- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043930012
作品紹介・あらすじ
天才絵師の名をほしいままにした兄・尾形光琳が没して以来、尾形乾山は陶工としての限界に悩む。在りし日の兄を思い、晩年の「花籠図」に苦悩を昇華させるまでを描く歴史文学賞受賞の表題作など、珠玉5篇。
感想・レビュー・書評
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戦国から江戸の絵師たちを綴った短編5編
尾形乾山、狩野永徳、長谷川等伯、狩野雪信、英一蝶の物語。
しかし、ほとんど名前を聞いたことがありません(汗)
なので、この物語の面白さを自分では理解できません(涙)
結局、作品をググって確認しました。
これらの絵師たちの人生の悲哀や苦悩が当時の時代背景やその出来事と共に語られます。赤穂浪士ともつながっています。
■乾山晩秋
尾形乾山の物語
赤穂浪士の討ち入りとも絡んでいます。
■永徳翔天
狩野永徳の物語
信長から「天を飛翔する絵」を求められた永徳。
そして、長谷川派との争い
狩野派を守るための戦い
■等伯慕影
長谷川等伯の物語
等伯からみた狩野派との争い
■雪信花匂
狩野雪信の物語
狩野派の派閥争いの中、守清との愛を貫いた雪信
■一蝶幻景
英一蝶の物語
大奥までも登場し、別の視点から赤穂浪士の事件が語られます。
これらの絵師たちや時代背景をもっと理解できれば面白いんでしょうけど、ちょっと残念。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
久しぶりに読む葉室作品。今作は絵師に焦点を当てた五編。
表題作は尾形光琳の弟・乾山(けんざん)。初めて知った人物だが、家族が偉大だと辛いところがあるだろうと思いながら読んだ。
しかし話は意外にも赤穂浪士の討ち入りと絡んでくる。最大の後ろ楯であった二条家から出入りまで禁じられるという窮地に…。
表題作なのに短いのが勿体ない。乾山の紆余曲折、兄・光琳の隠し子とその母との関わりなど、読みところが多い割にサラッと流されていた。
第二話は狩野永徳が如何にして絵師として天下を取ったのか、第三話ではその狩野派に勝負を挑んだ長谷川等伯の闘いと何故その後長谷川派は消えていったのかを描く。
こういう、武将たちだけではない天下取りの闘いは面白い。信長や秀吉が茶の湯を政治利用したように、絵画も政治や出世に関わった。ということは、絵師たちもまた如何に武士たち権力者たちに入り込むかという闘いがある。絵師たちもまた時代の流れ、先を見る目が要る。彼らから見ると、戦国時代も一味違って映る。
第四話は趣を変え、狩野探幽の姪の娘、清原雪信の話。これまた初めて知る人物。閨秀画家として名を成しながら狩野派の勢力争いに巻き込まれていく。その中で恋と意志を貫き絵師として短くもしっかりと生きた彼女の姿は美しかった。
しかし彼女以上に魅力的だったのは兄の彦十郎。絵師としては才能がなかったし乱暴者で厄介者だったが、妹のために彼らしい後押しをしてくれた。
第五話は英一蝶。詳細が分からない島流しのエピソードにこんなドラマを作り上げるとは。
前話の彦十郎もチラッと出てくるのも嬉しいが、ここでまた赤穂浪士絡みの話になるのもニクい。忠臣の話に終わらせないところは面白い。
絵師たちの闘い、生きざま、心の澱や襞の奥までも見えた作品集だった。 -
江戸の絵師ー尾形乾山、狩野永徳、長谷川等伯、狩野雪信、英一蝶ーをそれぞれ主人公とした短編5篇。
著者には、『いのちなりけり』3部作や『はだれ雪』など忠臣蔵異聞ともいえる作品があるが、本書でも赤穂浪士討入りの裏話が綴られる。
表題作の「乾山晚愁」では、赤穂浪士討入りの装束も尾形光琳好みで、光琳の匂いがすると語られる。光琳絡みで討入りの資金が出ているとの解釈も。
「一蝶幻景」では、赤穂浪士は大奥の争いの代理だったと。背景にあるのは、大奥を舞台としての幕府と禁裏の争いが。
絵師たちの生き様とともに忠臣蔵異聞も描かれる、小説家の想像力の豊穣を味わえる短編集で、忠臣蔵ファンにも見逃せない一冊。 -
戦国から江戸元禄期に渡り後世に名を残した尾形乾山、狩野永徳、長谷川等伯、清原雪信、英一蝶といった絵師、陶工達を描いた5篇の短編集。主人公はそれぞれ異なり、独立した作品集ではあるが、時の権力者に深く関わる狩野派が絡んでおり連作短編集的な楽しみもある。
天才的な絵師の創作活動を語るというよりも、創作する上での絵師が、人としていきる様々な欲望や希望、そして到達する達観を見事に描いている。 -
尾形乾山のことを調べていたら、辿り着いた小説。
乾山だけではなく、江戸時代の絵師を題材にした五編からなる本書は、読みながら江戸時代にタイムスリップしたような感じをひしひしと感じる臨場感がたまらない。
狩野派や土佐派などをはじめ、名前は聞いたことがあっても、長い江戸時代においてその関係性は意外と知らないことが多い。こういう物語形式で展開されると相関関係がわかりやすくていい。
直木賞作家だった葉室さんという初めて知った作家。。。これからの作品も過去の作品ももう少し読んでみたいなと思わせる異才! -
時代もテーマも雰囲気も異なる短編5篇、共通するのはいずれも絵師が主人公であり、絵画と政治は深く繋がっていて、その関係が絵師の人生を翻弄するという点。「絵師とはな、命がけで気ままをするものだ。」(探幽)
好きな作品は『雪信花匂』。狩野家の政争に巻き込まれた雪の人生。愛を選び、誰かを想い絵を描く。想いと葛藤に苛まれながらも強い意思と共に名を轟かせていく一人の女流絵師の美しい叙情的作品。中でも兄の彦五郎のキャラクターが深みを出している。放蕩息子でありながら妹と親友のために動くことができる。その後の事件を経て、次の『一蝶幻景』に登場した時は胸熱だった。悲劇ではあるものの結果的に恋は成就している本作、読みながら心の何処かにもっと大きな悲劇であってほしい自分がいたのは事実… -
教科書の中の画人の側に居合わせるような。
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各々に実在した近世の芸術家をモデルとする主要視点人物が据えられている5篇が収められている。
以下、何れも少し難しい漢字の題を冠した5篇の名と、各篇の主要視点人物のモデルとなった芸術家の名、伝えられる生没年を挙げる。尚、これ位の時代の人は自称、他称で色々な呼び名が在る場合、何かの契機で改名する、青年期と壮年期や老境というように人生の中で名乗りを変えるという例も多い。そこで「多分、最も広く知られているであろう」と見受けられる、百科事典的なモノで調べると直ぐに出て来る名を挙げておいた。
『乾山晩愁』(けんざんばんしゅう):尾形乾山(1663-1743)
『永徳翔天』(えいとくしょうてん):狩野永徳(1543-1590)
『等伯慕影』(とうはくぼえい):長谷川等伯(1539-1610)
『雪信花匂』(ゆきのぶはなにおい):清原雪信(1643?-1682?)
『一蝶幻景』(いっちょうげんけい):英一蝶(1652-1724)
何れも自身の創作の他方に在る人生の課題に向き合い、各々の“時代”の中での生き様が描かれるという物語で非常に面白い。
尾形乾山は彼以上に知られる存在と見受けられる尾形光琳の弟である。陶芸家であり、兄の光琳が画を入れるという共作も知られているという。兄の光琳が逝去して暫く経った頃、光琳に縁が在った女性と、光琳の子である少年が乾山の前に現れる。そんな中で展開する人生模様と創作活動との物語が『乾山晩愁』である。
狩野永徳は天才の名を恣にしたような時代の寵児であった絵師だ。「天を翔ける画」というようなモノを目指して、創作を追求する。他方で後継者の育成等にも配意している。そういう天才絵師の生き様を描くのが『永徳翔天』である。
長谷川等伯は地方から京に出て、絵師として声望を高めるのはやや遅めであったが、有力な後援者も得て立場を高めて行った。画壇の主流のような感であった狩野派に対し、長谷川派というようなモノを確立することを目論んで、創作活動に勤しみ、後継者の育成にも配意していた。そういう生き様と、等伯がやがて至った境地というようなことが描かれるのが『等伯慕影』である。
狩野探幽の高弟の娘であった雪は、探幽の下に画を学び、やがて母方の姓を採って、加えて師に許された“信”の字を入れて「清原雪信」と号し、絵師として活動をすることになる。この清原雪信が自身の幸福を追いながら創作活動に勤しもうとする中、狩野派一門の派閥争いのようなモノの影が彼女の人生に掛かる。そういう受難も在る中での生き様を描くのが『雪信花匂』である。
現在知られる「英一蝶」という名は、年齢を重ねて絵師として声望を得て活躍した以降の号であるという。寧ろ小説では多賀朝湖(たがちょうこ)という若い頃の名で登場している。狩野派に学んだ絵師であった朝湖は画業に飽いて放蕩の暮らしをしていたが、そんな中で「世の中の裏に在る争い」というようなモノの片鱗に触れることになる。そんな様子や、数奇な運命や、自身の創作に開眼して行く様の物語が『一蝶幻景』である。
何れの作品も、伝えられる有名な作品が生まれた経過や、作品そのものに関する話題は少ない。各々に人生と創作に向き合った芸術家達の生き様というようなモノ、彼らが生きた時代の様相というようなモノが主題であると思う。
読み易い分量の5篇は何れも佳い。広く御薦めしたい。 -
どの世界にいても自分と戦い、周りと戦う。
それが刀でなく絵筆でも。
どう自分らしい生きかたをするだとか、潰されない生きかたをするのかを模索していく過程が非常に面白い。 -
有名な絵師が連続して登場する短編集。
絵のことよりも、業界での勢力争いや人間関係のもつれに着目した作品は非常に珍しいと思いますが、どこまでが作者の創作なんだろうか。
よく似た名前が多すぎるせいなのか、読みにくい作品でもあった。