マグマ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043943098

作品紹介・あらすじ

外資系投資ファンド会社勤務の野上妙子が休暇明けに出社すると、所属部署がなくなっていた。ただ1人クビを免れた妙子は、支店長から「日本地熱開発」の再生を指示される。なぜ私だけが?その上、原発の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電所をなぜ今になって-?政治家、研究者、様々な思惑が錯綜する中、妙子は奔走する。世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は救世主となれるか!?次代を占う、大型経済情報小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「マグマ」真山仁さん

    1.2021年の今
    スターバックス。店舗電力を再生エネルギーへ。

    https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2021-4077.php

    2.マグマ=再生エネルギーの物語
    真山さんの執筆は2005年です。
    東日本大震災よりも前に執筆しています。
    内容は、原子力中心の電力供給と、中々発展しない再生エネルギーの現状と課題です。
    小説は「地熱電力」を中軸に据えて展開します。
    執筆から15年の月日を数えて、1.の流れに行き着いているというのも現実です。

    3.地熱電力の課題とは?
    小説より
    ①電源=マグマに辿りつくまでの時間と投資金額。
    ②売買価格が高い。
    ※①のため、消費側の負担額が原子力と比較して高い。
    ③マグマの在り処=国管轄自然公園下
    ※自然保護を理由に開発が進めづらい。

    4.地熱電力を買い取りした「ハゲタカ」の戦略とは?
    電力業界の規制/ルールを破壊します。
    その戦術として、ハゲタカのグローバルネットワークを駆使します。
    ①先進国のエネルギー談話会議における日本政府への圧力
    ②環境系ファンドの日本企業への電力供給元の見直しの示唆。

    5.真山さんの小説の面白さ
    ハゲタカの視点よりも、昨今の日本の政治、民間、そして学術が課題とするテーマへの切り込みです。
    読者として、巻末の参考文献と取材からの積み上げの物語に、ただ感謝です。


  • この小説が、3.11原発事故よりも前に書かれていたことに、著者の先見性の確かさを見る。
    『ハゲタカ』シリーズの著者が、火山大国である日本で地熱発電がなぜ発達してこなかったのかを明かし、原発という禁断の火を手に入れてしまった我々は後戻りできないのだろうか、そんな問いかけを迫る経済情報小説。
    ファンド会社の上司から地熱発電会社の再生を指示された主人公野上妙子。
    彼女が、地熱発電研究の第一人者者や日本地熱開発社長とともに、再建を果たすまでを描く。
    小説内で、地熱発電の問題点として3つあげられている。一つは、コスト的ハンディが大きく、事業として魅力がないこと。二つ目は、政府の温暖化対策である助成措置の対象外であること。三つ目は、国立公園の制約。
    一方、原発については、利権構造と権力構造が生んだ悪魔の選択だとし、莫大な国の補助金がつぎ込まれながら、使用済みの核燃料の処理方法も確定せず、老朽化した原発の処理問題も未定のまま、地球温暖化対策の切り札としてベースロード電源に位置づけている現状を、小説内の人物に告発させている。
    ロシアによるウクライナ侵略での資源危機から、原発推進に拍車がかかるいま、気象に左右される太陽光発電や風力発電より、気象の影響を受けない地熱発電に再度注目する必要があるのでは。
    利権が絡み、電力業界の負け犬とされる地熱発電を、抵抗勢力などの様々な障害を乗り越えながら、事業として軌道に乗せようとする主人公たちの活躍に、称賛しながら読み終える。
    「大枚をドブに捨ててでも、子孫のため、地球のために便利さに背を向ける選択をする勇気を持つ人間がどれくらいいるか」、そんな問いかけに「自分たちが果たすべき責任」を意識しなければならないだろう。

  • 真山仁さんの初めて本。経済小説がメインであり敬遠しておりましたが傑作でした。

        主人公が休み明けに会社に行ったら、自分のデスクどころか部署自体がなくなっていたという、衝撃的な場面からストーリーは始まります。そして主人公は支店長に呼ばれ、九州の山奥の会社の立て直しを命じられ… 

    2006年に書かれた本。今まで知らなかった地熱発電ですが、わかりやすい説明で読ませてもらいます。その後2011年の東日本大震災で、まさか日本の原発がすべて止まる日が来るとは。そして夢の発電方式でありながら、進まないのは、なぜなのでしょうか?


  • 久々にビジネス系の小説で面白いなぁと思った。
    半沢シリーズ以来かも。

    日本は火山大国なのに地熱発電が進んでいない理由が、すでに神の火を手に入れてしまったからとは、、、

    ちなみに私は地熱はつまり火山活動なので山の近くに平べったい広い施設を作れないから進んでないと認識してました。

    この本では政治的理由からなかなか進まないとかなんとかです。

    「僕は技術者なんだと思います。論文を書くより、苦心惨憺して創り上げたものを実用化させたい。個人よりチームで目標を成し遂げたい。それが僕の喜びなんです。」

    この本で地熱開発に取り組んでいる玉田さんの言葉。

    、、、胸に刺さった。

  • この本を読むまで地熱発電については全然知らなかった。地熱発電こそ夢のクリーンエネルギーだと思うが、日本の現状では地熱による発電は実際、全エネルギー供給量の0.2%だけにとどまるらしい。それでも、選択肢として残しておけば将来何らかのブレイクスルーが起き、地熱が再び注目される事もあるかもしれない。大事なのは選択肢を多く持つ事だと作中にも書かれている。その通りだと思う。詳細→http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou23408.html

  • 本を閉じた時に胸に生じた熱い気持ちをどうしたらよいのだろうか。
    これは大人のファンタジーだと思う。感動も当然したがそれ以上に高揚感のある作品だった。読み終わった今余韻が残っていてそのまま次の読書にシフト出来ない。

    所謂ハゲタカと呼ばれる外資系のファンドに勤務する野上妙子は、地熱発電の会社を買収再生する任務に当たる。採算ベースに乗せ、会社を売却し利益を得る。リストラをし会社を立て直そうとする妙子と、地熱発電への熱い想いを持つ研究者と衝突する。
    研究者と衝突しレクチャーを受ける度に深まる疑問。事故のリスクを伴う原子力発電と比して、地熱発電は夢のエネルギーとも言える。何故エネルギーの選択肢として狭間へ追いやられているのか。
    研究者達と解りあうごとに深まっていく地熱発電への希望。妙子は次第に彼らに惹かれていく。
    しかし彼らの純粋な志は、否応無しに憎悪渦巻くパワーゲームに巻き込まれ翻弄されていく。果たして地熱発電はこの国に根付くのか。鬼子として葬り去られるのか。

    経済小説は旬の物であり、時間が経つと陳腐化し過去の遺物として忘れ去られていく。この作品も現実に追い越され、夢物語の残滓のように感じられてしまうかもしれない。しかし、これは世の中の理想の形を追い求める小説という形態の中では傑出した作品だと思う。
    何よりもこれだけの情報量をまとめて一つの物語を作り上げ、その中にこれだけの人数の登場人物を登場させながら薄っぺらにしない、一本筋の通った作品に仕上げる。これは中々出来る事ではないと思う。

  • レビューで「大人のファンタジー」と評されていた方がいらっしゃった。
    まさに!!
    これをファンタジーではなく現実の物となることを願う。
    エネルギー問題にはあかるくないけれども、地熱発電というものがどういったものなのか学ぶ事ができた。
    原発の真の危険性を切に訴えている。
    御室の姿が福島第一原発の収束に尽力された、故・吉田所長の姿が重なる。
    改めてご冥福をお祈りしたいと思う。

  • 978-4-04-394309-8 425p 2012・7・15 8版

  • 原子力の代替となるかどうかは別として、地熱発電にもっと力を入れていいような気がするが、本当に原発ゼロでもその動きは鈍かった。やはりコストなのか。開発の難しさなのか。時間がかかるだけなのか。でも、日本においてこの発電をやらないということはないという認識を新たにした。

  • 事実は小説より「大」なり。
    東日本大震災で明らかとなった、原発の危険性、電力会社や国の隠蔽体質は、震災が起こる前から明らかにされていた。
    そして現在も原発を国の重要なベースロード電源として定めた政府には、様々な利権が絡み、クリーンエネルギーへの転換が妨げてられているという構図がなんとなくイメージできた。
    今明らかにされている原発事故はまだまだ氷山の一角で、地熱発電をはじめとする様々なクリーンエネルギーについて国民一人一人が考えていく時代なのだな、と痛感。
    フィクションに感じさせないリアルさとそれぞれのキャラクターの物語が相まってボリューミーな内容になっています。人を説得させる話術も勉強になりました。

    May. 29, 2015

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著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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