ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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レビュー : 797
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043829064

作品紹介・あらすじ

結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校"D機関"。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する"D機関"の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく…。吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイ・ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 5編からなる連作短編スパイ小説。冷徹無比を心がけながらも苦悩や孤独を滲ませる登場人物たちの悲哀すら感じさせる姿の描き方の巧みさと、窮地に陥ったときのスリルに満ちた展開の速さの融合の見事さに心奪われて一気読み。

    第二次世界大戦の開戦が確実に近づいていた昭和12年秋。
    大日本帝国の陸軍内に結城中佐の発案で極秘裏に設立されたスパイ養成学校、通称「D機関」。
    海外にて凄腕のスパイとして長年活躍しながらも窮地に陥った際の壮絶な経験から身体的な欠損を得ることとなり後進の育成に乗り出したとされる、「魔王」の異名を持つ結城中佐の信条は「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。諜報活動の最大の意義は気づかれないこと。だからこそ、いざという時には、事前に掴んでいた情報を利用して相手より優位に立てる。スパイは、存在を疑われた時点で負けであり、人の耳目を集める死など論外なのである。
    それは、天皇を盲目的に現人神と崇め、少しでも多くの敵を殺し、敵に捕らわれる危機あれば自決こそ最大の美徳とする従来の軍の価値観を真っ向から否定するものだった。
    軍内にありながら軍と対立を深めるD機関にて結城による厳しい訓練を受け終えた精鋭の若者たちは、結城が重んじる「誰にも知られるべきではない影ながらの行動」の最中、窮地に陥るけれど…。

    5編の物語の主人公はそれぞれに違う。
    結城が否定する従来の価値観を美徳とする軍からD機関に人身御供的な人事異動で出向してして、結城の教育と実践の下で、それまで信じていた価値や視点を揺らがせることになる軍人青年。彼が敵国スパイと思われる男の屋敷に踏み込んだ時…。【ジョーカー・ゲーム】
    結城の元で徹底した教育を受けた後、疑わしい男に対する潜入捜査を冷徹に遂行しながらも、スムーズにいかない過程に苛立ち、考える若者。【幽霊(ゴースト)】
    派遣された英国にて、「他者の目も当てられない失敗のあおり」を受けて敵に捕らわれて生命の危機に直面した青年の間一髪の脱出劇。【ロビンソン】
    混沌とした上海にて、D機関の人物と思しき人間のもとで泳がされて破滅した対立構造にある陸軍所属の憲兵達の姿。【魔都】
    家族の愛を知らないゆえに情に流されることなく誰より冷徹に諜報活動に専念行動できるはずだったのに、卒業試験であるはずのある事件を担当した時に過去の記憶に引きずられて綻びをみせてしまった青年。【XX-ダブルクロス】

    スピーディーな展開の中で窮地に陥る様々な属性の主人公の姿。その過程で描かれる孤独の様相、人によって異なる、割り切って進む姿、割り切れずに重大な選択をする姿。
    そこに大なり小なり関わる、裏で糸引く「魔王」結城中佐の圧倒的な存在感。

    本当に一気読みしてしまいました。
    そして、単に展開の速さが面白かったというだけでなく、誰に対しても自らを偽り続けることを課すことによる逃れられない孤独、空虚さや悲哀がたしかに胸を打つ巧みさ。

    恐るべき偉大な魔王様・結城中佐の過去は本作では明かされなかったのだけど、続編があるようなので、続編への期待大な作品でもあります。

  • アニメがあまりにスタイリッシュだったので、耐えられなくなって原作も。
    やっぱり、アニメ化されたり映画化されたりしたものは、アニメ(映画)→原作の順だと、そこまで失望もしないので安心して読めますね。逆だと、がっかりすることも多いので。

    アニメでは説明しきれなかった箇所を丁寧に読めたのが、一番の収穫だったかもしれません。全体的に抑えたトーンが流れる文章で、普段は読まない時代の、普段はおつきあいのない方々が主人公の話だったのですが、そんなことを微塵も感じさせない文章で、すごくすごく楽しかったです。
    読みやすい文章=平易な文章、という図式は必ずしもあてはまらないと思うのですが、柳氏の文章は、読みやすい文章=リードされていることを気付かせない巧妙な文章であって、なんといえばいいのか、人間的にとてもできた大人に包まれて移動させられているような。そんな絶対的な安心感を覚えました。

    しかし、スパイは本当に本当に孤独な職業ですね。ひと嫌いとはまた違うレベルでの、断絶と隔離を自ら選び続けるのは、精神性がかなり訓練されていないとダメなんだろうなと思いました。
    「幽霊」でのラストは、なんだかやるせなくなる感じ。年単位で利用できる可能性をじっと脳に温め続けるのって、冷酷という言葉では片付けられない、なにかとても非人間的なものを覚えます。

  • ”魔王”と呼ばれる結城中佐の発案で、陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校”D機関”。
    D機関に入った後は各人に偽名、さらには偽の経歴が与えられる。任務に入ればまた別の名前と経歴が。彼らは見事にその仮面を被り次々と任務を成功させていく。

    彼らのスマートさに憧れつつ実は優しい心も持っているのではと考えるが、今のところは手に負えぬほどの自尊心を持つ化け物ばかり(笑)人間らしさは命取り。誰よりも厳しく誰よりも優しい結城中佐の最後の言葉が胸に響く。

  • かなりおもしろかった。理知的で、なるほどなぁと思うことも多かった。暗号には一定のタイプミスを入れるとか、スリーパーの話とか。

    結城中佐のキャラも強烈だが、それと同じ位、なんでもこなす訓練生たちもスマートでかっこいい。やっぱりスパイものって、好奇心を刺激してくれる楽しいものなんだなと感じた。

  • 戦前戦中の日本を舞台とした、スパイミステリ。大学時代の学部の同級生が絶賛していたが、自分で買ったのは亀梨和也主演で実写化されたタイミング。アニメ版は未視聴。

    このシリーズの醍醐味は、紛れ込んでいるD機関のスパイは誰なのか?そして、その目的は?

    その二つの問を追いかけながら読むと、スピーディな展開に巻き込まれ、すっかり作品の雰囲気に呑まれる。スパイという生き方の苦悩まで、エンタメとして描かれているのは良い。

    D機関はおそらくフィクションだろうが、巻末の佐藤優氏の解説によると、類似の機関の存在はあり得たらしい。国家戦略上の必要悪、諜報機関。

    この作品をフィクションだと思っていると、お人好しは足元をすくわれるかもしれない。

  • 17年5月に読了した『秘録・陸軍中野学校』のレビューで知った本。そのためD機関が軍内部で理解されない存在であること、卒業生は孤独の中で敵地での活動を余儀なくされること等をすんなり理解できる。「ロビンソン」は、その敵地で捉えられた伊沢が脱走するまでの短編として、非常にスリリングに描かれていて面白い。D機関の敵地潜入を象徴する物語は「魔都」だろう。潜入者が主役にならず、上海憲兵隊分隊長の腐敗を暴く後ろ盾として登場する。前編でミステリーとしても通用する展開が小気味好い。

  • D機関という陸軍のスパイ養成所を舞台に、主人公の結城中佐と周囲の関係者の視点から描いた連作短編。

    ちょっと荒唐無稽な感じもするが、娯楽と割り切れば本当に面白くて知的なエンターテインメントにあふれた作品だと思う。

    スパイ同士の人間関係の希薄さや孤独感などは時代設定が戦時下であるのに現代にも通じているようで考えさせられる。

  • 結城中佐が D機関を創設。
    スパイとは何かの原理原則を明確にする。
    陸軍の中では、『スパイとは姑息な手段であり、
    日本古来の武士道に反する』という意見があった。
    『軍人でなければ人に非ず』という風潮があった。
    そのなかで 『地方人』といわれる 軍人以外の民間人を採用する。
    自らの体験も強烈で、スパイとはどうあるべきかを実践の中で教える。
    佐久間陸軍中尉は D機関に 派遣された。
    日本オタクのアメリカ人ゴードンは、スパイの容疑がかかった。
    『スパイは疑われた時点で終わりだ。疑われているスパイに一体何の意味がある』
    と結城は言う。
    ゴードンのスパイの証拠を探すために、憲兵として家宅捜査をする。
    その証拠は、あるところに 隠されていた。

    スパイとして摘発された時には 自決することは、最悪の選択だ
    と、結城中佐は言う。
    『武士道とは死ぬことと見つけたり。名を惜しめ。
    みごとに花と散ることこそ、武人の誉れ。』ということが
    軍には 徹底して叩き込まれていた。
    軍人とスパイの違いを明確にする中で、スパイの身の処し方を明らかにする。
    『国家への忠誠心』それは 虚構だとさえ言い切る。
    スパイ(諜報員)のイメージを大きく替える。それは当たり前のことだと思う。
    本来のあり方としての スパイを 明確化する中で 物語はすすめられていくので、
    じつに 興味が深い。このようなスパイたちが 実際 いたなら 
    日本はもう少し変わっていたかもしれない。

    ロビンソンが 実におもしろかった。
    結城は、『ロビンソンクルーソー』の本を渡すだけで、仕事をさせる。
    その 読みの深さが すばらしい。
    これは、よっぽど アタマを使わないと切り抜けられないね。
    結城中佐は、『死ぬことなど誰でもできる』という。

    スパイ蒲生は チェスがうまい。
    それで、チェス好きのグラハムにうまく取り込む。
    あたかも、グラハムが チェスに誘ったように仕掛ける。

    魔都。上海でのスパイ活動 本間。
    上海語などはそもそも存在しない という指摘が 驚き。
    北京語、寧波語、蘇州語、江北語が使われていたと言う。
    やはり、上海は 麻薬だよ。それをめぐって、欲にまみれる。

    二重スパイ。そして 捕まって、その後の対処。
    じつに きちんとした リスク管理が できている。
    想定される あらゆる 場面を 見通すことで、
    危険と失敗を避けることができる。
    このスパイストーリーは よく組み立てられて、
    コンセプトがしっかりしていて、したたかである。

  • 自分にはこのぐらいのことは出来るはずという、自負心が支えるスパイの話し。

  • 読みやすく面白かった。
    超人的なスパイたちの物語、
    まだまだ知らないこの人たちを
    もっと知ってみたいと思った。

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著者プロフィール

1967年生まれ。2001年、『黄金の灰』でデビュー。同年、『贋作「坊っちゃん」殺人事件』で第12回朝日新人文学賞受賞。『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞。他著に「ジョーカー・ゲーム」シリーズの『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』や、『新世界』『トーキョー・プリズン』など。

「2018年 『漱石先生の事件簿 猫の巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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