遥かなる大和 下 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043828104

作品紹介・あらすじ

高句麗侵略に失敗した隋では、煬帝の圧政に対し内乱が拡大する。日中の対等な国交実現をめざす高向玄理と南淵請安も、理想に燃えて革命運動に身を投じた。大和朝廷では、高句麗・百済との同盟を推進する聖徳太子と、新羅と組んで権力保持を目論む大臣・蘇我馬子の対立が表面化しようとしていた。帰国した小野妹子は、増長する馬子を牽制すべく太子を支えるが、斑鳩の宮に暗雲が垂れ込める。一級の歴史エンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  • 蘇我アアアアアア!!!となることうけあい。教科書でみた平面的な古代史が、血の通った物語として躍動する楽しさ。
    でもこの時代の記録はほとんど蘇我氏没落後に編纂されたものだという事も心に留めておきたい。

  • 李淵が唐を建国し、聖徳太子が死に、高向玄理らの留学生が帰ってきた。次の「青雲の大和」シリーズに続く。楽しみ。


     風呂敷広げすぎな感じはあるけれど、それほど当時の社会が国際的に複雑に絡み合っていたということで、面白い。

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    p52 唐の軍団のすごいところ
     李淵・李世民の率いる唐軍は非常に統率のとれた軍団だった。それに倫理的にもとても統制が取れていて驚きだった。唐軍は略奪をしなかった。それがどれだけすごいことか。
     略奪は戦傷者の当然権利と思われていたし、そもそも食糧とかギリギリの中で戦争に臨んでいるため、略奪をしなければ食っていけないことがほとんどである。もし略奪をしないで済むとしたら、それほど行軍に補給が余裕があって、精神的にも高潔な人間教育ができている、そんな軍団だ。それほど豊かな軍団を組織できたということが驚きだった。
     そうなんだ。戦争で一番悲惨なのは略奪とかでコラテラルダメージを受ける非戦闘民なんだよね。

    p58 留学生の優遇
     中国では留学生が優遇され、新国家である唐軍も留学生である高向玄理や旻らを丁重に扱った。というのも、留学生は諸外国とのパイプである、そのパイプは王朝が諸国の王であるための重要な存在である。だから、大事にされる。王朝に大事にされるということは、その留学生に恩を売っておけば昇進の武器になる。だから大事にされる。

    p59  李世民
     臆病で引っ込み思案の李淵が隋を裏切って唐軍を決起させたのではない、若干二十歳の次男:李世民が裏で糸を引いていたのである。
     李淵が決起を決意したのは失敗逃れからである。突厥討伐に派遣した武将がボロ負けして帰還したため、その責任を取るくらいなら反乱を起こすしか生きる道はない、そう李世民に焚き付けられて挙兵した。らしい。

    p114 留学生は決めねばならない
     留学生は勉強するだけでなく、外交上のキーマンである。彼らは常に外交方針の総意をまとめて、それに則って行動しなければならなかった。だから、この隋から唐への激動の時代の留学生は大変だった。李密につくか、李世民につくか、それによって新時代の日本留学生の立場が大きく変わってしまう。より優勢の方に就く、小賢しいが、それが必要だった。

    p154 横取り
     蘇我氏は隋の侵攻のどさくさに紛れて高句麗を滅ぼそうとしていた。それによって百済が朝鮮半島を征服できるよう考えていたのであろう。しかし、隋が滅ぶのが秒読みになったこの時点で、転身を図っている。
     高句麗は隋が滅んだ今、同朋の日本の特使に戦勝報告に来る。普通なら小野妹子ら聖徳太子の一派が受ける高句麗からの報告だが、蘇我氏はその手柄を横取りしようとしていたのである。

    p166 蘇我殺し
     聖徳太子の望みは推古天皇の君主制であった。一君万民の国家制度を作ることで社会にあるあらゆる対立を解消しようと考えていたに違いない。それで困るのは蘇我氏である。国民軍が編成されるとなれば蘇我氏の私兵は解散させられる。その前に蘇我氏は妨害してくるだろう。そして…

    p380 聖徳太子、死す
     壬午(622)年二月二十日、聖徳太子は48歳で亡くなった。おそらく蘇我氏に毒を盛られて、、、

     聖徳太子に「徳」の文字がついていることには怪しまれている。皇族で徳の字が諡号で送られている人はたいてい非業の死を遂げている。ということは…聖徳太子の死に方も実際こういう感じだったのかもなー。

    p389 玄理は李世民きらいだった
     李世民は李淵の後継者争いで、兄と弟の血縁を根絶やしにした。幼い子供たちまでも。玄理は大陸の冷血さに嫌悪感覚えたのである。李世民は稀代の英雄と言われるが、力で何でもねじ伏せようとする権力者であり、そういう人格者が国家の統治者になることへの疑問をぬぐえなかったのだろう。そして、大和の聖徳太子と比較していたのだろう。

    p392 旻
     日文は高向玄理らよりも先に帰国していた。そして、名を漢風に「旻」と改めていた。旻とは、澄んだ秋風という意味がある。

    p393 中臣鎌足
     旻は自分が学んだ学問を教える塾を開いていた。そこには蘇我入鹿や中臣鎌足がいた。という設定。
     これは本当かわからないが、日本に律令制度を作った中臣鎌足は彼ら留学生に学んでいた確率は非常に高い。無きにしも非ずなことだろう。

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     彼ら留学生は隋~唐の激動の時代に大陸で学んで、それを日本に還元した。それは乙巳の変の後に生きてくる。そういう長い目で見て、この物語は非常に面白い。

     次巻の青雲の大和も楽しみです。

  • 煬帝の隋を倒すのは、結局、李密ではなく李世民だった。一方、倭国内の馬子と小野妹子ら斑鳩の大使派の権力闘争(新羅派と反新羅派ということもできる)は激化し、ついに大使も毒殺されてしまう。妹子等は結局、蘇我氏の強烈な権力の前に破れ、理不尽さが残る形で物語りは幕切れ。この後、蝦夷、入鹿と2代に亘って蘇我氏の繁栄が続くことを思うと・・・。いずれにしても、中国と日本の古代史がダイナミックに描かれていて読み応えあり。「青雲の大和」という続編もあるようなので、読んでみたい。

  • 大和朝廷の頃、理想の国づくりを目指す聖徳太子のもと、忠臣小野妹子vs巨悪の蘇我馬子を軸に展開する歴史エンターテイメントです。大和に留まらず、隋・唐など大陸や朝鮮半島へと物語は広がり、東アジアという視点があります。結構激動期で、もっと面白い作品が産まれて欲しいですね。これからも多くの作家さんの挑戦に期待しています。

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著者プロフィール

1939年兵庫県生まれ。京都大学文学部卒。63年産経新聞に入社し、大阪本社編集局社会部長、同編集長、東京本社論説委員長を歴任。92年『ソウルに消ゆ』(筆名・有沢創司)で第5回日本推理サスペンス大賞受賞。古代史を体系的に描いた「古代からの伝言」シリーズで話題になる。

「2010年 『青雲の大和 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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