トンコ (角川ホラー文庫 す 2-1)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043924011

感想・レビュー・書評

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  • ホラー要素は感じなかったが、ただ切ない。
    トンコそのもののセリフは無いけれど、無邪気なトンコがかわいいくて最後は泣ける。

  • 日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作と、他二つのお話が収録された短編集です。
    「トンコ」は養豚場から出荷された豚が逃げ出す話。搬送中のトラックが交通事故により横転
    一命を取りとめたトンコは兄弟豚の声と匂いに導かれさ迷い続ける…これのどこがホラーか分からないという声もあったそう。
    確かに怖さやおどろおどろしさとは一切ありませんでしたが、そこはかとなく漂う切ない感じにやりきれなくなる。
    気付けばトンコを応援していました。

  • 三話収録。

    全体を通して物悲しい雰囲気に満ちていた。
    ・「トンコ」
    交通事故で逃げ出した一匹の豚トンコはどこからともなく聞こえてくる兄弟豚たちの声に導かれるように野山や街中を探し歩くが、姿は見えず…聞こえてくる幻のような泣き声、街中から感じる兄弟豚のにおい。

    いつのまにか、「トンコ」の気持ちになって読んでいた。巻末の評にもあったように、ホラーというより、幻想文学のかおりがした。

    ・「ぞんび団地」
    以前アンソロジーで読んだ作品。ぞんびになりたいと思う女の子の心情が胸が苦しくなるほどせつない。
    子供が虐待される話はホントに苦手。

    ・「黙契」 二人で暮らしてきた兄妹の妹が自殺してしまい、その動機を必死で理解しようとする兄が痛ましい。兄と妹(妹は死後の気持ち)が交互に語られる。

    タイトルは作者の造語かな?なんとも重い言葉だ。

    内容は割と好きでしたが、遺体の描写が…
    リアルすぎて無理。

    ホラーてグロテスクな表現入れなきゃダメなのかな…

    三つの中では、やはり表題作の「トンコ」がよかったです。

  • 2022年9月読了。

    表題作『トンコ』を含む3作品の短編集。

    『トンコ』
    高速道路で事故を起こした運搬トラックから逃げ出した一頭の豚『トンコ』
    他の豚達の血臭が漂う中、姿の見えない兄弟達の声や匂いを目指し、山を登り探し始める。

    『ぞんび団地』
    パパとママに愛されず、ひどい仕打ちばかり受けている女の子・あっちゃん。
    昔は優しいパパとママだったのに、今では廃人のようにギャンブルと薬に溺れ、ケンカばかりの毎日。
    辛くて悲しい事があるとあっちゃんはある場所に向かう。
    数年前にマンホールから有毒ガスが噴き出して以来、住民全てがゾンビと化した住宅地『くちなし台』
    ゾンビの家族はケンカしないし、みんな仲良く歩きながら『あー』とか『うー』の言葉だけで通じ合えるあっちゃんの理想の家族像であった。
    家族全員でゾンビになって、くちなし台に引っ越して、仲良く暮らすのがあっちゃんの夢。
    その為に住民達に噛まれてゾンビになろうとするけれど…。

    『黙契』
    警察官の良樹の元に、東京の警察署から一本の電話がかかってきた。
    「妹さんが亡くなられました。アパートで首を吊られまして、十日程度経っておられました」

    高校を卒業し、デザイナーを目指し地方から東京の専門学校へ夢を追いかけて行った妹・絢子。
    東京へ越してから一年以上、メールだけのやり取りではあったが気の合う仲間が出来た事、仲間達と夢を語り合いながら過ごす日々を楽しそうに報告していた妹。
    そんな妹が自殺をするなど考えられなかった。
    しかも誰にも発見されず十日間もぶら下がっていたなんて…。

    最後に話した突然の深夜の電話。
    絢子が発した『自殺サイン』と思わせる言葉。
    『兄ちゃん、私ね、おうぎラーメンが食べたい』
    その時理解出来なかったこの言葉に、一体どんな意味があったのだろうか。


    一応ホラー括りの短編集。
    3作品とも怖いがメインではなく、悲しい話ばかりだった。
    『トンコ』は自分としてはイマイチ。
    『ぞんび団地』『黙契』はネグレクトや親を早くに亡くした兄妹の愛が描かれていてとても切ない気持ちにさせられた。
    だが『ぞんび団地』の設定や展開は面白く、『黙契』のラストは江戸川乱歩の『蟲』を彷彿とさせる感じでとても良かった。
    総じてそれなりに楽しめた作品だった。

  • 3編からなる短編集。表題作『トンコ』は出荷された運送トラックが横転事故を起こし、一匹の豚が逃走するという…ただこれだけの話。一般的なホラーを期待するとトンでもない肩透かしを喰らうだろう。だがもし自分が豚だったらと視点を変えた瞬間ホラーになる面白い作品である。養豚場の世界しか知らない豚が逃走中に体験する様々な出来事は恐怖であり切なく哀しい。醜悪な人間達が純粋無垢なトンコに向ける狂気は涙を誘う。本格ホラーも書ける著者が投げた変化球本は、ホラー版『およげ!たいやきくん』である。

  • 無垢な存在の眼を通してこの世の怖さ、醜さ、矛盾が露わにされる。ホラーの枠を越えた秀逸な短編だと思う。

  • 3話の短編。
    それぞれの作品の主人公が豚だったり、死人だったり、物語を語る『視点』が特殊で面白かった。

    高速道路での事故をきっかけに逃げ出した食用豚が、大冒険の末に結局ニンゲン様に食べられるという表題作の『トンコ』が一番よかったかな。あ、オチまでいってしまった笑

    ところでこの作者は結局なにが書きたかったんだろう。

    私たちが食べてる豚だって生きてるんだ!だから、もっと生き物に感謝しようぜ!

    ではない気がする。
    ただ単純に豚目線からすれば養豚場から食肉加工工場に運ばれるってホラーだよね?っていう着想からこの小説をかいたのかなーなんて思いながら読んだ。いい作品。

  • 短篇3つ。「角川ホラー短編賞」を受賞したことで分かる通り、ハズレ。

    1作目は豚、2作目はちょっとトリッキーだけど死んだ少女、3作目は死体と、わざと感情移入しにくい物体を主人公にするという、ある意味実験的趣向があったので、星1つプラス。ただ奇をてらっただけの可能性もあるけれども。

    1本目の表題作は、童話にしたかったのかもしれないが、まあよくこうグダグダとかけるね、と言いたくなるような文章が続き、最後も純文学に逃げたような話。これが賞をとるんだから、ホラー大賞のレベルが知れている。純文学系ホラーなんて、もっといい作品は山程あります。審査員はそこを褒めていたらしいけど…。

    2作目は打って変わってわかりやすいが、こちらも童話。問題はこれという作品ではない。3作目も同様。

    全体に、「私の怖いものを集めたから、怖いでしょう?」というような話で、アイデアのみで上滑りしている。3作目でようやく普通の小説っぽくなったのに、一次情報からその先に進まない話ばかり。困ったら過去の記憶に逃げるのは全作品共通で、そこから話を広げられていない。

    タイトルと表紙でハズレっぽいなとは思ったのだけど、悪い意味でジャケットそのものの1冊。

  • 2015年、32冊目は第15回日本ホラー大賞短編賞、受賞作品含む、雀野日名子の短編集。三編収録。

    これで第15回は大賞、長編賞、短編賞×2と全て読みきりました。

    簡単にあらすじ&感想を……。

    トンコ:輸送車輌の事故により、逃げ出した食用蓄豚のトンコ。トンコは離ればなれになった家族、兄弟を思いながらもさまようのだった。
    ホラー度はほぼなし。食用蓄豚を人に置き換えて……。その変換使うなら、個人的には、もっと不条理だったり、ドロドロのホラーに仕上げていただきたかった。

    ぞんび団地:小学校二年生のあっちゃんはぞんびになりたくて、ぞんび地区、くちなし台に連日通うのでした。
    全体をあっちゃんの語りのように「です」「ます」調で描かれている。オチは、途中である程度気が付きました。コックリさんでもぅ少しヒネるかな(あっちゃん目線だから仕方ないが、コックリさんがチョット上位概念的存在だったりする)、とも思ったんだけど……。虐待、イジメ描写は神経逆撫でられる。

    黙契:地方警察官である兄は、出張中に、東京で暮らす妹の自殺の報せを受ける。
    タップリの腐乱描写の割にベタでしたね。すれ違いの兄妹の愛情。裏側で、生真面目な人が新興宗教に傾倒しやすいという警鐘が鳴ってたりする。

    お気に入り順は「黙契」「ぞんび団地」「トンコ」の順かな。

  • たまたまこの本の前に読んだのが重くてしょうがない本だったので、この本を二日で読み終えてしまった時、なんとも言えず気楽な気持ちになったのです。表題作以外の二作は、どこか既視感がある内容になってるけど、そもそもホラーとか推理小説は無制限に新しいネタが作られ続けていくわけでもなく、どういう語り口で進めていくか次第みたいなところもあろうし、まぁそれは良いかなぁ、と思いつつ、軽いものが読みたいところにたまたまあたって良かった。

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著者プロフィール

1975年生まれ。福井県出身。2007年に「あちん」で『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞、08年に同作でデビュー。2008年に「トンコ」で第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。他の著書に、『太陽おばば』(双葉社)、『終末の鳥人間』(光文社)などがある。

「2013年 『幸せすぎるおんなたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

雀野日名子の作品

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