二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043943869

作品紹介・あらすじ

中卒で家を出て以来、住み処を転々とし、日当仕事で糊口を凌いでいた17歳の北町貫多に一条の光が射した。夢想の日々と決別し、正式に女性とつきあうことになったのだ。人並みの男女交際をなし得るため、労働意欲に火のついた貫多は、月払いの酒屋の仕事に就く。だが、やがて貫多は店主の好意に反し前借り、遅刻、無断欠勤におよび…。夢想と買淫、逆恨みと後悔の青春の日々を描く私小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 先日、友人の古本屋の店主と話している中で
    「お前みたいなのは西村賢太を読め」というようなことを言われた。
    西村賢太とは先日芥川賞をとっていきなり時の人となった、ちょっと風変わりな私小説家であることは知っていたけれど、まだ彼の文章をいちども読んだことはなかったので、文庫になっているのはあるの?と聞くと一冊だけ角川文庫で出ているのというのでさっそく買ってきて読んだ。

    くだんの古本屋は「お前の好きな村上春樹の対極に位置するような作風」と言う。そういえばこの間某人気ブロガーさんが村上春樹の対極が角田光代さんの世界だとか書いていたような気がするが。
    まあ、対極というのは360度いずれにも位置できるわけで、ひとそれぞれいろんな感じ方があるね。

    結論から言えばこの西村賢太という作家のどこがどう評価されているのか、ワタシにはさっぱりわからん。
    単にココロの極端に弱い、言い訳と責任転嫁となげやりで捻くれた精神のどうしようもない救いようの無い男が、赤裸々に自分の生活をいささか鼻につく近代文学調な書き方で書きなぐった、個人的には正直読むに値しないと思えるような内容だった。
    果たして芥川賞を受賞した「苦役列車」がどんな作品なのかはわからんけれど、まあ、もういいです。

    朝吹真理子さんもさんざん並んで写真撮られて災難だったでしょうなぁ、と。

  • 生々しい描写、どこまでも生々しい、いやすでに生崩れしている。生の部分が液ダレしている、ぽとぽと落ちている。黄色いシミも、赤い血も、小銭の為にいきりたつ老人の形相も、尿道の奥から放たれるとんこつラーメンの匂いも、とにかく垂れている。

  • 西村賢太の作品は、『苦役列車』に続いて2作目だが、本当に面白い。貫多の酷さは『苦役列車』を上回っている。せっかく雇ってくれた酒屋の店主を裏切るわ、好意的に接してくれた家主の老夫婦をナメて家賃を滞納し、挙げ句催促されると逆恨みして、孫娘を犯すと呪詛の言葉を吐くわと、きりがない。本当にどうしようもないやつで、下品極まりない表現ばかりだがそれが最高に笑える。やっぱり西村賢太の小説は面白い。

    • getdowntoさん
      そうですね、本当にどうしようもない奴ですが、作家としての魅力は不思議に強いですよね。
      そうですね、本当にどうしようもない奴ですが、作家としての魅力は不思議に強いですよね。
      2022/01/22
  • 買淫のことを公衆便所的な薄汚さと形容してた。

    小心者で逆恨み甚だしく、人を人として見ないサイコパスのような側面も、その後後悔してシュンとなる側面も全てがこの上なく「人間らしい」。

    これだけ自分のことを客観的に理解しているのにそれでも一般的に良いとはされていない行為を取るのは自分のダメ人間ぶりを責めてラクになりたいからだろうか。

  • 主人公が「私」である時と「北町貫太」である時の違いは何だろう?

    性欲が強くて、器が本当に小さく、すぐにキレる人の物語。「自分のことを棚にあげる」主人公が、「自分のことを棚に上げる他人」を口汚く罵るシーンに期待してしまう。

  • 数年持っていたがなかなか最後まで読めなかった。
    亡くなられたということで思い出して、やっと一気に読めました。

    こういう人の心情というか何故だろうと思うことが、細かく描かれていて、とてもよくわかりました。人間らしさというか。すごく隠さないそのままで生きているんだな。

    お年を召した大家さんの話とかは、先も短く持っているものも多いのだから、それくらい、、、とか思ってしまう。笑

    留置所の話や家族の話女の話風呂の話
    面白いそしてデジャヴ感。
    他の本は読めなかったけど、ただこれ1冊が残っていたのがまた面白いな。

    大きく見るとみんなそれぞれ全然噛み合わないようでいて、実はどこか大きなところで噛み合っているというか。

    今この本が読めたのも、私の大きな手助けになりました。




  • これまで読んだ西村賢太作品の中で、1番面白かった。留置所の話を始めとして動きが比較的多いからか、あっという間に読み終えました。

  • この前に読んだ『人もいない春』の方が若干すき。

    『春は青いバスに乗って』がよかった。
    警察に捕まって拘留された話で、いままで読んだことない分野でおもしろい。
    『腋臭風呂』の「洗面器とタイルがぶつかりあう、聞き覚えのある音」っていうので、あのポンッて音が聞こえた気がして、銭湯行きたくなった。

    • getdowntoさん
      そうですよね、この作品を読んでスーパー銭湯に行くのが少し嫌になりました(笑)。でも楽しめました。
      そうですよね、この作品を読んでスーパー銭湯に行くのが少し嫌になりました(笑)。でも楽しめました。
      2022/01/22
  • 中卒で社会に出て日雇い労働で生きる主人公が、酒を飲んだり女を買ったり暴力を振るって刑務所に入ったりする短編集。これは私小説なので作家の経験に基づいているのかなあと思うと、よくこんなふうに生きながら本を出したな、と思う。女を求める男の欲望と虚しさや、イキがる自分とそれを省みる自分とのギャップには、等身大の人の姿があって、作家の人生を覗き見た気持ちになった。

    • getdowntoさん
      等身大の姿というのがまさに言い得て妙ですよね。西村賢太さんの人生をもっと覗き見たい気持ちが強くなりますよね。
      等身大の姿というのがまさに言い得て妙ですよね。西村賢太さんの人生をもっと覗き見たい気持ちが強くなりますよね。
      2022/01/22
    • bunさん
      コメントありがとうございます。嘘のないありのままの感情をそのまま乗せてる文章で、とても引き込まれますよね。getdowntoさんが紹介されて...
      コメントありがとうございます。嘘のないありのままの感情をそのまま乗せてる文章で、とても引き込まれますよね。getdowntoさんが紹介されているほかの作品もいずれ読んでみたいと思います。
      フォローもありがとうございます。最近ブクログの方にはあまり投稿しておらず、もっぱらTwitter(@writer_yatomi)にて読んだ本や気になっている本(海外文学が多めですが…)など投稿してますので、よろしければぜひご覧ください。
      2022/01/22
  • 西村賢太の自伝小説。

    読むのは3冊目くらい?


    この魅力は独特で相変わらず面白い。


    普通では体験できない最低最悪な人生模様を、

    垣間見れるから、まぁ他人事で面白いんだろう。


    日雇いの人足仕事で口に糊する日々、

    少したまった金は酒と女に使いきる。


    どうもうまく行かない人間関係

    周囲の好意を裏切り続けるだらしなさ。


    酒に酔っては喧嘩して、時には警察のお世話になり、

    または転がり込んだ家の家賃が払えず大家と揉める


    中卒で社会に飛び出して底辺を這いずり回る主人公の人生。普通は絶対関わりたくない人間だけど、何というかホントはうまくやりたいのに、うまくできない主人公の気持ちもちょっと解ってしまう。


    このシリーズは定期的に読んでいきたい。

    • getdowntoさん
      同じくです。絶対関わりたくない人ですが作家としては大好きです。
      同じくです。絶対関わりたくない人ですが作家としては大好きです。
      2022/01/22
  • 面白い。兎に角、貫多のクズっぷりが素晴らしい。著者の卓越した文章力と類まれな用語センスが相まり、どうしようもない人間の底辺も底辺な負の感情を、嫌悪感を超越した、大正や昭和初期のような雰囲気を持つ回顧主義的作品に仕上げている。赤塚不二夫作品のような、古めかしくもナンセンスでエキセントリックな、日常を描いているが非現実的物語といえばよいか。「どうで死ぬ身の一踊り」と比べると文学性はやや劣るが、漫画的な私小説の面白さがある。

  • 「二度はゆけぬ町の地図」西村賢太
    読み終わりました

    二度はゆけぬ町の地図という一つの物語ではなくて、短編4つの構成になっていた。
    西村賢太といえば、テレビやネットで見た印象では、あまり清潔な作風ではないのかなという感じを受けたのだが、例に漏れず本題や短編のタイトルどおり、どこか気味の悪い作品だった。
    だからといって作品が面白くないわけではなく、薄気味悪さ、不気味さなどがある中でも、所々に笑える部分があったりなど、サクサク読み進めることができた。

    内容は、ふしだらな生活を続ける男の生活を描いたものである(西村賢太自身を投影している?)
    典型的なダメ人間である主人公が日雇いで稼いだお金をその日で使い切り、家賃を払わなかった(払えなかった)り、バイト先の先輩を殴って留置所いきになったなどクズさがいかんなく表現されているこの作品はなんとなく本質的な部分で真面目系クズである自分に似ているなと思った、もっともこの作品の主人公はクズ系クズと表現するのが妥当であると思う。

    なかなか面白かった、西村賢太の違う作品も読んでみることにする。

  • 短篇集。しかし不潔で臭いのしそうなエピソードばっかり集まっている気がした。どうしようもない怠惰でクズな主人公という風に見せているが、けっこう自分のことをここまで客観的に書くことは難しい。露悪的な感じはあるが、ごまかさないでさらけ出している。読者は彼のナルシシズムや身勝手さを完全に否定出来ない。
     ふと思ったが、彼の作品は結局は、自業自得・因果応報という世間の思いにそった終わり方をするのが人気の原因かと。読者も主人公のことを完全に突き放せない状態のままで、主人公にふさわしい顛末を迎えるので他人ごとではなく身につまされる読後感を抱くのではないかと。

  • 西村賢太の作品は最悪に面白い。内容はこのうえなく下品で最低、結末も救いの無いものが多い。ところが妙に知性を感じさせる文体、淡々とした描写が一種ユーモアじみた趣を醸し出し、不快とも爽快ともつかない不思議な読後感を残してくれる。更に掘り下げたい作家。

  • 病的にクズ過ぎて、もはや愛しいレベル。

    女子としては、自分のセックスにちょっと自信がなくなるし、ちょっと傷つく。

  •  話題の作家で、しかも薄いということで、読んでみた。
     こんな人間には近づきたくない、近づかれたくもない。豊崎由美の前のめりの解説がすべてを語っています。

  • ここら辺が一番面白い。

    アパートの老家主とのひと悶着のやりとりは飽きさせないものがある。
    後は刑務所前の施設の話が興味深く、体験したものがわかる世界が広がっている。

  •  目次を眺めるだけで嫌になる小説もそうそう無いだろう。そんな中で曇天の隙間から顔をのぞかせた青空のようなタイトルがひとつ、「春は青いバスに乗って」。どんなバスかと思えば、あぁ・・・という感じ。腋臭風呂とかもう温泉や銭湯へ行くのが怖くなる。
     本小説では、青春時代の話で構成されているが、たまに見せる謙虚なところや、何の根拠も無いのに妙に楽天的なところが何ともプリティ。先に挙げた「春は青いバスに乗って」などと言う一見滑稽ささえ感じるタイトルも、妙にしっくりきている。著者の生命力にただただ感服するばかり。

  • 201102
    他の方のレビューにもあるように、エッセイと紙一重。の私小説短編集。

    一冊読めば充分という向きもあるだろうけど、
    豊崎さんの解説にもあるように、
    「話の展開は似ていても、そこに現出しているみっともらしさは常に新しい」
    と、他の空白の時間も知りたい、と癖になりつつ、あります。

    ひんるの沼 17歳
    潰走 16歳
    春は青いバスにのって 25歳
    腋臭風呂 18歳⇨40歳くらい

    夢想
    買淫
    逆恨み
    後悔

    あざましさ
    愚かしさ
    いじましさ
    厭らしさ

  • この短編集には、彼が偏執的に愛する藤澤清造絡みの話はほとんど出て来ず、それより過去の話、彼の青春時代の話が中心だ。まさに表題通りに、生き恥をさらした若き日々の様子が相変わらず赤裸々にあっけらかんと語られている。偽悪的な計算なのか、天然なのか、苦々しい本心なのか。まあ、そのすべてであるのだろうなあ。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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