鼻 (角川ホラー文庫)

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  • 角川書店
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レビュー : 108
  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043873012

作品紹介・あらすじ

人間たちは、テングとブタに二分されている。鼻を持つテングはブタに迫害され、殺され続けている。外科医の「私」は、テングたちを救うべく、違法とされるブタへの転換手術を決意する。一方、自己臭症に悩む刑事の「俺」は、二人の少女の行方不明事件を捜査している。そのさなか、因縁の男と再会することになるが…。日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「鼻」他二編を収録。大型新人の才気が迸る傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 日本ホラー小説大賞短編賞受賞作を含む三作。

    ・暴落
    一人一人に「株価」が設定された世界。
    その株価によって社会はきっちり層になっており、エリートとそうでない者との扱いは顕著に違う。
    どこの会社にいるとかどの大学を出たとかで株価が決まってくるんだけど、本人の善行が忽ちニュースとなって流れて株価が上がったりするんで街中では必死で弱者を助けようとする者がいる。
    また、個人の株を買うことでその人と交友関係があるとみなされる。株価の低い人と付き合っていると自身の株価も下がる。交友を断つには株を売却すればよく、家族でも株を手バスことによって縁が切れる。
    主人公はエリート層にいる男性。株価の低かった恋人を振って、社長令嬢との縁談が決まっているが、最近何故か自分の株価が落ちていることが気になる。
    これはニートの兄のせいだと思い、実家を訪ねるが、兄は違法薬物に手を出していてどうしようもなく、ついに兄の株を売却して縁を切ってしまう。
    しかしその兄が事件を起こして掴まり、薬物を使っていたことと、主人公が直前に兄の株を売却していたことが明るみに出てしまう。主人公は警察に捕まり、インサイダー取引だと言われて、そこから彼の転落が始まる。
    善行のために喧嘩が起こる、ディストピア。
    その設定がとても面白かった。

    ・受難
    気が付くと何故か建物の裏側で手錠に繋がれていた主人公の男。身動きが取れない。
    街中のはずなのに誰も通りかからず、衰弱していく彼の前に、一人の女が現れる。助かったと思ったが、女は水等を運んでくるだけで開放してくれない。
    少年や老人も現れるが、みんなまともじゃない。
    そのうち、女は主人公を即身仏のようなものにしようとしているのが分かってくる。
    理不尽系の話ですね。まさに受難。

    ・鼻
    人間たちが「テング」と「ブタ」に別れており、身分が低いとされるテングが迫害されている。
    外科医をしている語り手の男は、テングたちが住まう貧しい区域で、亡くした妻に似たテングを見かける。
    テングからブタになるための整形手術は違法だが、語り手の医師は彼女たちと交流したことでそのタブーを破る決意をし、ひそかにテングの鼻を削いでブタにすることを繰り返す。
    一方、もう一人の語り手は、自己臭に悩む刑事の男。彼は少女の行方不明事件を追っていた。
    調べを進めていくうちに、マスクをした怪しい男に行きつく。その男は子供の頃ある事件巻き込まれて傷つき、以来部屋に籠っているという。
    医師と刑事、二人の始点から語られる話は一見重ならないが、しかし実は同一の事件。
    語り手の一人である医師は実は自分のことを医師だと思い込んでいるだけ。テングやブタなどと言った区分けは存在しておらず、当然迫害の事実もない。医師だと思われた男は幼少の頃事件に巻き込まれて鼻を削ぎ落されてしまった。それが原因で心を病み、変な妄想に取り付かれている。
    つまり、彼は善意で手術していたのではない。行方不明の少女は彼の手に掛かっていた。
    最後、医師(と思い込んでいる男)と刑事がついに対面する。
    刑事は妄想男に捕まり、手術台へと連れていかれる。そこで最後の独白。
    刑事は実は、昔自分の傍で鼻をひくひくさせた子供に斬りかかり、鼻を削ぎ落していた。

    語り手が変わるけど、最初は二つの話の間につながりは全く見えなくて、それが繋がるとあっと驚く。
    それから、医師と関わった母子を除き、医師に近づく人や、刑事が聞き込みする人たちがみんな嫌な感じのするキャラで、医師だけが聖人かと思われるのに、それが崩れるラストシーンがすごい。

  • 著者の『あげくの果て』が面白かったので連続で読んでみた。こちらも非常にブラックで面白い3本。星新一さんのようであり、筒井康隆さんのようであり、式貴士さんのようであり、そしてやはり藤子F先生的な要素もある。要するに私の好みド直球だということ。

    ■暴落
    家柄や学歴、財産、品性などの個人の価値が「株価」として公開され、就職や結婚などにその値段が大きく影響する……という社会を描いた作品。主人公は中流以下の家庭に育ったが、奨学金で大学まで出た上に一流企業に就職し、エリートとしての株価を手に入れていた。しかし、ある時急にその価値が少しずつ目減りしていることに気づく。調べてみると、実家の兄の音楽仲間が覚せい剤で逮捕されたことを知る。実家を訪れて兄の部屋にも覚せい剤を発見したため、株を完全に売り払って縁を切る。その直後に兄が銀行強盗事件を起こし、縁を切っていたことにほっとしたのも束の間、あまりに良いタイミングで絶縁したことから、インサイダー取引を疑われる。そこが転落の人生の始まりだった。

    現実世界でもよく「スペック」などという言い方をするが、それが目に見える形となり、公然とそれによって差別すら行われている。「法によって統治できなかった社会が、市場によって統治された」と表現されていたが、この設定がまず面白い。が、それだけではない。
    また、インサイダー取引や風説の流布など、実際に株式市場でも起こり得る犯罪を疑われたせいで追いつめられる主人公の転落人生が、身の丈以下に落ちるところで終わらないのもすごい。その部分が最大の謎になっている。「イン・タム」とは何なのか、という思わず吹き出す真相の後でやってくる、ダークすぎるオチ。しかし、格差社会の末路として、まったく絵空事とも思えないのがまた怖い。

    ■受難
    主人公が目を覚ますと、通りから離れた場所の扉の内側に手錠で繋がれている。声を出しても、外を歩く人に届かない。そこに3人の人間が入れ替わり立ち代わりやってくるが、三者三様の理由によって、なぜか主人公を助けてはくれない。

    ミックスナッツと水、というところで実は真相を読んでしまった。このネタは意外と結構、推理物や漫画に出てくる。この女も怖いが、ビルの上から眺めては主人公の元にやってきて、グチと説教だけして帰るオジサンも怖い。

    ■鼻
    「ブタ」と呼ばれる普通の人間が、見た目が少し違う「テング」と呼ばれる人間を差別する。主人公の医師は、かつて「テング」の妻と結婚していて、娘のために一度だけ、「テング」を「ブタ」に見せるための違法な手術をしていた。
    一方、自分の臭気に異様に敏感な刑事は、女児行方不明事件の重要参考人たる「マスク男」を探す。
    この二つの視点が交互に展開され、どちらもどこか現実でないような書き方をされるので、妙にふわふわした気持ちで読んでしまった。ラストのオチは完全に不意打ちで、本当にびっくりした。上記2編を先に読んでいたせいもあり、このパターンの叙述と思っていなかった。

  • 日本ホラー小説大賞短編賞受賞というから、期待大だったが
    後味の悪さは保証します。
    差別ありきで、徹底した管理社会という設定が嫌いってことだな(^◇^;)

    個人的に設定が嫌いってだけで、文章は読みやすいし
    アイデアも面白いと思います。
    だって、うあぁ~(´Д`|||) って思いながらサクサク読めました。
    こういの好きな人にはたまらないかもぉ~

  •  収録作品は3編。

    「暴落」はあらゆる人間の価値を株価で示すようになった世界が舞台。例えばいい会社に入ればその人の株価が上がり、逆に犯罪などを起こせば、株価が下落、さらには上場廃止となります。そして上場廃止された人間に待つ運命とは…

     なんともシニカルでブラックな展開となっています。社会的評価のない人間が地の底から這いあがることの難しさや、一度セーフティーネットからはみ出してしまうと、とことん落ちてしまう日本の現状を皮肉的にとらえた一編だとも思います。そういうわけで主人公の転落ぷりはなかなか笑えないところでもあったり…

    「受難」は目が覚めると手錠で腕をパイプでつながれていた男が主人公。
    こちらは不条理ものの作品。まったく理屈が通らない人間たちの理解不能さが不気味な短編でした。少し平山夢明さんの作品の雰囲気と似ているかも。

     そして表題作の「鼻」。人間がテングとブタという二つの種類に区別された世界。テングたちはブタに差別を受ける中、テングを救うため違法な転換手術を行おうとする医師と、連続幼女失踪事件を追う刑事の物語が交差する短編です。

     独特の世界観がしっかりと作品の中に落とし込まれていて、二つの話がつながる瞬間の驚きはかなりのものです! 真実と虚構、現実と幻想が読んでいる間ずっと自分の中でぐるぐるしているようで、読み終えるころにはそれが解決されるものなのかな、と思いきや、話を合理的に締められるのに、一方で読み終えた後も真実と虚構、現実と幻想が一緒くたとなった不思議な読み心地がずっと残ります。

     いずれもヒトクセのある個性的な作品ばかりで、楽しく読めました。

    第14回日本ホラー小説大賞短編賞「鼻」

  • ちょっと奇妙でブラック味な3話が収録された短編集。
    この作者の本を読んだのは初めてですが、裏表紙の折り返しの所によくある作品名の欄にこれだけなのを見て最近出た作家さんなんだ~と思いました。
    そして、解説を読んでこの本は2冊目だと知り、それにしてはよく出来てるな~と思いました。
    何となく乙一さんをほうふつとさせるような作風ですが、乙一さんほどは残酷でなく、登場人物の言動もリアルに感じられました。

    「暴落」
    人間の価値がそのまま株価に反映される世界の話。
    株価を決めるのはその人間のステイタス、犯罪歴、善行度、交友関係など。
    それらはその人間の結婚や仕事など将来に大きく関わる。
    主人公の男性はエリート層に位置していたが、兄の犯した犯罪によりインサイダー取引の疑いをかけられ、一気に株価は暴落。
    その後も彼の株価は暴落の一途をたどる。
    そんな彼の行きついた先は-。

    何て面白い発想だろう・・・と思いました。
    今までありそうでなかった発想。

    「受難」
    目覚めると手錠をはめられて身動きがとれなくなっていた男性。
    そこはビルとビルの隙間で、近くでは車の走る音、工事の音が響いている。
    そんな彼を見つけてその後も差し入れなどを持ち訪れるが助けようとはしない人々。
    萌え系の少女、いじめられている少年、自殺をしようとした男性。
    「警察を呼んでくれ」という主人公の訴えはむなしく、彼らは男性に思い思いの態度をとる。

    最初読んでいて、主人公と同様に状況がつかめないためにSFなのか?
    異世界の話?などと手探りで読み進めました。
    そして、男性を見つけて助けようとしない彼らの意図が分かった時に「なるほどね・・・」と思いました。
    弱い人間、追い込まれた人間は自分よりもつらい立場にいる人間に心の救いを感じる。
    それが分かりやすくシュールに描かれていて、これもその表現力に感心しました。

    「鼻」
    物語の舞台は東京。
    世界は「テング」と呼ばれる人間と「ブタ」と呼ばれる人間の2種類に分かれている。
    テングはブタに言いように扱われ差別され迫害される。
    医師の男性はテングを救おうと彼らをブタに見せかける手術をする。
    その話と別に、臭いに神経質な刑事の話が描かれている。
    彼は2人の少女の行方不明事件を捜査している。

    この2つの話が後半に違和感なく1つに融合される。
    その様が秀逸で、物語にこめられたテーマも深い。
    考えさせられる。

    3つのストーリーはどれも作者の頭の中で構成され創作されたものだと感じるものばかりで、そこには知識だとか情報だとかは感じられない。
    何かの資料で調べて書いたという小説ではないということ。
    だからそれを物足りないと感じる人もいるかもしれない。
    でも、この発想力はすごい。
    そして、文章もまるで流れるように読ませる。
    すごく読みやすい。

    大型新人だとか、賞をとったなんてコメントを見て読むと期待して読むだけに期待外れになる事が多いけど、これは謳い文句を裏切ってない作品だと思った。

  • 「暴落」が面白かった。ネットフリックスのドラマ「ブラックミラー」に似たような話がある。

    「鼻」は結局、妄想の話!?

  • 日本ホラー小説大賞 短編賞の受賞作。
    表題作よりも、趣向に感心した「暴落」と何故こんな目に!という
    不条理ホラーの「受難」、この二作のほうが個人的には面白かったかな。

  • 3編とも不条理と絶望にストンと落とされる感覚がスリル満点。表題作が一度読んだだけじゃ分かりづらいけど、分かった時は狂気と狂気の渦の中で呆然。
    こんなに自分は他人の不幸を楽しんでしまう人間だったのか。そんな後ろめたさも飛び抜けた発想の遥か彼方に遠ざかる。
    著者の独特な切り口のホラーをまだまだ読みたくなる。

  • 『暴落』と『受難』は楽しめたが、日本ホラー小説大賞短編受賞作の『鼻』はよくわからなかった。
    いずれにしろ、どれも体験したくないことばかり(笑)。
    『暴落』は個人が株式市場に上場されているという設定。株価でなくても他人の評価を気にする人というのはいるので、こんな感じだとみっともないなと思ったり。自分の価値を考えながら行動するのは窮屈そう。

  • おもしろくなかった

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著者プロフィール

1967年、静岡県生まれ。早稲田大学商学部中退。漫画喫茶の店長などを経て執筆活動を開始。2007年「鼻」で日本ホラー小説大賞短編賞、同年『沈底魚』で江戸川乱歩賞を受賞。09年「熱帯夜」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2011年『藁にもすがる獣たち』で第2回山田風太郎賞の最終候補作となる。トリックの効いた異色の作風で注目されている。

「2017年 『暗殺競売』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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