新世界 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 721
レビュー : 91
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043829019

感想・レビュー・書評

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  •  原爆の開発のため作られた科学者の町”ロスアラモス”。戦勝パーティーが行われた翌日、一人の男が殺されているのが見つかる。原爆の開発責任者”ロバート・オッペンハイマー”は友人のイザドア・ラビに事件の調査を依頼する。

     最近でも日本に原爆を落としたことは是か非か、という議論を見かけることがあります。戦争を終わらせるためにやむを得なかったという意見もあれば、国際法に違反する戦争犯罪だ、という意見もあったりするみたいですが戦後、それも平成生まれの自分からすると原爆も戦争も繰り返してはいけない、くらいにしか実感がわかず世界大戦当時の原爆投下の是非については、どちらの意見も正しいように思えてしまうのが事実です。

     この小説に登場するのはその原爆を開発した科学者や投下したパイロットなどその当事者たちです。事件の調査が進むとともに彼らの中の狂気の部分が明らかになってきます。それは原爆を生み出した、という罪の意識と、それを麻痺させようとする戦時下の全体主義や科学者としての興味、喜びといったものです。

     こういう矛盾した感情を抱いて、そして知性があるからこそ人間というものは恐ろしい生き物なのだろうな、ということを思いました。

     ミステリという体裁をとっていて犯人探しの要素もあるのですが、個人的にはこのミステリは犯人探し(フーダニット)ではなく、なぜ殺したのか(ホワイダニット)のミステリだと思います。最後に明かされるその動機はまさに狂気そのものです。

     しかし読み終えたころには、その狂気は本当に狂気だったのか、この状況では狂うことが人間として当たり前なのではないか、という思いも抱かされます。それもまた原爆という魔力を持った存在が、このミステリの中心にいるからではないでしょうか。

     作品のタイトルである『新世界』。第二次世界大戦後、アメリカとソ連の核競争が始まり、最近でも北朝鮮やイランの核開発、そしてフクシマ原発など、核の脅威は止むことはありません。それがアメリカの原爆投下から生まれた『新世界』の姿のように思います。

     犯人は連行される際、ラビたちに自分の思いを叫びます。その叫びはある意味では原爆、あるいは原爆を生み出した科学力自身の叫びであるかのように思います。そしてそれこそが『新世界』に足を踏み入れる前の人類に対する最後の呼び声だったのではないでしょうか。

     そしてその叫びがアメリカの戦勝、世界大戦の終わりという勝ち鬨でかき消されてしまったとき、人類は核との共存という新世界に疑問を抱くことなく突入しました。そして現在、核は広島、長崎という一地方にとどまらず世界すらも破壊する力を持っています。その脅威に気づいた今からでも、犯人の、そして科学の叫びに耳を傾け、そして選択する必要があるのではないか、と思いました。

  • 小説家である「私」のもとに、エージェントと称する謎の人物から持ち込まれた原稿。それは「原爆の父」と呼ばれた科学者、ロバート・オッペンハイマーの未発表の遺稿だった。
    内容は、第二次世界大戦終結に沸く夜、ロスアラモス国立研究所内で起きた奇妙な殺人事件について。
    オッペンハイマーに依頼されたイザドア・ラビが、事件の真相を追っていくというものだが――。

    ヒロシマ・ナガサキの悲劇、数十万の死と数百万の苦しみを生み出した場所で〈たったひとりの死〉を追う物語は皮肉に満ちみちている。
    夜を打ち払い、忽然と地上に現れる小さな太陽。
    その瞬間はひとつの世界の終わり、別の世界の始まり。
    そう、これがわれわれの新しい世界。そこでわれわれは常に、狂気の淵に立つ。すべての民族は今、地獄のかまどのまえに整列している――。

    この『新世界』はノン・フィクションという体裁をとったフィクションである。
    どこまでが事実で、現実で、どこまでが虚構で、想像なのか。その境目を曖昧にすることで、かつてこの国に起こった悲劇と、また同じ悲劇がいずれ起こりかねない、ここはそういう世界だという容赦ない現実が浮かびあがってくる。
    異色のミステリといえる。

    KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
    https://kadobun.jp/reviews/375/33cca1f4

  • アメリカの核兵器開発のロスアラモス国立研究所を舞台にしたフィクション。
    スリリングであるべき犯人探しの要素はイマイチな内容であったが、原子爆弾を開発した天才達の雰囲気や苦悩、人類初の放射能事故は見どころであった。

  • 原爆を作った科学者の苦悩と危うさが興味深かった。
    殺人事件の異常さが科学者の異常さで薄まっていくところに、原爆完成後の新世界の不気味さに感じた。

  • 有栖川有栖のあとがきが面白い

  • オッペンハイマーを中心に描かれた、ミステリー。戦時中の科学者のことをうまく描写しているなあと思う一方で、展開がやや緩慢。もう少しテンポアップして、ミステリー要素強めのほうが好みです。反対に著者の主張を出すのであれば、ミステリーの要素でなくても、と思ってしまいました。

  • ロバート・オッペンハイマー。原子爆弾を開発した中心人物。
    ストーリーの内容は別に面白いことはない。

  • ミステリーかつ反戦(というには語弊があるか)。もっとどちらかに寄せても良かったのでは。
    ジョーカーゲーム等から柳広司さんを知った若い世代にこそ、読んでほしい。そういった意味では、とっつきやすいと思う。

  • とっつきにくくって頁が進まないったらありゃしない。ってのが、素直な感想で、ドキュメンタリーを呈したサスペンスミステリ?趣味が悪い。の一言に尽きるのだが「新世界」というタイトルは言い得て妙。とは、思った。「およそ戦争においては最善なんてものはありえない。私たちはつねにより良い方を求めて判断を下すしかないんだ。」一度ゴーしてしまった案件を止めるのは最悪の事態しかないかもしれなくて、ベストよりベター。というのは確かにそういう一面があるかもしれんな。と。原発にしろ何にしろ。作る方は夢中で使う方は…。

  • 怖かった…

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著者プロフィール

一九六七年生まれ。二○○一年『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で朝日新人文学賞受賞。○九年『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編及び連作短編部門を受賞。同年刊行の『ダブル・ジョーカー』は、『ジョーカー・ゲーム』に続き二年連続で「このミステリーがすごい!」の二位に選ばれる。主著に「ジョーカーゲーム」シリーズ、『ロマンス』『楽園の蝶』『象は忘れない』などがある。

「2017年 『風神雷神 雷の章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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