だと思います。

    そんな時代には、日常の中の一コマが思った以上に大きな位置付けをもって捉えられることがあります。例えば、『ぼくらの夏』という言葉の先にどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?大人なあなたが、『ぼくらの夏』が来た!というような言い方をしたとしたら、あなたの周囲から人がいなくなるだけです。あなたは、その一言をもって変な人というレッテルを貼られて終わり、それだけのことです。しかし、一人の中学生が『ぼくらの夏』が来た!と目を輝かせながら語ったとしたらどうでしょうか?大人なあなたはそこに青春の煌めきの中に生きる一人の少年の姿を見ることになるでしょう。一方で、そんな一言を語る少年はその言葉に一つのイメージを持っていることもわかります。大人と子どもの狭間を生きる中学生たち、そんな彼らが『ぼくらの夏』という言葉の先に見るものは、変化が大きい時代を生きる彼らだからこそ感じる人生が煌めく瞬間、そんな瞬間をそこに見るのかもしれません。

    さて、ここにそんな中学生たちが特別な想いを抱く瞬間に光を当てる物語があります。そこに登場する中学生たちは、『ぼくらの夏』に、『彼女と過ごしたまぶしい日々』に、そして『わたしたちは何度もワルツを踊った』という瞬間に、『あのころ』を感じて生きています。クラシック音楽がそれぞれに流れるそんな瞬間を生きた中学生たちが描かれるこの作品。クラシック音楽に想い出の日々を重ね合わせるのを見るこの作品。そしてそれは、クラシック音楽と共に中学生たちの心に刻まれた”永遠の一瞬”を見る物語です。
    
    『ぼく。智明。ナス。じゃがまる。そして、章くん。ぼくら五人のいとこは、今年もまた関東のあちこちから、章くんの別荘をめざして出発する』という『再会の夏が来た』のを感じるのは主人公の『ぼく』こと『恭(きょう)』。『章くんの父さんの別荘』での宿泊は『五年前、章くんの呼びかけ』で集まって以来、毎夏続いています。長岡からさらにバスに二時間ほど揺られるという目的地への途中で『ぼくと同じ中学二年生』の智明と合流した恭は、『今年もまた、あの夏が始まる!』と感じます。『しゃれた外観』の別荘に着くと小学四年のじゃがまると、中学一年のナスの兄弟が既に到着していました。『ひさびさにいとこ同士が再会する瞬間には、だれもがちょっとよそゆきの顔をしている』という時間も『いつまでも続か』ず『夕食のテーブルを囲むころになると、ぼくらはもうすっかり一年前のぼくらにもどってい』ました。そんな子供たちの他には『ぼくらが集う二週間のあいだは、毎年、泊まりこみで面倒をみてくれる』という管理人の小野寺さんが3食を用意してくれます。そんな中、『シャワー浴びてこいよ。ひとり二十分以内だぞ』と『てきぱきと指示を出す』章は、『十時になったらリビングに集合だ』と呼びかけます。それを聞いて『まさか、アレじゃないよね』と恭は智明と『顔を見合わせ』ました。『章くんならやるかもよ』、『やるかもなあ』と『ひそひそと語りあう』二人。そして、『集合の十時』、『ソファに行儀よく腰かけたぼくらの前で』、章は『ステレオの電源を入れ』、『一枚のアルバムをうやうやしく掲げて見せ』ました。『章くん一家の趣味は、クラシック鑑賞』、『選ぶのは必ずピアノ曲』というその場。そして、『ぼくら四人は毎年、毎晩、そんな章くんの趣味におつきあいすることになっていた』という時間が始まります。『いつも途中でみんな眠りこけてしまう』というその時間も、翌朝ベッドにいることから、『小野寺さんが部屋まで運んでくれるんだろう』と思っている恭の前で始まった今年の『恐怖のクラシック・アワー』は、シューマンの「子供の情景」でした。そして、スタートした合宿生活。そんな四日目のこと、恭は『章くん、中学生のくせにクラシックが好きなんて、なんかへんだと思わない?』と智明に語りかけます。『どうしてぼくはいつも章くんの言うとおりにしなきゃいけないんだろう?』という『素朴な疑問』の先に出たこの一言。『あとから考えてみると、これは非常に危険な発言』というそんな一言が『今年の夏を、去年までとはまったくべつのものに変えてしま』う一夏の物語が始まりました。

    表題作を含め、作品間に全く関連のない三つの短編から構成されたこの作品。単行本は1996年に刊行されており森絵都さんの作品の中でも最初期に属する作品の一つです。「宇宙のみなしご」と「つきのふね」という思春期の中学生の姿を色濃く写し取った傑作二つに挟まれるように刊行されたこの短編集は、同時期の森さんの作風そのままに、主人公はいずれも中学生が務めます。男子、男子、女子という三人がそれぞれにそれぞれの中学時代を生きたあの日々が描かれる三つの短編には、それぞれクラシック音楽が登場するのが共通点となっています。まずは、その内容を物語に登場するクラシック音楽とともにご紹介しましょう。

    ・〈子供は眠る〉/ シューマン「子供の情景」より: 『今年も、再会の夏が来た』と、いとこ同士で章の『お父さんの別荘』へと赴いた五人は、すぐに『一年前のぼくらのまんま』の関係に戻ります。一方で、四人に細かく指示を出す章は毎夜十時からシューマンのピアノ曲「子供の情景」をみんなに聴かせます。章以外には『恐怖のクラシック・アワー』というその時間。そんな中、主人公の恭は、『どうしてぼくはいつも章くんの言うとおりにしなきゃいけないんだろう?』という疑問を胸に抱きます。

    ・〈彼女のアリア〉/ J.S.バッハ「ゴルドベルグ変奏曲」より: 『卒業式の朝』、『机の中に、一通の手紙』を見つけた主人公の『ぼく』は『ごめんね』と綴られた文字に藤谷りえ子との想い出が頭を駆けめぐります。『中三の秋』、『球技大会』をサボって旧校舎へと逃げた『ぼく』は、『元音楽室』で一人『鍵盤を弾』く一人の少女と出会いました。当時不眠に悩んでいた『ぼくのテーマ曲』だったという「ゴルドベルグ変奏曲」を弾く藤谷も『不眠症』だと話したことから二人の関係が始まりました。

    ・〈アーモンド入りチョコレートのワルツ〉/ サティ「童話音楽の献立表」より: 『母の背中に隠れるようにして』『その門を』くぐったのは『小学校に入学したばかり』の奈緒。そして、『週に一度のペースで』絹子先生によるピアノのレッスンが始まりました。小学校高学年になった頃、『サティの音楽はきれいだわ』等、サティの話ばかりする絹子先生。一緒に通う君恵という友人もできた奈緒は中学生になります。ある日、『ステファンよ、フランスから来たの』と絹子が紹介するサティに似た見知らぬ外国人が奈緒の前に現れます。

    三つの短編に登場するクラシック音楽は、有名なものばかりですが、さらにわかりやすく紹介がなされていきます。例えば二編目の〈彼女のアリア〉で登場するJ.S.バッハの「ゴルドベルグ変奏曲」です。『昔むかし』、『知り合いに、ひどい不眠症に苦しむ伯爵がいた』というバッハが伯爵からの依頼を受けて完成したという曲の由来がまず語られます。そんな由来だけ聞くと、曲を知らない人には『スローな子守歌のようなもの』が想像されると思いますが、実際には『優しく眠りに導いていくようなメロディーでは、けっしてない』というその曲。『三十の変奏曲は、その多くがめまぐるしいほどのハイテンポだ』というその曲を『音符と音符が複雑にからみあい、もつれあって生まれるフレーズが、つむじ風のように耳をすりぬけていく。追いかけようにも、追いつかない。わざと聴き手をはぐらかし、逃げまわるような音律がこれでもか、これでもかと織りなされていく』と森さんは表現されます。私はこの曲を知っていましたが、曲名の由来は知りませんでしたし、そんなに思い入れをもって聴いたこともありませんでした。しかし、森さんの表現はそんな私に、すぐにでも聴いてみたい!という思いを抱かせてくれます。せっかくなのでと思い、読書をしながら聴いてみたのですが、う〜ん、これがしっくりきません。他の二曲も同様に試してみましたが、作品により入っていけるというより、読書に集中すると音楽が邪魔、その逆も然りというのが結論でした。物語には確かにこれらの曲が紹介されていますが、少なくとも作品の雰囲気感を表したものではないと思いました。あくまで、物語の主人公たちが、物語の中で聴いた曲であり、曲の印象が物語の印象には繋がらないというのが私の感想です。クラシック音楽が物語に登場する作品と言えば恩田陸さん「蜜蜂と遠雷」が有名です。あの作品の場合、作品内で主人公たちが弾くピアノを読者は頭の中でイメージし、頭の中で奏でます。同じ曲をそこで聴いてみても必ずしもイメージが重ならない演奏の場合があり、やはり読書をしながら音楽を聴くことは難しいと思いました。一方で私は、本を読みながらクラシック音楽をよく聴きます。「蜜蜂と遠雷」やこの作品のように、音楽を取り上げた作品の場合には、そんなBGMを聴きながらの読書は逆に成立しない、そんな風に感じました。一方で、読書に集中する限りにおいて、「蜜蜂と遠雷」同様にピアノ曲に限定された選曲によって、作品のイメージが上手くまとまる効果はとても感じました。

    そんなこの作品の何よりもの魅力は、”多感な少年少女の二度と戻らない「あのころ」を描く珠玉の短編集”という内容紹介の言葉が上手く表しています。”多感な少年少女”という言葉に、このレビューを読んでくださっているあなたがどのような感情を抱くか、それは、経験というよりは、年齢が全てなのだと思います。この作品の主人公たちは中学生です。しかし、共通点はそんな主人公たちでさえ、物語の中で自分たちが歩んできた『あのころ』を振り返るところから始まります。一編目の主人公の恭は、別荘でいとこ同士で過ごす『ぼくらの夏』を楽しみに今年も夏を迎えるという場面からスタートします。そこに恭が抱くのは『ぼくらだけの世界にひたれるこの大事な夏を、ぼくは絶対になくしたくなかった』という特別な想いです。二編目の主人公の『ぼく』は、『卒業式の朝』に差出人不詳の『ごめんね』という一言が記された手紙を見つけて藤谷りえ子と『過ごしたまぶしい日々』を思い起こします。『典型的な受験生だったぼくの毎日は、藤谷との出会いによって、少し変わった。モノトーンの日々が、にわかに色づいた』という『火曜日の放課後』のひとときがそこにはありました。そして、三編目の主人公の奈緒は、『数年前、わたしはまだ子供で、絵空事みたいに幸せだった。そこにはいつもワルツが流れていた』という日々を思い起こします。『絹子先生、サティのおじさん。そして君絵』という三人と『手をつなぎ、足をぶつけあって、わたしたちは何度もワルツを踊った。みんなでぐるぐるまわりづつけた』という『あのころ』。そんな主人公たちの過去を彩る物語がその後にそれぞれ描かれていきますが、そこに読者が見るのはゆったりとしたノスタルジーに浸れるような美しい想い出でないところがこの作品の特徴です。それは、同時期に刊行された「宇宙のみなしご」や「つきのふね」と同じような感覚です。なんだかゴツゴツした青春を送る主人公たち。いわゆる優等生ではなく、どこか引っ掛かりを感じさせる主人公たちがそれぞれの時代を朴訥に生きていく様に、異物感を感じる方は間違いなくいると思います。しかし、そんな日々が奇跡のように『あのころ』という言葉で表現される世界の中に閉じ込められていきます。森絵都さんには「永遠の出口」という作品もありますが、その書名を借りるなら、そこに”永遠の一瞬”が閉じ込められるという表現になるでしょうか?十代、特に中学時代の成長のスピードは驚くべきものがあります。それは、身体的な変化ももちろんですが、内面にある意識・感情の変化は大人には想像できないスピードで生じていきます。まさしく”多感”な時代なのだと思います。変化は成長でもありはしますが、そんな日々の大きな変化を経験すればするほどに、ほんの少し前の時間がとても懐かしくも感じる、大きな変化をするからこそ、時の流れが速く感じるのだとも思います。物語に描き出される”永遠の一瞬”を振り返る主人公たち。そして、そんな彼らの姿を見る時、読者はそこに自らが記憶の深いところに大切に留めている読者自身の”永遠の一瞬”の存在を感じることになるのだと思います。この作品を読む読者の方で、自分にもこの作品のようなことがあった、と感じる方は少ないと思います。それは、それぞれの”永遠の一瞬”は、読者の数だけあり、主人公たちと重なるものではないと思うからです。そう、この作品はそんな読者が自らに刻まれた”永遠の一瞬”の存在を感じる起点を与えてくれる物語。そんな宝の存在を噛み締める物語なのだと思います。だからこそ、この作品は、”多感な少年少女”という時代を過ぎれば過ぎるほどに感じるものが大きくなる物語です。遠い時代を思い起こし、自身にもそんな時代があったことを噛み締める時、あなたの”永遠の一瞬”が確かに輝き出すのだと思います。

    『ぼくらの夏が今年で終わる。完全に終わる。そしてもう二度と、始まらない』。

    『彼女と過ごしたまぶしい日々が、ぼくの頭の中を走馬灯のように駆けめぐる』。

    『ふしぎな大人たちとのワルツ・タイムは、わたしをどこかべつの世界へ、べつの次元へと導いてくれた』。

    三つの短編の主人公たちが、それぞれの中学時代をそれぞれに駆け抜けていくその先に、そんな時代をふと振り返る瞬間を見るこの作品。そんな物語には、二度と戻ることのできないまぶしい日々の記憶が鮮やかに刻まれていました。中学時代は、身体的にも、精神的にも物凄い速さで過ぎ去っていきます。そんな時間の流れ方は大人な私たちの時間とは比較にならないものなのだと思います。そんな過ぎ去った日々を懐かしむ主人公たち。そして、そんな主人公たちの感情を遠い目をして見やる大人な私たち。この作品は、主人公の中学生たちの存在を通して、私たちそれぞれにも、『あのころ』があったことを思い出させてくれました。読者を一瞬にして、そんな『あのころ』へ引き戻してくれるこの作品。キラキラと輝いていたあの時代が、誰にでも、そう、このレビューを読んでくださっているあなたにも確かにあったことを教えてくれるこの作品。

    森絵都さんの素晴らしい筆致にただただ魅了される傑作だと思いました。

    • さてさてさん
      ベルガモットさん、こんにちは!
      こちらこそありがとうございます。

      森絵都さんは、私の短い読者歴の最初の方にたくさん読んでしまっていて...
      ベルガモットさん、こんにちは!
      こちらこそありがとうございます。

      森絵都さんは、私の短い読者歴の最初の方にたくさん読んでしまっていて、今回久しぶりに三冊を読みました。やはり、良いですね。
      『あのころ』…という言葉にしんみりと浸れる物語は森絵都さんが随一だと思います。この作品で取り上げられているのと全く同じ『あのころ』を過ごした人はいないと思います。でもそうじゃないんですよね。いいなあ。と感じる瞬間というものは。
      人によって意見は当然に異なると思いますが、森絵都さんの『あのころ』作品群、『つきのふね』、『永遠の出口』、『宇宙のみなしご』、『カラフル』、そしてこの作品などなど。中学生時代、高校生時代に読みたかったという感想、子どもに読ませてあげたいという感想、私はそうは思わないです。これらの作品はそんな時代から遠ざかれば遠ざかるほどに心にどんどん沁みてくる、これらの作品の輝きがどんどん増してくる、これらの作品の本当の良さが分かるのはそんな時代をはるか過去に見やる人。そんな風に思います。良いですよ。本当に。『あのころ』。戻りたいな…しんみり…。
      2022/10/08
    • ☆ベルガモット☆さん
      さてさてさん お返事ありがとうございまーす

      学生時代から遠ざかるほど心に沁みてくる、作品の輝きが増して良さがわかる世代になったということ、...
      さてさてさん お返事ありがとうございまーす

      学生時代から遠ざかるほど心に沁みてくる、作品の輝きが増して良さがわかる世代になったということ、さてさてさんの言葉がとても心に響きました。しんみりしながら図書館で予約ぽちりとしました。楽しみです。あのころ作品集のご紹介も有難いです。参考にいたします。これからもさてさてさんのレビュー楽しみにしています。

      2022/10/09
    • さてさてさん
      ベルガモットさん、こちらこそ、ありがとうございます。
      レビューの公開を楽しみにしています。
      ベルガモットさん、こちらこそ、ありがとうございます。
      レビューの公開を楽しみにしています。
      2022/10/09
  • ずいぶん昔に出た本だが、少し前にフォローしている方のレビューを読んで「読みたい」に入れていた。

    中学生が主役の、3つのピアノ曲をもとにした3つの物語。少年たちだけで過ごす海辺の別荘、誰も来ない旧校舎での二人だけの会話、風変りな先生と突然現れたフランス人のおじさんとともに楽しんだピアノ教室。
    読み始めれば、うまく言い表せないが、最近の本とは異なる文章の雰囲気を感じ、なんだか懐かしい感じになる。
    ちょっとモヤっとすることや我慢しなければならないことはあるけれど、生き辛いや心が塞ぐでもなく、少年少女のこれからの人生に対する楽観や肯定があり、本を閉じてからは多感な時間の終わりに切なさが沁みてくる。
    二つ目の話の彼と彼女の健気さがかわいくて、一番好き。

  • ビアの曲と子どもを巡る短編集。

    夏に訪れる海辺の別荘でのできごとを描いた「子供は眠る」、不眠症について旧校舎で語り合う「彼女のアリア」、ピアノ教室に現れた不思議なフランス人のおじさんを巡る「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。
    いずれも、ちょっと非日常な場面で、子供独特の興味と不安定さのなかで揺れる様子が描かれた、不思議な物語だった。

  • クラシックピアノ曲が登場する3編の短編集。いずれも主人公は中学生。ピアノが出てくるだけでどの話もなんかこう素敵でゆったりしたものになる。3作とも日本の中学生が主人公ではあるものの、少し幻想的で不思議な感じがした。表題作は3作目で、印象的だったが、1作目の、従兄弟同士の5人がそのうちの1人の親の所有する海辺の別荘に夏休みの2週間集まって一緒に過ごす話も良かった。中学生という微妙な年頃の友情や恋心、その年代から見た世の中に触れられる一冊。

  • さてさてさんのレビューが気になって、久しぶりに森絵都さんの小説読了
    学生時代の思い出をかみしめる様に読み進めた
    クラシックの名曲とどうつなげるのかと興味を持ちながら、時折調べてBGMにしたりして贅沢な時間をすごすことができた
    だいぶ自分も年を重ねたのだなあということも痛感
    学生時代のおしゃべりや戯れに細かい記憶はほとんどないけどあの楽しさはもう味わえないと思うと切なくなる 

    給食が待ちきれなくて友の待つピロティで食むカントリーマアム(ベルガモット)
    短歌くださいの題詠『給食』のときの投稿作品(落選でですが)中学生の頃を脚色しました

    • さてさてさん
      ベルガモットさん、5552さん
      ブクログをどんな環境で利用されているか、これはみなさんバラバラだと思います。私は、スマホアプリ、スマホ用ブ...
      ベルガモットさん、5552さん
      ブクログをどんな環境で利用されているか、これはみなさんバラバラだと思います。私は、スマホアプリ、スマホ用ブラウザ画面、PCブラウザ画面の三つを切り替えて使っています。それぞれにできる、できないと思っているのが、

      ・スマホアプリ → タイムラインが全く使えない
      ☆ ブックリストを作れる。ブックリストに”いいね!”ができる。ブックリストを人気順”いいね!”順に並べかえて見れる(ただし、3日で非表示になる)。書棚に”いいね!”ができる。
      ☆ 読んだ本に”いいね!”をしてくれた人を確認できる

      ・スマホ用ブラウザ画面 → スマホでできた上記が全てできない
      ☆ 他の方がどの本に”いいね!”したか見れる。タイムライン(レビュー)が最も読みやすい?(感覚の問題?)

      ・PC用ブラウザ画面 スマホでできた上記が全てできない。レビューの表示に半角スペースが無視される。ブックリストに使用した一部の文字が表示されない。
      ☆ 他の方がどの本に”いいね!”したか見れる。新着レビュー、”いいね!”されたレビュー等が見れる。他の方の累計”いいね!”数、累計”いいね!された”数が見れる。その他、ほぼ使わなそうな機能が残っている(黎明期から?)

      という感じでしょうか?三つはそれぞれに過不足があるイメージで、整理いただきたいととても思います。ブックリスト関係のおかしな上限は撤廃いただきたいのと、一番不満なのはブラウザ二種では、”いいね!”をしてくれた人が誰なのかを知る術がないという点です。元々できなかったのであればAmazonと同じと納得できるのですが、以前はできていたので、どうして隠してしまったのがよくわからないです。
      こんな感じかなと思います。三つを切り替えて使うのはものすごいストレスなのでなんとかして欲しいです。
      2022/10/26
    • 5552さん
      さてさてさん、ベルガモットさん

      ブクログはPC版プラウザでしか使ってないのですが、レビューを書いた本にいいね!を押していただいてもどの...
      さてさてさん、ベルガモットさん

      ブクログはPC版プラウザでしか使ってないのですが、レビューを書いた本にいいね!を押していただいてもどのユーザーさんが押したのか表示されなくなって、不便きわまりないです。
      ほんとに、何で表示されないようになっちゃったんですかね。
      あと、登録や読みたい、読んだけれどレビューを書いてないものにいいね!を押していただいても、誰が押したのかがわからないのがちょっと不満です。
      スマホアプリは、読んだ本にいいね!を押していただいた方が分かるのですね。
      この仕様の違いはなんなんでしょうね。
      あと、興味グラフの復活を望みます。
      無くなったときはショックでした。
      もひとつ、コメント欄もネタバレで見えないようにもできる機能もあった方がいいかな、と、思います。
      ネタバレフィルターで思い切り語りたいときもありますし……ミステリなんかは奥歯にものが挟まったようなコメントしかできないですしねー。
      2022/10/26
    • ☆ベルガモット☆さん
      さてさてさん 5552さん
      どちらもブグログ使いこなされていて凄いです☆
      私も5552さんと一緒でPC版しか使っていないです 
      いいね...
      さてさてさん 5552さん
      どちらもブグログ使いこなされていて凄いです☆
      私も5552さんと一緒でPC版しか使っていないです 
      いいね!ボタンを押した方は大事なのでわかりやすくしてほしいです 
      なるほど、いろいろPCとスマホアプリとの使い勝手がだいぶ違うのは使ってみないとわからない視点ですね
      興味グラフとかアプリの機能とか、勉強になります!
      コメント欄のネタバレフィルター面白そう!
      腱鞘炎になりそうなので、PC版のみでしばらく楽しみます♪
      2022/10/26
  • シューマン、バッハ、サティのピアノ曲を副題に持つ3遍の短編集ですが、子供達の成長を扱った短編集でもあります。子供は何故か中学生期限定。

    1作目はいとこ同士で別荘に集まる夏合宿の話し。別荘に集まるのは子供達のみ。皆の中心である章くんが来年は高校生となるので、今年が最後の合宿ですが、、、佳作。

    2作目はふとしたきっかけで知り合った中学生男女の話し。時期は中3秋から卒業まで。こちらも登場人物は子供のみ。個人的にはこれが1番好きでした。
    自分の事しか考えられなかった男の子の、ラスト近くの「おれ、どうしても気になってしょうがないんだけど、、、」に続く台詞が泣かせます。相手のことを受け入れる覚悟を持った優しい台詞。大人の階段を登ったってやつでしょうか?僕には言えません。きっと彼はいいおとこになっていくのでしょう。
    しかし、ゴルドベルグが不眠症患者のための曲だったなんて、知らなかったな。

    3作目が表題作。やっと大人が登場します。でも、絹子先生とサティおじさんは横道から大人になったような人達。しかしながら、ふたりの社会不適合者が作り出す世界は魅惑的で、、、「色んな成長があっても良いんだ」と、人と同じ道を生きられない人達を肯定する作品。サティのピアノ曲を聴きながら読むと心地よいです。

  • 3つの短編ともピアノ楽曲がふわっと絡んでくる。
    子どもの頃、ずっとピアノを習ってたのもあってクラッシック音楽が身近にあったけど、作曲者名とは繋がってなかった。改めて検索して…あぁ!この曲が!なんて思えて、とても楽しかった。
    BGMにそれぞれのテーマ楽曲をかけて読むと、主人公が子どもなだけに、私自身の子ども時代を色々思い出した。

    森絵都さんや中山七里さんとか…クラッシック楽曲を言葉で表現出来るなんてほんと天才!

  • 再読。
    等身大の中学生を描いた3つの短編集。
    大人になりかけの頃を思い出す1冊です。
    優しいけど、キレイごとだけじゃない世界観。
    大人になって読んでも、何かが心に引っかかる。
    ぜひ子供が中学生ぐらいになったら読んでみてほしいです。

  • 中学生を主人公にした短編3編。ある、だだそこにある変わらないもの...。3編それぞれ曲を聴きながら何度も読み返してしまう。標題作も素敵だが「子供は眠る」の非日常や「彼女のアリア」の揺らぎに寄り添うのもいい。角田さんの解説は“らしい”の一言。

  • 素敵だった。
    読んだ後のこの気持ちって何だろう?と思ったことが、角田光代さんの解説にそのまま書いてあり…何だか嬉しくもあった。

    大切なことをちゃんとわかっている中学生たち。
    理屈や常識、大人が大事だと思っていることは、実はそんなに重要ではないのかもしれない。
    〝ちょっと変〟だけど、愛のある関係が眩しかった。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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