新世界 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
3.44
  • (41)
  • (81)
  • (100)
  • (26)
  • (11)
本棚登録 : 846
感想 : 100
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043829019

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『ジョーカーゲーム』シリーズを読んで面白かったので、他の作品も読んでみたいと思って本屋で見かけた本作を購入。
    原爆開発が行われたロスアラモス研究所を舞台にしたフィクション。所長であるオッペンハイマーの旧友の視点で書かれた、終戦祝賀パーティの夜に行われた殺人をめぐるミステリーになっている。だが、その裏にある原爆開発の大義名分と、それがもたらす結果についての苦悩、戦争の非情さ。全体主義的な責任の観念と善悪の区別の欠如。そちらの方が重厚なテーマであったように思う。責任を感じないようにすれば罪悪感はないが、結果を目の当たりにしてしまったら正気ではいられまい。殺すか、狂うか。一体誰が正気なんだ。

  •  原爆の開発のため作られた科学者の町”ロスアラモス”。戦勝パーティーが行われた翌日、一人の男が殺されているのが見つかる。原爆の開発責任者”ロバート・オッペンハイマー”は友人のイザドア・ラビに事件の調査を依頼する。

     最近でも日本に原爆を落としたことは是か非か、という議論を見かけることがあります。戦争を終わらせるためにやむを得なかったという意見もあれば、国際法に違反する戦争犯罪だ、という意見もあったりするみたいですが戦後、それも平成生まれの自分からすると原爆も戦争も繰り返してはいけない、くらいにしか実感がわかず世界大戦当時の原爆投下の是非については、どちらの意見も正しいように思えてしまうのが事実です。

     この小説に登場するのはその原爆を開発した科学者や投下したパイロットなどその当事者たちです。事件の調査が進むとともに彼らの中の狂気の部分が明らかになってきます。それは原爆を生み出した、という罪の意識と、それを麻痺させようとする戦時下の全体主義や科学者としての興味、喜びといったものです。

     こういう矛盾した感情を抱いて、そして知性があるからこそ人間というものは恐ろしい生き物なのだろうな、ということを思いました。

     ミステリという体裁をとっていて犯人探しの要素もあるのですが、個人的にはこのミステリは犯人探し(フーダニット)ではなく、なぜ殺したのか(ホワイダニット)のミステリだと思います。最後に明かされるその動機はまさに狂気そのものです。

     しかし読み終えたころには、その狂気は本当に狂気だったのか、この状況では狂うことが人間として当たり前なのではないか、という思いも抱かされます。それもまた原爆という魔力を持った存在が、このミステリの中心にいるからではないでしょうか。

     作品のタイトルである『新世界』。第二次世界大戦後、アメリカとソ連の核競争が始まり、最近でも北朝鮮やイランの核開発、そしてフクシマ原発など、核の脅威は止むことはありません。それがアメリカの原爆投下から生まれた『新世界』の姿のように思います。

     犯人は連行される際、ラビたちに自分の思いを叫びます。その叫びはある意味では原爆、あるいは原爆を生み出した科学力自身の叫びであるかのように思います。そしてそれこそが『新世界』に足を踏み入れる前の人類に対する最後の呼び声だったのではないでしょうか。

     そしてその叫びがアメリカの戦勝、世界大戦の終わりという勝ち鬨でかき消されてしまったとき、人類は核との共存という新世界に疑問を抱くことなく突入しました。そして現在、核は広島、長崎という一地方にとどまらず世界すらも破壊する力を持っています。その脅威に気づいた今からでも、犯人の、そして科学の叫びに耳を傾け、そして選択する必要があるのではないか、と思いました。

  • ミステリー仕立てで、原爆投下の是非、人間の原罪を浮き彫りにした作品。
    メッセージ性がある物語ですが、ミステリー部分がかなりいまいち。なぞ解きは主題ではないものの、ミステリー部分の中途半端感は否めません。

    ストーリとしては、
    原爆開発の指揮を執ったオッペンハイマーが、ロスアラモスで発生した殺人事件について記載したという設定。
    原発開発の為に集められた天才科学者たちが暮らすロスアラモスにおいて、戦勝を祝うパーティで発生した奇妙な殺人事件。その犯人は?というのがミステリー。
    事件の解明が進むとともに、開発した科学者、投下したパイロットの闇と狂気の部分が明らかになってきます。

    原爆を生みだした科学者の意識、そして、彼らなりの正義。しかしそれはほんとに正義だったのか?
    自分としては、当然ながら、ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下は不要だったという認識ですし、国際法にも違反する行為だったと思っています。
    といっても戦争当時に国際法っていってもねぇ。

    そして、放射能事故での被害者の凄惨さ。原爆そのものの威力、恐ろしさが描画されています。
    さらには、原爆の仕組みについても描かれています。

    さらにパイロットの苦悩と狂気。
    そうしたところから、語られていくその瞬間...

    考えさせられる物語でした。

  • 小説家である「私」のもとに、エージェントと称する謎の人物から持ち込まれた原稿。それは「原爆の父」と呼ばれた科学者、ロバート・オッペンハイマーの未発表の遺稿だった。
    内容は、第二次世界大戦終結に沸く夜、ロスアラモス国立研究所内で起きた奇妙な殺人事件について。
    オッペンハイマーに依頼されたイザドア・ラビが、事件の真相を追っていくというものだが――。

    ヒロシマ・ナガサキの悲劇、数十万の死と数百万の苦しみを生み出した場所で〈たったひとりの死〉を追う物語は皮肉に満ちみちている。
    夜を打ち払い、忽然と地上に現れる小さな太陽。
    その瞬間はひとつの世界の終わり、別の世界の始まり。
    そう、これがわれわれの新しい世界。そこでわれわれは常に、狂気の淵に立つ。すべての民族は今、地獄のかまどのまえに整列している――。

    この『新世界』はノン・フィクションという体裁をとったフィクションである。
    どこまでが事実で、現実で、どこまでが虚構で、想像なのか。その境目を曖昧にすることで、かつてこの国に起こった悲劇と、また同じ悲劇がいずれ起こりかねない、ここはそういう世界だという容赦ない現実が浮かびあがってくる。
    異色のミステリ。

    KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
    https://kadobun.jp/reviews/375/33cca1f4

  • 有栖川有栖のあとがきが面白い

  • これは小説というものの完成形のひとつだと思う。政治的、思想的な側面に囚われる人もいると思うけど、ペンは剣より、を地で行き、示すものとして評価されるとよいのでは。

  • 2021.03.10.読了
    柳広司おそるべし。
     
    狂気の科学者。科学者の狂気。

    しかし狂っているのは何も科学者だけではないということ。人類=われわれ人間が狂っているのだ
    過剰な便利さ、豊かさ、そして溢れる娯楽。
    果たしてそれは本当に必要なのか?我々は驕ってはいないか?
    この新世界を読んで感じるように人間は自分たちで自分たちのクビを絞めている状態にある。
    原爆しかり。アフリカの飢餓に対して存在する食品ロス、プラスチックごみ、二酸化炭素排出。尻拭いさえ出来ない原発を何基も作り、国々はより破壊力のある原爆を競って開発し、領土を欲して終わることのない戦争を繰り返す。
    しかしながら、偉大な自然の力を前にいつも人間は無力だ!地震、熱波、隕石、ウィルスなどなど。
    人間は原点に帰るべき。資源は有限であり、無限の欲望は無意味だ!宇宙旅行なんかもってのほか!
    かく言う私も、パソコンを使い、スマホに頼り、スーパーマーケットやデパ地下で豊富な食品を買い込み、電気製品を水を当たり前のように使っている。でもそれではいけない!絶対にいけないと思う!何かを変えたい。
    例えばビール瓶や牛乳瓶を再利用していた昔。そんなに不便を感じていただろうか?夕方行ったスーパーで人参が売り切れていたらそれは耐えられないことなのか?コンビニが少なかったら誰かが死んじゃう?
    一人ひとりが自分の生活を見直すことで地域に広がり、国を変え、世界を動かすことができるのではないか?

    そんな事をつくづくと考えさせられた素晴らしい作品でした。原爆被害場面ではとても生々しく正視にたえない表現もあります。でも、こういう作品はたくさんの人に読んでもらいたい。このままではいけないとみんなが考えるキッカケになってほしいと切に願います

  • 何度も読み返すお気に入りの1冊。
    これは決して過去の話ではない。まだ終わっていない。きっと人類がこの世に存在する限り、終わらないテーマなのだと、読む度に考えさせられる。

  • 有栖川有栖さんが解説でも述べていたように、この方の小説の題材は特殊なことが多いですが、内容の情報の正確さがすごい。
    今回の『新世界 』だと原子力爆弾についてですね。私が他に読んだことのある作品だと、チェスについてかなり専門性の高い内容の長編があったはずです。
    ミステリ要素はおまけ程度です。この小説で重きを置かれているのはミステリではない。

  • 謎解きものというよりサスペンスものとして読んだ。

    誰が狂っているのか、狂っていないのか。そもそも何を狂気とするのか。そして現代に生きる人間である我々読み手は「少女」に何を見るのか。
    あくまで面白さ抜群のエンターテイメントだが、読んでいる間喉元に氷の刃を突き付けられているような考え方を拭えないのは自分が被爆国の人間だからだろうか。

全100件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1967年生まれ。2001年、『黄金の灰』でデビュー。同年、『贋作「坊っちゃん」殺人事件』で第12回朝日新人文学賞受賞。『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞。他著に「ジョーカー・ゲーム」シリーズの『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』や、『新世界』『トーキョー・プリズン』など。

「2021年 『ゴーストタウン 冥界のホームズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柳広司の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
湊 かなえ
伊坂 幸太郎
和田 竜
宮部みゆき
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印

新世界 (角川文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×