オリンピックの身代金(下) (角川文庫 お 56-4)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043860050

作品紹介・あらすじ

急死した兄の背中を追うようにオリンピック会場の建設現場へと身を投じた東大生・島崎は、労働者の過酷な現実を知る。そこには、日本が高度経済成長に突き進む陰でなお貧困のうちに取り残された者たちの叫びがあった。島崎は知略のすべてを傾けて犯行計画を練り、周到な準備を行う。そしてオリンピック開会式当日、厳重な警備態勢が敷かれた国立競技場で運命の時を迎える!吉川英治文学賞を受賞した、著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • どっちか応援したくなりました。格差って今もあると思います。

  • 日付が段々とオリンピック開催に近づいてきて、警察も動きが鋭くなります。しかしちょっとの差で主人公を取り逃がすこととなり当日を迎えます。後半は怒涛の如く動きます。
    ただ、本来なら警察を応援しないといけないのですが、主人公を応援してしまいました。
    上下巻通すと上手く日付を使っているなぁと感心しました。
    色々と考えさせられる作品である。


    要求金額は八千万円。人質は東京オリンピックだ――五輪開催を妨害すると宣言していた連続爆破事件の犯人、東大生・島崎国男が動き出した。国家の名誉と警察の威信をかけ、島崎逮捕に死力を尽くす捜査陣。息詰まる攻防の末、開会式当日の国立競技場を舞台に、最後の闘いが始まった! 吉川英治文学賞受賞作

  • ドラマでは、オリンピック開会式当日の出来事がとてもドラマチックに描かれており、落合の悲痛な叫びが胸を打ったが、原作ではその部分は実にあっさり流されている。彼はいったいどうなったのだろう。

    1964年の東京オリンピックは、日本人の夢と希望だったのだなと思う。その裏側で想像を絶するさまざまな動きがあり、たくさんの思惑がからみ合っていたのだろう。そして、たぶん2020年の東京オリンピックに関しても、あまり状況は変わらないのではないか。
    もちろんあの当時のような劣悪な社会状況や労働環境はないだろうが(第一ヒロポンは非合法になってる)、でもきっと、形を変えた搾取や差別や格差があるんだろうと思う。
    光が強ければ影も濃くなる。
    この作品はもちろんフィクションであるが、でももしかしたら似たような事件、似たような状況があったのかもしれない、と思わされる作品である。

    たくさんの取材で成立している作品で、あんまり奥田さんぽくないなと思いながら読んでいたのだが、ラストの、作中人物の放り出し方がいつもの奥田さんらしかった。こういうそっけない感じがいつもどおりで、ラストまで来てようやく「ああ、奥田さんの作品なんだな」と思った。

  • 長かったです。さすが長編小説、こうでなくっちゃぁね。時代背景が詳しく描かれているので、とっても面白かったです。読んだ感がある作品でした。

  • ドキュメンタリーを読んでる気持ちになった。人権の格差、都合の悪い事件、事故を国レベルでなかった事にする…そんな隠蔽も、もしかしたら本当にあったのではないか?2020オリンピック開催まで後半年余り…見えないところに歪みや犠牲がないといいなと思わずにいられなくなった。

  • 「おい、おまえ東大生なんだってな。そんな頭のいい野郎が、なんでまたお上に盾突こうと思った?」「東京だけが富と繁栄を享受するなんて、断じて許されないことです。オリンピック開催を口実に東京はますます特権的になろうとしています。この国のプロレタリアートは完全に踏み台として扱われています。貧しい者は、貧しいままです。誰かが反旗を翻さないと、人民は今後ずっと権利を剥奪されたままなんです!」・・・昭和39年10月10日、東京オリンピック開会式当日の国立競技場、目的を達成せんとする東大院生の哀しい運命に心が苛まれる。

  •  立場が変われば物の見え方まで変わってしまう。この小説には東京オリンピックを通してそのようなことを考えさせられてしまった。
     本書の最後には日の丸のことを「なんていい旗だろう」と捉える女性の姿が描かれている。確かにアジア初のオリンピックが日本で開かれるというのは「日本人の誇り」かもしれない。しかし、それを下支えしていた出稼ぎ労働者(彼らには労働基準なんてあってないようなもの)には、この国旗はどのように映ったのか。作業で犠牲になった仲間や自分たちが流した血や汗なのかもしれない。
     一つの事件を様々な視点から描くこの作品は、いかに普段自分都合で動いているかを実感させられてしまう。上下巻合わせて840ページほどだが、一気読み必至である。

  • 昭和39年、東京オリンピック開催3ヶ月前から物語は始まる。
    秋田県の貧村出身の東大生が東京と地方の格差に義憤を覚え、世直しをしようと爆発事件を立て続けに引き起こし、最終的にはオリンピックの開会式での爆発事件を企てる。
    爆発事件との引き換えに八千万円を要求する。
    オリンピックを前に警察は威信をかけて犯人を追い、犯人は包囲網が狭まってくることを知りながらも何度も逮捕の危機を脱出する。
    オリンピックを開催するために作られた道路や競技場などは地方からの出稼ぎ労働者によるもので、作業中の事故死や無理な労働を強要され、それを乗り切るために手を出してしまった薬物による中毒死など、多くの人が犠牲になっている。
    作中にある、東京に差し出した地方からの生け贄という言葉が衝撃的なのはそれが的を射ているだけでなく、その状況を知らなかったことの恥ずかしさも混ざっているからだと思う。

  • 戦後の地方格差、プロレタリアートや愛国心など、思想満載の作品。物語としては、三本の視点から若干の時間軸のズレを情報差として利用し、進んでいく。島崎国男が、土方で堕ちていく様子、ヒロポンに手を出した瞬間から、緩やかに下降していく人生。その中で、スリの村田の存在は大きかったはずだ。あの関係性も好き。公安と刑事部の衝突もバチバチで、本当に楽しく読める。忠の立ち位置がよく分からなかったが、新聞からテレビへ、変遷していく中での価値観の軋轢などは如実であった。奥田さんは、こういう作品も書けるのか。勉強家だなぁと思う。

  • 上巻はページが進まなかったが、下巻はどんどん読めた。ときどき『あれ?何月何日やったっけ』と確認してましたが(^^;;
    東京の繁栄、そのバランスで地方の犠牲。もうネット社会とはいえ今でもそうやな、と思う。

  • 面白かった~!オリンピックはどうなるのか、犯人は身代金をせしめるのか、警察と犯人との息詰まる闘い、最後までドキドキしながら読んだ。懐かしい昭和の高度成長期、我々の知らぬところで、こうした事件が密かに進行してたのかも知れない。国男と村田のコンビもいい味を出してた。

  • うーんよかった!!

    純粋であるがゆえに何者をも差別しない国男。日雇い人夫の経験をすることで、東京オリンピックを底辺で支える彼らの苛酷な労働環境を憂う。
    ブルジョワと、その繁栄を支えるために搾取されるプロレタリアート。
    そういった世の中の構造自体に怒りを覚え、国家に対して反逆する方向へ突き進んでいく。

    国男のしていることはその行為だけでみれば犯罪だが、その行動を引き起こした動機が痛いほどわかるから、つい応援してしまう!


    頭がよく、純粋で、どんな立場の人をも見下さないからこそ、繁栄の影にあるものがはっきり見える。
    切り捨てられていい人間などいないのだと。

    奴隷を解放するよう革命を起こすのは、奴隷の中からでたリーダーではない。
    その一つ上の階級のものこそが革命を起こすことができ、起こさなければならない。そういった使命感を国男が抱いた気持ちはすごく理解できる。

    解説で、東京オリンピックは無事開催されたのだから、国男の計画が失敗に終わることはわかっている、とあった。
    そうか、なるほどとは思ったけれどがっかり。
    オリンピック開催を阻止する位のことをしてほしかった!
    国男の動機も知らずにがむしゃらに逮捕しようとする警察が本当憎い!!笑

    あのあと国男はどうなったんだろう。
    そんなこと考えるのはナンセンス?

    革命が起こらなかったから、現在のような社会があるのか。
    国民全体がオリンピックという目標に向けて一つになっていたという、60年代に引き込まれた。
    現代は、この小説の国男の失敗よりも、ずっと切ない。

  • 2009年 吉川英治文学賞受賞作
    2013年 テレビ朝日開局55周年記念ドラマ化

    下巻の中で印象的な言葉がある。
    「オリンピック関係の工事でどれほどの人夫が命を落としたか知っていますか‥ 東海道新幹線だけで二百人、 高速道路で五十人、地下鉄工事で十人、モノレールで五人、ビルや その他 合わせると最終的に三百人を軽く超えると思います」
    オリンピックの工事では、あちこちの工事現場で死者が出ているということ。その事実はまるで何事も無かったように消えていったということ。私たちはそのことを頭に刻み込んでおこう。それが読者としての仕事だと思う。

    爆弾犯、島崎国男のやろうとしたことを憎むことはできない。でも、昭和39年10月10日の開会式の空の青さを私は知っている。実際に幼い目でしっかりと見ていた。開会式の空は本当に美しい青空だった。青空に放った色とりどりの風船、 無数の鳩、 そしてブルーインパルスが描いた5つの輪‥、これはオリンピック工事のために過酷な労働の果て命を失った労働者たちの魂の姿だったのだと解釈した。

    容疑者、島崎国男を助ける同郷の出稼ぎ人夫やスリ師の村田留吉の喋る秋田弁が、重くなりがちなテーマに温もりを添えている。

    最後に善良な一市民の古本屋の小林良子を登場させたことで、爆弾犯島崎国男の末路の切なさとの対比が際立った。

  • ラスト、もう少し読みたかったので星4つ。だけど、なかなか面白かった。そして、切なかった。

  • 2020年の東京オリンピックへ向けての突貫工事で、若い技術者の過労死が報道される中、読了。
    ファンタジーになってもいいから最後は成功させて欲しかった。

  • オリンピックを人質に身代金を要求する爆破魔、草加次郎こと、島崎国男。秋田の小農家の次男で容姿淡麗な東京大学院生。誰から見ても将来が明るい彼がなぜこんな事件を起こしたのか。

    国男の父親違いの15歳上の兄、初男。若い頃から出稼ぎに出ていて、顔もよく覚えていない兄の急死をきっかけに国男の生活は一変する。
    高度急成長期の東京で、末端の労働者達と生活をともにしていく中で、何かが国男の中で蠢いていく。悲しみ、怒り、憤り、諦めー多くは語られないが、ひしひしと伝わってくるやり場のない感情が事件へと駆り立てたのか。

  • 心に残る一冊。サスペンスながら「どうやって社会は変えられるだろう」と考えさせられた。警察組織の縦割りぶりも、声だけ大きい学生運動家も、他人事とは思えなかった。本郷も上野も羽田も代々木も馴染み深いので、路地の一つ一つまでが目に浮かんだし、もうすぐ東京オリンピックだし、自分も小説の世界に生きているような感覚を抱きながら一気に読んだ。
    地理だけでなく、当時の出稼ぎの実態、世相がリアリティたっぷりに描かれていて、作者の背景調査の幅広さと深さにも感服した。

  • うーん、無念。。
    国男と村田を応援していたので、無念としか言えない。
    国男のやっていることは悪いことだけど、国男の周りで起こった出来事や経験したこと、格差社会を考えると、どうしても応援したくなったし、やり遂げて欲しいと思ってしまった。

  • 進む物語。目が離せない展開で下巻は一気に読み切ってしまいました。

  • 上巻ほど盛り上がらなかった印象。経験に基づく思想に目覚める過程を描いた上巻に対し、下巻は実行フェーズ。何故か上手く警察の手をかいくぐり、オリンピック開会式本番、すんでの所までいったが最後はあっけなく撃たれて終了。意外にもあっけない結末だった。

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著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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