いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング
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レビュー : 244
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043791057

作品紹介・あらすじ

厳格な父の教育に嫌気がさし、成人を機に家を飛び出していた柏原野々。その父も亡くなり、四十九日の法要を迎えようとしていたころ、生前の父と関係があったという女性から連絡が入り……。

感想・レビュー・書評

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  • 読みやすい文章で、ゆるっとした少し冷めた目線で書かれた小説。
    ちょっと男性受けはしないかも…。

    事故死した父の死後、浮気が発覚。それだけでも厳格な父からは予想外の事なのに、相手の女性から発せられた父が絶倫との事実。
    父の足跡を辿る3人の兄妹の行き先は…。

    主人公の野々が、少女漫画に出てくる感じで良い。
    喜怒哀楽をあまり出さず、同棲中の彼との関係もなぁなぁになりつつあるが、自分が不感症である事を父親のせいにして生きている。中盤、そんな野々にもピンチが訪れるが、感情を押し殺し素直に受け入れようとする場面は苦しかった。

    最終的に父の謎は解けぬままだが、野々を含め3兄妹のこれからにエールを送りたい気持ちになれた。

    個人的に、野々の彼氏の達郎がタイプ。地に足が着いてるし、きちんと彼女と向き合う姿勢が好き(照)

  • 青い空の下で海を眺めながら「いつかパラソルの下」で。

    柏原野々、25歳、独身。
    同棲してくれる彼を渡り歩くフリーター。
    彼と家賃をシェアして、そこそこ働き、今の所幸せな生活を満喫中。
    そんな時、父親が事故で亡くなった。
    厳格で兄妹から没取してきた数々のモノとコト。
    そんな父が実は不倫を?
    父親の呪縛から解き放たれるため?父を知るため?兄妹は父を探り始め、父の故郷の佐渡へ旅立つ。なんて書くと暗いけど実際はとても緩くて、何が飛び出る?と身構えていたら肩透かし。
    花の胸の刺繍やら「暗い血」やら地方の小島(佐渡)で横溝を思い出してたのにさ。二箇所ほど車内で読みにくい描写あり。
    背後に気をつけてなくちゃ。

    久しぶりに海を見たくなった。
    潮風にあたり、ギラギラの太陽に照りつけられながらのイカとビール。
    何もかもが浄化されて明日からまた顔を上げて行けるような。そんな気持ちになる読後。
    親の呪縛って本当にしつこい。
    いったい何時だったかな、親が大人に見えなくなったのって。
    自分に同情するのが嫌いな私。最後までこの家族の気持ちに共感できなかったけれど、前向きな姿にほっこりした。

    「人の体温は頼もしい。たとえどんな状態であろうと、命があるのとないのとでは大違いだ。」

    「誰だって親には恨みの一つもあるけど忘れたふりをしてるんだ、親が老いて弱っちくなるのを見てしょうがなく許すんだ、それができないでこれからの高暦社会をどうするんだ」

  • 森絵都が初めて大人向けの小説を書いた。
    性描写をも含むこの小説は、昔からのファンを驚愕の余りのけぞらせてしまったと、ひところ話題になったものでした。
    でも実際に読んでみたら、あらやっぱり森絵都は森絵都だわ。いい意味で。

    厳格でも怠惰でも、親っていうのは子どもにとって絶対だ。
    「こんな親はいやだ」と思っても変更不可だし、涙を呑んで理不尽に耐えるしかない。

    だけど大人って子どもが思うほど大人じゃない。
    ましてや自分の親なんて聖人君子じゃあないし、欠点はいくらもある。
    そういうことを理解しながら、子どもは大人になっていくのだ。多分。
    なのに親の方がいつまでも絶対者として子どもを支配しようとすると、親子関係はぎくしゃくしてしまう。

    柏原家の3人兄弟(春日、野々、花)は、それぞれに上手くいかないことを「厳格すぎる父」のせいにして生きている。
    もう成人して、世間的には大人であるはずの彼らは、未だに「厳格すぎる父」の陰で、成長できない自分を甘やかしている。
    父親が厳しすぎたから、自分は世間から少しずれてしまったと思っている。
    大人の殻の中で、膝を抱えてじっと息をひそめている子ども。それが彼らだ。

    “愛しても、愛しても、私自身はこの世界から愛されていないような、そんな気が心のどこかていつもしていた。
    受けいれても、受けいれても、私自身は受けいれられていない気がしていた。”

    そんな彼らに森絵都は言う。

    “なべて生きるというのは元来、そういうことなのかもしれない、と。”

    だから、怖がらないでこっちにおいで。
    そう声をかけてくれるのが森絵都。

    親は絶対者ではないし、親は理不尽なもの。
    そう割り切ったら、そういうものだと思えたら、少し自分を許せるようにもなるし、前に歩いていけるようにもなる。
    急に親を好きにはなれなくても、いつかパラソルの下で一緒に冷たいビールを飲めるようになるかもしれない。

  • 主人公・野々が自身と重なって痛かった。野々に、強く共感すると同時に、イタイなぁきついなぁと思いながら、他人事に、楽しそうでいいなぁと思ってしまった。別に不真面目なわけじゃない。悪意もない。誰かを困らせたいわけじゃない。頑張って生きてる。楽しいことも辛いことも両方いっぱいある。それでも世間は私に対して厳しい、と感じたり、たまに、やっぱり私がだめなのかと落ち込んだり…でも、案外野々や私に似たような人も多いのかも、と理由をつけて安心した。安心するための理由を、この本から見出そうとしたと言うべきか。あとがきにも書かれていた。森絵都さんの作品は「日常の【再発見】だ」と。まさに【再発見】でした。楽しそうな表面と、裏側の不安。不安という暗がりを言い訳にして、本当は逃げたいばかりの私。とても心に響く作品でした。

  • 森絵都さんの文章、好きだな。軽快で味わい深い。

  • う~ん、これは私の物語だ。
    野々は私だ。

    自分の好きなように生きてきて、
    これじゃダメだって思っても、時の流れに身を任せてるってヤツ。
    何かうまく行かないことがあれば、
    やれ父のせい・こんな体のせい・・・って責任転嫁してきたヤツ。

    これ私だ。


    亡くなった父の足跡をたどるために、佐渡島を訪れる兄妹たち。
    憎くて嫌いな父は、どうしてこのような人格が形成されたのか・・・。
    それを知るための旅。
    結局わかったのは、憎くてしょうがない気持ちもいずれ風化されるってこと。
    そして、風化されるまえに亡くなってしまったのが、非常に惜しいってこと。
    きっと生きていれば、天気のいい日にパラソルの下で一緒にビール飲めただろうに・・・。

    そう思っている野々と私は、同じなんだなぁって・・・。
    きっと私と父もあと何年かすれば、そうなってただろうな・・・。





    野々のことば
    「愛しても愛しても、私自身はこの世界から愛されていないような、そんな気が心のどこかでいつもしていた。
     受け入れても受け入れても、私自身は受け入れられていない気がしていた。
     けれでもそれは私が父の娘であるせいではなく、自分自身のせいですらなく、生きるというのは元来、そういうことなのかもしれない。」

    私は私。
    片意地はるのはやめようと思う。
    普通の日常を受け入れて、生きていこうと思う。

  • 再読。
    誰でも何かしらコンプレックスを持っているもの。
    それを他人のせいにして、自分をごまかしている人は多い。
    自分の弱さに向き合うのは、とても勇気のいること。
    けれど、一度向き合ってみれば、案外なんでもなくて。
    人生なんて、思う程難しいものではないのかもしれない。
    それでも、その時の自分にとってはそれは一大事だったりするもので‥
    だから人間は悩み続けるし、何かを言い訳にし続けるんだろうな。
    それが若いということ?
    歳を重ねれば、言い訳せずとも全て受け入れられるようになるのかなぁ。

    大人になったらまた読んでみよう。

  • 日常の生活の中での登場人物たちの変化、心情を表現している。主人公の心象を景色や何気ない行動で表し、それで心情がわかるというのがすばらしい。ストーリーを追うだけではなく、一つ一つの言葉を文章を味わいながら(しかし、そのことばは難しいものではない)読める小説。

  • 久々に、森絵都さんの作品。

    印象的なのは、

    「愛しても、愛されなくて、」

    「受け入れても、受け入れられなくて、」

    「でも、人生はそんな風に孤独なもの。」

    って意味の台詞。

    まわりの人を見ていると、何で自分だけ…と卑屈になったり、環境のせいだ!とこの作品の登場人物みたいに言い訳したり。

    そんなことばっかりして生きてきたなぁって思う。

    孤独を受け入れたり、そんなもんだと思って生きていく強さは持ち合わせていないけれど、

    ちょっとづつでも、強い自分でありたいなと感じさせられた。

    何か非日常的なことがあると、すぐに何か根っこに悪い塊が存在してる!と疑ってしまうけれど、

    意外と問題は根っこじゃなくて、地面から堂々と見えている“花”のほうかもしれないなぁ。

  • 潔癖すぎる父親に、華美なものから徹底的に遠ざけられて育った柏原家のきょうだい三人。その厳格な父は事故で亡くなるが、葬儀の後、その父と浮気していたという女性が訪ねてきた。
    父親は「自分に流れる淫蕩の血のせいだ」みたいなことを呟いていたという。果たして父親に流れる「血」とは何なのか。
    父から逃れるように家を出てフリーターをしていた野々を中心に、きょうだい三人は父……ひいては自分たちのルーツを探し始める。

    父親の潔癖は相当なものです。幼児アニメ何てもっての外だし、香り付きの文具とかもダメ。多分売っているほとんどの物は所持NGです。
    それから逃れて家を出た野々は、何にもとらわれず、仕事と彼氏を渡り歩くような生活。
    ある日彼氏に「将来のこと全然考えてない」「父親の厳しさを根無し草の言い訳にしている」と言われてフラれてしまう。
    野々の兄も似た様な感じの暮らしをしていて、しっかりしているのは公務員の妹くらいなんですが、父親の死でその妹も少しずつ変わり始める。

    彼氏に言われた「父親の厳しさを根無し草の言い訳にしている」というのは真実なんです。
    父親の死であらためてそのことに気付かされる野々やきょうだいたち。そのうち父親の父親はとんでもない女ったらしだったという話を聞き、父の故郷・佐渡島に渡る。
    そこで父親の足跡をたどるうちに、真実に気付く。
    父親の父親は思ったより普通の人だった。父が浮気に走ったのは、血のせいでもなんでもなく、父も言い訳していたんです。「自分がこんなことになったのは血のせいだ」みたいな。
    「勃つものが勃たなくなる前に一発やっておきたかっただけ」と身も蓋もない理由で浮気に走った父。
    平々凡々な俗めいた理由を、もっともらしくしたかったんだろうな…。

    自分の平凡(もしくはそれ以下)な生き様を他人のせいにすると楽なんです。
    でも、やっぱり自分の生き方でしかない。
    ドラマティックな生き方をしてるように見えてもみんな平々凡々で、そんなな中にこそこの世の本質があるのかもしれないと思いました。

    森絵都さんの文章には難しい言葉は出てこないけど「おっ」と心惹かれる部分が多々あります。人の心を打つのに必要なのは語彙ではなく、語る内容なんだなということがよく分かります。

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著者プロフィール

森 絵都(もり えと)
1968年、東京都生まれの小説家、翻訳家。早稲田大学第二文学部文学言語系専修卒業。
1990年、『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。2006年、短編集『風に舞いあがるビニールシート』で、第135回直木賞を受賞。
2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞を受賞し、2008年に映画化もされた。2017年『みかづき』で第12回中央公論文芸賞を受賞、2017年本屋大賞2位。ほか、多数の文学賞を受賞している。

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