二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 452
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043943869

作品紹介・あらすじ

中卒で家を出て以来、住み処を転々とし、日当仕事で糊口を凌いでいた17歳の北町貫多に一条の光が射した。夢想の日々と決別し、正式に女性とつきあうことになったのだ。人並みの男女交際をなし得るため、労働意欲に火のついた貫多は、月払いの酒屋の仕事に就く。だが、やがて貫多は店主の好意に反し前借り、遅刻、無断欠勤におよび…。夢想と買淫、逆恨みと後悔の青春の日々を描く私小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 知り合いの芸術家がSNSで絶賛していたので読んで思った。
    「なるほど、僕は芸術で食べて行けない訳だ。」と。
    度を超えたクズっぷりとそれを書ききる才能、そのどちらも自分には無い。
    嫉妬した。

  • 短篇集。しかし不潔で臭いのしそうなエピソードばっかり集まっている気がした。どうしようもない怠惰でクズな主人公という風に見せているが、けっこう自分のことをここまで客観的に書くことは難しい。露悪的な感じはあるが、ごまかさないでさらけ出している。読者は彼のナルシシズムや身勝手さを完全に否定出来ない。
     ふと思ったが、彼の作品は結局は、自業自得・因果応報という世間の思いにそった終わり方をするのが人気の原因かと。読者も主人公のことを完全に突き放せない状態のままで、主人公にふさわしい顛末を迎えるので他人ごとではなく身につまされる読後感を抱くのではないかと。

  • 主人公が「私」である時と「北町貫太」である時の違いは何だろう?

    性欲が強くて、器が本当に小さく、すぐにキレる人の物語。「自分のことを棚にあげる」主人公が、「自分のことを棚に上げる他人」を口汚く罵るシーンに期待してしまう。

  • 西村賢太の作品は最悪に面白い。内容はこのうえなく下品で最低、結末も救いの無いものが多い。ところが妙に知性を感じさせる文体、淡々とした描写が一種ユーモアじみた趣を醸し出し、不快とも爽快ともつかない不思議な読後感を残してくれる。更に掘り下げたい作家。

  • 病的にクズ過ぎて、もはや愛しいレベル。

    女子としては、自分のセックスにちょっと自信がなくなるし、ちょっと傷つく。

  •  話題の作家で、しかも薄いということで、読んでみた。
     こんな人間には近づきたくない、近づかれたくもない。豊崎由美の前のめりの解説がすべてを語っています。

  • ここら辺が一番面白い。

    アパートの老家主とのひと悶着のやりとりは飽きさせないものがある。
    後は刑務所前の施設の話が興味深く、体験したものがわかる世界が広がっている。

  •  目次を眺めるだけで嫌になる小説もそうそう無いだろう。そんな中で曇天の隙間から顔をのぞかせた青空のようなタイトルがひとつ、「春は青いバスに乗って」。どんなバスかと思えば、あぁ・・・という感じ。腋臭風呂とかもう温泉や銭湯へ行くのが怖くなる。
     本小説では、青春時代の話で構成されているが、たまに見せる謙虚なところや、何の根拠も無いのに妙に楽天的なところが何ともプリティ。先に挙げた「春は青いバスに乗って」などと言う一見滑稽ささえ感じるタイトルも、妙にしっくりきている。著者の生命力にただただ感服するばかり。

  • 201102
    他の方のレビューにもあるように、エッセイと紙一重。の私小説短編集。

    一冊読めば充分という向きもあるだろうけど、
    豊崎さんの解説にもあるように、
    「話の展開は似ていても、そこに現出しているみっともらしさは常に新しい」
    と、他の空白の時間も知りたい、と癖になりつつ、あります。

    ひんるの沼 17歳
    潰走 16歳
    春は青いバスにのって 25歳
    腋臭風呂 18歳⇨40歳くらい

    夢想
    買淫
    逆恨み
    後悔

    あざましさ
    愚かしさ
    いじましさ
    厭らしさ

  • この短編集には、彼が偏執的に愛する藤澤清造絡みの話はほとんど出て来ず、それより過去の話、彼の青春時代の話が中心だ。まさに表題通りに、生き恥をさらした若き日々の様子が相変わらず赤裸々にあっけらかんと語られている。偽悪的な計算なのか、天然なのか、苦々しい本心なのか。まあ、そのすべてであるのだろうなあ。

  • 西村賢太の作品は、『苦役列車』に続いて2作目だが、本当に面白い。貫多の酷さは『苦役列車』を上回っている。せっかく雇ってくれた酒屋の店主を裏切るわ、好意的に接してくれた家主の老夫婦をナメて家賃を滞納し、挙げ句催促されると逆恨みして、孫娘を犯すと呪詛の言葉を吐くわと、きりがない。本当にどうしようもないやつで、下品極まりない表現ばかりだがそれが最高に笑える。やっぱり西村賢太の小説は面白い。

  •  収められた4つの短編はいずれも、作者自身がまだ10代であったころの出来事を素材としたもの(と思われる)。
     中卒で社会に出た西村の、10代後半の孤独な日々が描かれる。ただし、4編中3編は主人公の名が「北町貫多」となっている。つげ義春作品に出てくる「津部義男」みたいなものか。

     まだ藤澤清造と出会う前なので、いつもの西村作品では物語の縦糸となる「清造キ印」ぶりが、本書にはまったく登場しない。
     10代後半の日々を描いているという意味では「青春小説」でもあるわけだが、そこは西村のこと、「青春小説」という言葉からイメージされる輝かしさやイノセンスは、ここには微塵もない。

    《私はそんな自分がつくづく惨めったらしくなってきて、自分で自分を蹴殺してしまいたい狂おしい衝動にもかられてくる(「腋臭風呂」)》

     ――本書に通奏低音として流れているのは、この一節に象徴される自虐、そして煮えたぎるようなルサンチマンである。
     日本文学の青春小説の系譜から似たものを探すとすれば、中上健次初期の傑作「十九歳の地図」であろうか。「地図」の語がタイトルに冠されているのは、西村が「十九歳の地図」を意識していたがゆえかもしれない。

     舞台となるのはいずれも、アパートの家賃踏み倒しやら、バイト先での暴力沙汰やらの苦い思い出の地。ゆえに、タイトルが『二度はゆけぬ町の地図』であるわけだ(じつにいいタイトルだ。西村はタイトルづけのセンスがよい)。

     どこまでが私小説で、どこからが虚構なのかわからないが、自虐を芸にまで高めた作風はいまやすっかり安定の域に達している。
     とくによかったのは、「春は青いバスに乗って」という短編。バイト先の居酒屋で暴力沙汰を起こし、通報を受けて止めに入った警官まで殴ってしまったことから、警察の留置場に入れられた日々を描いたもの。いわば、西村版『刑務所の中』である。
     この短編では、いつもの“ミゼラブルなユーモア”は抑制され、かわりにしんみりとしたペーソスが随所にちりばめられている。

     これまで読んだ西村作品のうち、私は「けがれなき酒のへど」(『暗渠の宿』所収)がいちばん好きだが、この「春は青いバスに乗って」はその次くらいによかった。

  • 「春は青いバスにのって」青春小説みたいなタイトルなのだが、中身は暴行のために拘留所に入れられるという内容。そのギャップがいい。いつもどここらか追い出されている。職場を追い出され、住みかを追い出され。いや、追い出されるというのは正しくない。なぜなら追い出されようとすると、《彼》は逆上して暴言を吐きまくってこっちから出ていってやると息巻いて出てくからである。リズムがいいのだろう。どの短編も読みやすい。


  • 貧窶ひんる 吐瀉物 鶯谷のラブホテル街 港湾人足 鬼子母神前 椎名町 関所せきしょ 巨大な黄金色のオブジェが横たわっていなかった頃の 吾妻橋 懇々と諭した 江戸川区の殆ど浦安よりな排他的な目を向けられている 早晩クビを言い渡されるに違いない不安に 逢瀬で肌を重ねた際 暫時専有してみたい慾に憑かれていた 練習台 俄かに名案のように感ぜられてきた 馬鈴薯めいた顔の造作 ガチャ切り 公務執行妨害 万引きと殺人くらいの差 そうさい相殺され 綴じている金具 満開の桜 青いバスの乗客 唇辺くちもと 薄っすらと黴めいた匂いも鼻につく 椋鳥むくどり 窮鼠却って何とやら 一斤いっきん俄かに 蒙った大損 冷凍烏賊の溶け方も存外に早く 悪臭の二度染めじみた塩梅と変わり果てる 厚生年金病院の裏手辺りのアパートに棲み 大久保通り沿いの湯屋 いぶか訝り ぎょうこう僥倖 爾来じらい 宗旨替えの趣きに傾きつつあるようではあった 蓬髪ほうはつ 平生へいぜい えきしゅう腋臭男 陰金に罹り 淋疾を病んだときも 市谷柳町 本能的な希求 雄の精気に意気軒昂けんこう 顔写真なぞ付載 公衆便所的な薄汚さ アポクリン汗腺の異常を秘部にも内包しているらしく マンが臭 感懐かんかい ぎょうろ行路 直情径行DV野郎 インチメート=親密な インフォリティーコンプレックス=劣等感 せんだん栴檀は双葉より芳し 潰走かいそう 買淫かいいん 車屋長吉 豊崎由美

  • ダメっぷりに癒される。

  • 買淫のことを公衆便所的な薄汚さと形容してた。

    小心者で逆恨み甚だしく、人を人として見ないサイコパスのような側面も、その後後悔してシュンとなる側面も全てがこの上なく「人間らしい」。

    これだけ自分のことを客観的に理解しているのにそれでも一般的に良いとはされていない行為を取るのは自分のダメ人間ぶりを責めてラクになりたいからだろうか。

  • 私小説短編集。
    毎度お馴染みの内容と展開で安心して読める。

  • 酒屋勤務と女子高生。
    雑居房。
    大家の爺さん。
    銭湯でであった腋臭臭い男を、デリヘル嬢から思い出す。

  • 苦役列車からはまっている貫多。どうしようもない人柄が読んでいて心地いい。

  • 面白い。兎に角、貫多のクズっぷりが素晴らしい。著者の卓越した文章力と類まれな用語センスが相まり、どうしようもない人間の底辺も底辺な負の感情を、嫌悪感を超越した、大正や昭和初期のような雰囲気を持つ回顧主義的作品に仕上げている。赤塚不二夫作品のような、古めかしくもナンセンスでエキセントリックな、日常を描いているが非現実的物語といえばよいか。「どうで死ぬ身の一踊り」と比べると文学性はやや劣るが、漫画的な私小説の面白さがある。

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著者プロフィール

1967(昭和42)年7月12日、東京都江戸川区生まれ。中卒。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂、解題。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『暗渠の宿』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集 一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『一私小説書きの日乗』(既刊六冊)『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自薦短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集 一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』などがある。

「2019年 『狼の吐息/愛憎一念 藤澤清造 負の小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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