怖い絵 泣く女篇 (角川文庫 な 50-3)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043940028

作品紹介・あらすじ

散る直前の匂いたつ美しさ、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」-彼女を死に追いやった陰謀とは?フェルメールの知られざる宗教作品、「エマオの晩餐」-世界の美術市場を震撼させた事件とは?近親結婚くり返しの果て、「カルロス二世」-スペイン・ハプスブルク家断絶の過程は?憎悪、残酷、嫉妬、絶望、狂気、妄想…。名画に秘められた人間心理の深淵を鋭く読み解く22の物語。書き下ろしを加えてついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 「怖い絵展」にて、表紙絵のポール・ドラローシュ作
    「レディー・ジェーン・グレイの処刑」を観てきました。
    それは観る前から想像していた通り、繊細で佳麗なとても美しい絵でした。
    ジェーンが身を包むウエディングドレスのシルク感といい
    細やかに描かれたレース、耳元で束ねられてる柔らかな長い髪
    若々しく艶やかな肌に、ふっくらと愛らしい指先に至るまで
    この絵に秘められた逸話さえ除けば、それはもう、このうえなく
    美しいばかりの絵でした。

    この絵の前に辿り着いて
    "そう、今ここにいるあなたがまさにこの光景を見ている群衆の一人です"
    (みたいなこと──正確ではありません。うろ覚えです).....と
    音声ガイドからの声が流れてきたときには、一瞬にして
    体中から血の気が引いて震え、じわじわと涙があふれてきてしまって
    仕方ありませんでした。

    ほぼ等身大かと思わせるほどの大きさの絵というのも手伝ってか
    目線を観覧者の方に向けてみると、まさにそんな光景にも見えてきて
    この絵の前に佇む人たちを含めた少し遠くの位置からも眺めながら
    19世紀のイングランドへとタイムスリップ...。自分自身も本当に
    群衆の中の一人であるかのようになりきって、まさにこんなふう
    だったのかもしれないと、目の前で起きている光景を想像しながら
    しばらくの間、その想いに心委ねて感慨に浸りました。

    中野京子さんが「怖い絵」と称して、様々な絵画(版画もあり)を
    解説した本を出されてから10年になるのですね。
    展覧会はその記念も兼ねてのようでしたが、「怖い絵」の著書は
    初めの一冊を読んだきりでしたので、開催日近くになって慌てて
    「泣く女篇」を入手。展覧会に行くまでの間にすべての絵の
    解説を読み果たすことはできそうになかったので、来日している
    絵の分だけはなんとか予習しました。

    中野京子さんは絵をとても読ませます。久しぶりに読んでみると
    解説がことのほか長いです。これはいい意味でなのですが
    名画の解説というと大抵は、さらりと一気に読めてしまうのが
    ほとんどなところ、中野さんの解説は、絵の描かれた時代考証と
    そこに絡みつく政治や社会の風習なども織り交ぜながら
    絵に纏わる逸話はもちろんの事、登場人物たちの人間模様から
    描いた画家に纏わる逸話まで、余すところなくしっかりと教えてくれます。
    それでいて、こんな文庫本になるほどコンパクトに纏められているのは
    中野京子さんの巧みな筆致によるのでしょう。

    22作に分けられた「泣く女篇」として紹介されている作品と
    逸話の究極は、なんといってもやっぱり表紙絵のジェーン。
    この美しい絵の中に秘められている悲劇的な逸話と、まるで
    戯曲か何かの一場面であるかのように美しく描いた画家
    ドラローシュの存在を十二分に教えて頂きました。

    そして、こんなにも美しいその絵と実際に対面できたことは
    私にとって一生忘れることのできない素晴らしい出会いでした。
    これはもう中野京子さんのおかげでしかありません。
    ありがたき幸せです♪感謝の気持ちでいっぱいです。
    ありがとうございました。

  • 前作に引き続き、怖いもの見たさに引っぱられて読み進めました。

    今回は、絵を見ただけでは「なぜ怖いのか」がわからない作品が多かったですが、本書に載っているというだけでなんだか不穏な雰囲気をまとって見えてくるから不思議。
    その不穏さが、著者の文章を読んでいく中で徐々に高まっていく感じが癖になります。

    今回一番ぞわりとしたのはブリューゲルの『ベツレヘムの嬰児虐殺』。
    ブリューゲルの絵は『ウォーリーをさがせ!』をやっているときと同じような感覚で、つぶさに見たくなるので、余計に違和感や残酷さが感じられる気がします。
    ベックリンの『死の島』では静けさと孤独感に目を吸い寄せられ、メーヘレンの『エマオの晩餐』は、この絵にまつわる事実に驚き、好奇心を刺激されました。

  • 「怖い絵」を紹介した中野京子さんの人気シリーズ。今年は美術展も予定されているので楽しみ。副題が関係していない作品も多いように思いますが、内容は安定の面白さです。印象的なものだけ抜粋。

    ベラスケス『ラス・メニーナス』
    一枚の絵画に詰まった情報量。俯瞰して眺めたような構図が以前から好き。あどけない表情を見せる5歳のマルガリータ王女を囲う従者たちと、バルボラの隠しきれない怒りと哀しみ。

    ジェラール『レカミエ夫人の肖像』
    はだけたドレスと艶っぽい線の細さの裏に潜んだ、女性の死をも恐れぬ美への追求。見方は180度変化し滑稽さすら感じる。

    ブリューゲル『ベツレヘムの嬰児虐殺』
    恐るべき改竄の事実。

    ビアズリー『サロメ』
    少し前にワイルドの『サロメ』を読んでいたのでより思い入れがある作品。小説のなかのサロメは無垢で猟奇的、恐れを知らない少女のイメージが強かったけれど、ここでは成熟した女性の終生の姿だった。妖艶なサロメと彼女を抱える異形の2人の対比に目を奪われる。

    ルーベンス『パリスの審判』
    三女神とパリスのやりとりが一枚の絵から十二分に伝わってくる。

    ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』
    セイレーンの登場により起こる船上の恐怖と混乱。本作では一見美しくも映る人魚セイレーンですが、彼女たちの目的を思い出すと湧き上がるのはやはり恐怖。ギリシャ物語の名シーン。

    ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』
    計算しつくされた構図のなかに込められた契約のかたち。

    ベックリン『死の島』
    黒々とした島の前にぼぉっと浮かぶ白装束の後ろ姿。この世のものではない、見てはいけない世界を前にしている気分に。

  • 怖いよー。
    でも面白いよー。
    著者の博識と洞察力と文章力でとても興味深く読ませてもらった。
    特に怖かったのはカレーリョ・デ・ミランダの『カルロス二世』
    妙に生白い男が立っているだけなんだけど、初めて見たときゾクッとするほど怖かった。
    その男の背景を教えてもらうとまたさらに怖い。

    テレビやネットの演出感ありありの『心霊映像』を観るくらいならこの本読んだらいいのに...と思った。
    怖いついでに歴史や想像力も学べる気がする。

  • シリーズ2作目

    表紙絵は衝撃的な「レディ・ジェーン・グレイの処刑」
    彼女を含む時代背景も恐ろしいけれど、表紙絵の右横に
    隠れているけど、斧を持った男がいる。
    ギロチンが出来る前だからね・・・斧で斬首すると・・・

    一流の人間は、超一流の人間に潰される。
    レオナルド・ダ・ヴィンチの才能に驚いた師は
    絵筆を折ったというのは、そう言う事か・・・
    他にも、香水のそもそもの使い方とか、色んな蘊蓄やら
    小ネタも満載で、怖い絵展を観てない事が今更ながら悔やまれます

  • オルセーとナショナル・ギャラリーに行ったばかりで「絵画ブーム」を起こしているわたしには最適の解説シリーズ。表紙の『レディ・ジェーン・グレイの処刑』も実物を見てきたばかり(なかなか印象的だった!)。そのほか何点かを観賞してきたところ。絵画は、音楽と同じく、実物に接することにつきると思っているわたしには、解説本の図版は「記憶を喚起する」または「情報」なので、この文庫の仕様はちょうどいい。「怖さ」のは人間の業ゆえと喝破しているのも現代的。西洋史から絵画を観る、という正攻法の紹介も好ましい。エンターテインメントで上品な文章も小気味良い。同時代同世代同言語の著者であることが作品を身近にしてくれる。何よりこのシリーズは、著者の鋭い視点を堪能する本だ。例えばこれまで語りつくされたファン・エイクの名画『アルノフィニ夫妻の肖像』(これを観ることができたのは、わたしにとってこの夏の最大の喜びかも!)への「見立て」にもうなづけるものがあったし、気になる19世紀初頭の画家ブレイクについても、現代のサイコサスペンス小説からハリウッド映画を引き合いに出しながら取り上げてあり満足。ベックリンの『死の島』は実物を見なければと心に刻んだし、マイ・ブームのボッティチェリの情報にはにやりとした。気に入った絵は『ガブリエル・デストレとその妹』美しい。これらを糧に夢想考察の真夏の夢・・・。というわけで他の著作も読みあさる予定。

  • シリーズ2作目を手にしました。

    「怖い絵」で感じた「絵」の見方に付け加えて、「絵」を見ることの楽しさを教わった気がします。

    今まで興味がなかった美術館に行きたいと最近になって強く思うようになりました。

    少なからず影響を受けているのだと思います。

    世界中の人々を虜にする名画との出会い。

    本物を目にした時に自分がどのように感じることが出来るのか。

    何を感じ、何を思うのか。

    答えを探しに足をのばしてみようと思います。

    説明
    内容紹介
    名画に秘められた人間心理の深淵――。憎悪、残酷、嫉妬、絶望、狂気を鋭く読み解き、圧倒的な支持を得てロングセラー中の「怖い絵」シリーズ。書き下ろしを加筆してついに文庫化!
    内容(「BOOK」データベースより)
    散る直前の匂いたつ美しさ、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」―彼女を死に追いやった陰謀とは?フェルメールの知られざる宗教作品、「エマオの晩餐」―世界の美術市場を震撼させた事件とは?近親結婚くり返しの果て、「カルロス二世」―スペイン・ハプスブルク家断絶の過程は?憎悪、残酷、嫉妬、絶望、狂気、妄想…。名画に秘められた人間心理の深淵を鋭く読み解く22の物語。書き下ろしを加えてついに文庫化。
    著者について
    北海道生まれ。早稲田大学講師。専門はドイツ文学、西洋文化史。著書に『名画で読み解くハプスブルグ家12の物語』『名画で読み解くブルボン王朝12の物語』『危険な世界史』『「怖い絵」で人間を読む』などがある。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    中野/京子
    早稲田大学講師。ドイツ文学、西洋文化史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 2017 読了。登録するのを忘れてました

    当時、客が殺到して盛況だった「怖い絵展」。表紙の「レディ・ジェーン・グレイの処刑」の絵はものすごく大きくて、描かれてる人は等身大以上という大きさでした。
    何も知らなければ、不思議な絵だなぁという感想だけで終わるところ。この本は、その絵の描かれた時代や背景などを詳しく解説してくれるので、より深く鑑賞できます。
    実際のレディ・ジェーン・グレイの処刑時の服装は血が目立たないように、黒 だったそうです。

  • 美術館で絵を見ても「この時代はこういうのが流行ってたんだな」とか「これは私好みじゃない」とか、それぐらいしか感想が湧かないのがもったいないと常々思っていました。
    本書のように歴史や風俗を掘り下げ、絵の背景にあるものを推理・考察してゆけたら・・・と思わずにはいられません。美術鑑賞が100倍面白くなると思います。
    私が今まで実際に目にしたことのある絵も数点含まれており、その時に知識がなく素通りしてたと思ったら悔しくて悲しい・・・

  • 王や女王の肖像画等の裏側には、歴史を知る面白さがあるけれど、ジェラール『レカミエ夫人の肖像』は女性のファッションやメイクの変遷について言及されているのが興味深かった。フランス革命後、ギリシャ風の露出度高め&スケスケファッションに、死人風だの結核風だのの不健康メイクが流行った時代があったらしい。去年くらいに日本でも「二日酔いメイク」だかなんだか言って目の下のあたりをチークで真っ赤にしてる若いお嬢さんがたくさんいて、おばちゃん的には「何ごと!?」と思ったものでしたが、いつの時代にも突拍子もないものが流行するものなんですね。オシャレのために薄着しすぎて風邪ひいて死んじゃうとかもう…現代の生脚ミニスカ女子高生となんら変わらない女性のファッションへの飽くなきこだわりは確かに怖い(苦笑)

    ファッションのみならず体型や顔立ちにもやはりその時代、その国ならではの流行があり、ルーベンスの描くムチムチ女性は彼の好みというわけではなくあの時代はあれが理想の体型だったとのこと。ルーベンスの時代に生まれていれば私も超絶ナイスバデーと称えられたかもしれない(笑)

    詩人としてのほうがおそらく有名なウィリアム・ブレイクは、自身の詩集に添えられた牧歌的な挿絵くらいしか見たことがなかったのだけど、ここに収録されている『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』は今から200年以上前に描かれたと思えないくらい、なんというか、タッチが現代のアニメーターなんかの雰囲気に近くて驚く。天野喜孝をもっとマッチョにしたような感じとでもいうか…。未読だけれどトマス・ハリスの『レッド ・ドラゴン』に出てくるのはこの絵のことなのですね。

    エッシャーは芸術というより「だまし絵」的な扱いを受けることが多いけれど、もっと哲学的というかいっそSF的だとすら思う。ビアズリーは私の中では別格。あとラファエル前派が好きなのでドレイパーやハントはやっぱり良い。

    レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』やホガース『精神病院にて』は、皆川博子の『開かせていただき光栄です』のシリーズを思い出した。精神病院ベドラム、小説の中でもすごく怖かったなあ。

    ※収録作品
    ドラローシュ『レディ・ジェーン・グレイの処刑』/ミレー『晩鐘』/カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』/ベラスケス『ラス・メニーナス』/エッシャー『相対性』/ジェラール『レカミエ夫人の肖像』/ブリューゲル『ベツレヘムの嬰児虐殺』/ヴェロッキオ『キリストの洗礼』/ビアズリー『サロメ』/ボッティチェリ『ホロフェルネスの遺体発見』/ブレイク『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』/フォンテーヌブロー派『ガブリエル・デストレとその妹』/ルーベンス『パリスの審判』/ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』/カルパッチョ『聖ゲオルギウスと竜』/レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』/ホガース『精神病院にて』/ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』/ハント『シャロットの乙女』/ベックリン『死の島』/メーヘレン『エマオの晩餐』/ピカソ『泣く女』

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中野京子の作品

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