温室デイズ (角川文庫 せ 6-1)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043942015

作品紹介・あらすじ

みちると優子は中学3年生。2人が通う宮前中学校は崩壊が進んでいた。校舎の窓は残らず割られ、不良たちの教師への暴力も日常茶飯事だ。そんな中学からもあと半年で卒業という頃、ある出来事がきっかけで、優子は女子からいじめを受け始める。優子を守ろうとみちるは行動に出るが、今度はみちるがいじめの対象に。2人はそれぞれのやり方で学校を元に戻そうとするが…。2人の少女が起こした、小さな優しい奇跡の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 本屋大賞「そして、バトンは渡された」を読む前に。

    本を開いた瞬間、いきなり世界に没頭した。
    小説には、読み始めて数ページではっきりとした輪郭で迫ってくる作品とそうでない作品とがある。
    この作品は、紛れもなく前者だ。
    学級崩壊、いじめ。苦しい描写が続く。

    否応なく、自分の中学校時代を思い出す。
    わたしも主人公と同様、いくら学校が荒れていても、学校に縛られ、他の選択肢なんて考えられなかった人間だ。学校へ行くか行かないか。
    Dead or Alive
    学校が嫌で嫌で仕方ない中学生にとって、学校というのはそういうところだ。

    時代的には今はインターネットが普及しているし、この作品に描かれているいじめとは質が変わってきているのかもしれないけれど、わたしが行っていた中学校とこの宮前中学校には大きな差はないような。

    消火器がぶち撒かれる、教室の窓が割られる、毎日のように暴走族が学校へ来て先生がそれを追い払う、久々にヤンキーが登校してきてなんか大人しいと思ったら教室の後ろでピアスの穴を開けて血まみれになっている、隣の中学の自転車を壊すetc
    はっきり言って、挙げだすとキリがない。

    なんというか、基本的に破壊。
    物だけではない。人に対する暴力と暴言、無視。そう、心の破壊。

    クラスにいた、伊佐くんのような不良のドン。彼が来ると緊張した。もしかしたら、それはわたしだけではなかったのかもしれない。わたしは奴らから酷い目に遭わされた。それでも、一緒にいてくれる友だちはいた。
    酷い目、については一切話さない。でも、ジャニーズのこととか、好きなことを話して一緒に過ごす。孤立はしていなかったように思う。ちなみに、今でもその友達とはめちゃめちゃ仲良しだけど、当時のことは、曖昧にしか話さない。具体的には、話したくない。これはお互いにそうなのかもしれない。
    本当に祈るような毎日だった。友達がいなかったら、本当に、わたしの中学校生活はどうなっていただろう。

    転校生のあいちゃんはいじめられていて、わたしも奴らには酷い目に遭わされていたから、あいちゃんの登場には少なからず救われていた。あいちゃんが奴らに呼び出された時、半ば促すようなことをも言ったかもしれない。あるいは知らんぷりをした。それに罪悪感ではなく、安心感を覚えてしまうほどに、わたしは追い詰められていた。

    中学校は、わたしにとっては、全く温室ではなかった。サバイバルだ。油断をしていると、正面はもちろん、意図しない方向から背中を撃たれるような感覚。それにずっと神経を張り巡らせているような感覚。とにかく張り詰めていて緊張している。そんな時間だった。毎晩、明日がそんな日でないようにと祈っていた。

    そんなわたしも、今はお祈りをしなくても、それなりに毎日を楽しく過ごせている。
    当時とは違うストレスを抱えてもいる。
    けれど。
    大人になった今の方が、よっぽど温室デイズを過ごしているような気がする。

  •  瀬尾まいこさんの物語からは、いつも〝癒し〟をもらっていました。でも本作を読み進めながら、心がざわつき、違和感をもってしまいました。

     当然ながらその正体は、本書の大きなテーマとなっているいじめによるものです。
     いじめは、これまでも多くの小説で取り上げられ、実際の学校でも後を絶たず、この場で持論を展開する積もりも毛頭ありませんが‥。

     教師を経験した瀬尾さんだからこそ、生徒同士、生徒と教師の関係性の描写は上手だなと感じます。それでも物語の展開に、どうしても無理(この発想がダメなんでしょうが)と思ってしまうんです。
     いじめを受ける2人の少女は、タイプは違いますが、結局のところ根っこに強さと勇気をもっていて、周囲との相乗効果もあり成長したのでしょう。心が折れてしまうのが大半だと思うのです。

     こんなの理想でフィクションだから描ける、と言ってしまえばそれまでですが、瀬尾さんの教師経験者としての願望は感じます。
     傍観や諦めは何も生まず、自分でできる小さな行動が誰かを動かし、そしてそれが波及していったら、何かが変わるかもしれない‥。そんなことを物語に込めたんでしょうね。
     「小さな優しい奇跡」を信じながら、いじめの〝根絶〟とハードルを上げず、いじめの〝減少〟を目指し、そのサインに敏感になりたいものです。

  • 昔は、こういう学校もあったのか・・・とはじめて知ることができた。
    友達がいじめられているとき、助けたいけど助けられないというのは私にも経験あったので、個人的に凄く生々しいストーリーだった。

    • 碧さん
      なぜ今はないと思うのか
      なぜ今はないと思うのか
      2023/10/10
  • 中学校の学級崩壊といじめを描いた、瀬尾まいこさんの小説。
    主人公の中森みちるは相当に精神力の強い子だと思う。
    ここまで頑張れる子が実際にいるのだろうか。

    今勤めている中学校に5年前着任したのだが、当時はまさにこんな感じだったな…と思い出す。
    先生は、ガムはがしのヘラを持って見回りをし、図書館も昼休み以外は中から施錠をしておくように言われていた。
    やんちゃな子も、話せば普通の子と変わらないのに、集団になると…とかキレると…など、キーポイントがあるようで、先生方は生徒に心を砕きつつも緊張状態が日々あった。
    しかし年々、そういった生徒の姿は減り、今ではほとんど見かけない。
    先生方の努力、地域の変化、スマホの普及、様々な要因があるだろう。
    でも、今は目に見えない圧が子供たちの中にはあって、外には表れにくい問題があるようだ。
    ほんの5年で、こんなにも変化してしまうものなのか、と読みながら思った。

  • 「腐ったミカンの方程式」、今から40年も前に当時のお茶の間の話題を席巻したとされる学園ドラマの金字塔「金八先生」。人間はミカンじゃないと叫んだ金八、でも校内暴力は、いじめはなくならなかった。学校は学校であって温室ではない、中で育てられるのは温室ミカンなんかじゃない。でも現実は本当にそうなんだろうか。

    『駐車場にとめられた車の窓が割られる、ボンネットがへこまされる』『制服の腕のところが破れ、腰も手足も痛い。ずきずきする顔に触れてみると、唇の横が切れて血が出ていた。』これは紛れもない犯罪行為です。街中でこんなことが行われれば逮捕され、留置場に送られ、処罰を受けます。こんな当たり前のことが、見て見ぬふりをされ、何もなかったかのように過ぎていく。こんなことが許される世界、中学校。出版当時、中学校の国語の先生だった瀬尾さん。そんな瀬尾さんが描いた学校現場。外からは見ることのできない温室の中の風景のある意味のリアルさ。

    『中学校は崩壊と再生を繰り返しているはずなのに、教師の動きは鈍い。大事にならないと、動きださない。日本の平和ボケは、学校の場でも存分に発揮されている。』いきなりの鋭い視点にハッとします。確かにこの国は何事も人が死ぬまでは見て見ぬフリをするのが基本姿勢。忙しくて手が回らない、これもよく聞きますが、結局大ごとになってさらに忙しくなる悪循環を繰り返すだけとも言えます。

    『いじめは会議室で起きてるんじゃない。教室で起こってるんだって感じ。ぐだぐだ言ってる暇あるんだったら、とりあえず教室行けよって思う。』これは、瀬尾さん自身も感じられていたのかもという一節です。大人はみんな会議が大好きです。

    そんな状況を自分たちでなんとかして変えようとする みちると優子。『本当の学校生活を取り戻したい』でも強い思いだけで解決できるほど生易しいものではありません。そして歴史は繰り返されます。

    今の学校対応は『教室でまともに戦うみちるには、誰も手を差し伸べないけれど、逃げさえすればどこまでも面倒見てもらえる。』潰されてしまった子たちを救うシステムは出来つつあるのだと思います。でも本当にそこなんだろうか、潰されるまでは見て見ぬフリをするシステムでいいのかどうか。

    色々考えても、書いてはみてもそもそも現在進行形で苦しんでいる人たちの現実は何も変わりません、変えられません。一晩あれこれと思いを巡らせましたが、残念ながら私には考えをまとめることはできませんでした。

    そう、そんな簡単なことじゃない。そんな生易しいものでは当然ない。私にはこの先何ができるのか、何だったら変えられるのか。自分のただ流れる日常の中に、ふと考える時間をくれた作品でした。

  • 読み始めてすぐに、随分と気持ちが落ちてしまう作品だなと思ってしまった。
    本のカバーに小さな奇跡と書かれているけれども本当に小さな奇跡は最後におきる。
    主人公達は中学3年生。
    必死で痛い?大人達と、揉め事を起こしたくない大人達、残酷な同級生との学校生活を変えようとするけれども何をどうすれば良いのか分からない。
    小さな奇跡を起こした登場人物のその後と、繰り返される世界にどうすれば良いのかと思う。
    奇跡を起こすまでの痛みが読んでいて辛くなる。

  • 中学校の学級崩壊といじめのリアルな話。
    他人を変えるのは難しいけど、別の場所に逃げることが楽なわけでもない。
    貴重な学校生活と、これからも続く長い道のり。
    瀬尾さんの優しいメッセージが聞こえてくるようだ。

  • 読んでいる間中
    辛かった

    これを読む前の2冊が思った感じの本ではなく
    すっきりしたかったのだけれど
    もっと落ちた…

  • いじめる立場、いじめられる立場にスポットを当てがちな作品が多い中、この作品のなかではきちんといじめという行為を観察し分析するという人物が登場していて読みやすかった。
    いじめは悪いこと、あってはならないこととは誰でもが認識しているのだが、いじめに歯止めが利かない、いじめられる方にも何か原因があると口にはできるものの、実際に立ち向かう勇気というものに関して、これほど強く信じ行動する主人公に心から拍手を送りたいと思った作品でした。

  • 「温室」とは甘えが許されている、厳しさを知らないという場所、という意味で使われる。
    この「温室デイズ」というタイトルも、中学の先生に「ここは温室だぞ、大人になったら社会は厳しいぞ」という言葉を言われたことがきっかけになってはいるが…

    もう誰だよ温室とか言ったやつ。出てこいや。
    「地獄デイズ」の間違いでは?
    デイズがまだ可愛いので思い切って「地獄」は?
    瀬尾まいこさん、今からでもタイトル「地獄」に変えた方が(大変失礼)


    みちると優子は中3。学校は不良が暴れ回り窓ガラスが割れ、まともに授業が進まない「荒れた」中学校だ。
    そんな中、みちるがほんの小さなきっかけから酷いイジメにあう。
    優子はみちるを助けられない。見ていられない。

    イジメに耐えながらも登校するみちる。
    何もされていないのに登校拒否する優子。
    2人の対比で物語は進む。


    ---------------------------------

    とにかく腹が立つ。いじめる方にも腹が立つし、慌てるだけで何もできない大人(教師)にも腹が立つ。

    ここまで落ちたら、立ち直るのは難しい。
    みちるや優子が危惧していたように、こうなる前に何とか大人が学校を立て直さなければいけなかった。


    恐ろしいのは集団心理。
    明らかに異常な状態なのに、普通の生徒がイジメや暴力をやめられない。
    教師ですらイジメがある状態を普通の生活の中に組み入れてしまっている。

    体が大きく生徒からもある程度信頼されている「田中先生」が暴力を受けて泣いているみちるを教室で発見し、「どうした中森、頭でも痛いのか?」と問いかけるシーン。

    まじで狂ってると思った。

    ---------------------------------

    みちるのセリフにハッとする。

    「どうしてみんな学校なんて休めばいいっていうの?
    私、何も悪いことしてないんだよ?
    なのに、どうして教室に行くの、放棄しなくちゃいけないの?
    そういうの、すごく変だよ。
    学校に行かなくても大丈夫にするのが先生なの?ちゃんとみんなが教室で過ごせるようにしてよ。
    私は、先生にちゃんと学校にこいよ、って言って欲しい。」

    アメリカでは、イジメがあったら徹底的に調査が行われ、加害者側に精神的な疾患があるという考え方でカウンセリングなどが行われると聞いたことがある。
    日本とは真逆だ。

    みちるをいじめたやつ。
    お前ら全員病んどるわ。

    どうしてやられた方に改善が必要なのだろう。
    明らかに発端はやった方なのに。


    ---------------------------------

    なかなかにヘビーな内容ではあったが、悪い状態の中にもそれぞれができることを少しずつやって、希望を捨てていないのが良かった。

    逃げ場のない「温室」を何とか良くしようという気概が感じられた。

    瀬尾まいこさんは中学で国語の先生をしながら小説執筆をしていたと言うお方。
    リアリティありすぎて、恐ろしかった。
    こんなことが現実に起こってるのか…

    いや、やめてほしい。
    ほんとやめてほしい。

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

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