温室デイズ (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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レビュー : 221
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043942015

作品紹介・あらすじ

みちると優子は中学3年生。2人が通う宮前中学校は崩壊が進んでいた。校舎の窓は残らず割られ、不良たちの教師への暴力も日常茶飯事だ。そんな中学からもあと半年で卒業という頃、ある出来事がきっかけで、優子は女子からいじめを受け始める。優子を守ろうとみちるは行動に出るが、今度はみちるがいじめの対象に。2人はそれぞれのやり方で学校を元に戻そうとするが…。2人の少女が起こした、小さな優しい奇跡の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 本屋大賞「そして、バトンは渡された」を読む前に。

    本を開いた瞬間、いきなり世界に没頭した。
    小説には、読み始めて数ページではっきりとした輪郭で迫ってくる作品とそうでない作品とがある。
    この作品は、紛れもなく前者だ。
    学級崩壊、いじめ。苦しい描写が続く。

    否応なく、自分の中学校時代を思い出す。
    わたしも主人公と同様、いくら学校が荒れていても、学校に縛られ、他の選択肢なんて考えられなかった人間だ。学校へ行くか行かないか。
    Dead or Alive
    学校が嫌で嫌で仕方ない中学生にとって、学校というのはそういうところだ。

    時代的には今はインターネットが普及しているし、この作品に描かれているいじめとは質が変わってきているのかもしれないけれど、わたしが行っていた中学校とこの宮前中学校には大きな差はないような。

    消火器がぶち撒かれる、教室の窓が割られる、毎日のように暴走族が学校へ来て先生がそれを追い払う、久々にヤンキーが登校してきてなんか大人しいと思ったら教室の後ろでピアスの穴を開けて血まみれになっている、隣の中学の自転車を壊すetc
    はっきり言って、挙げだすとキリがない。

    なんというか、基本的に破壊。
    物だけではない。人に対する暴力と暴言、無視。そう、心の破壊。

    クラスにいた、伊佐くんのような不良のドン。彼が来ると緊張した。もしかしたら、それはわたしだけではなかったのかもしれない。わたしは奴らから酷い目に遭わされた。それでも、一緒にいてくれる友だちはいた。
    酷い目、については一切話さない。でも、ジャニーズのこととか、好きなことを話して一緒に過ごす。孤立はしていなかったように思う。ちなみに、今でもその友達とはめちゃめちゃ仲良しだけど、当時のことは、曖昧にしか話さない。具体的には、話したくない。これはお互いにそうなのかもしれない。
    本当に祈るような毎日だった。友達がいなかったら、本当に、わたしの中学校生活はどうなっていただろう。

    転校生のあいちゃんはいじめられていて、わたしも奴らには酷い目に遭わされていたから、あいちゃんの登場には少なからず救われていた。あいちゃんが奴らに呼び出された時、半ば促すようなことをも言ったかもしれない。あるいは知らんぷりをした。それに罪悪感ではなく、安心感を覚えてしまうほどに、わたしは追い詰められていた。

    中学校は、わたしにとっては、全く温室ではなかった。サバイバルだ。油断をしていると、正面はもちろん、意図しない方向から背中を撃たれるような感覚。それにずっと神経を張り巡らせているような感覚。とにかく張り詰めていて緊張している。そんな時間だった。毎晩、明日がそんな日でないようにと祈っていた。

    そんなわたしも、今はお祈りをしなくても、それなりに毎日を楽しく過ごせている。
    当時とは違うストレスを抱えてもいる。
    けれど。
    大人になった今の方が、よっぽど温室デイズを過ごしているような気がする。

  • 中学校の学級崩壊といじめを描いた、瀬尾まいこさんの小説。
    主人公の中森みちるは相当に精神力の強い子だと思う。
    ここまで頑張れる子が実際にいるのだろうか。

    今勤めている中学校に5年前着任したのだが、当時はまさにこんな感じだったな…と思い出す。
    先生は、ガムはがしのヘラを持って見回りをし、図書館も昼休み以外は中から施錠をしておくように言われていた。
    やんちゃな子も、話せば普通の子と変わらないのに、集団になると…とかキレると…など、キーポイントがあるようで、先生方は生徒に心を砕きつつも緊張状態が日々あった。
    しかし年々、そういった生徒の姿は減り、今ではほとんど見かけない。
    先生方の努力、地域の変化、スマホの普及、様々な要因があるだろう。
    でも、今は目に見えない圧が子供たちの中にはあって、外には表れにくい問題があるようだ。
    ほんの5年で、こんなにも変化してしまうものなのか、と読みながら思った。

  • 「腐ったミカンの方程式」、今から40年も前に当時のお茶の間の話題を席巻したとされる学園ドラマの金字塔「金八先生」。人間はミカンじゃないと叫んだ金八、でも校内暴力は、いじめはなくならなかった。学校は学校であって温室ではない、中で育てられるのは温室ミカンなんかじゃない。でも現実は本当にそうなんだろうか。

    『駐車場にとめられた車の窓が割られる、ボンネットがへこまされる』『制服の腕のところが破れ、腰も手足も痛い。ずきずきする顔に触れてみると、唇の横が切れて血が出ていた。』これは紛れもない犯罪行為です。街中でこんなことが行われれば逮捕され、留置場に送られ、処罰を受けます。こんな当たり前のことが、見て見ぬふりをされ、何もなかったかのように過ぎていく。こんなことが許される世界、中学校。出版当時、中学校の国語の先生だった瀬尾さん。そんな瀬尾さんが描いた学校現場。外からは見ることのできない温室の中の風景のある意味のリアルさ。

    『中学校は崩壊と再生を繰り返しているはずなのに、教師の動きは鈍い。大事にならないと、動きださない。日本の平和ボケは、学校の場でも存分に発揮されている。』いきなりの鋭い視点にハッとします。確かにこの国は何事も人が死ぬまでは見て見ぬフリをするのが基本姿勢。忙しくて手が回らない、これもよく聞きますが、結局大ごとになってさらに忙しくなる悪循環を繰り返すだけとも言えます。

    『いじめは会議室で起きてるんじゃない。教室で起こってるんだって感じ。ぐだぐだ言ってる暇あるんだったら、とりあえず教室行けよって思う。』これは、瀬尾さん自身も感じられていたのかもという一節です。大人はみんな会議が大好きです。

    そんな状況を自分たちでなんとかして変えようとする みちると優子。『本当の学校生活を取り戻したい』でも強い思いだけで解決できるほど生易しいものではありません。そして歴史は繰り返されます。

    今の学校対応は『教室でまともに戦うみちるには、誰も手を差し伸べないけれど、逃げさえすればどこまでも面倒見てもらえる。』潰されてしまった子たちを救うシステムは出来つつあるのだと思います。でも本当にそこなんだろうか、潰されるまでは見て見ぬフリをするシステムでいいのかどうか。

    色々考えても、書いてはみてもそもそも現在進行形で苦しんでいる人たちの現実は何も変わりません、変えられません。一晩あれこれと思いを巡らせましたが、残念ながら私には考えをまとめることはできませんでした。

    そう、そんな簡単なことじゃない。そんな生易しいものでは当然ない。私にはこの先何ができるのか、何だったら変えられるのか。自分のただ流れる日常の中に、ふと考える時間をくれた作品でした。

  • いじめる立場、いじめられる立場にスポットを当てがちな作品が多い中、この作品のなかではきちんといじめという行為を観察し分析するという人物が登場していて読みやすかった。
    いじめは悪いこと、あってはならないこととは誰でもが認識しているのだが、いじめに歯止めが利かない、いじめられる方にも何か原因があると口にはできるものの、実際に立ち向かう勇気というものに関して、これほど強く信じ行動する主人公に心から拍手を送りたいと思った作品でした。

  • 中学校の学級崩壊といじめのリアルな話。
    他人を変えるのは難しいけど、別の場所に逃げることが楽なわけでもない。
    貴重な学校生活と、これからも続く長い道のり。
    瀬尾さんの優しいメッセージが聞こえてくるようだ。

  • 読みやすかった。教師でもある瀬尾まいこさんだから、教室の空気間の描写がリアルで震えた。

  • 私は中学生当時、学校生活というものを、自由を奪い明日も明後日も同じような生活を強いてくる檻なんだ、と思っていた。決して"温室"という風に捉えることはできなかったのだけれど、大人になった今にして振り返ると、あそこは温室そのものだったんだね。

    この小説にでてくる中学校は荒れている。そして荒れている中学校はもちろん教師も頼りない。
    中でもいちばんの不良の伊佐が、美少女の優子に告白し、優子がそれを断ったことから、クラス内でのいじめが始まる。なんで当事者でもないのに周囲がいじめ…と思うけれど、その短絡的な感じがいかにも中学生らしいかもしれない。
    みちるは優子の友人として、いじめにも学校崩壊にも立ち向かうべく行動を起こす。そしたらそれがきっかけで今度はみちるがいじめの標的に。

    それからの過酷な学校生活が主なストーリーだが、クラスには、ただいじめを耐え忍ぶみちる、相談室やカウンセリングやフリースクールをつかう優子、気まぐれな自由登校を貫く伊佐、そして有能なパシリを自ら引き受ける斎藤と、それぞれの学校との闘い方があって興味深く思った。逃げないのが良いことでも、逃げるのが悪いことでも、二者択一で決められることでは絶対にない。
    私の場合は、理由もなく学校が嫌になって、仮病サボり癖でぼちぼち休んだりしながらも結局意地になって通い続けてたから、この小説で言えば意外と全員のハイブリッドかもしれない。
    学校は温室というほど優しい環境ではないけれど、それでも守られていることは事実だったんだな。
    作者である瀬尾まいこさんは、どれが正しい、とは最後まで明言することなく、ただ彼らのスクールデイズを卒業まであたたかく見守ってくれている。

  • あの時過ごした中学校という閉塞的な空間は
    楽しさもあったり辛さもあったりが入り交じるまさに優しくない楽園。
    小学校とも高校とも違う、ちょうど真ん中の中学校。
    その中でのささやかな希望も誰かがいないと続かない。
    言葉の中身は関係なくどこまで自分に寄り添ってくれるか。
    そんな人がいるだけで、いるという事実だけで生きていくことができる。
    中学校という温室を抜けても、ある程度の柵は一生ついて回る。
    その時にあの優しくない楽園で過ごせた自分の日々は何かしらの支えになる気がする。
    吉川のやり方は極端だったけど、みちるの救いにこれからもなっていくと思う。

  • いじめという難しいテーマを扱った小説ではあるが、瀬尾さん自身が教師を務めていたからか、丁寧に書かれている。
    本人でもよくわからない、思春期独特の自我あるいは人間関係についての描写は、優れた観察眼があってこそのものだと思う。
    いじめられる友達を見ることの辛さとか、みじめさを知られたくなくて助けを求められないとか、子どもをカテゴライズすることへの反発とか。

    作品の中では「学びの部屋(フリースクールの名前)はぬるま湯だ」というような踏み込んだ表現も出て来る。
    しかし、これはフリースクール生を批判するようなものではない。
    そこには子供を鼓舞するような思いがあるのではないかと思う。
    今は学校から遠ざかっても、いずれは社会に出なければならないのだから、どこかで立ち向かわなければならない。

    物語を通してわかるのは、子供は良くも悪くも染まりやすいということだ。
    以前読んだジェームズ・クラベルの『23分間の奇跡』のように、子どもは大人や周囲の環境から大きな影響を受ける。
    いや、大人も同じかもしれない。
    そのような中でも自分を持って戦い続けた人たちの行動が、周囲をほんの少しでも変えていく。

    立ち向かうのが難しい時は、「何もかも捨てて、的を絞るんだ」。
    一方で、すべてから遠ざかることはしないということも重要なのだと思う。

    良い小説ではあったが、エンターテインメント性には欠けるか。
    思春期の頃の経験で感想が大きく変わる小説だと思う。

  • キャラクター文芸と小説の間くらいの作品、という印象を受けた。ラストシーンはとても感じ入るものがあって好きなんだけど、全体的に淡々とした印象があって、ページ数の割に時間が掛かったので結果として星3.3くらいの認識で。
    淡々と、とは書いたけど、いじめという問題と真摯に向き合って書く以上、ドラマみたいに派手なことがあれこれ起こるわけがないので、これは一つの結果として間違ってはいないと思う。「いじめ」という繊細で難しいテーマに一歩深く踏み込んで、そこに関わる人物達の内面が丁寧に描かれている。ありきたりな言葉や接し方で解決されるようなことじゃないけど、時にはそういうものが必要だったりもする。この作品を通して作者の人は「前を向こう」というメッセージを一生懸命伝えようとしたのではないだろうか。

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞。翌年単行本『卵の緒』でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治新人賞を受賞。その他の著書に『図書館の神様』『強運の持ち主』など。

「2019年 『ありがとう、さようなら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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