DIVE!! 上 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.99
  • (913)
  • (858)
  • (838)
  • (40)
  • (8)
本棚登録 : 7305
感想 : 683
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043791033

作品紹介・あらすじ

高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった!女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年のすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる-。大人たちのおしつけを越えて、自分らしくあるために、飛べ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東京オリンピックは『また』幻になるのでしょうか?2020年3月24日、今夏開催予定だった東京オリンピックは、一年程度延期されました。遡ること80年前、1940年9月21日から開催される予定だった東京オリンピックは日中戦争の勃発により幻と終わりました。複数回出場を果たす人もいる一方で、年齢的なピークに左右される競技は、その一回に全てをかけるしかありません。その人の人生をかけた一大イベント。もちろん出場枠は限られ、出場できても活躍できる保証は全くありません。でもチャレンジできるならまだ納得はできるでしょう。でも、その前にその目標が露と消えたなら、幻と消えたなら、それを目標にしていた人たちは何を思うのでしょうか。

    『一流の選手は台に立った瞬間から人を惹きつける。要一を見ているとこの言葉の意味がよくわかる』という要一は、『大手スポーツメーカー「ミズキ」の直営するミズキダイビングクラブ(MDC)』のエース。そんなクラブに通う中学生の知季、レイジ、そして陵。赤字経営により存続の危機がささやかれる中、他のクラブに引き抜かれたコーチの後任として麻木夏陽子という女性が現れます。素性不明の彼女。『飛込みをはじめて五年ちょっと』という知季の担当となったものの知季には不信感が拭えません。『あんた、うちのクラブをつぶしに来たのか? 』と問う知季に、『つぶしに来たんじゃないわ。守りに来たのよ』と答える夏陽子。そんな知季に『毎朝の自主トレメニュー』を課す夏陽子。『頂点をめざしなさい。そこにはあなたにしか見ることのできない風景があるわ』という夏陽子に心を開き『これでいいのか。今どきこんなスポコンでいいのか』と自問しながらも自主トレを続ける知季。『不安に駆られながらも続けたのは、努力すればするだけの成果を実感することができたからだ』という知季。一方で夏陽子は、青森から連れてきた『とっておきのおみやげ』、飛沫を知季に紹介します。『あなたのライバルよ』とMDCに加入したその少年・飛沫のジャンプを見た知季は『なんだこりゃあ』と仰天するのでした。そして、夏陽子は語ります。知季が目標を『日本選手権で優勝?』と問うのに対し『私たちがめざすのは、オリンピックよ』と答える夏陽子。『1999年、春。MDCの彼らは翌年のシドニーへむけ、最初の一歩を踏みだそう』としていきます。

    元々四冊だったものを上下巻にしたこともあって上巻内で大きく二部に分けて構成されるこの作品。そのそれぞれに〈CONCENTRATE DRAGON〉とか、〈SO I ENVY YOU〉と言ったそれぞれ11と12の英語の章題にさらに分かれ、独特なリズム感と、ある種の『かっこよさ』を醸し出しながら展開していきます。そして、全体として感じるのが、とにかくひらがな、圧倒的なひらがなの多さです。そのために、要一、知季、飛沫、夏陽子という登場人物の一捻りされた名前が逆にページの中からふっと浮かび上がってくる不思議感にも囚われました。また、「カラフル」同様に、森さんの圧巻の表現にも魅了されます。この作品では、オリンピック競技の中でも決してメジャーとは言えない『飛込み』という種目に光をあてていますが、メジャーな種目と違ってなかなか文字だけでは競技のシーンをイメージしづらいということはあります。これを森さんは『知季はくいっとあごを上げ、鳥を追う猫のように助走を駆けぬけると、ふわりと宙に浮きたった。重力を感じさせない跳躍…』と、とてもリアルに躍動感を感じさせる記述で描写していきます。『「スポ根」青春小説』とされるこの作品。2003年には児童書籍を対象にした『小学館児童出版文化賞』を受賞しています。実際、途中までは、10代の方が読むのにもいいなぁと思っていたのですが、後半になって若干雲行きが怪しくなります。『二人はそれまでどおり抱きあって眠り』『女とセックスにふけってた』『女の部屋に避妊具を置いていく』という表現が出てきた時にはかなりドキッとすると同時に、違和感・異物感を感じました。ストーリー展開としては違和感はないのですが、個人的にはこの大人な表現は避けて欲しかったな、と感じました。ただ一方で飛沫という高校生の素顔を見れた感もありこの描写はやむをえないのかなとも思いました。

    幻に終わった1940年の東京オリンピック。『また』幻に終わることのないよう2020東京オリンピックが無事に開催されることを願ってやみません。一方で、この作品の主人公たちが目指したオリンピックは2000年に開催されたシドニーオリンピックです。そう、幻になどならず歴史に刻まれたオリンピックです。作品はそのオリンピックの舞台へ向けて『下巻』へと進みます。『はたしてその最高の舞台で飛込み台の頂きに立つことができるのはだれなのか?』色んな期待が駆け巡ります。

    私の大好きな「カラフル」や「永遠の出口」と同じ地平に立ち、眩しい少年の瞳の輝きの中に、青春時代特有の苦悩と葛藤が丁寧に描き出される森絵都さんの絶品。う〜ん、『下巻』もとても楽しみです!

  • スポーツ 友情 家族 恋愛 師弟

    飛び込みというスポーツを知らなくても、とても惹き込まれました。1部、2部と主人公が変わりそれぞれの成長や心の変化が描かれています。
    場面の映像が自然と浮かんでくるのは、作者の表現が美しいからだろうなと。

  • 下巻に感想はまとめて記載。

  • 飛び込みがテーマの、森絵都のスポ根小説。
    活気に満ちてさわやか、すっきりした文体でとにかくわかりやすく、一気に引き込まれました。
    ごく普通の家庭で育った中学生の知季が飛び込みに魅せられ、大した欲もなかったのが、コーチに才能を見い出されます。
    クラブ存続の危機に親会社を説得するため、新コーチの女性は所属選手の中からオリンピック選手を出すという条件を出します。
    一番有望な高校生の要一は知季の憧れ。
    もう一人、地方からきたのが沖津飛沫。
    崖から海に飛び込んでいた彼は、体格の良い野性派で、年上の彼女がいる大人っぽい奴。
    この3人のライバルの成長と葛藤、友情が描かれます。
    オリンピックを目指すとなったらいよいよ他のことをする暇がないので友達も出来ず恋も上手くいかない、ライバルしか身近にいないわけですね。
    いったんトップになった要一がスランプに陥り…さてどうなるか?
    さわやかな青春小説なんていうと、かえって正体がわからなくなるけど〜そうだからしょうがない?スポーツ漫画やスポーツ鑑賞が好きな人にはぜひオススメです。

    • さてさてさん
      sanaさん、こんにちは!
      DIVE!!の上巻がすっかり気に入ってレビューを眺めていたらsanaさんの感想を見つけたのでコメントさせていた...
      sanaさん、こんにちは!
      DIVE!!の上巻がすっかり気に入ってレビューを眺めていたらsanaさんの感想を見つけたのでコメントさせていただきました。たくさんお読みになられているので、私の最近の読書でもレビューでお名前を拝見することが多く、sanaさんのこの本の評価が高いのにもなんだか安心しました。上巻を読んで私もさわなやか青春小説という点同意です。これから読む下巻もとても楽しみです。
      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/08
    • sanaさん
      さてさてさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      最近よくレビュー拝読してます~。いつも丁寧な文章で、読んでいない本のことも、...
      さてさてさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      最近よくレビュー拝読してます~。いつも丁寧な文章で、読んでいない本のことも、内容も読んでいる気分もよくわかる印象あります。
      飛び込みは姿勢が美しく緊張感があって、興味がある種目のひとつでもありました。
      このさわやかさ!読んでいる間は夢中で青春している気分、読み終わると森絵都さんは上手だなあ…と改めて思ったものです。
      下巻も面白いに決まってますよね?
      こちらこそ、よろしくお願いいたします^^
      2020/05/10
  • 昨日、京都へ初詣に行ったのだけど、朝の京都はすっぽり朝靄に包まれていて、しばし本を読む手を止めて、その眺めに見入ってしまいました。
    そうした行き帰りだけでは読みきれなくて、家に帰ってから速攻で読了。
    飛込みって結構面白い競技なのに、オリンピックの時ぐらいしか見る機会がないので残念ですよね。
    全体の感想は下巻を読んでからとして、取りあえず一言、麻木夏陽子にならなきゃなぁって。
    『ピンチとは克服の快感を味わうためにある』とか『足の重い日ほど早めに家をでる』なんて、まあ確かにこっちはお嬢さん育ちとは違いますけど、並のサラリーマンには言えないよね。(その内書く下巻の感想に続く)

  • 3.8
    →スッキリとした青春小説で読みやすかったです。
    飛び込みという競技の事をほとんど知らず、大きなリスクがある事などに驚きました。どの登場人物にも魅力がありました!

  • スポーツを題材にした児童文学の中でも、ダントツで好きな本。

    森絵都さんの一般小説も好きだけれど、やっぱり青春小説のほうが、きらめく何かがあるなぁと感じた。
    分厚いし、下巻のほうが断然盛り上がるけれど、「大事な部分」を外していないところがすごい!
    きっと、誰もが子ども時代に感じたことのある感情が詰め込まれているから、だから、引き込まれる。

  • 話に引き込まれる!ハマると抜けられない!

  • みんな色んな思いで飛び込みをしている。順調でキラキラしている時もある、苦しくて立ち止まる時もある、順調だけど苦しい時もある。他の人が羨ましい時もある、だけどその人だって苦しんでいる。

    勝つ度に独りぼっちになっていく。強くなる為に色んなものを犠牲にする。それでも得るものがあるから飛び込みを続ける。辞める人もいる。

    映画版を観る前に読もうと手にした本。
    当然の事だが、本の方が色んな人のストーリーが書かれていて面白い。映画の方が飛び込みの迫力に感動する。

  • 2019.2.5
    上木図書館にて

    ともきの真っ直ぐさ
    しぶきのバケモノ感
    青森
    東京
    ジジイ
    すき焼き

    何ということもなく読み始めて、何ということもないけど、止められないんだな。これが。

  • 学生時代に好きで読んでいた森絵都さんの本。
    林遣都さんの映画を見る前に原作をと思って読んだ。
    市立図書館で借りて。4冊に分かれたもの。
    とても面白くて、笑ったり、泣いたり、鳥肌を立てながら感動したり。文庫本買って手元に置こうか。もうほんと好きな作品です。

  • 青春のキラキラしたところ、もやもやした鬱屈、
    素直になれない気持ち、そういういろんな感情が
    読んでいるとスッと入ってきて、
    おっさんの身でありながら登場人物の気持ちに
    リンクさせてくるのはすごい。

  • 小学生の時に読み、飛び込み選手になりたいと思っていました。

  • あっという間に読んでしまいました。青春をひたむきに生きる少年たちが爽やかに目に浮かんできて、ふわっと風が吹いたような気持ちになれました。早く下巻も読みたい!

  • 久しぶりに再読。
    すっかり大人になってしまった自分には素直すぎて眩しすぎるけれど、ぜひ中高生に読んでもらいたい本。
    試合のシーンはドキドキして、先に結果を見ないように隠しながら読んでしまう。そういう本です。

    ただ、児童書の場所に置かれることもあるようですが、高校生の登場人物が年上の彼女とセックスにふける、という部分があるので、小学生にはちょっと早いかな。生々しくはありません、全く。

  • とても夏向きでした。どの登場人物も共感を感じます。

  • スポーツの世界でも、美しい花を咲かせようとすればするほどに、どこかにゆがみが生じるものかもしれない、と知季はこのごろ思う。そのゆがみは選手自身の体だとか、心だとか、周囲との人間関係だとかに反映し、何かを損なわせる。何かを奪い去る。テレビで活躍する一流の選手たち。彼らもあの満面の笑顔や、りりしいまなざしや、まばゆい白い歯の下に、激しくよじれた大木を秘めているのだろうか。

    「で、なんだおまえ、クラブの仲間にうらまれたのか」
    「友達だと思ってたのに、せちがらいよね」
    「友達だからだろ。友達だから先こされるとくやしいしうらめしいし、嫉妬もするんだよ。赤の他人ならどうってこともないさ」

    三回半にも歯の立たない自分に、一体、何があると言うのか?要一には見本のように正確な美しい舞があり、飛沫には型破りな個性を宿した力強い舞がある。知季は自分が何を持っているのか知りたかった。

    だれとも共有できない悩み。
    一人で抱え込む重さ。
    自力で解決するしかないしんどさ。

    「でも、それって飛込みだけじゃなくて、なんでもそうなんだよ。ぼくたちの生活って、いつもなんか採点されたり、減点されたりのくりかえしなんだ。いろんなところにジャッジがいてさ、こうすればいい人生が送れる、みたいな模範演技があって。試合で勝つとか、満点をもらうとか、そんなんじゃないんだよ。もっと自分だけの、最高の、突きぬけた瞬間がいつかくる。そういうのを信じて飛んでるんだ」

    目をかけていた教え子に裏切られるのは初めてのことじゃない。コーチの気持ちなど顧みず、彼らは簡単に飛込みをやめていく。怖いから。痛いから。寒いから。勉強がおくれるから。両親が反対するから。飽きたから。だれもがうらやむ宝石のような素質の持ち主でさえ、どこにでも転がっている石ころみたいな理由で飛込みをやめていく。大切なのはすばやく頭を切り替えること。去ったセンスを引きずらず、残った選手に専心すること。

    「あたしもおんなじ。なんにも知らない飛沫より、東京のことも知って、競うことも、負けることも知って・・・そんな飛沫のほうがいい」

  • ジャニーズ好きな娘がたまたま見ていたドラマの原作が、最近興味を持っている森絵都さんだった。ということで、早速借りてきました。

    物語は飛び込みという競技が舞台で、自分の体がとても飛び込みに向いているのに、それに全く気が付かず、むしろ、飛び込みも中途半端な気持ちのままやり続けていた知季と、プールでの飛び込みは未経験だけど、選手だった祖父に海での飛び込みを教わり、とてもセンスある飛び込みをする飛沫と、両親ともに飛び込みの選手で、サラブレッドと言われ実力もある要一の3人が中心になって物語が進んでいきます。

    上巻では、飛び込みのスクールを動かす女コーチとの出会いや、色々な困難に出会い、それを乗り越えて行く3人が書かれています。

    飛び込みに全てをかけ、普通の学生生活をほとんど捨ててきた彼ら。

    普通の人にはできない経験をしているんだから、いいことだよ。と一言で言えない。とにかく、これから先の3人に幸あれ!

  • 「DIVE!!上」(角川文庫)
    著作者:森絵都
    発行者:KADOKAWA
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    目指せ五輪!時速60キロ、1,4秒を競う少年たちは、誰がために飛ぶ

  • 本を閉じてからもしばらく、身体の中に、残る。熱さが、残る。そしてまぶしい。飛び込みのシーンが、ダイナミックかつ繊細な描写を通して、目の前で見ているかのように鮮やかにくっきりと描かれる。まるで、自分がはるか下に静かに横たわるプールの水面を見つめているように、ドキドキした。この臨場感がたまらない。

全683件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森絵都の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
あさの あつこ
森 絵都
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×