トーキョー・プリズン (角川文庫 や 39-2)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043829026

作品紹介・あらすじ

戦時中に消息を絶った知人の情報を得るため巣鴨プリズンを訪れた私立探偵のフェアフィールドは、調査の交換条件として、囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。捕虜虐殺の容疑で拘留されている貴島は、恐ろしいほど頭脳明晰な男だが、戦争中の記憶は完全に消失していた。フェアフィールドは貴島の相棒役を務めながら、プリズン内で発生した不可解な服毒死事件の謎を追ってゆく。戦争の暗部を抉る傑作長編ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 事件の真相やトリックよりも、第二次世界大戦がもたらしたものの描写の重さが苦くて悲しくて印象に残ったミステリー小説でした。

    第二次世界大戦直後の荒廃した日本。
    戦時中に消息を経った知人の行方を探していた、私立探偵のニュージーランド人フェアフィールド。
    彼はその知人の足跡を探る交換条件として、戦勝国アメリカが管理する巣鴨プリズンにおいて、戦犯として囚われながらも戦時中の記憶を失って裁判にかけることができなかった木嶋悟の記憶を取り戻す任務に就く羽目になる。
    折しも、プリズン内で不可解な殺人事件が発生しており、囚われの身でありながら頭脳明晰な木嶋がこぼした言葉が管理者たちを戸惑わせていた。
    部外者のフェアフィールドは、失敗したらすぐに切り捨てられるテイのいい生贄として、厄介な木嶋を押しつけられたのだった。
    けれど、出会ってすぐ、木嶋に強い興味を抱くようになるフェアフィールド。

    彼は、木嶋の親友だったという頭木逸男と、逸男の妹で木嶋の婚約者だったという杏子とともに、木嶋の過去と、そして、プリズン内の事件の真相を探ろうとするのだけど、結果目にしたものは…。

    外国人には決して理解できない天皇制と戦争責任の所在のわからない軍部のねじれ、
    従軍した男たちの地獄のような体験、
    虜囚になることを認めない自死の美化、
    空襲や原爆などが民間にもたらした被害、
    木嶋のような人間味のあった男ゆえの不幸、
    戦後の荒廃と貧困問題…。

    柳さんらしく、展開が早いし文章も読みやすいので、一気に読めてしまうのだけど、ずっとつらかったです。

    そして、あの救いのないラスト…。
    それがかえってリアリティとして、重く胸にのしかかります。

    もう一度読みたいかと問われたら、つらくて決して頷けないのだけど、でも、美化のかけらもない戦争の残酷さなどを少しでも心に留めるためには、読む価値もあるし、読むべき作品だと思いました。

  • 戦後すぐの巣鴨拘置所内での不審死事件、記憶喪失の戦犯被告人の過去を調べる中で、戦争がもたらすものの恐ろしさを知る。
    自分で考えないことの罪、キョウコの言葉が印象的だった。今の時代でも、考えずに物事の断片だけで判断したり、考えずに人の言うことに便乗したり、同じ過ちを繰り返さないと信じ切れないのが怖い。そういう私もバケツリレーを鼻で笑うのかもしれない。
    キジマの過去が白でも黒でも、戦争が絡んでいたら救いはないんじゃないかと覚悟しながら読み進めて、真実は私には納得できるものだった。

  • 面白かった
    東京裁判で裁かれる者たちが拘留されている巣鴨プリズンを舞台にした物語。

    主人公はそこに拘留されているキジマ。
    キジマは戦時中に捕虜を虐待した容疑で拘留されていますが、その戦時中5年間の記憶がありません。
    キジマの虐待行為に対する様々な証言
    キジマは本当に捕虜を虐待していたのか?

    また、頭脳明晰で何度も脱獄を繰り返す変わりモノ。
    そして、プリズン内で発生した服毒死事件の謎を追っていく事になります。

    その相棒となるのが知人の情報を得るためにニュージーランドから来日した私立探偵のフェアフィールド。

    プリズン内の人間関係、事件の真相、さらにはキジマの5年間の捕虜虐待の真相と、様々な謎が絡み合って明らかになっていきます。

    さらに、筆者自身の戦争観も随所に見られます。
    とりわけ、戦犯の問題や、日米文化の相違、そして天皇責任論にまで踏み込んでいます。
    マツウラのセリフ
    「ねえ、あなた。いったい女や子供の頭のうえに無差別に大量の爆弾を落とすというのは”人道に対する罪”には当たらないものなんですかね?」

    東京裁判の意味が問われています。

    ということで、戦争そのものの悲惨さ、戦争責任、東京裁判、そして、ミステリーと満載な物語でした。

    お勧め

  • ジョーカーゲームで柳さんの世界観にどっぷりとハマり、こちらも読んでみることに。
    読んでいても暗い雰囲気が映画のように頭の中に流れ込んできました。
    だからといって、戦争小説のように重すぎるわけではなくバランスがいい作品に感じました。
    そして、フィクションながらも実在した人物や巣鴨プリズンなど実在した場所も作品のに登場し、少しリアリティも感じながら読み進めたり…となかなか面白かったです。
    また、敗戦国の庶民にもスポットを当てており、戦後の苦しい日本の生活などが少し垣間見れた気がしました。
    バラバラであったピースが集約していくのが爽快。
    ただ最後のオウムのトリック…無理ない…?と感じてしまったところもあったりしたのが残念だった。

  • 柳広司『トーキョー・プリズン』角川文庫。

    巣鴨プリズンを舞台にしたミステリー。

    探偵役を演じる記憶を失った捕虜のキジマの不思議な魅力と奇抜な設定。柳広司らしい作品だと思う。

    反面、策に溺れた感のあるスッキリしない結末は如何がなものか。

  • ※悲しいほどにネタバレしてますので、これから読まれる方はご注意下さい〜( ^ω^ )一応、肝心の部分は伏せますが、触れずにはいられなかったのです…


    刑務所内で発生した変死事件。何物の出入りも禁じられた鉄壁の監視網をくぐり抜けて、毒はどうやって内部に持ち込まれたのか?
    その解決に当たるのは、捕虜虐殺の疑いが持たれている死刑囚?!しかも彼は戦時中の記憶を全て失っており、ワトソン役に命じられたのは、本職の私立探偵だった!


    …ハイハイ、俺得俺得(笑)。
    こういう不可解性高くて日常の枠を超越した設定が、本当に、大好きでーす!(笑)
    独房の中に収容された頭脳明晰な探偵兼死刑囚が、外国人私立「探偵」を「助手」にして事件解決に挑むという、安楽椅子探偵ならぬ独房探偵です(笑)。いやー、これは斬新。羊達の沈黙でもレクター博士はクラリスに解決の糸口を示唆することはありますが、積極的に事件解決に乗り出すわけじゃなかったからなあ。


    失った記憶の謎、閉鎖空間に持ち込まれた毒物の謎、双方を追いながらやがて事態は意外過ぎる結末へと向かいます。この終着点は正直、予想だにしませんでした。意外な結末もの、に類されるかもしれません。まさか探偵が××になるとは…。しかも黒幕は××…。次々と畳み掛けられる衝撃の展開と事実に、ただただ着いていくのがやっとでした。
    正直、トリックの部分に関しては物足りなさも残りますが、この舞台設定と息詰まる展開・更に衝撃的なラストのインパクトを考えれば無問題です(笑)。

    戦時中の証言が、解釈の仕方によっては全く異なる様相を呈する、という前半部分の会話に戦慄。実際にこういう齟齬が戦争裁判では生じたりするかも…と思うと空恐ろしいですね…。
    誰に戦争責任の所在を見出せるか?という話の件も興味深かったんですが、読んでから大分間を置いてしまったので詳細は覚えてません←←←

  • 戦争の暗部を抉るミステリーの傑作。スガモプリズンでのBC級戦犯をめぐる推理が主軸でそのプロットも勿論面白いが、キョウコの語る一般市民の戦争責任が胸に響く。大本営発表を最たるものとしての報道のウソを知りつつ、イヤなことを見て見ぬふりをしたかった日本国民一人一人の責任を問うところが一番印象的だった。

  • GHQが接収した東京拘置所(当時)内で、収監された戦犯と別件調査でニュージーランドから来日した探偵を組み合わせた、異色探偵小説。米軍を中心とした占領軍と、東京裁判を迅速に結審させようとする思惑の中で、キーマンとなるキジマが安楽椅子探偵のような役回り。最後は、キジマの帝国軍人のメンタリティというステレオタイプな結末でなかったことは良かったが……決してハッピーエンドではないのは、著者の真骨頂かも知れない。



  • 舞台は巣鴨プリズン。戦犯達を裁くための拘置所。
    現在池袋サンシャインの旧跡だ。
    戦時中に消息を絶った知人の情報を得るため巣鴨プリズンを訪れた私立探偵。
    調査交換条件に、囚人貴島の記憶を取り戻す任務を命じられる。
    貴島なる囚人は恐ろしく頭脳明晰だが、戦争中の記憶が失われており...
    拘置所内で立て続く服毒殺人事件の果てに...

    一冊のミステリとして面白いことは間違いないが、戦争における正義、責任、国による文化的差異、教育の脅威、その示唆は実に富む。
    本書の一節に、戦時中の日本における当時の国民性が実に端的に表されている。
    女:「誰?誰が私の子供を殺したの!」
    亡者達が女の周りに集まり、犯人探しが始まった。
    「豚を選んだのはこいつだ」亡者達が一人の男を指差した。
    「俺は選んだだけだ。こいつが豚に紐を結んだんだ」別の男を指差した。
    「俺は紐を結んだだけだ。こいつが紐を引っ張ってきた」別の男を指差した。
    「俺は引っ張ってきただけだ。こいつが豚を押さえていた」別の男を指差した。
    「俺は尻を押さえただけだ。こいつが豚の頭を押さえていた」別の男を指差した。
    「俺は頭を押さえただけだ。こいつが豚の喉を切った」別の男を指差した。
    「いいや、俺は豚の喉を切らなかった」最後に指さされた若い兵士が首を振った。
    「のどを切ったのは、この斧だ」
    -そうだ、この斧が豚を殺したんだ!
    正に御真影を仰ぐ天皇制が、敗戦直後の日本が、実によく表したものだ。

  • 結末はかなり面白かった!でも、そこに行き着くまでがなんとも言えないグダグダ感。。
    なんだかどっと疲れた(ー ー;)

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著者プロフィール

一九六七年生まれ。二〇〇一年『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で第十二回朝日新人文学賞受賞。〇八年に刊行した『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。他の著書に『象は忘れない』『風神雷神』『二度読んだ本を三度読む』『太平洋食堂』『アンブレイカブル』などがある。

「2022年 『はじまりの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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