秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.81
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本棚登録 : 1752
レビュー : 190
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043892037

作品紹介・あらすじ

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。

感想・レビュー・書評

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  • 『夜市』の世界よりまだ少し、ひと側に寄った物語だなと思った。
    それは、ひとの意思や所為というものが未だ形を持っていて、こちら側から完全に抜け出そうとしない(したくない)、言うなれば執念、執着などといった人間臭さを持ったまま、異界へと誘われたひとたちだったように感じたから。
    だからなのか、『夜市』のような精錬された幽玄さや艶やかさ妖しさというものに到達するまでの、まだ濾されきれていない泥臭いものが描かれていたように思う。

    『秋の牢獄』では、先に進みたいとの希望を何度も打ち砕かれる朝を迎えるうちに、自分が消えることを待ち望むようになった主人公。
    生が繋ぎ止められた時間の「牢」から解放されることは、精神的な安楽を意味しているようであり、その先が死か、それとも未来かということはとうに大切なことではなくなっている、そんな印象を受けた。

    『神家没落』では、どこにも自分の拠り所がない、その「自由」さに恐ろしさを感じ、もう一度「家」に執着する主人公。
    家という「牢」へもう一度入りたいと願った主人公にとって不意に訪れた「牢」の消失とは、決して自分を解放させるものではなく、よりいっそう孤独を深めることになったのであったろうと想像する。ある意味、「牢」の幻像に囚われたまま生きていくことになったのではないだろうか。

    『神家没落』とは逆に「牢」からの解放を望んだのは『幻は夜に成長する』。
    主人公は生への喜びや自由への渇望というような、希望に満ちた明るいものを決して望んだわけではないのだろう。もっとどろどろした人間の業や欲といった、どす黒い塊をもマグマのようなエネルギーとして生きることへの喜びへと解放させる、そんな印象を受ける。鍵の開いた「牢」から、自分は生かされているのではない、この幻で覆われた現実で生きてやるのだという主人公の力強い声が聞こえるようだった。

    「牢」に対して自分がどのように願い、あるいは対峙するのか。それによって「牢」はどのような試練、もしくは褒美を与えるのか。
    その果てに迎える結末。「牢」から解放された先にあるのは消失なのだろうか、それとも生成なのだろうか。
    誰にもわからないなかで、ただひとつ確かなこと、それは様々なものにひとは囚われながら生きているということだった。

  • 表題作の「秋の牢獄」を再読したくて図書館で借りた。
    内容は作品紹介通りだが、リプレイ関係の物語に惹かれる気持ちってなんだろう?と考えてしまう。
    自分の人生に悔いがあるのか?無い奴は居ないと思うけど。
    やり直しは出来ないからこそ、そこに夢とか物語を紡いだり、それを読んだり観たりして共感するのだろうか。
    いつかまた再読する日が来ると思う。その時は何を思うのだろう?

    作品紹介・あらすじ
    十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。

  • 大好きな恒川光太郎の3冊目は「囚われた者たち」による3作品から成る短編集。表題作の『秋の牢獄』はおなじ1日を何度も繰り返し、そこに生きる人々の苦悩と葛藤というSF短編などで扱われるやすい題材が恒川の手になると見事に寓話に変化する力量を見せつけられる良作。充実した一日の意義に気づいた者は、例え明日にもその命が尽きようとも「人生」を意義あるものと出来るというメッセージはレヴィル・シュート著『渚にて』を彷彿とさせる。
    『神家没落』は高橋留美子著による漫画『うる星やつら』第14巻2話目の「カマクラ伝説」とダイアナ・ウィン・ジョーンズ原作による『魔法使いハウルと火の悪魔』のスチュエーションを融合させたような設定を怪談風味で仕上げた秀作。
    『幻は夜に成長する』は超能力(幻術)を使えるが故に、その力にに縛られ、囚われの身となる運命を辿る女性の儚くも恐ろしい悲話はスティーヴン・キング著『キャリー』筒井康隆『七瀬ふたたび』宮部みゆき著『鳩笛草』、『クロスファイア』に並ぶ、能力者の悲劇。
    優しい描写の中で、やがて訪れる残酷な運命に翻弄される人々の姿は儚く悲しい。しかし、読了感は殺伐とせず、何処か安らぎすら感じさせる文章はさすが恒川光太郎。

  • 夏に読んだ『夜市』が良かったので、金木犀の香る頃には『秋の牢獄』を、と思っていた。恒川さんの作品を読んでいる間は、風が凪ぎ、周囲の物音が消えてしまう。静寂の中、あやうく現実すら見失いそうになる。三話目で初めて「クオリア」という言葉を知った。そして、思った。恒川さんは、作品を通してわたしの心に「クオリア」を喚起させる。わたしはその幻想に酔いしれる。それもただ美しいだけの世界ではない。金粉が舞う世界の片隅で、猟奇的なものがちらつくような感じ。上手く言えないけれど、久しぶりに胸がドキドキした。

    p18
    彼女は同じことしか喋らない人形だった。
    あらゆる人間がそうだった。

    p19
    希望とは明日があると考えることだ。

    p38
    世の中にあるものはみな運命のシナリオ通りに動く機械。同じ時刻に同じ場所に行き、同じことをしている。百万遍も繰り返し上映される映画のエキストラ。

    p61
    その正体がなんであるにせよ、北風伯爵は私たちにとって必要なものなのかもしれないと私は思う。いつかあれに捕まる日が来ると思うから、それまではなるべく楽しんでおこうと寄り集まったり、旅行したりしているような気がするのだ。
    もしも北風伯爵が存在せずに、十一月七日がただひたすは永劫に続くとしたらどうだろう。私はやがて行動をすら気力を失い、朝起きたら、睡眠薬を買いに行き、あとは一日中眠るだけの日々を続けるようになる気がする。

    p189
    「クオリアってなに?」
    「こないだ読んだ本に載っていた言葉。脳内にある五感の質感のこと。フィーリングっていうか」
    林檎のつやつやした感じ、とか、秋の青空と高く広がる感じ、とか、コンクリートの均質に硬い感じ、とか、味覚なら舌に載った甘いバニラクリームが溶ける感じ、とかさ。クオリアは脳が作るものだから、あくまで主観的なものなんだけどね。ものの見え方、感じ方は人それぞれ違うだろうし、経験によって変わってくるだろうしね。

  • これは「死」がテーマの作品か。 どうしようもない状況に陥り、焦り、もがき絶望し徐々に鈍磨し諦め、そしてその状況を慣れ受け入れるようになる。それが当たり前の日常になる。 自分ではどうしようも避けられない事をくよくよ考えるよりも、自分自身で出来る事だけに一生懸命になろうと言う心の持ちようが僕は好きだ。(松井秀喜もそう言ってた。) 受入れないとダメな物、受け入れてはいけない物を見誤らない事は人生においてとても重要。 色々な事を考えさせられる人生の指南本。 只、前の2作よりはインパクトは無かった。

  • 『秋の牢獄』
    恒川さんの作品は独特の世界観や雰囲気が好きなのですが、『秋の牢獄』については、ホラー小説にありがな物語の落ちがあまり良くないように思われます。
    村上春樹ばりに落ちがよくないです。

    『神家没落』
    こっちは落ちがスッキリしている作品かと思います。ある状況から抜け出そうとしていたが、最後にはその状況をある種受け入れようとする心境になるあたりが安部公房の『砂の女』みたいな感じで良かったです。

    『幻は夜に成長する』
    よくわからない力に触れて不幸になってしまった少女の物語です。
    悲しい雰囲気が漂う作品です。

  • 日常に隣接する異界と、異界のルール。
    この作者は、神隠しに遭遇したことがあるのではないかと思うことがある。
    作品はあくまで異界のルールの中で進み、そのルールに反することはできない。創作でありながら妙にリアリティを感じてしまうのは、このルールのおかげではないだろうか。

  • 独特の世界観、読みやすい構成はそのままだった。
    「夜市」のような誘われるような陶酔感は薄かったが、大変面白かった。
    恒川ファンとして、彼の作品中では星3だが、全体のレベルでは星4。

  • 世界は幻に満ちている。
    それはどこか曖昧で不確かなもの。

    3つの独立した物語からなる短編集。
    重なりは全くないけれど、どの主人公も各々の「牢獄」に閉じ込められる物語。
    ある者は同じ一日に、またある者は家に、そしてある者は自己に芽生えた不思議な力に。
    どうにかして逃げようと模索するが簡単には逃れられない。
    そうしている内に逃げることを止め、徐々にそこを「安楽の地」と錯覚してしまう。

    恒川さんの描く世界観はいつも静かに、でも確実に読み手を追い込む。
    追い込められてしまった私は、どうすることも出来ずただジタバタするだけ。

    暑い夏が終わり寒々とした冬になる前の、しんと静まり返った「すき間」のような季節がもうじき私の所にもやって来る。
    ひっそりと潜む曖昧で不確かな「すき間」に閉じ込められてしまわないよう、私も気を付けなければ。

  • ◆「秋の牢獄」読了後、ゾッとした。藍と同じように朝起きるとまたうんざりする同じ一日が始まる感覚から逃れられない時があるから。そして、同じ囚われの感覚があるにも関わらず上書き更新はならず、日一日と老いていく時の流れは感じるから。現実はより過酷で恐ろしい。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。同作で直木賞候補に。14年、『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。著書に『雷の季節の終わりに』『秋の牢獄』『南の子供が夜いくところ』『竜が最後に帰る場所』『金色の獣、彼方へ』『南の子供が夜いくところ 』『スタープレイヤー』などがある。

「2021年 『滅びの園』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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