- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043925025
作品紹介・あらすじ
黒船の来航以来、高まる外圧と倒幕勢力の伸長により瓦解寸前の徳川幕府を支えた男がいた。その名は小栗上野介忠順。小栗は対ドル為替レートの不均衡や、相次ぐ賠償問題を含む外交ばかりでなく、財政再建や軍隊の近代化にも獅子奮迅の働きをみせた。しかし、その小栗をも飲み込む時代の大きなうねりが押し寄せていた-。自らの信念と使命に殉じ、日本近代化の礎を築いた幕臣の姿を鮮烈に描く歴史ドキュメント小説。
感想・レビュー・書評
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小栗上野介忠順の伝記。日記等の資料を引き精緻に描いているためにすらすらとは読めないが、小栗の有能な幕臣の仕事振りが伝わってくる。幕末維新の動きを、幕臣の眼で追うことができて面白かった。特に横浜開港時の墨銀と一分銀の交換比率の歪みの仕組みは、本書の説明でやっと理解できた。ハリスや徳川慶喜について辛口な評価で描いているが、なるほどと思った。
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漫画「天涯の武士」の主人公。開国から始まった米英との交渉について。小栗、大隈、高橋と続く。
アメリカとの不平等な為替の改善交渉やロシアの対馬租借危機の交渉の実績から、小栗はアメリカとアメリカ人をまるで信用していなかった。口では偉そうなことをいうが正体は追剥同然の破落戸。小栗はイギリスをそんな国だと確信した。オランダは一時期は隆盛だったがいまはただの一小国。ロシアは狐狼の国。
今も昔も本質は変わらない。海洋国と大陸国の地政学的関係は変わらず、米英とは上手くやっていかざるを得ない日本の立ち位置は変わらない。 -
徳川慶喜は英明というイメージが一般的である。鳥羽伏見の敗戦で逃げ帰った腰抜けというイメージもあるが、時代の流れを見通したために無意味な抵抗をしなかったとも解釈されている。慶喜を徹底的に扱き下ろした作品に、佐藤雅美『覚悟の人 小栗上野介忠順伝』がある。そこでも内実は卑怯者だが、外面は格好付けている慶喜像を描いており、慶喜の英明イメージを根本的に壊すものではなかった。
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徳川幕府と真に心中した覚悟の人、小栗上野介忠順の生涯を描いた作品である。
最近、この言葉が気に入っているが「社稷」。
徳川であろうと、薩長土肥であろと、当時の日本国が置かれた状況を勘案し、西欧列強から如何に日本という国家を守れるのか、その視点がもっとも重要なことである。
水戸がお里の慶喜の思想では、あの困難を打開することは無理だった。
因循姑息、ひたすら向かうしかなかった。
その点、小栗は、当時のアメリカを直に見、また、当時の幕府の財政状況の中で、通貨問題を解消すべく動き、また、開港に向け、整備すべき資金の調達にも動いたのである。
慶喜、勝が生き残り、小栗が非業の死を遂げる。
勝てば官軍思想、明治維新万歳思想、真摯に戦った人たちの目線、態度、つまり真の「社稷思想」で歴史をきちんと見なければならないとつくづく思いました。 -
難しかった…。
けど、強い覚悟と新年の人だということは伝わった。
何がきっかけでこの本を買ったんだっけ。どこかで見聞きしたはずなんだけど…。 -
優秀な幕臣の話。
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ー 小栗上野介忠順 ー
幕臣にも優秀で明晰、開明的な人物は確実に存在したのだ。
ただ、明治政府の勝利者史観によりそれらは抹殺され、歴史の表舞台には登場していないにすぎない。
そろそろ、これまでの司馬史観に基づく、西郷隆盛や、坂本龍馬への必要以上の賞賛をやめて、真に日本の将来を憂いて信念に基づいて断固として行動した、小栗上野介忠順のような人物がいたことを知るべきだ。
西郷:時代を見通せず結局不平士族に担ぎ上げられて頓死した似非武士(板垣退助に征韓論という濡れ衣を着せられたのだが)
坂本:脱藩して亀山社中に所属していただけのゴロツキ、ヤクザ。新政府綱領八策も当時の開明的な人々の考えを纏めただけのもので、彼自身の発案ではないであろう
小栗が存命ならば、富国強兵、殖産興業は明治政府よりも確実に10年は早まったはずである。なにせ、明治政府の主脳は、武力による維新回天は実現できたが、将来のあるべき国家像を指し示せず、数年にもおよぶ留学で日本を留守にした挙句、結局明治憲法の制定は明治22年になってからのことなのだ。
大河ドラマでの放映を望む。ただ視聴率至上主義の現在のTV業界では無理な話しか。 -
米国公使ハリスやロシア軍艦の艦長ビレリフ等、米英露の傲岸不遜で貪欲な外交官・軍人たちにまんまと手玉にとられる幕府役人たち。定見がなく上辺だけ取り繕って責任回避・保身に終始した、唾棄すべき卑劣感の慶喜や春嶽。その中で幕府の行く末を考え、財政を支えようと孤軍奮闘した小栗忠順。
理不尽さにムカムカしてしまって、途中まで読むのしんどかったなあ。
全編通じて、徳川幕府の忠臣を擁護する立場から描かれた、小栗上野介忠順の魅力に溢れた歴史小説でした。 -
歴史上、傑出した能力をもちながら損な役回りを担わされる人物はいるものだ。本書の主人公、小栗上野介忠順などはその最たる者であろう。「覚悟の人」というタイトルは、幕臣としてそのような役回りをあえて引き受けざるを得なかったことをも含意していると思える。正論を吐いても歯に衣着せぬ物言いが反感を呼んで要職を追われ、結局事態が行き詰まると再び呼び戻され後始末に奔走する。こうして外国奉行、勘定奉行、軍艦奉行、歩兵奉行などを歴任、特に財政面に明るくあの手この手で瀕死の幕末財政を支えた。戊辰戦争では箱根での陸海邀撃策を献策するも恭順を貫く慶喜に却って役職を解かれ、知行地の上野国に引きこもる。長州藩の大村益次郎は後に小栗の邀撃策を耳にして戦慄したというが、こうした知略を恐れられてか上野国で捕縛され直ちに斬首に処せられた。小栗自身に抵抗の意思はなく、もし小栗が新政府に重用されていれば明治初期の財政的混乱はもっと緩和されていたのではないかと惜しまれてならない。
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BS時代劇を観て一読しました。
幕臣としての小栗上野介より、家庭人としての人間性が強調された演出でしたが、本では公人としての経歴が細かく描かれて、良いと思います。
時代の騒乱期には、不条理に裁かれる傑物が出るものか…
維新の小栗、大戦の廣田、歴史的には暫く陽の目をみない場合が多いだけに興味深い内容になりました。