クローバー (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043885039

作品紹介・あらすじ

ワガママで女子力全開の華子と、その暴君な姉に振り回されて、人生優柔不断ぎみな理系男子の冬治。双子の大学生の前に現れたのはめげない手強い求愛者と、健気で微妙に挙動不審な才女!?でこぼこ4人が繰り広げる騒がしくも楽しい日々。ずっとこんな時を過ごしていたいけれど、やがて決断の日は訪れて…。モラトリアムと新しい旅立ちを、共感度120%に書き上げた、キュートでちょっぴり切ない青春恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『大学の購買部でパンを買おうとしていたら、目の前を、リクルートスーツ姿の女の子たちが横切った。たぶんビジョンがないからダメなんだよねー、という台詞も聞こえた。「就活の時期だなあ」』

    大学時代も後半になると、それまで主流だった恋愛の話題に代わって、友達との会話も進路の話題が増えてくると思います。えっ?あいつもう内定もらったらしいよ!彼女は大学院に進むんだって!俺、実家を継ぐことにしたよ!…と、今まで同じ時を楽しく過ごしてきた友達がそれぞれの道を選び、それぞれの道へと歩みを進めていこうとする大学時代後半。でも一方でそう簡単に道を選ぶことのできない人間もいます。XX年前の私がそうでした。進路がどんどん決まっていくみんなにただただ焦りを募らせたXX年前の私。漠然とした未来がどうしても現実のものと見えてこないその時代。『いつの間にか僕の周囲は、方向性に迷うことなく突き進んでいる人間ばかりになってしまい、未だに定まらない自分を滑稽にすら感じていた』という現実がまさか自分の身に降りかかるとは思いもよりませんでした。でも今の私はこうしてレビューを書いて、今日もここに生きています。悩んだだけの人生がその先に続いたのかなあと感じる今日の私。そんな大人になった私があの時代を振り返る時、そんな当時の私を支えてくれていた存在が逆に浮かび上がります。親に守られ、学校に守られ、そして社会に守られていたその時代。でも、そんな風に感じるのはその時代を過ぎ去ったはるか後のことです。そして、今度は立場が変わって彼らを守る側になっていく、それが人生なのだと思います。

    そんな狂おしい時代を今まさに生きている、色んなことに思い悩み、堂々巡りを繰り返して、それでも前に進んでいく主人公・冬治。この作品は島本さんがそんな時代の生き方を、いつもの島本さんとは違うタッチで描いていく物語です。

    『もう華子はかれこれ小一時間くらい電話で話している』のを見る主人公・冬治(とうじ)。『あなたは本当にいい人だったし楽しかった』と電話を切り『ああ、肩が凝った。冬治、お願い。ちょっとでいいから揉んで。代わりに明日の朝食とゴミ出しはやるから』と言う華子に『昨日まで愛想良くしてた彼女が、今日いきなり別れたいって言い出したら男も混乱するよ』と返す冬治。肩を揉んでくれる冬治に『明日って資源ゴミの日でしょう。重くて一人だと運べないから』と結局冬治に手伝わせようとする華子の『背中を蹴り飛ばした』冬治。『あんたのごはんなんか誰が作るか。一人で冷や飯でも食ってろ、この欲求不満』と言う華子。『この、顔だけは瓜二つだが内面は赤の他人よりも共感するところの少ない華子は、僕の双子の姉だ』という姉弟。そんなある日のこと。『休講でいつもより早く帰った』冬治に『あんたも支度してね。あと二時間したら出発するから』と唐突に言う華子。『何人かで飲むんだけど、男の子が一人足りないから』と、冬治を同行させようとする華子に『冗談じゃない、俺は行かないよ。おまえの男の知り合いなんてたくさんいるんだから』と抵抗する冬治。しかし『なんで私が貴重な人材を友達に提供しなくちゃいけないのよ』、さらに『冬治はそろそろ彼女をつくったほうがいいと思う』と折れない華子は『今日はそんなに派手な子たちじゃないから大丈夫。主催の子はお金持ちの上品な女子大の子。ほかの女の子たちもね』と説明します。『普通の大学のおまえが交ざるの?』と聞く冬治に『そんなの同じ女子大だって言い張ればいいじゃない』と強気の華子は『最終的に上手くいったときには、もうそんなのは関係なくなってるわよ』とあくまで強気な姿勢を崩しません。そして結局、華子に同行せざるを得なくなった冬治。そんな場に赴いた冬治は早々に『来なきゃ良かった、と思いながら、僕は店員の置いていったシャンディガフを見下ろした』という展開。『最初のうちはほかの男と社交程度に会話もしていた』冬治もやがて『乗り遅れた僕は完全に孤立していた』という状況。そして『目の前のグラスを見つめながら、これを飲み終わったら帰ろうと考えていた』冬治に『どうして女の子とほとんど話さないの』と迫る華子。『ちょっと僕にはみんな、美人すぎるよ』と弱気の冬治に『あんた、ここから戻ったら、白いワンピースの子に声をかけなさい』という華子。『分かった。話しかけてみる。言っておくけど、たぶん失敗するから、そうしたら解放してよ』という冬治は、華子に指示された女性に声をかけます。そして…という華子と冬治の双子姉弟のドタバタした大学生活が描かれていきます。

    島本さんが24歳の時に書かれたこの作品は、いつもの島本さんの小説に見られる重い空気感はほとんど影を潜めて、どちらかというと途中までは”ラブコメ”と言った雰囲気で物語がドタバタと展開していきます。そんな物語の中で幾つか面白い表現が登場します。二つご紹介します。『恋こがれているわりに、彼との約束の前にはいつも出かけるのを嫌がって、登校拒否の子供みたいにベッドに潜り込んでしまう』と恋する気持ちが見えやすく現れる華子は夕飯の支度をしている時に砂を吐かせているしじみに向かってこんなことを言います。『ただの塩水を海水だと思い込んでる君たちみたいに、私も本当の恋だと思い込んで砂を吐いてるだけなのかしら』。冒頭の強烈なキャラの一方でこんな弱気な一面も見せる華子。それを冬治が指摘すると『あんたは子供の恋しかしたことがないから、この複雑な心境が理解できないの』と怒り出す華子。双子の姉弟という設定だからこその関係が目に見えるように伝わってくる好シーンだと思いました。また、同じように、その関係だからこそのシーンとしてこんな場面もありました。『私の素顔を見て平気な人間は、あんたと、死体に化粧をするひとぐらいだと思ってたのに、あいつは平気で眉毛のない私にも恋心を抱けるのよ』と、彼のことを中傷する華子。これには今度は『本当に華子は面倒臭いよな。否定されたら怒るくせに、肯定されたら信じないし。客観性とコンプレックスがないまぜなんだよ』、と今度は冬治が強気に出るシーン。このような感じで、必ずしも一方がやられっぱなしではなく、お互いの気持ちをストレートにぶつけ合っていく二人。その一方でお互いを思い合う気持ちも持つ二人。この作品の面白さと切なさの絶妙な塩梅はこの双子の姉弟という絶妙な設定のなせる技だと思いました。

    そして、特に前半部分で“ラブコメ”という印象を強く受けるこの作品では、華子と冬治、それぞれの性格に合わせた恋愛模様が対照的に描かれていきます。『地味な容姿を化粧で飾り、爪先や髪の毛の一本一本にまで気遣っている』という華子は、自分を常に評価してくれる人を追い求め、『彼女にはいつも誰かしら恋人がいて』という状況を作り出します。その一方で『積極的に誰かを求めたり、追いかけたりできる人間じゃなかった』という冬治は、恋愛にとても慎重な姿勢を見せます。そんな二人を巻き込んで展開するこの物語は、その好対照な二人の姿をそれぞれがどう見るかという視点も織り交ぜながら描かれていきます。しかし、大学生活は恋愛だけに盛り上がる時代ではありません。大学生活も後半となると、その先の進路から目を逸らすことはできなくなります。双子であるため、同じ時期に進路を考えていく華子と冬治。この場面でも二人の対照的な進路に対する考え方、取り組み方が見えてきます。そして、特に恋愛同様に何事も思い悩み、頭の中で堂々巡りを繰り返すことの多い冬治の進路選択が鍵になる物語が後半に描かれていきます。ただ、ふとこう書いてきて、恋愛に盛り上がり、進路に悩んでって、普通の大学生なら誰でも経験することじゃないか!別に彼らだけが特別でも何でもないじゃないか、ということに気づきます。

    『この小説は、青春小説でも恋愛小説でもなく、モラトリアムとその終わりの物語、というとらえ方をするのが、自分の中では一番しっくりきます』と語る島本さん。大学という時代は、それまでの守られた人生から、自立していく他ない人生への分岐点でもあります。誰もが狂おしく思い悩み、誰もが自分なりの未来をイメージしながら、守られた人生から旅立っていく時代。解説の辻村深月さんが『人それぞれ自分の中での大事件や思い出があって、それは誰かが交換を申し出ても絶対に譲りたくないほど輝いた自分だけの一時期だ』と書かれる通り、そんな『モラトリアムとその終わり』を彩った時代は過ぎ去ってみれば誰にとってもかけがえのないものです。この物語を楽しみつつも、俺の方がもっとハチャメチャだったよ!、私の方がもっと素敵な恋愛をしたわ!という読者それぞれのそんな時代の想い出が、主人公に重なって浮かび上がってくるのを感じるこの作品。あの時悩んだよな、あの時苦しんだよなというその思い。人生はそんな時期を経ても終わることなく続いていきます。モラトリアムの終わりは人生の終わりなんかじゃない、始まりなんだ!そのことを強く感じさせる結末には、冬治、まあ肩の力を抜いて頑張れ!と思わず声をかけてあげたくなりました。

    大人への階段を上がってきた子供たちが、その先に見える世界に漠然とした不安を抱えるのは当然のことだと思います。だからこそ、その前に子供時代に別れを告げる、子供時代のフィナーレを飾る時代が愛おしく感じられるのかもしれません。そんな時代を生きる者たちへ『多少の代償はあるかもしれない、けれどこの先もきっとなんとかできる』ということを伝えたかったと語る島本さんが描く物語。いつもと異なる”ラブコメ”っぽい雰囲気の中に、いつもの島本さんらしい登場人物の心の機微を絶妙に描き出した、そんな作品でした。

  • とてもほっこりする話だった。さらっとしていて読みやすい。
    主人公は双子の大学生の冬冶と華子。同居をしていて、前半は華子、後半は冬冶の視点で話が進んでいく。
    口げんかをしながらもお互いを思いやっているのが伝わる。
    2人の恋愛観が対照的で、冬冶は慎重派だが華子は派手で色々な人と交際している。
    冬冶と幸村さんの恋愛の話がとても好き。おしゃれに無関心だが頭はとても良く地味だった幸村さんが、冬冶に出会って恋に落ち美しく変わっていく様子が良い。冬冶も不器用なりに幸村さんと真剣に向き合って恋愛している姿が良かった。
    華子と冬冶が長引くけんかをしてお互いに意地を張っていたが、最後に夕食のカレーを作るために当番を交代するという冬冶が仲直りのきっかけを作ったシーンが好き。

  • 華子はともかく冬冶の性格に興味が持てなかったけど、サクサク読めた。
    学生の頃か、就職して間もない頃に読んでいたらもっと面白く感じたかもしれない。

  • モラトリアム
    ドーナツ
    大学院
    就職

    熊野さんのキャラ良いです
    冬治の雪村さんに対する感情の揺れが、若くて、痛くて、なんだか懐かしい

  • 島本さんの作品は「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」以来気になっています。

    双子の姉弟・華子と冬治。
    言いたいことをポンポン言えて女子力のある華子。一方、幼少から華に振り回され面倒見はいいのに自分に自信のない冬治。
    そんな対照的な二人の暮らしに、華子に想いを寄せる男性や冬治の研究室の雪村さんが加わって日常が変わっていく。
    冷たくあしらわれてもめげない華の求婚者。
    端から眺めている分には、ドタバタしつつも何だかんだ家族ぐるみで仲良くて楽しそう。
    恋と進路の間で悩む冬治、華子の恋。

    展開にすごくワクワクするわけでもなく、特別甘くもドロドロもしない。悪人が出てくることもない。
    でもいつの間にか物語に引き込まれてしまう。
    現実にいそうな登場人物に感情の描写。
    何とも優しく読み心地のいい恋愛青春小説でした。

  • 人は誰と出逢うかで人生が大きく変わる。恩師、友人、恋人。人と人との小さな距離に笑ったり泣いたり怒ったり、そんな感情を素直にさらけ出せたのは、あの頃は好きな人をただ好きなだけで良かったのだと思います。だから大人になりきるのが怖くて躊躇って決められなかったのかもしれない。ずっと大好きは大好きのまま、楽しいは楽しいのままで居たかったから。あれから自分は何をどう間違ったのだろうか...そんな風に考え込む日々に、現在の私を好きだと想ってくれる人がいる、それだけが私の生き方を、生きて来た道を照らしてくれている気がした。

  • 油断した。ものすごくいい。

    でだ、どういいのかを書こうとしてハタとこまった。
    たとえば、これを誰かに進めるとして、どう説明すっかな。

    いや、まぁそんなに悩むもんじゃないと思うけど。。

    オビには「キュートで切ない青春恋愛小説」ってあるし「愛の一冊フェア」とかまである。勘弁とは思うけど、違うともいえない。

    双子の姉弟が実家を離れて一緒に暮らしつつ大学に通ってて、、ってそんな説明したって絶対面白いとは思ってもらえなさそう。

    とてもあっさりと描かれているので、清涼感はあって、仕事で疲れているときになんかはいいと思う。人間に好意的になれそうな気になる。

    ひとによっては、物足りないって感じるかもしれない。

    なんにしたって、饒舌過ぎないこの終わり方が素敵だ。

  • この4人の生活に素直に憧れる自分がいました。青春って高校まで、って思っていたけどこの人たち間違いなく青春している。
    冬冶くんの不器用さと華子ちゃんの奔放さの対比は眩しくて、冬冶くんの迷いに自分がモヤモヤしたり酸っぱくもなったけれど突き抜けるような爽やかさで読んでいて楽しかったです。
    自分の明日からに瑞々しさを与えてくれるような作品でした。

  • 姉弟の双子の話。

    若いなぁって思うけど
    それはそれで気分のいい読後感でした。

    ただ表紙が私は好みじゃない。。

  • ワガママで女子力前回の華子と、その暴君な姉に振り回されて、人生優柔不断ぎみな理系男子の双子の弟冬治。そんな二人と、めげない求婚者熊野と、挙動不審の才女雪村さんの四人で織りなすストーリー。


    四人での楽しい日々と、決断のとき。


    一千一秒の日々に続き、島本さんの青春ストーリーです。


    登場人物の言葉には、みんなそれぞれの思いがあって、どの人の言葉にも心が動かされました。


    冬治が雪村さんに対してかわいいと感じた場面がすごく印象に残っています。


    「来たかったところに連れてきてもらって、冬治さんも一緒で、そんなの楽しいに決まってるじゃないですか」


    こんなの笑顔で言われたら、たまんないよって男の人多いと思うけど、本当に好きな人だったら自然とこういう感情って湧き上がると思います。


    計算じゃなくて心からの言葉。


    登場人物全員がどこか面倒くさいけど、そこに人間らしさがにじみ出てて、読み終わった後も登場人物のその後が気になります。


    最後の冬治の選択について熊野と同じで納得のいかない読者もいるかもしれないけど、冬治らしくていいのかなと。


    すごく大人な人には物足りないのかもしれませんが、誰しもこういう時期ってあったと思うし、同世代の私にはすごくピッタリな作品でした。


    大学生にはオススメですね。嫌いな人いないと思う。こういう作品。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。その他の著書に『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『2020年の恋人たち』『星のように離れて雨のように散った』など多数。

「2022年 『夜はおしまい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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