雪冤 (角川文庫 た 61-1)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2011年4月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043944354
作品紹介・あらすじ
死刑囚となった息子の冤罪を主張する父の元に、メロスと名乗る謎の人物から時効寸前に自首をしたいと連絡が。真犯人は別にいるのか? 緊迫と衝撃のラスト、死刑制度と冤罪に真正面から挑んだ社会派推理。
感想・レビュー・書評
-
1.著者;大門氏は、小説家・推理作家で、代表作は「雪冤」「罪火」「確信犯」等です。氏が追求するのはリアリティですが、死刑などの現場を見るのは困難です。リアリティの弱さを経験で補う為に、電車での押し屋アルバイト、新聞配達、派遣労働者・・・を体験したと言います。本書にこれらの経験が生かされ、作品に現実味を持たせています。「色んな事に興味を持ち、人がやらない事にチャレンジ」をモットーにしているそうです。
2.本書;8章構成(序章;あおぞら合唱団~終章;歌声)で、死刑制度と冤罪という2つの重い問題を考えさせる社会派ミステリー小説です。概要は、京都で二人の男女が殺されるという、残虐な事件が発生。容疑者として逮捕された主人公の父親が冤罪を信じて活動したものの、死刑確定。事件の真実に向けて、ストーリーは緊迫感を増し、驚きの結末を迎えます。ちなみに、本書は横溝正史ミステリー大賞とテレビ東京賞をダブル受賞しました。
3.私の個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)『第一章;父と息子』より、「人は痛みがわからなければ相手を思いやる事はできません。苦しんでいるいるわけでないのに信仰心だけあるという方がおかしいんです。・・・本当に苦しんでいる人の為に役割を果たせなくては宗教の意味がありません(牧師)」
●感想⇒私も“神様”にお祈りすることがあります。しかし、“神様”の存在は分かりません。誰にも精神的に弱い面があります。人間は「何かに縋りたい、救ってもらいたい」と思うものです。縋るものは“神様”だけではなくて、語弊を覚悟して言えば、自分が信じるもであれば、なんでもよいと考えます。もちろん宗教でも良いのですが、親族、友人、知人、書物・・・色々あります。私は人に相談できずに困った時、苦しんだ時には、ある作家の本を読んで勇気付けられ、問題解決の糸口を自問自答します。上手くいかない時もありますが、こうして切抜けてきました。死んだら、この愛書を私の棺に一緒に入れてもらうように家族に頼もうと思っています。
(2)『第五章;一億三千万の仇』より、「人が人を殺していい理屈は何か―国民一人一人がこの問いにどう答えるか? これが死刑制度を議論する上で一番大切なのです。私は正当防衛的状況にしか求める事はできない(主人公の父親)」
●感想⇒死刑制度の是非は大変難しいテーマです。一般的には、“被害者側は死刑賛成、加害者側は死刑反対”でしょう。特に、冤罪での死刑は心情的にも悔しい限りです。裁判員制度を以てしても、事件の適正な判断は困難と思います。“疑わしきは罰せず”の真偽も定かでありません。現代は、誰もがこうした問題に直面する可能性があります。当事者になれば、重圧に押しつぶされるような難題で、簡単には答を出せません。
(3)『終章;歌声』より、「雪冤(無実の罪を晴らす事)⇒漢字にすればたった二文字のその言葉。だがそこには人々の色々な思いが重なり合っている。命に代えても冤罪を晴らそうとする者、それによって傷つく者、軽々しく使える言葉でないことだけは確かだ」
●感想⇒世の中には、雪冤と向合っている人々がいると思います。私達なら、どのように処すればいいのでしょうか。真実が見えない限り、やり場のない無念さで悩むでしょう。冤罪は身近でも起こり得ます。私には「問題意識と自分としての熟慮した考えを持つ事」という言葉しか見つかりません。
4.まとめ;本書は先にも触れたように、日本の死刑制度を考えさせる作品です。前半は少し回りくどい感じがしました。後半になると結末を知りたくて、早く読みたいという衝動にかられます。結末を読んだ感想は、期待したよりもあっさりで、もうひとひねりあると良かったと思いました。また、作中の人物が色々な考えを主張していますが、混乱します。人物と主張を再整理し、筋道だった展開を望みます。読者に考えさせるというフィクションの限界かもしれません。
さて、裁判員制度が2009年5月から始まり、私達も裁判員として選ばれ、刑事裁判に参加しなければならなくなりました。裁判員に選ばれたら、死刑制度にも、係る事もあります。本書はこのような重圧なテーマに接するキッカケになるでしょう。最後に、解説を執筆した山田氏の言葉で締めます。「日本社会に死刑制度がある限り、その賛否に拘わらず、我々は思考を止めてはならない。勇気をもって考え続ける義務があるのだ」。 ( 以 上 ) -
なんとも切ない話だった。ラスト数ページの流れから明るい未来を期待したい。
15年前の事件から、また死刑判決を受けた4年前から、慎一は真実を独り抱え、自身の意思を一貫して…。
持田や菜摘、石和、八木沼…尋常でない苦しみを飲み込むと、こんなものの考え方が出来るようになるのだろうか。
Soon-ah will be done がこの小説を読んでる間、ずっと頭の中で鳴っていた。小説と音楽のセットのようだった。 -
初読みの作家さんでした
題材は死刑制度と冤罪
扱うテーマは重く、簡単に答えの出せないもの
そこを二転三転させながらエンターテイメントにしていった本作は凄いです
本作にも書かれていたように死刑制度に関して、私たちは真剣に向き合っている人は少ないかもしれません。結局執行するも、その判断をするのも全てが国がする事だから
制度そのものを認めることが、被害者遺族の心情に寄り添う本当の支援になるのか否か…
自分の手は下さないのに、執行を訴えることが本当に制度と向き合っていると言えるのか…
私の意見も本作を読んで揺れています
ただ、考えるきっかけになった事は大きな事
ミステリーとしての側面と、一つの問題提起としての側面の二つの面のある良本でした
[読了短歌]
ミステリー
その名を借りた
提案書
死刑と冤罪
皆考えよと -
死刑制度と冤罪という重いテーマを絡ませた、ミステリー感溢れるエンターテイメント。
息子の無実を信じて父親が、関係者を訪ね歩く。
真相はどうなのか、犯人はいったい誰なのか。
著者の巧みな術中に嵌まり、先へ先へと読まざるを得なくなる。
そして終盤にきての二転三転、さらに最後の結末には、エッと思わずにはいられなかった。
この作品で著者が掲げた死刑制度の是非と、冤罪の問題。
冤罪による死刑が存在するからといって、被害者感情を思えば廃止すべきものではないし、冤罪でなくとも死刑制度は国家による殺人だとの見方もあるし、生中な結論を出すわけにはいかない。
しかし、作中人物が言うように、「それでもずっと考えていきたい」。 -
冤罪なのに死刑執行されてしまった息子の雪冤を晴らすため、元弁護士の父親が過去の真相から真犯人に迫るというあらすじ。
最後の最後まで誰が真犯人か全く読めない!よく作り込まれてるわー!
死刑執行された息子が「Soon-Ah Will Be Done」を歌うシーンがあったんだけど、この曲って労働差別に苦しまされた黒人のレクイエムなんだね。「もうすぐ逝ける」という内容の。
中学の合唱コンクールでこれ歌ったんだけど、当時は全く意味わからずに「うぉーー」と勢いで歌ってたなぁ。意味わかると「あの時は滑稽だったなぁ」と恥ずかしくなってしまう笑
構成とかはかなり作り込まれてるので、ミステリーとしては素晴らしいと思うけど、若干文章にクセがあるのか、読みづらさがあったかも。 -
面白かった
テーマは重く、死刑と冤罪
しかし、二転三転する展開が楽しめます。
ストーリとしては、15年前の殺人事件で死刑囚となっている慎一。その慎一の冤罪を信じ、活動を続ける元弁護士の父親悦史。路上で知り合い、その冤罪活動を手伝う持田。そして、慎一の弁護士の石和。殺された女性の妹の菜摘。
慎一は冤罪なのか?
15年前の殺人事件で殺された男子学生と女性の事件の真相は?
いつ、死刑が執行されるかわからない中、真犯人の名乗る人物から菜摘に電話が..
さらに、その人物は時効後に自首をすると言い、その代償として五千万を悦史に要求。
真犯人は?
結局どうなるの?
っていう展開です。
読み進めることで、真相が二転三転していきます。
そして、本書の目玉といえるその驚愕の展開と衝撃のラストへ。
確かにびっくり!
隠されていた真実には哀しい思いが、そして、そこまでして、守りたかったもの..
けど、動機が..ちょっと弱いかな。
その動機でこれだけのことをやるのかな...
とはいうものの、このストーリ展開は楽しめました。
重いテーマながらもミステリエンターテイメントとして楽しめます。
お勧め -
冤罪や死刑制度をテーマにした慟哭の社会派ミステリー。
15年前の京都。2人の男女を殺害したとして、1人の青年が逮捕された。
元弁護士の八木沼は、一人息子・慎一の無実を信じ、たった1人で活動していた。
そして、時効寸前、真犯人を名乗る人物・メロスから電話がかかる。自首の代償として、5千万円を要求する。
果たして、メロスの言葉は、真実なのか?
二転三転するストーリー、なかなか見えない真実。
そして、最後に明らかになるディオニソスの正体とは?
ラスト数ページで、悲しい真実が明らかになる時、1人の青年の命を賭けた思いが、胸を打ちます。
まさしく、慟哭の社会派ミステリーと言える作品です。 -
横溝正史ミステリ大賞の傑作と書いてあったので買った一冊。
冤罪と死刑の話だった。
想像と全く違う内容だった。
しかも事件の真相は全く想像してない予想外の真相だった。
死刑についてちょっと知る事ができた。
死刑の存続か廃止かなんてそんなに考えた事なかったが、死刑の廃止派の意見はちょっとわかった。
冤罪と死刑
難しいテーマの小説でした。 -
2019.6.13 読了
僕は「驚愕のラスト」「まさかの結末」「どんでん返し」などなどの言葉が大好きです
読後感が「あーそうなのね!」って言える小説は、作者と握手したいくらい感動を思える
本作品は冤罪をテーマであり、展開が色々変わり面白った。ただ後半三分の2くらい読み進めた時、犯人はコイツじゃねって予想がついて、変な靄が頭にあった。
予想は予想でニアピンであって、エピローグで「あーそうなのね」ってなれたのでよかったな
普通に読んで、二時間ドラマみたいって感覚があり、事実ドラマ化になったが、二転三転でも見事が終演でした
人間って他人のためになんだってできるんだなって考えさせる、たとえフィクション小説でも。
素晴らしい信念を見ました!
いつも、コメントありがとうございます。
大門剛明さんの作品、読んだことはありせんが、中々、重いテーマを扱っています...
いつも、コメントありがとうございます。
大門剛明さんの作品、読んだことはありせんが、中々、重いテーマを扱っていますね。
今知ったのですが、テレビドラマとしても放映されていたのですね。
読んでみたくなった作品です。